自家発電用サンジ夢 | ナノ

 9

「メイさーん、今日もお疲れ様」

車に近寄ると、既にサンジが待っていた。
見た感じ疲れたような顔をしている。

「サンジもお疲れ、どうだった?一日目の仕事は」
「うん、筋がいいねって褒められた」

嬉しそうに顔を赤くしながらへらりと笑う彼。

「そんなに顔赤くしちゃって…よっぽど可愛い子がたくさんいる店なのね」
「え、顔赤い?」
「うん、赤い」
「そっかー…やっぱ気のせいじゃねェんかな」
「ん?」
「あ、いや。こっちの話」

なんだか様子がおかしい。
…この子の顔が赤い理由ってもしかして。

「メイ、さん?」

車に乗り込もうとしたサンジに向かってずかずかと近寄る。
そして額にべしっと手を当ててみた。

「…あっつ。熱あるじゃん」
「あー…やっぱ熱かァ」
「熱かァ、じゃないよ!何をそんなのんきな…!とりあえず急いで帰って横になろう!はい、乗って!」

ドアを開けたサンジをぐいっと車に押し込み、私も反対側に回ってドカッと乗り込む。
そして速やかに車を発進させた。


冷えピタは確かまだあったはず。
とりあえず一度帰宅して、ポカリと風邪薬…熱出した後じゃ手遅れかもしれないけど、飲まないよりはマシだろう。
病院に連れて行けないって辛い…!
こんな時チョッパーが居てくれたら助かるんだけどな。
居ないものを言っても仕方ないが、私の看病よりはきっと早く治るだろう。
なんてったって医者には敵わない。

車でおとなしくしているサンジは、少々辛そうだった。
家に到着し、降りる際肩を貸そうとすれば大丈夫だ、と跳ね除けられた。
跳ね除けられたっていうよりやんわりとした遠慮なんだけど。
こんな時に気を使ったってしょうがないでしょ!と怒ると、じゃあちょっとだけ、と、少しだけ体を任せてくれた。




「とりあえず必要そうなもの買ってくるけど、何か食べたいものとかある?」
「んー…、今は何もいらねェかなあ…寝てれば治るから、何も買ってこなくていいよ?」
「そういうわけにもいかないでしょ。ていうかいつ頃からだるかったの?」

布団に入り、横になったサンジにそう聞いてみれば。
彼は気まずそうに視線を斜め右へと逸らしていった。


「おい、何故視線を逸らすのかね」
「いや、正直に言わないとメイさん怒りそうだなあ、って」
「それが解ってるんだったらちゃんと言ったほうが身のためだよ」
「……実は、この世界に来てからちょっと体が重いとは思ってたんだよね」
「そんな最初から…!!」

それなのに私は彼に料理をさせたりしてたのか…!
それならそうと早く言ってくれれば仕事の許可だって出さなかったのに。

「なんで今まで黙ってたの」

ドスの効いた声で言い放ってやれば、サンジはうっ、と言葉を詰まらせた。

「この世界と自分の世界ではそういう違いがあるのかな、って単純にそう思ってたんだよ。だから風邪引いたなんて思いもしなかったんだ」

素直に返ってきた言葉に思わずため息を吐く。

「…メイさん、怒ってる?」
「怒ってるんじゃないの、呆れてるの。怒ってるといえば自分に怒ってる」
「俺に呆れるのはわかるけど…なんで自分に怒ってるんだい」
「サンジが体調悪かったことに対し、気づいてあげられなかったこと。それなのに一緒に買い物とか料理作らせたりとか振り回したこと」
「ちょ、ちょっと待ってよメイさん!」

ガバッと起き上がるものだから、寝てろ!と言って布団へ押し込む。
サンジは納得がいかないような顔をしていた。


「一緒に買い物に連れてけっつったのは俺だし、料理を作るって言い出したのも俺だよ。そこんとこ忘れてもらっちゃ困るな」
「でも、体調悪いって気づいてたらさせなかったよ」
「メイさんは俺がそんなヤワな男に見えるのかい?」

