自家発電用サンジ夢 | ナノ

 6

「準備できたー?」


身支度を整え、化粧もしっかりとしてから待っていてくれたであろうサンジに声を掛ける。
すると彼はこちらを向いてピシリと固まったようだ。


「サンジ?」

「……メイ、さん?」

「うん?どうしたの?」

「いやぁ、そうやっていると別人のようにも見えるな、と思って…!すっぴんでも綺麗なのに更に綺麗になるんだな」


顎に手を宛てながら感心したようにそう言うものだから、思わず顔が赤くなる。
普通の男の人だったら言っても化粧すれば変わるなあ、程度なのに。


「ほんと、サンジは女性の扱いが上手いよね」

「俺ァ思ったことを素直に言ってるだけだよ」

「まー、ある意味才能だわな…とにかく、そろそろ行かないと出勤時間に遅れちゃう」

「俺が車の運転出来たらメイさんに楽させてあげられるんだけどな」

「無免許運転は違反なので捕まったら罰金だからねー、残念だけど助手席で我慢してよね」

「従いますよ、プリンセス」


素直に助手席に回るサンジはちょっと残念そうな顔をしていた。
男としてのプライドがやっぱり傷ついたりするのだろうか。
サンジの場合は特にそれが高そうな気がする。

車に乗り込んでからはいつもどおりの道を進んでいく。
他愛のない話をしながらだったが、サンジの目はずっと外へと向けられていた。


「外見てるの楽しい?」

「ああ。知らないモンがたくさんあって新鮮だよ」

「毎日だと流石に見飽きるけどね」

「そりゃ、ま、そうだな。俺だって毎日同じ景色を見ていたら飽きるさ」


海の上も毎日の事だったら飽きるのかな。
島に到着して探検してる間はいいけど、島から島への移動とかは退屈だったりするんだろうか。
…嵐とかに遭えばまた別なのだろうけど。


しばらく走り続けて、職場の門が見えてきた。
指定の場所へ車を停めて、降りる。


「到着!ここが私の職場。万が一何かあったらこれに電話して。公衆電話の使い方、わかった?」

「お金入れて番号を押せばいいんだよな?」

「そう。何もなければ17時過ぎ…15分くらいにはまたここに戻ってこれると思うから」

「わかった。メイさん、無理せず頑張って」

「うん、ありがとう」


ワンピースの世界の連絡手段は電伝虫だ。
当然この世界に電伝虫なんてものはなく、公衆電話の使い方を事前に教えておいた。
住所と電話番号を書いた紙をサンジに渡し、それからそれぞれ目的の場所へと分かれた。



「メイ、おはよう!」

「綾。おはよー」


会社に入って入店処理を完了させると同時に、同期で入社した綾が近寄ってきた。
彼女は同い年ということもあって一番気が許せる人物だ。
私と違うのは結婚しているという点のみ。


「ねね、さっき一緒にいたイケメン誰??もしやとうとう彼氏できた!?」

「いやいや彼氏なんて私に出来るわけないでしょー。彼は義理の弟だよ」

「え、メイに義理の弟なんて居たの?」

「うん、実は居たんだよ。しばらく面倒みることになってさ、それで暇そうだから会社近くのショッピングモールに行ってもらえばいいかなって、連れてきた」

「へえー…でも義理の弟なら恋愛OKだよね」


そんなに私に彼氏がいないのが駄目なのか。
それともこの状況が面白いのか。
綾はキラキラした目で私に色々言ってくる。


「恋愛OKでも彼とは恋愛しませんー」

「ええ、何でよ!」

「大体あの子まだ19歳だからね」

「ええええー!?」


年齢に関らず、異世界の人物なのだから恋愛なんて出来るわけがなかろう。
異世界の人物などと言っても信じてもらえないのは解っているので、自分の頭の中だけに留めておくが。


「あれで19とか、将来どんだけ…名前はなんていうの?」

「サン…三太」

「三太くん…なんだか古風な名前というかクリスマスな名前というか…、だね」

「ギャップがいいでしょ」

「あは、確かに!」


サンジという名前は念のため伏せておいたほうがいいのかもしれない。
そう思ったら単純に思いついた名前をポロッと言ってしまった。
今日から綾の中では三太くんだ。
許せ、サンジ。

今度三太くんと話させてよー、なんて言いながら私の隣を歩く綾。
お前には愛しの旦那がいるだろうとツッコミつつ、自分のデスクへと向かった。

出来ることなら仕事を早く切り上げたいところだけど、そう簡単にはいかない。
17時まで、今日も頑張りますか。














メイさんと分かれてから5分くらい歩いた場所にあったカフェ。
ショッピングモールが開店するのは10時らしいので、それまでの時間潰しにそのカフェへと足を踏み入れた。


「いらっしゃいませー」


店内いっぱいにコーヒーの香りが広がっている。
落ち着いた雰囲気の店だ、ゆっくりするには丁度いい。

明るい笑顔の可愛い店員にメロリンモードにならないように気をつけつつ、カフェオレを注文し、席についた。
外に出るのはいいけどメロリンモードはNGだからね、この世界でそんなのやってたら単なるナンパ師の変態なんだからね!と、メイさんに言われたのは記憶に新しい。
というのもここに来るまでの車内で色々と教えられたのである。

