自家発電用サンジ夢 | ナノ

 4

「へぇ…これまた凄い場所だな」


スーパーに到着して、第一の感想がこれだった。
まだ一巻しか読んでないけど、漫画で見た限りは市場が主な感じだったから、こういうスーパーは無いのかもしれない。


「欲しいものをカゴに入れて、最後にまとめてお会計するんだよ」

「便利なんだね」

「うん、市場も楽しそうだけどね。この世界では大概こんな感じで食材とかその他もろもろを手に入れることになるんだ」

「成程」


世界の壁を感じながらも、彼が常識人で良かった。
これがあの破天荒っぽい主人公であるルフィだったらもうちょっと大変だったのかもしれないな、と思うと思わずクスリと笑みがこぼれた。

食材を一通り見て回った後、そういや下着も買わなきゃいけないのかと思い出す。
流石に男性の下着売り場に行くのは微妙な気分なので、サンジにお金を渡して自分で買ってきてもらうようにした。
その方が自分の好みで選べるしいいだろう。
えー、メイさん選んでくれないのォ!?等と言い出すかもしれないとは思ったが、そこは紳士らしく気を使ったのか、すんなりと従ってくれたので安心した。


「メイさん、この世界に煙草はあるかい?」

「煙草?…そういやサンジ、煙草吸ってたね」


どの表紙だったかは忘れてしまったが、確かに煙草を吸っているサンジが描かれているものがあった。
煙草も彼のトレードマークなのだろうか。


「あるよ、煙草。でもウチで吸う時はベランダにしてね、私煙苦手だからさ」

「そうなのか。苦手なら無理にとは言わねぇが」

「いや、煙草好きな人って無いと困るんでしょ?………って、サンジまだ未成年じゃん」

「?未成年だと吸っちゃ駄目なのかい」

「この世界ではね…そうか、海賊の煙草に成年も未成年も関係ないよね…まあいいや。この際そんなのどうでもいいか。煙草は食材買ったところのレジ付近に置いてあるはずだから帰る前にまた寄ろう」

「重ね重ねありがとう、メイさん」

「いいってば」


へへ、と笑うとサンジも笑みで返してくれた。
やっぱカッコいいよなあー、しかも性格もいいし女性の扱いもピカイチときたもんだ。
こんな人が彼氏だったら自慢だよね。
もうちょい若ければ素直に恋していたかもしれないな。

と言っても世界の壁は超えられないから、恋したところでどうしようもないのだけれど。
二次元が彼氏だと言っていた友達の気持ちが、今なら少しわかるかもしれない。


買い物を終え、再び車に乗り込んで自宅へと帰る。
帰宅後荷物を運んでくれたサンジは、早速ベランダで煙草を吸っていた。

その間にも私は読書の続きを。

しばらく外に居たサンジが中へと戻ってくる際、ほんのりと煙草の匂いも一緒に連れてきた。
煙草の匂いはそう簡単に消せるものでもないし、そこまで嫌という訳じゃないから許容範囲ではある。
けど後でファブリーズを教えておこうとは思った。








「………あのう、じーっと見られていると読みづらいんだけど」

「ごめんごめん、メイさん観察してた」

「メイさん観察って…することもないから暇なのか」

「まァ、暇といえば暇かな。でもメイさん観察してるから飽きないけど」

「人の観察を飽きずにするっていうのもどうなのよ…やっぱ一緒に読む?これ。とりあえず2冊読み終わったから」


読み終わった2冊を渡してみると、今度はすんなりと受け取ったサンジ。


「俺も少し読んでみることにするよ」

「おや、さっきとは気分が変わった?」

「メイさんが面白そうに読んでるから、俺も読みたくなっただけさ。飲み物はいるかい?」

「観察の結果、ってわけね。飲み物…紅茶を入れてくれると嬉しい」

「了解、ミルクや砂糖はどうする?」

「ミルク濃い目、砂糖少なめで」

「お任せください、プリンセス」


料理があれだけ美味しかったんだ、サンジが入れてくれる紅茶は例え市販のものであっても相当美味しいに違いない。
その期待は見事に裏切られることはなかった。
何故市販の紅茶がこんなにも美味しくなるのか、不思議でたまらない。
料理に続き、紅茶の煎れ方も教えてもらうことにしよう。






そして読み続けることしばらく。


「おわ…った、やっと20巻!」


読み終わる頃には雨が止んでいて。
外もすっかり暗くなってしまっていた。

夢中になりすぎたのか、近くに居たはずのサンジの姿が無い。
キッチンに電気がついていることに気づき、顔を向けるとサンジは昼のように夕食を作っているようだった。


「サンジ?ご飯作ってるの?」

「メイさんが本に夢中になっているようだったから、終わる頃に出来上がればいいなと思ってね」


なんて気が利くんだろうか。
一人暮らし中はなるべく節約を心がけてきたから基本的にはいつも自分で作っていた食事が、自動的に出てくるなんて素敵すぎる。
それも一流コックの腕前で。

20巻も読めばそれなりにサンジのことを理解することが出来た。
海上レストランで働いていたこととか、女好きなこととか、足技が凄いこととか。
とりあえずで読んでいたものの、やはり目の前にいる人物のことになると興味が沸くというもので、サンジの登場部分は念入りに読み込んでいた気がする。


夕食に、と作ってくれたのはシーフードピラフだった。
海の幸は得意じゃなかったからちょっと微妙な気分だったけど、何のことは無い。
口にしてみたら想像以上に美味しくてビックリした。
何度も同じ事を思うが、作る人によってここまで美味しくなることがほんとに不思議である。


