スラムダンク | ナノ

 12

「こりゃ、一体何事だぁ?」

「ああ、宮城さん……!流川くんも、三井さんも!!凄いんですよ、このお二方……!!」

入口の方が騒がしくなってきた。
現在、時刻は20時ちょい過ぎ。
湘北のメンバーが、練習を終えてここへやってきたようだ。

あれから、仙道さんとのフリースロー対決はまだ続いている。
途中休憩を入れつつも、準備運動などで軽く体をほぐしてから18時過ぎに始めたこの対決。
もうすぐ2時間が経とうとしている。

お互い、一本もミスらないまま。

単なるフリースローとはいえ、こんなにも長時間続けたことはなかった。
一本一本の間隔が長くなってきたからそれだけ余計に時間が掛かっちゃってるんだけど、本来だったら人間の集中力なんてこんなに続かないんだからな!
憧れキャラとの対決ってことで気分が高揚してたからついてこれたけど、さすがにそろそろ疲れが来ている。
仙道さんは、汗は掻いてるものの表情にはまだ余裕がある。バケモノか!

腕を上げるのもしんどいよう……。

ガコッ、

「あっ!!」

ポスッ

「……ふぅ」

汗で手が滑ってしまい、ボールの軌道が少しズレてしまった。
けれど、リングにぶつかったボールは中へと落ちてくれたので、セーフ。

「はぁ、中々やるなぁて……蜂谷ちゃん、只者じゃないね」

「今更言う台詞がそれですか?」

「まあ、ねっ!!」

シュパッ

仙道さんのシュートは、相変わらず綺麗で。
やっぱり体力で男の人には敵わないのかな……!
でも、女だからって負けるの、すっごい悔しい。
だから、意地でも負けたくない!


「おーい亜子!いつまで続けるんだ、それ!」

「え」

ヒュッ

ガコッ、ゴン、ボトッ。


「ああああああああああああああああああ!!」


ジャスト二時間といったところだろうか。
声を掛けられたことによって集中してたものが分散してしまい、ボールはリングに当たって。
今度は、中へと入ってはくれなかった。

「よっしゃあ、オレの勝ち!!」

「あぁー……そんな……」

ガクリと膝をついた私に、リョータが慌てた様子で駆け寄ってきた。

「あ、あの!悪い!オレが声掛けたからだろ!?」

困り顔のリョータをチラリと見上げるも、力が入らない。
その場にぺしゃりと潰れた。
一気に脱力感が襲ってくる。

「……リョータのせいじゃないよ」

私が集中できてなかったのがいけないんだ。
っていうか、二時間もやってて集中が途切れないなんて。
もう一度言う。バケモノか!

「蜂谷ちゃん、」

名前を呼びながら、仙道さんは私の肩にポン、と手を置いた。

「……なんですか、負けましたよ、私が悪かったですよ、すみませんね」

振り向く気力もなくて、床とこんにちはの状態でボソボソと言った。

「いや、そうじゃないって。前言撤回させてくんない?蜂谷ちゃん、超オレ好みになったんだけど!」

「「「「はぁ?!」」」」

この発言に、湘北三人組プラス彦一くんの揃った声が聞こえた。
同時に、私の心の中の声も。

「あ、そうだ、ちょっと待ってて」

言うや否や、仙道さんはどこかへ走って行ってしまった。
なんなんだ、一体。

「おい、大丈夫か亜子!何してたんだこれ?」

「生きてんのか」

「相田、状況説明してくれよ」 

「はあ、えっとですね……」

みんなが近寄ってきて、寿先輩が私の腕をぐいっと持ち上げ、立たせてくれた。
そして、彦一くんが状況を説明し。
自分で話すのは正直面倒だなって思ってたから助かったよ。
約一名、ちょっと失礼な発言があったようだけど……『生きてんのか』はないだろうよ、流川くん。

「そんな事で……お前、アホだな」

「うっさいな、意地の張り合いだって大事なんだ!」

「意地の張り合いでこんなに疲れてどうすんだ」

「いいじゃないですか、美しい姿じゃないですか!」

「……どあほ「なんだい流川くん」

「イエ」

私も大概元気かもしれないな。
こんな風に反発することができるんだから。

「お待たせ、はい、コレ!」

「ひゃあ!!」

戻ってきた仙道さんに、ピトッと頬へ当てられたのは、冷たい缶ジュース。

「え、私、負けたのに!」

「元々女の子に奢らせる気なんてないんだけど。健闘賞ってことで、どーぞ」

満面の笑みの仙道さん。
さっきまでの憎たらしい印象はどこへやら。

「あ、ありがとうございます……」

「どーいたしまして!ところでさ、蜂谷ちゃんって高2だろ?同い年なんだし、敬語と『さん』付けはやめようよ。ね?」 

「……あ、ああ。そ、そっか。うん、わかった!」

彦一くんが仙道さん、仙道さんって何度も言うから、つい移っちゃうんだよね。
それに、私の中で年上っていうイメージが…勝手についてたし。

なんだよ、やっぱり爽やかでいい人なんじゃないか、仙道彰。
私のほうこそ前言撤回するよ。

「仙道くん」

「ん?」

「楽しかったよ」

「……!」

予想外の言葉だったのか、仙道くんは驚いた顔をしていた。

「〜ははっ、蜂谷ちゃん、可愛いなぁ!」

「うあっ!!」

仙道くんにガシッと抱きつかれ、私は後ろへ倒れそうになる。
ちょ、最初とマジで態度が違う!!

「仙道!!何してんだてめー!!亜子が嫌がってんだろ!!」 

「……離れやがれ!」

「亜子、こっち!手ぇ伸ばせ!!」

三人が必死で引き離してくれようとしたのだが、仙道くんの手は緩まない。

「仙道さん、犯罪ですやん!!」

「仕方ないだろ、可愛いもんは可愛いんだから」

「好みじゃないって言ってたくせに……!!」

「前言撤回したじゃん、超好みになったって言ったじゃん」

言ってることは間違ってない。
間違ってないけど……!

「は〜〜〜な〜〜〜〜〜せぇ〜〜〜〜!!」

「ははは、嫌だ!」

爽やかに否定するな!

「仙道てめー!!離せ!!」

「嫌ですよー!」

「離せっつってる!」

「嫌だっつってる!!」


三井さんも、流川くんも、私のために必死になってくれてありがとう。
仙道くんとも無事出会えて、仲良く……なれたっていうのかな、こういうの。
まあ、そういう事にしておくとして。
仲良くなれて嬉しいんだけど。

ああ、相当めちゃくちゃだ、この状況。

耳元でぎゃーぎゃうるさい論争が始まってしまった。
……一体いつになったら離してもらえるんだろう。

今日は帰ったらぐっすり眠れるわ、きっと。
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