そう聞かれて、今まで読んできたワンピースの漫画を思い返す。
思い返したどのシーンの中でも、麦わら海賊団の一味にはヤワな人間なんて一人も居なかった。
ウソップやチョッパーがへたれたこと言ったりはしてたけど、それでもやる時はやる、なスタンスだから一概にヤワという言葉には当てはまらない。

「…そうは見えないけど」
「なら大丈夫。心配しないで、すぐ治るよ」
「……あー、もう!わかったから!とりあえず今はゆっくり寝ること!いいね!」
「ほんとにわかった?」
「うるさい!」
「ブォフ!!」

枕を投げつけるなんて、とても病人相手にしているとは思えない。
酷いヤツだ、我ながらそう思った。
ヤワじゃないとはいっても違う世界なんだから何があるかわからないじゃない。
自分の世界とこの世界とでは違いがあるかもしれないじゃない。
上手く体が対応してないんだったら尚更のこと。
それなのにあんなに「大丈夫」なんて連呼するもんだから。

…病人に気を使わせちゃって、なんだか情けない。

せめて熱が下がるまでは安静にしてもらおう。


「とりあえず買い物行ってくるから」

言うだけ言って、返事を待たずに玄関を出てきた。
おとなしく寝ててくれればいいんだけど。
まさか立ち上がって夕食の準備などはしないだろうな…。
少しの不安が頭を過ぎり、早く帰ってこようと誓った。









「あーあ、ほんとに大丈夫なのになァ…」

天井に向かって呟けば、言葉は空気に紛れて消えた。
独り言なんてそんなものだ。

大体風邪なんて引いたのはいつ以来だろうか。
記憶がある頃にはもう覚えがない。
怪我はあっても病気なんて無かったのにな。
やはり違う世界の影響というものがあるんだろうか。

メイさんの出て行ったドアをじっと見つめる。
怒った表情だったけど、あれはきっと心配してくれてるんだろうな。
優しいメイさんのことだ、多分愛情の裏返しってやつかな。


愛情、ねえ。
母親がくれる愛情ってのはこんなカンジなんかな。
物心ついた頃には母親なんていなかったし、男だらけのバラティエで育ってきたし。
…良くわかんねェな。
ただ、メイさんが俺の事を心配してくれるのは嬉しいけど。
なんか、くすぐったい感じがする。

ボーッと見ていたところでメイさんが帰ってくるわけではない。
そう思って体を上へ向けた。
熱で寝てるなんて、他のやつらに知られたらたまったもんじゃねえな。
こっちの世界じゃなかったら無理してでも動くのに。
つーか誰にも気づかせない自信あんのに。

……やっぱ異世界っていう影響、あんのかなァ…。
あー、情けねぇ。
メイさんが帰ってくるまで、少し寝る事にしよう。
寝れば治るはず。

「あ、そうだ…落としたりしてねえよな」

ポケットの中身がちゃんと入っているかを確認し、その感触を確かめる。
良かった、ちゃんとあった。
メイさん…喜んでくれるといいな。

彼女の笑顔を思い浮かべながら、目を閉じた。









買い物を終えて帰宅すると、小さな寝息が聞こえてきた。
寝ている事に安堵し、音を立てないようにして買ってきたものを運ぶ。
するとパサッと音が聞こえたので、音の方向に目をやると案の定サンジが起きてしまったようだ。

「…ん、メイさんお帰り」
「ごめんね、起こさないようにって思ったんだけど」
「気配がしたから」

気配って…お前は忍者か。
そう言ってやりたかったけど、戦闘において気配を読むっていうのは大事なんだろうなあと思ったので、言葉を喉の奥に押し込んだ。


「ダルさは相変わらず?」
「少し楽になったような気はするけど」
「ん、それでもまだ赤い顔してるからね、とりあえず何か食べれたりする?」
「ちょっとなら」
「じゃあお粥作るから。そしたら食べれるだけ食べて、薬飲んでね」
「わかった」


