9:理想的な嫁

「空子、玉ねぎのみじん切り終わったよ!」
「じゃあ今度は韮のみじん切りね」
「わかった!」

ああ…なんて可愛いんだろ、河了貂。
信から料理の上手な家族同然のヤツ、としか聞いてなかったけど、女の子な上にとても素直で、まるで妹が出来た気分になる。
初対面だから会話が続くか不安だったけれど、河了貂の方から料理を教えてほしいとお願いしてきたので、そこから話が弾んだ。
彼女も彼女で物怖じしない性格なのか、私が同性だから話しやすかったのか、ぐいぐい質問してくるから会話が途切れることもなく。

現在一緒に作っているのは、餃子。
まな板を交代で使う予定だったのだが、河了貂があまりにも楽しそうにやっているものだから、全部彼女にお任せすることにした。
決して楽してるわけじゃありません。
私は私で中華風コーンスープを作っているのです。

餃子の原材料は豚ミンチ、玉ねぎ、韮、キャベツ、しょうが、にんにく。何個かチーズも入れようと思っているので、豚ミンチはチーズ用に少し分けておく。
それらにごま油、醤油、塩コショウを入れるのが実家の餃子の味だ。
コーンスープは中華スープの素にクリームコーンの缶詰と、水とお酒と塩コショウ、卵、ごま油、それから水溶き片栗粉を入れるだけ。
お手軽で美味しいけど、一人で食べる分だけ作るのも面倒だったから最近はめっきり味を忘れてしまっていた。
久々に食べられるのは嬉しいなあ、と思いつつ、河了貂のみじん切りを見守る。

信のお墨付きどおり、とても手際がいいので大して時間もかからなかった。

「じゃあ、それ全部混ぜたら皮に包みます」
「…これ、似たようなの食べた事あるかも!」
「え、本当?餃子って中華発祥だし、饅頭みたいなのって考えたら同じようなモンかもしれないね」
「うん!でも味は絶対こっちのほうが美味しいと思う!既にニオイが違うもん!」

そう言いながら鼻をヒクヒクさせる河了貂の可愛いのなんの。
こんな可愛い子が信と二人で暮らしていて、よく襲われなかったね。
家族同然って言ってたからそんな関係ではないんだろうけど…まだまだ発展途上だし、今後の成長が楽しみですなあ。なんて、オヤジみたいな事を考えてみる。
私が男だったらこういう子こそお嫁さんに欲しい。

「チーズの方は無かったと思うし、たくさん食べていってね!」
「これは焼いたら美味しくなるの?このままだとちょっと変なニオイだと思ったんだけど…」
「私は好きだけど、スキキライは人それぞれだから河了貂が食べられそうだったら食べてくれればいいよ。あ、揚げ餃子にしたらもっと美味しいからチーズの方は揚げ餃子にしよう!」
「うん!わかった!出来上がりが楽しみだなあ〜」


餃子を全部包み終え、総数で30個出来上がった。
そのうちの10個はチーズ揚げ餃子だ。

焼く過程は河了貂にお任せし、私は揚げ餃子を担当する。
香ばしいニオイが部屋中に広がって、河了貂と目を合ったと同時にニッコリ笑った。

スープも温め直し、テーブルに出来上がった料理を並べていく。
餃子、スープ、サラダ、ご飯を目の前にして、河了貂の口からは涎が零れ落ちそうだった。

「よし、食べようか」
「いただきまーす!」

まずは普通の餃子を一口。
醤油だけでもいいけど、お好みは酢醤油。たまに味替えでラー油をポトリ。
今日の味付けは文句なしに美味しい。
揚げ餃子もサクッとカリッとしてて最高!