「20巻だとどこまでの話になってるんだい?」

「えーと、まだアラバスタ編が終わってなくて、ウソッチョがモグラとノロマ男に勝ったとこで終わった」

「ああ、じゃあ大分前の話なんだな…アラバスタか…懐かしい。ビビちゃん元気かなあ」


懐かしいというサンジの顔には多少の寂しさが含まれていた。
やはり早く仲間の所へ戻りたいだろうなあ。
きっと彼は今だって冒険の途中で、こんな所で料理してる場合じゃないだろうし。
サンジの料理が食べられないクルー達もサンジが居なくなって大慌てしてるんじゃないだろうか。


「元気かなあって気にしてるってことは、今はビビと一緒には居ないんだ?」

「彼女はアラバスタの王女だから、国を支えるって言って残ったんだよ」

「そうなんだ…仲間になったのかと思った」

「俺達はみんな仲間になって欲しかったけどな」


漫画って今までそんなにたくさん読んだわけじゃないけど、少ない中でもこのワンピースはとても面白くて。
そして何より大切なのが仲間の絆っていう印象がある。
だから登場人物の一人であるサンジに仲間になって欲しかった、と言わせるビビが少し羨ましく感じた。
私には仲間と呼べるような絆はないから。
友達はいるし、会社で仲のいい上司も部下も同僚もいるけど。
彼らの絆の前では薄っぺらい気がして。

漫画だから、と言ってしまえばそれまでである。
けれど、現実として冒険をしてきたうちの一人が目の前にいるのだから、最早漫画だからの一言では済まされない。
漫画だから、というならば私の身の回りに起きているこの状況こそが漫画なのではないだろうか。


「あれだけの大冒険を一緒にしてるんだもんね、やっぱ別々の道を歩むのは寂しいよね」

「でもま、海は繋がってるからな。きっとまたいつか会えるさ」

「さすがロマンチスト…でも、うん。きっとまた会えるよ」


そう言って笑顔を向ければ、サンジも嬉しそうに笑った。


「私も行ってみたいな、ワンピースの世界」

「おォ、メイさんが来てくれたら俺も嬉しいよ!」

「冒険は大変だけど、仲間たちと騒ぐのは楽しそう」

「あいつらバカ騒ぎが好きだからな…きっとみんなもメイさんの事気に入ると思うぜ」

「みんなも、ってことはサンジも気に入ってくれてるわけ?」

「ああ、こんなに優しく俺の面倒をみてくれてるメイさんを気に入らないわけがないさ!メイさんは俺の女神だよ」


完全にメロリンモードというわけでもないのに歯の浮くような台詞を言うものだがら、思わず顔が熱くなる。


「はいはい、お世辞はいいから!さっさと食べて片付けしよ!」


照れ隠しにシーフードピラフをかきこめば、それに気づいたのかサンジはニコニコしながら続きを口に運んでいた。
なんだか見抜かれているようで悔しい。





食事の片付けはサンジがやってくれるというので私は先にお風呂に入ることにした。
冬以外は基本的にシャワーのみ。
サンジに湯船に入るかと聞けば自分もシャワーだけでいいという返事だったので、お言葉に甘えて湯船にお湯を溜めるのはやめた。

私がお風呂から出た頃にはすっかりキッチンが片付いていて。
ソファーに座ってテレビを見ていたサンジを促し、タオルや洗濯物の説明をしてお風呂に入らせた。

違う世界の人間とはいえ、宇宙人というわけでもなければ動物でもない。
普通の人間であるサンジ。
一緒にご飯を食べてお風呂も入らせて、なんて。
まるで同棲をしている気分だ。
同棲した経験なんてないけど、きっと雰囲気は近いのだろう。
だた、年齢的にも弟のようなものだからそこまで深くは考えないだけで。
これが同年代くらいの人が異世界からやってきたらもっと緊張しちゃったりするんだろうか。


「メイさーん、出たよォ」


言いながらリビングへ戻ってきたのは先ほどと同じ格好をしたサンジ。


「あ!しまった、寝巻きまで考えてなかった…!!」

「俺ァこの格好で別に構わないけど」

「パーカーはいいかもしれないけど、流石にジーパンで寝るのは固くて痛いと思うよ。ちょっとまってて」


タンスから洗濯物を漁ると、昔使ってたハーフパンツが出てきた。


「女物だし私のだからちょっと小さいかもしれないけど…とりあえずこれで我慢してくれる?」

「ああ、十分だよ。ありがとう」


再び風呂場に戻らせ、履き替えてきたそれは言ったとおりにちょっと小さそうだったけど、ジーパンよりは格段にマシだろう。


「ドライヤーの使い方はわかる?」

「わかるけど、ドライヤーなんて使わなく「だめ!そんなに綺麗な髪してるんだから、ちゃんとドライヤーで乾かさないとハゲるよ」

「ハゲ…それは嫌だな」

「じゃあちゃんと乾かして来なさい」

「メイさん、姉っていうよりお母さんみたいだ」

「おかっ…こんなにデカイ子供を産んだ覚えはありません!」

「はは、ごめんよメイ姉さん」

「!」


ちょっと何なの急にメイ姉さんとか呼んじゃって。
うっかり萌えちゃったじゃないか。
弟可愛いな!とか思っちゃったじゃないか。

いいから早く乾かして来い!と自分が肩にかけていたタオルをサンジに向かって投げると、彼は楽しそうにドライヤーを取りに再び風呂場へと戻っていった。

2016.8.26
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