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湘北高校の体育館の改装が終わってしまったので、今日は私が独り占め。
特に予約も入ってなかったし、用具の手入れや掃除などをやってから、自分で体を動かそうと決めた。
学校から帰ってきてからすぐに伯母さんと交代しようと思い、管理人室に向かう。
「伯母さん、今帰りました!」
「あら亜子ちゃん、早かったわね。毎日ご苦労様」
湘北に編入してから一週間が経つ。
バスケ部の朝練は、毎週4日。
月、水、金、土で、それ以外は他の部活が体育館を使用している。
なので、火、木はこの体育館で朝練をやってから学校に通う。
朝は、みんなが朝練をやらない時以外は開放してないから、朝練をするときだけは一緒に交じり。
それ以外の日は伯母さんに体育館の鍵を預けてから、なるべく早めに学校へ向かっていた。
もちろん、みんなの朝練を見学するためだ。
でも彩子ちゃんに見つかってしまって、手伝いを強要されちゃうんだけどね、いつも。
ゴリの妹、晴子ちゃんとも知り合いになって、今ではもう仲良しだ。
「今日ね、男の子が一人いるの。予約が入ってなかったから入れちゃったんだけど、よかったかしら?」
「男の子、ですか?予約が入ってないなら大丈夫ですよ!」
「そう、安心したわ。じゃあ、後はお願いするわね」
「はい、ありがとうございます!いつも助かります!」
「気にしないで頂戴」
それじゃあね、と、伯母さんは帰っていった。
伯母さんの中では、既に私は姪っ子として認識されていたらしい。
これも、伯父さんの説明にあった。
両親のことも知っているようで、親代わりとして接してくれる、とてもいい人。
伯母さんを見送ってから、早速着替えてコートへ向かった。
近づくと、ボールのドリブル音が聞こえる。
誰だろうと思って、中を覗いてみると。
シュパッといういい音がして、そのボールはゴールへと吸い込まれていった。
「……神、くん?」
その呟きは、自分で思っているほど小さくなかったらしい。
中にいた人……海南の神宗一郎が、私の存在に気づいて近寄ってきた。
身長、でかっ……!!
「こんにちは」
ニコッと微笑まれ、挨拶をされる。
紳士的スマイルに悩殺されてしまいそうだ……!
爽やかでかっこよすぎる。
「こ、こんにちは!」
「キミ、誰?オレのことを知っているようだったけど……」
怪しまれるのも無理はない。
だって、彼の名前を口にしてしまったのだから。
「あ、私、学校から帰ってきてここの管理をやってるの。蜂谷亜子と言います。湘北高校の二年生です」
初対面にはとりあえず自己紹介をしないとね。
「湘北……もしかして、バスケ部関係?」
「いや、バスケ部関係では……ないこともないけど、バスケ部の情報は詳しいつもり」
「ああ、それでオレの事知ってたのかな」
「まあ、そんなとこです」
神くんは納得してくれたようだった。
それと、同じ二年生なんだから敬語はいらないと言ってくれて。
敬語で話すつもりもなかったんだけど、神くん、身長高いから……なんか圧倒されちゃって。
あ、でも。
この身長差って結構萌える……!
やばい、ニヤけてないだろうな、あたしの顔!
「ここ、結構綺麗だし、設備も整ってるよね。管理が行き届いてるんだなぁって思う。大変じゃない?管理するの」
「ああ、まあ大変っちゃ大変だけど。でも、好きでやってることだからいいんだよ。それより、今日は部活ないの?」
「うん、今日は休み。ロードワークしてたらここを発見して。今度、後輩とかも連れてきていいかな?」
後輩って……清田信長のことだよね!
それは是非お会いしたい!
「いいよ、もちろん!」
「ありがとう」
とびきりの笑顔で了承すると、神くんは嬉しそうに顔を赤らめた。
なんだ、その反応。
可愛いぞ、神宗一郎……!
「じゃあ、練習再開させてもらうね」
「うん!」
神くんが戻っていったあと、私も用具室からボールを取り出し、早速準備運動から始めた。
その様子を見ていたらしき神くんから、再び声を掛けられる。
「蜂谷さんもバスケやるの?」
「うん、やるよー!」
元気よく返事をすると、神くんはそのまま近寄ってきた。
「じゃあさ、ちょっと練習相手になってよ」
「パス出しとか……?いいよ、準備運動終わったらね?」
「良かった。オレ一人でやっててもつまんないし、助かるよ」
そんな爽やかに言われて断れる人がどこにいますか。
天然王子だな、神くんは。
早くお手伝いをしてあげたいけれど、準備運動だけはきっちりこなさなきゃ。
適度に体がほぐれたところで、今度は私から神くんに声をかけた。
「神くーん、おわったよー!」
「あ、うん!じゃあ、パス出しお願い!」
「OK!」
言われたとおり、神くんにパス出しをやることになった。
指定の位置につき、そこからバウンドパスや、チェストパス、ワンハンドパスなど、色んな種類のパスを出してみた。
一定のパスじゃあ練習にもならないだろうし。
けど、どんな種類のパスをやってみても、神くんは見事にドリブルシュートを決めてしまう。
流石としか言いようがない。
しばらく続けた後、少し休憩することになった。
「蜂谷さん、パスの出し方うまいね」
「ええ、そうかな?神くんだって、どこに出してもスムーズに決めちゃうじゃん。すごいよ」
「あはは、なら、オレ達相性いいのかもね」
「私が男だったら、いいコンビが組めてたかもねー!」
嬉しいことを言ってくれる。
残念ながらプレイヤーじゃないけど、もしプレイヤーであったなら最高の褒め言葉だ。
その後も、他愛もない話を繰り返しながら練習を続けた。
結構長いことやっていたようで、辺りはもう真っ暗だ。
「げ、もう21時!早いなー」
「ああ、そろそろ帰らないとな……楽しくて、時間なんて忘れちゃってたよ」
「私も楽しかったよー!」
「そう言ってくれると嬉しいよ。じゃあ、片付けしようか」
「うん、そうだね!」
片付けと言っても、ボール二個と床のモップがけ。
それが終わって、体育館へ感謝の気持ちを込めてお辞儀し、外へ出た。
もちろん、戸締りも完了。
全部終わるまで神くんは待っててくれた。
走って帰るみたいだし、遅くなっちゃうからいいよ、と言ったんだけど。
女の子を一人にするわけには、と。
高校生なのにこんなに紳士で、将来どれだけ素敵な人になるんだろうか。
「亜子ちゃんの家はここからどれくらい?」
呼び名も、いつの間にか蜂谷さんから亜子ちゃんに変わっていた。
嬉しいからいいんだけど、神くんはそういうのお堅そうなイメージがあったから……ちょっと意外だったかな。
「私の家はすぐだよ!5分くらいのとこにあるんだ」
「じゃあ、そこまで送ってくよ」
「ええ、いいよ!本当に遅くなっちゃうよ?」
「5分くらい変わらないよ」
笑顔に負けて、折れたのは私のほう。
せっかくなので、送ってもらうことにした。
別れ際に『今度後輩連れてくるから!』と、もう一度言われ。
神くんにまた会えるという事と、信長にも会えちゃうんだと思うと、その時が来るのがすっごく楽しみになった。
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