まずはメロリンモード禁止令。
嫉妬してくれてるのかと思えば、先ほどの理由だったことにちょっとガッカリした。
どうやらメイさんは完全に俺の事を弟扱いしているようだ。
女性全般オールオッケーな俺としては寂しい限りである。

そして煙草は喫煙所以外に吸うな。
この世界では煙草を吸っていい場所が決まっているそうで…女性の次に煙草が恋人な俺にとっては少々厳しかったが、決まりなら仕方ねェ。
幸いこのカフェは喫煙席が用意されているので助かった。
それにしても煙草にも色々味があって面白い。
とりあえず昨日は適当に買ったものの、次は違う銘柄を試してみるのもいいな。

後は乱闘禁止、ってとこか。
言われなくても乱闘騒ぎを起こす気はねェが、万が一ってことも有り得るのでちゃんと話は聞いておいた。
自分の世界でも海軍なる存在はあったが、海賊としては乱闘騒ぎが当たり前だったから海軍に見つかれば逃げればよかっただけのこと。
だがこの世界ではどうもそう簡単にはいかないらしい。
数え切れない程の法律があって、何事も慎重にしなければいけないという印象を受けた。
そう言ったらそこまで難しく考えるな、とも言われたが、自分達の世界とあまりに違いすぎて混乱するのも仕方ないことだろう。

最終的にはルフィやゾロならともかく、俺なら普通に過ごしていればまず大丈夫だろうとメイさんが言ってくれたので、任せてと返事をすればメイさんも満足そうに笑ってくれた。


「お待たせ致しました」


コトリと置かれたカップの先には、先ほどの可愛い店員さんが再び笑顔で俺を見ている。
思わず手を振りたい衝動をなんとか堪え、少しだけ会釈をしておいた。
良くぞ耐えた…俺…!

しかしナミさんやロビンちゃんは当然だとして、あっちの世界でも可愛い子はたくさんいるが、この世界も負けず劣らずだな。
メイさんだって自分では否定しているけど、俺からしてみたらやっぱり可愛い。
今日のメイさんは格好と化粧の所為もあって綺麗な部類に入っているけれど、昨日一日一緒に過ごした彼女の分析としてはやっぱり可愛いという言葉が当てはまる。
それは外見だけでなく性格も含めて、の話だ。

最初は可愛い人に出会えてラッキーぐらいに思っていたんだが、まさかとんでもない事に巻き込まれているとは思わなかったなァ。
俺達の世界が漫画やゲームの話になっていて、その世界からここ、別世界へと来てしまっただなんて。

今頃クルーのみんなは心配してくれているだろうか。
ナミさん、ロビンちゃん…会いてェなあ。
ルフィは冷蔵庫の食料漁ってたりしねぇだろうなあ。
クソマリモや他の野郎共はどうでもいいとして………俺はいつ自分の世界に帰れるのだろうか。

あいつらの事だ、何かあったとしても俺が居なくたって大丈夫だろう。
だが、きっと居なくなった仲間の為に必死で動く。
そういう奴等だから、俺は今まで一緒に海賊をやってきたんだ。

迷惑掛けるっつーのもほんと微妙な気分だよなァ…致し方ない状況とは言え、さ。

迷惑といえばメイさんにも昨日から迷惑掛けっぱなしだし、どうすっかな。

レディに負担をかけないのが俺のモットーだったのに、この世界ではそれが上手くいかないみたいだ。
まず、住む場所を提供してもらっている。
料理は俺がやらせてもらっているが、その材料費はもちろんメイさんの負担。
そして俺が身に着けているものも全て買ってもらったもの。
今日だって暇つぶしにブラブラしてると言えばお小遣いまでもらってしまった。

ここに来た時点で俺は着の身着のままだったし、金なんぞ持ち合わせているわけもなく。
この世界でも働けば金は手に入るわけだが、いつ元の世界に帰るかわからない俺が職につけるわけがないとメイさんは言った。
派遣に登録すればどうにかなるかもしれないけど、とブツブツ言っていたのだが、その話はまた今度!と打ち切られてしまえば、俺は素直に頷くしか出来ない。

どうにかして彼女に負担をかけないように、かつ恩返し的な事が出来るんだろうか。



ボーッと考え事をしながら外を見ていると、段々と人の動きが盛んになってきた。
メイさんから借りた腕時計を見れば、時間は10時を過ぎている。

珍しく考え事に没頭し過ぎたか。
こんなに時間が経っているとは思わなかった。

とりあえずなるようになる、ってね。
ウチの船長の能天気さを分けて欲しいくらいだ、全く。

返却口と書かれた場所にカップを戻し、カフェを後にした。
店員さんの「ありがとうございました、またお待ちしております!」という声に思わずまた来るよォ〜!と反応しそうになったが、再び堪えた。

良くぞ耐えた…俺…!!

2016.8.26
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