「どう?」
「空子、やっばい!これすっごい美味しいよ!!」
「良かった、河了貂のおかげだね」
「オレの?味付けしたのは空子だよ?」
「河了貂が愛情込めて野菜を切ってくれたじゃん」
「エー…空子ってそんな恥ずかしいこと言うヤツだったの…」
「ええー…河了貂ってそういうのダメな人だったの…」
「…ぷっ、なんだそれ!っていうか、秦の異世界ご飯大使が空子で良かったよー、他の国じゃ酷ぇところもあるみたいだもんな」
「え?」

河了貂の言葉に、思わず持っていた箸を落としそうになった。

「私以外にもいるの?」
「情報で流れてきたんだけどさ、どうやら他の国でも異世界と通じてる場所があるみたいなんだよね」
「それはやっぱり、この世界なのかな」
「そこまでは探れてないみたいだけど…それでも、金を渡したにも関わらずトンズラされた国があるっていう話は聞いた」
「トンズラ…それは…酷い…」

正直、気持ちはわからなくもない。
異世界がどうのこうのなんて、信じない人や関わりたくない人にしてみたら厄介が飛び込んできただけだ。
お金の話までたどり着いたのであれば、お金だけ貰って逃げようっていう気が起きるのも、無くはないと思うし…私は情が湧いちゃったし、こんなに大金貰って逃げるなんて出来ないから、こうやって毎日食料の提供をしているわけだけれども。

「それってどうやって探ったのかねえ」
「さあ、それもわかんないんだよな」
「ま、私が知ってもしょうがないけどねえ」
「いやいや、それがしょうがなくないんだよ。考えてもみてよ、万が一この場所が他の国のヤツに割れたらどうなると思う?」
「どうなるって…自分の国にも食料寄越せって言ってくる、とか?」

そうなったら面倒だなって思うし、確実にお断りするけれども。

「食料寄越せ、で済めばいいけどね」
「……ちょっとまって、殺される可能性もアリ?」
「おお、正解!」
「軽いな!」

そっか。
秦に食料を流している人物を殺せば、秦の士気が落ちる。
本当にこの場所が敵国に知られちゃったら、私の身が危ないのか。

「見つからないことを祈るしかないなあ」
「とは言ったものの、大丈夫だと思うけどね。だって、秦のヤツしかここに来ないんだろ?」
「今のところはね」
「……大丈夫だよ、きっと」

今のところはね、の言葉を聞いて、河了貂は口元をひくつかせた。
異世界と通じてること自体不思議な出来事だから、何があってもおかしくはないのだよ。
万が一があったら即座に逃げるよ、そしたら追いかけてきても廊下に出て即刻さようならできるだろうしさ。自分の身は自分で守ります。

「ところで、餃子の材料ってまだあったりする?」
「ん?足りなかった?」

話をしているうちに、お皿に乗っていた餃子は綺麗さっぱりと無くなっていた。
私もそれなりに食べたけど、河了貂もたくさん食べてたもんなあ。

「いや、そうじゃなくて…これだけ美味しかったら、他のヤツにも食わせてやりたいなって思ってさ」
「ああ…なるほど。残念ながら、材料はもうないかなあ」
「うぅー…そっか」
「その代わり、今度作り置きしてある餃子を準備しておくよ。そしたらみんなにも食べてもらえるでしょ?」
「でも、この味じゃないんだろ?」

シュンとする河了貂。
この味が気に入ってくれたのね…!おねーさん感動だよ…!

「…わかった!じゃあ、今から買ってくるから!そしたら一緒に作ろう!」
「ホント!?空子、大好き!ありがとう!!」


河了貂に留守番をお願いし、(と言っても彼女はそこから出られないから仕方がないのだが)スーパーへと車を走らせ、追加材料を買ってきた。
お喋りしながら作れば数は多くても問題ないかな、と、500個分も。

至極満足そうに帰っていく河了貂を見送って、気分は清々しいものだったけれど。
流石に大量のみじん切りが辛く、腕が筋肉痛になったのは少し後悔してる。

今後こういう機会が無いとも限らないので、フードプロセッサーを買うことにした。

2016.11.18
  
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