ダルいからなのか、寝起きでボーッとしてるからなのか。
素直に頷いた後、また横になって目を閉じた。
目を閉じているだけで寝るには至らないんだろうな、と思えば、早く作ってあげなきゃとキッチンに立つ。

サンジが来てからキッチンは主に彼の場所となっていたので、微妙に懐かしさを覚える。
次から交代制にしようかな、料理。
ああ、でも彼の作るご飯の方が美味しいんだよなあ…かといってまた無理させてたら後悔するし。
とりあえず全ては風邪を治してから、だ。




「よし、出来た」
「ん」

熱々のおかゆをサンジの寝ている布団の横まで持っていく。

「熱いからちゃんと冷まして食べてね」
「あれ、メイさん冷ましてくれねェの?」
「だって体動くんでしょ?ヤワじゃないっつったの誰だっけ」
「こういう時は冷ましてあーん、ってしてくれるのがセオリーっしょ」

赤い顔でニコリとそう言われれば、跳ね除けるわけにもいかない。

「…はいはい、わかりました。そのかわり全部食べる事!」
「はァ〜い!」

嬉しそうに鼻の下が伸びている。
まあ、風邪引いている時くらいいっか。


「どう?味は」
「うん、あっさりしてて美味いよ」
「それなら良かった。食べれるなら安心だね、これで薬飲めば明日には治るかな」
「だから大丈夫だって」
「弟の心配くらいさせてよね」

そう言うと、眉を下げて笑うサンジ。
そうだよ、心配してんだよこっちは。
ここに居る間は面倒みるって決めたんだから。


「あァ、そうだ。メイさん」
「ん?」

布団の中でごそごそと手が動く。
そして私の目の前に差し出された、可愛くラッピングされた袋。


「え…これ、」
「開けてみて」


渡されるがままにラッピングを解いていくと、顔を覗かせたのは綺麗な水色のピアスだった。

「うわ、可愛い!」
「気に入ってくれた?」
「うん、これ私の好きな感じのやつ。ていうか、え、くれるの?」

ぽかんとした顔で聞けば、目の前のサンジからはくすくすと笑い声が漏れた。

「メイさんへのプレゼントだよ」
「あ、ありがとう…!」

嬉しい、と小さな声で呟けば、それは良かった、とこれまた小さな声で返ってきた。

「この世界で最初に自分で稼いだお金で、メイさんに何かプレゼントしたかったんだ。喜んでもらえて良かった」

ふわりと頭を撫でられたので、思わず顔に熱が集まる。
それ、反則ってやつでしょう。

「こ、子供じゃないんだから!」
「喜んでくれるメイさんが可愛かったから」
「そりゃ喜ぶよ、こんなの…嬉しすぎる」
「メイさんが喜んでくれると俺も嬉しい」

この口からはどれだけ殺し文句が出てくるのだろうか。
熱があるわけでもないのに同じように赤くなった顔はあまり見せたくなかった。

自分で稼いだお金でプレゼントしたかった、だなんて。
誰だって喜ぶでしょそんなの。
私だって例外じゃない。
きっとこんなにカッコいいサンジからそんなことをされて喜ばない女性なんていないだろうと思う程に。

静かな空間に、自分の心臓の音がやけに気になった。

駄目だと思っているのに、気持ちが惹かれてしまうのは仕方無い事なのだろうか。
否、今ならまだ歯止めが利く。
これ以上気持ちが膨らむことのないよう、抑えなければ。


「会社では決まった形しか使えないから、今度出かける時につけるね」
「その時は是非俺とのお出かけの際にお願いしますよ、プリンセス」
「わかってますよ、オウジサマ。それじゃ、お皿片付けてくるから……ほんとに、ありがと!」


オウジサマ、なんて言ってみたものの、自分には似合わない気恥ずかしさに、そそくさとお皿を手に持ってサンジの傍から離れた。


……大人でいるって、難しいな。


ピアスを見ながら、気づかれないように小さくため息を吐いた。

2016.8.26
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