スラムダンク | ナノ

 8

湘北高校の体育館の改装が終わってしまったので、今日は私が独り占め。
特に予約も入ってなかったし、用具の手入れや掃除などをやってから、自分で体を動かそうと決めた。

学校から帰ってきてからすぐに伯母さんと交代しようと思い、管理人室に向かう。

「伯母さん、今帰りました!」

「あら亜子ちゃん、早かったわね。毎日ご苦労様」

湘北に編入してから一週間が経つ。

バスケ部の朝練は、毎週4日。
月、水、金、土で、それ以外は他の部活が体育館を使用している。
なので、火、木はこの体育館で朝練をやってから学校に通う。

朝は、みんなが朝練をやらない時以外は開放してないから、朝練をするときだけは一緒に交じり。
それ以外の日は伯母さんに体育館の鍵を預けてから、なるべく早めに学校へ向かっていた。
もちろん、みんなの朝練を見学するためだ。
でも彩子ちゃんに見つかってしまって、手伝いを強要されちゃうんだけどね、いつも。
ゴリの妹、晴子ちゃんとも知り合いになって、今ではもう仲良しだ。

「今日ね、男の子が一人いるの。予約が入ってなかったから入れちゃったんだけど、よかったかしら?」

「男の子、ですか?予約が入ってないなら大丈夫ですよ!」

「そう、安心したわ。じゃあ、後はお願いするわね」

「はい、ありがとうございます!いつも助かります!」

「気にしないで頂戴」

それじゃあね、と、伯母さんは帰っていった。
伯母さんの中では、既に私は姪っ子として認識されていたらしい。
これも、伯父さんの説明にあった。
両親のことも知っているようで、親代わりとして接してくれる、とてもいい人。

伯母さんを見送ってから、早速着替えてコートへ向かった。




近づくと、ボールのドリブル音が聞こえる。
誰だろうと思って、中を覗いてみると。

シュパッといういい音がして、そのボールはゴールへと吸い込まれていった。

「……神、くん?」

その呟きは、自分で思っているほど小さくなかったらしい。
中にいた人……海南の神宗一郎が、私の存在に気づいて近寄ってきた。

身長、でかっ……!!

「こんにちは」

ニコッと微笑まれ、挨拶をされる。
紳士的スマイルに悩殺されてしまいそうだ……!

爽やかでかっこよすぎる。

「こ、こんにちは!」

「キミ、誰?オレのことを知っているようだったけど……」

怪しまれるのも無理はない。
だって、彼の名前を口にしてしまったのだから。

「あ、私、学校から帰ってきてここの管理をやってるの。蜂谷亜子と言います。湘北高校の二年生です」

初対面にはとりあえず自己紹介をしないとね。

「湘北……もしかして、バスケ部関係?」
「いや、バスケ部関係では……ないこともないけど、バスケ部の情報は詳しいつもり」

「ああ、それでオレの事知ってたのかな」

「まあ、そんなとこです」

神くんは納得してくれたようだった。
それと、同じ二年生なんだから敬語はいらないと言ってくれて。
敬語で話すつもりもなかったんだけど、神くん、身長高いから……なんか圧倒されちゃって。

あ、でも。

この身長差って結構萌える……!
やばい、ニヤけてないだろうな、あたしの顔!

「ここ、結構綺麗だし、設備も整ってるよね。管理が行き届いてるんだなぁって思う。大変じゃない?管理するの」

「ああ、まあ大変っちゃ大変だけど。でも、好きでやってることだからいいんだよ。それより、今日は部活ないの?」

「うん、今日は休み。ロードワークしてたらここを発見して。今度、後輩とかも連れてきていいかな?」

後輩って……清田信長のことだよね!
それは是非お会いしたい!

「いいよ、もちろん!」

「ありがとう」

とびきりの笑顔で了承すると、神くんは嬉しそうに顔を赤らめた。
なんだ、その反応。
可愛いぞ、神宗一郎……!

「じゃあ、練習再開させてもらうね」

「うん!」

神くんが戻っていったあと、私も用具室からボールを取り出し、早速準備運動から始めた。
その様子を見ていたらしき神くんから、再び声を掛けられる。

「蜂谷さんもバスケやるの?」

「うん、やるよー!」

元気よく返事をすると、神くんはそのまま近寄ってきた。

「じゃあさ、ちょっと練習相手になってよ」 

「パス出しとか……?いいよ、準備運動終わったらね?」

「良かった。オレ一人でやっててもつまんないし、助かるよ」

そんな爽やかに言われて断れる人がどこにいますか。
天然王子だな、神くんは。

早くお手伝いをしてあげたいけれど、準備運動だけはきっちりこなさなきゃ。

適度に体がほぐれたところで、今度は私から神くんに声をかけた。

「神くーん、おわったよー!」

「あ、うん!じゃあ、パス出しお願い!」

「OK!」

言われたとおり、神くんにパス出しをやることになった。
指定の位置につき、そこからバウンドパスや、チェストパス、ワンハンドパスなど、色んな種類のパスを出してみた。
一定のパスじゃあ練習にもならないだろうし。
けど、どんな種類のパスをやってみても、神くんは見事にドリブルシュートを決めてしまう。
流石としか言いようがない。

しばらく続けた後、少し休憩することになった。

「蜂谷さん、パスの出し方うまいね」

「ええ、そうかな?神くんだって、どこに出してもスムーズに決めちゃうじゃん。すごいよ」

「あはは、なら、オレ達相性いいのかもね」

「私が男だったら、いいコンビが組めてたかもねー!」

嬉しいことを言ってくれる。
残念ながらプレイヤーじゃないけど、もしプレイヤーであったなら最高の褒め言葉だ。








その後も、他愛もない話を繰り返しながら練習を続けた。
結構長いことやっていたようで、辺りはもう真っ暗だ。

「げ、もう21時!早いなー」

「ああ、そろそろ帰らないとな……楽しくて、時間なんて忘れちゃってたよ」

「私も楽しかったよー!」

「そう言ってくれると嬉しいよ。じゃあ、片付けしようか」

「うん、そうだね!」

片付けと言っても、ボール二個と床のモップがけ。
それが終わって、体育館へ感謝の気持ちを込めてお辞儀し、外へ出た。

もちろん、戸締りも完了。
全部終わるまで神くんは待っててくれた。
走って帰るみたいだし、遅くなっちゃうからいいよ、と言ったんだけど。
女の子を一人にするわけには、と。
高校生なのにこんなに紳士で、将来どれだけ素敵な人になるんだろうか。


「亜子ちゃんの家はここからどれくらい?」

呼び名も、いつの間にか蜂谷さんから亜子ちゃんに変わっていた。
嬉しいからいいんだけど、神くんはそういうのお堅そうなイメージがあったから……ちょっと意外だったかな。

「私の家はすぐだよ!5分くらいのとこにあるんだ」

「じゃあ、そこまで送ってくよ」

「ええ、いいよ!本当に遅くなっちゃうよ?」

「5分くらい変わらないよ」

笑顔に負けて、折れたのは私のほう。
せっかくなので、送ってもらうことにした。

別れ際に『今度後輩連れてくるから!』と、もう一度言われ。

神くんにまた会えるという事と、信長にも会えちゃうんだと思うと、その時が来るのがすっごく楽しみになった。
prev / next
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -