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「ねえ、ちょっと。そこのキミ」
「へ?」
振り返ると、真っ先に目に入ったのはツンツン頭。
…出来るだけ仙道さんだ!!
昨日彦一くんに会ったばっかりで、まさか今日来るとは……!
情報が早すぎるんじゃないの?
っていうか、次の日に来る人も凄いと思うけど。
「あのさ、ここに蜂谷亜子ちゃんっていう可愛い子がいるって聞いたんだけど、どこにいるのか知ってる?」
「…………」
それ、私です。
………なんて、言えない。
彦一くんがどんな伝え方をしたのかは分からないけど、明らかにこの言い方……誠に残念ながら仙道さんは、私のことを可愛いなんて微塵も思ってなさそうだ。
そんな人に対し、『自分です』なんて言えるか!
「さあ、わかりません」
「ええー、そんなぁ。見た感じ、ここの関係者でしょ?何か知らないの?」
「いえ、そんなこと言われても困るんですけど……」
どうしたものかと濁った返事をしていると、仙道さんは少し考える素振りをして。
「うーん。まあ、いないものは仕方ないか。ねえ、今日ってここ……使わせてもらっても平気かな?」
「あ、はい、いいですよ」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
仙道さんはニコッと人の良さそうな笑顔を向け、コートへ入っていった。
本来だったら入館料ってものが発生するんだけどね。
自分の知ってるプレイヤーからは入館料を取ろうと思ってないし、それに、彼のプレイを見るチャンスだと思ったからいいのだ。
っていうか部活はいいのだろうか。
今はまだ17時にもなってなくて。
本当だったら、陵南だって部活の時間じゃないのかな?
……私には関係ないし、部活だったとしても怒られるのはこの人だし。
ま、いっか。
とりあえず、自分も練習しようとコートに足を踏み入れた時だった。
「こんにちは!亜子さん、仙道さん、来てはりますか?」
「わっ、馬鹿!彦一くん、声でかい!!」
思わず彼の口をベシン!!と塞いだ。
……けれど、時、既に遅しってやつで。
「『亜子さん』?」
ほらみろ、余計なことを言うから。
せっかく誤魔化してたのに仙道さんが反応しちゃったじゃないか。
あああ、もう、わざわざ戻ってこなくていいってば。
そのまま練習してくれてていいってば。
「彦一」
「あっ、仙道さん!やっぱり来てはったんですね!」
「おう、タイミング良く今日は休みだったしな。ところでさ、蜂谷亜子って、この子?」
「何を言ってるんですか、当たり前やないですか!どうですか、可愛い人ですやろ?」
彦一いいいい!!
余計なこと言うなって……!
しかも、またサラリと可愛い発言しやがって……!
意識してないだけに、こっちが恥ずかしいわ!
いや、それよりも。
「へぇ……」
気になる、すんごい気になる。
仙道さんの視線。
冷や汗もんじゃない?この状況。
「うーん、一般的には可愛い部類なのかもしれないけど、残念ながらオレの好みじゃないんだよなぁ」
……は?
「ちょお、仙道さん!?」
慌てる彦一くん。
それもそうだ、私と仙道さんの間に挟まれてるんだから。
それにしても、今の言い方……何様のつもりだ!
ええ、そうですよね、人には好みってモンがあるのは熟知しておりますよ。
一般的には可愛い部類なのかもっていうのはぶっちゃけちょっと嬉しかった。
でもね、言い方に腹が立つぞ!?
「普通、本人目の前にしてそういう言い方しますか?」
「ごめんね、オレって素直だからさ」
優男な笑顔。
大抵の女の子は、この笑顔に騙されるんだろう。
へらへら笑ってりゃいいってもんじゃないんじゃい!
「そうですか、それはどうも。別に構いませんよ、私も貴方みたいな人は好みじゃないですから」
「ちょっ、亜子さんまでそないな事を……!」
彼のプレイは好きだよ。
実際目の前にしてカッコイイとも思ったよ。
でも、こんなに嫌な感じの人だったっけ?
ハッキリと伝えると、仙道さんは目を丸くしていた。
そして、フッと息を漏らす。
「ははは!面白いね、キミ!」
「そらどうも。蜂谷亜子です」
「じゃあ、蜂谷ちゃん」
「……なんですか」
気安く呼ぶんじゃねぇ。
そう思ったけど、とりあえず黙っておく。
「その格好、キミもバスケやるんだよね。経験者?」
「まあ、一応経験者ですね」
「オレと、ちょっと勝負してみない?」
勝負ぅ?
一体何を言い出すんだ、この男。
「勝負って……何でですか?」
「オレと蜂谷ちゃん、このままじゃ言い合いが続きそうだから。負けたほうが折れるってことで」
別に、言い合いを続かせるつもりもなかったんだけど……でも、勝負とか……ちょっと面白そうかもしれない。
乗ってやろうじゃないの。
私は、ニヤリと笑って仙道さんを見た。
了承の合図だ。
「じゃあ、フリースロー勝負でいいかな。ドリブルとか入れたりすると、男女の体力の差っていうのもあるしね」
「いいですよ。ついでに、勝った方にジュース一本ってどうですか?」
「おっ、言うねぇ。いいよ、じゃあそれもだ!」
仙道さんは、負ける気はこれっぽっちもないだろう。
自分の強さを知ってるくせに、女の子相手に勝負吹っ掛けるなんて、紳士じゃないな。
あー、なんか、イメージと違うよこの人。もっと普通に優しい感じだと思ってた。
「何やら、前代未聞の勝負が始まりそうですな……!要チェックやわ!!」
お互いボールをひとつずつ持ち、コートへと歩みを進めた。
この勝負、絶対負けたくない……!
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