自家発電用サンジ夢 | ナノ

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大学を卒業し、現在の会社に勤めるようになってから早何年が経っただろうか。
世間一般で言えば結婚していてもおかしくない年齢である。
今年三十路を迎えた私はそれに対して焦ることもなく、今日も今日とていつもの休日を満喫している。

インドア派というわけでもないが、朝のニュースでは大雨洪水注意報まで出ていたので外出はせずに家でゲームをすることにした。
会社ではそれなりにストレスも溜まる。
私くらいの年齢で出世している人もたくさんいるだろうが、可もなく不可もなくで勤めてきた私には上司も部下もいる。
酷いときはその板ばさみにあって理不尽な苛々をぶつけられる。
そうやって溜まったストレスを解消するのに利用していたのが私の場合はゲームなのだ。

先日までやっていたのは戦国無双。
その前は三國無双。
そして昨日の会社帰りに買ってきたのは海賊無双。

この無双シリーズは一騎当千の如くわらわらと群がる敵を広範囲に吹き飛ばしたりできるので割とスッキリする。
新しいものに手を出してみたいなー、と思ったところに海賊無双なるものを発見して。
ゲーマーというわけでもないからゲームショップには本当に暇なときに足を運ぶくらい。
だからこんなの出てたんだー、と思いつつも手に取ったままレジまで進んだ。


外では雲行きが怪しく、既に近場で雷が鳴り始めている。
外出予定を組まなくて良かった、と思いつつ海賊無双のディスクをセットした。
ワンピースの漫画の存在は知っているが、読んだことはなかった。
たまにテレビで流し見をしていたくらいで、しっかりとした知識があるわけではない。
それでも超人気漫画が原作のゲームだし面白いには変わりないだろうと思って買ってみたのだ。
要は、気まぐれに。


インストールに時間がかかりそうなのでその間に息抜きの紅茶を準備。

クッションも自分の寄りかかりやすいところに寄せて、と。
セッティングがすべて終わり、オープニングが流れようとしたその時、ドォン!という物凄い音が地響きと共に部屋に響き渡ったのである。


今の、相当近くに落ちたな。
雨戸を閉めているにも関らず、部屋が一瞬光に飲み込まれた。
これは停電するかもしれない。

そう思いながら画面へと向き直った。
そしてスタートボタンを押したその瞬間。

再びドォン、という先ほどよりも大きな音と共に、今度は部屋中の電気機器がプツリと止まってしまったのである。

あーあ…せっかくインストールも終わってこれから始めようって時に…

ため息をついてから10秒程だっただろうか。
チカチカしながら部屋の電気が再び点きはじめた。


「え…」
「!?」


突然後ろから声が聞こえて、思わず振り返る。
するとそこにはスーツを着た金髪の男性が驚いた顔で立っていた。

男の人!?
ど、どろぼう…!?

瞬間的にその言葉が頭に浮かぶ。
万が一刃物等持っていたら危険である。
すぐに逃げなければ!

頭ではそう思っても、足がすくんでその場から動くことが出来なかった。

その男の人はただただ驚いた表情で、私の部屋をゆっくりと見回している。
部屋を見回した後に再び私の元へと戻ってきた視線。


「お…」


お…?


「おおお…!!麗しのプリンセス!貴女は何処の国のお姫様で!?」
「!?」


何なのこの人!
泥棒じゃないの…?

デレデレとした顔をしながら近づいてくるその男に対し、私は限界まで後ろに下がる。
だが限界は思った以上に早くて、壁に背中が当たった。


「あ、あ、あなた誰ですか!なんでここにいるの!?」

「おっと、怖がらないでレディ。俺は怪しい者ではありません」


怪しい者ではありませんと言ったって…いつの間にかこの部屋にいる時点で怪しくないわけがない。
本人に向かってそう言ってやればいいのだが、如何せん思うように口が回らない。
動揺しすぎてどうしたらいいのかわからないのだ。


「俺の名前はサンジ。ここにいるのは…そう、きっと貴女に出会うため…!」


丁寧に紳士風なお辞儀をしたサンジと名乗る男は、顔を上げてにこやかに微笑んだ。

サンジ…サンジ?
どこかで聞いたことがあるような名前だ。
それにこの風貌、金髪に端がぐるっとしたまゆげ、顎の髭。
そこまで考えた時、サンジと名乗った男の後ろに置きっぱなしのゲームが妙に気になって。
男に触れないようにすり抜け、ゲームのパッケージをまじまじと見た。
泥棒だったらきっとこの時点で私に危害を加えるなり拘束するなり、どうにか動くだろう。
だがそれをしない彼は現時点では単なる怪しい男だ。
ちょっと怖かったけど私が動いても何もしようとしない彼に対して少しの安心感を覚えた。


「おや?そこに写ってるのは…ウチの船長じゃないか?」

「船長?」

「あァ、なんでレディがそんなモン持ってるんだい?」

「そんなモンて…それはこのゲームを私が買ったからでしょ」

「ゲーム?」


気づけば自然と会話をしていたその男に向き直る。
金髪にぐる眉、顎髭。

…………まさか、ね。

ゲームのパッケージを開き、解説書を取り出す。
それから適当にページをめくる。


「サンジ、って言った?」

「レディが俺の名前を呼んで…!」


変に感激している様子だが、そんな反応が欲しかったわけではない。


「“サンジ”の必殺技は?」

「必殺技?そんなこと聞いてどうす「いいから!」

「…まァ、必殺技というか得意技なら羊肉ショットとか…」

「じゃあこれ、あなたなの?」

「!」


私が見ていたページをそのままひっくり返して男に見せた。
すると彼の目が大きく見開いた。


「こりゃァ…一体この本は何なんだい?」

「本じゃない。ゲームの解説書だよ」

「ゲーム?」

「海賊無双っていうゲーム」

「海賊…無双…?」


海賊には反応した様子だが、無双という言葉にいまいちピンとこないらしい。


「最初の質問に戻るけど、何でここにいるの?」

「何でってそりゃあ…」


真剣に質問をすれば、彼の口から再び貴女に出会うため、などというふざけた言葉は出てこなかった。
代わりに訪れる少しの沈黙。



「……わからねえ…俺は確かにサニー号に乗っていたはずだ」


サニー号というのは彼らの海賊船の名前なのだろうか。
それはさておき、混乱しながらもそう言った彼の言葉はとても信じがたいものだった。
信じがたいものだったのに。


「ゲームの中から出てきちゃったの?」


私の口から出た言葉も、また信じがたいものだったのだ。


「ゲームの中から…?」

「いや、まああなたが唯の不審者だったのなら追い出せば済むことなんだけどさ」


不審者という言葉にピクリと反応したが、無言なのをいいことにそのまま続ける。


「ここ、どう見ても船の上ではないしね。窓の外を覗いてもらっても知ってる景色ではないんじゃないの?」


知ってる、等と言えば即座に追い出す。
そう思いつつも窓の外を覗くように促した。
言われるがままに外を見る彼。


「なっ…!?」


予想通りの反応に、思わずため息が出る。


「ここはサンジの世界じゃないんじゃないの」

「……そう、かも…しれねェ…」


彼自身何といって良いかわからないような様子だった。
そりゃそうだ、ここはあなたの世界じゃないんじゃないの、と言われて動揺しない人なんていないだろう。



さて、どうしたものか。

2016.8.26
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