スラムダンク | ナノ

 10

「ぶへっくしゅ!!」

「お前、女のくせに全く色気ねぇなぁ……」

「いいんです、ほっといてくださいよ」

誰かがうわさしてるな?
なんて思いつつ、鼻水をずびっとすすった。
寿先輩に色気ねぇなぁと言われたけど、私に色気があるなんて思ってないから別にいいもん。

「そんなんじゃ嫁の貰い手ねーぞ」

「別にいいですってば!」

嫁なんて、そんなのまだ考えたことないし。

「あ、でもお前と結婚したら安西先生の身内になれるんだよなぁ……いいな、それ。なあ、亜子。オレと結婚するか?」

「そんなよこしまな、愛のない結婚はしません」

「わはははっ!冗談だ、冗談!」

「わかってますよ、なんですか!もう!練習しないなら体育館閉めますよ!!」

「悪い悪い、お前からかうと面白くて!じゃ、練習再開するわ」

「もう……!」

寿先輩は私の頭をぐしゃぐしゃにしながら、練習へと戻っていった。
他のみんなはちゃんと練習してるのに、寿先輩は休憩がてら私の事をからかいに来たのだ。

今日みたいに湘北の練習を終えてから自主練をしに来る人がいる。
週に一回か二回くらいかな。
高校の部活動なんて、相当厳しいはずなのに。
疲れながらもやって来るのをみていると、本当にバスケが好きなんだなって思う。

今日練習をしに来たのは、寿先輩と木暮さん。
それに、花道。

花道のシュート練習の付き合いらしい。
練習に戻った寿先輩の姿を目で追ってみた。
こうして見てると、普通にカッコイイんだけどな。

バスケをやっているときは、普段の倍以上かっこよく見えるから不思議だ。
まるで、目の前に美形フィルターがあるみたい。
……って、美形フィルターってなんじゃそりゃ。
自分に一人ツッコミを入れていると、後ろから聞き覚えのある台詞が。

「要チェックや……!!」

神くんに続いて、次の他校生との出会いはこいつか……!

「なにが要チェックなのかな、彦一くん」

声の主に近づき、ごく自然に問いかけてみる。

「こないなところで桜木さんがシュート練習をしているなんて、チェックせなあかんです……って!!こちらも要チェックや!!」

コートに向けていた視線を私にずらし、その後彦一くんはじろじろと見ながらメモに何かを書き込んでいた。
っていうか、名前知ってることに驚かないのか?
チェックに必死で気づかないのか?
別にどっちでもいいけどさ、ちょっと寂しいじゃんか。

「なにをチェックしてるのさ」

「いや、こんな可愛い人、チェックしとかな損します!」

かわ……!?
面と向かってそんな事言われたの、初めてなんですけど……!!

「ああー……あはは、ありがと!」

「いやぁ……」

とりあえず、素直にお礼を言ってみた。
彦一くんは照れているようだ。
彩子ちゃんや晴子ちゃんもチェックされてるんだろうか、とか思ったら、ちょっと笑ってしまった。

「あーーーっ!!コラ!彦一!!てめーは何しに来たんだ!!」

「あっ、桜木さん!」

私たちの様子に気づいた花道が、ボールをほっぽって、こっちにずんずん近寄ってきた。

「まさか亜子さんにちょっかいだしてんじゃねーだろーなー!?」

「そそそ、そんな!滅相もないですよ!!」

チェックとちょっかいは違うのか。
そうか、覚えておこう。

「亜子さん、大丈夫ですか!こいつに何かされてませんか!?」

「あっはっは、大丈夫だよ、花道!」

「ぬお!!」

心配する後輩が可愛くて、花道の坊主頭をぐりぐりっと撫でた。
女性の免疫がないっぽいから、あたふたしてたけど。
さわり心地もいいし、やめてやんない。

「陵南の相田くんじゃないか、こんばんは」

「木暮さん!三井さんも、チュース!!」

「おお、どうしたんだ。今日は仙道は一緒じゃねーのか?」

「はい、仙道さんは一緒じゃないです。今日は偶然ここに来ただけですんで」

「まさか偵察……!?」

「いやいや、偶然ですって!!」

当然のように、普通に話が進んでいく。
まあ……ほとんどの学校の人達は知り合いって感じだったもんなぁ。
仲がいいのかはわからないけど、彦一くんなんか親しみやすそうだし。
木暮さんも、寿先輩も、花道も、三人とも楽しそうに話してる。
彦一くんが低姿勢だっていうのもあるんだろうけどさ。

それにしても、仙道さん、ね……仙道彰か。
せっかくなら、彼のプレイも実際に見てみたいなぁ。

陵南は、仙道さんと魚住さん、越野くん。
海南は、神くんに会えたから、牧さん、清田くん。
湘北は全員会うことができたし…ああ、忘れちゃいけない、翔陽!
翔陽の藤真さん、花形さんコンビは絶対見たいなぁ。

私、どんどん欲張りになってきてる気がするよ。
湘北のみんなと出会えただけでも、現実として考えたら有り得ない事なのに。
他の人たちとも一緒にプレイしてみたい、とか思っちゃってる。

「……い、……おい、亜子!」

「へっ!?は、はい!!」

みんなが話をしているのを横目に、自分の世界に入ってしまったようだ。
いけない、いけない。

「ボーっとしてんじゃねぇよ、ったく」

「あはは……すみません」

「はは、まあ、いいじゃないか。で、話は……聞いてるわけ、ないか」

「ははは……」

木暮さんがフォローに入ってくれたけど、実際話なんて全く聞いてなかったので苦笑されてしまった。
私も苦笑で返すしかなかったけど。

「今度、仙道さん達も連れてきていいですか?って話ですわ」

内容を彦一くんが教えてくれた。

「ダンコ反対!センドーにこの場所を教えたら、あのやろー毎日来るじゃねーか、絶対!」 

「ええ!?さすがに毎日は来ませんよ!学校での部活もありますし!」

「嘘つけ!センドーのことは信用ならねーんだよ!」 

「えええ!!どんな屁理屈ですか、桜木さん!!」

なんか、彦一くん……哀れだな。
よし、ここはおねーさんが救ってあげよう!

「彦一くん、いいよ、今度他の人達連れてきても!」

「なっ、亜子さん!どっちの味方すか!!」

「どっちの味方って……仲良く練習できない人には、この体育館使って欲しくないし」

「……!!コラ彦一!亜子さんの有難いお言葉を聞いただろう!さあ、さっさとセンドーに伝えにいけ!ホラ行け!さっさと行け!!」

「うわ、さ、桜木さん!押さないでくださいよ、ちょっと……!!」

私の一言にショックを受けたらしく、花道は彦一くんの背中を押して追い出してしまった。
多分、花道なりに『仙道達を連れて来い』っていう解釈なんだろう。

「あはは、花道ってアホだよね!」

彼の後姿を見ながらそう言うと。

「あいつは馬鹿なんだよ、正真正銘のバカ!」

「は……ははは……」

寿先輩の呆れた声と、木暮さんの苦笑が返ってきた。
彦一くんは、帰ったらすぐに仙道さんに伝えるだろうか、この体育館のことを。
そしたら、近いうちに来てくれるだろうか。

へへっ、また、楽しみがひとつ増えちゃった!
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