自家発電用サンジ夢 | ナノ

 11

「ふぅん、異世界、ねえ…」

ボソリと呟いたのは航海士であるナミだった。

現在私の部屋には一人暮らしとは思えないほどの人数がいる。
麦わら海賊団プラス私の9人だ。
しかもフランキーなんて体がデカイのによくあの扉から入ってこれたもんだ、と思う。
フランキーがいるということは、エニエスロビー編が終わったあたりなのかなあとぼんやり考える。
20巻まで買ったその日以降、ワンピースの漫画は何冊増えただろうか。
ずぼらと言われればそれまでだが、適当に買っていたので記憶はしていない。


麦わら海賊団メンバーが何故この部屋に来ているのかというと、向こうの世界よりはこっちの世界の方が時間経過が早いらしく、向こうの世界に行って話しをすればそれだけでこっちの世界で何日も経過してしまう。


「聞けばサンジくんがこの世界に来たのは三日前っていうじゃない?サンジくんが居なくなったってルフィが騒ぎ出したのは、確かサンジくんがキッチンに入ってからそんなに長い時間は経ってないはず。ここと私たちの世界では時間の流れが違うのかもね」


これはナミが立てた仮説だけど、サンジがこちらに来た時との時間差を考えればその仮設は間違っていないだろう。
だから向こうで話をするよりもこっちで話をしたほうがより時間が多くとれるというわけだ。
とはいえ、風呂場の向こうから顔を合わせたときはこちらと同じように時間が流れているみたいだったし、扉で繋がったことによりサニー号ごと巻き添えになっている可能性もある、とのことだけど。
それはまだ立証してないから不確かではある。


未だ繋がったままの風呂場の扉をチラリと見ると、サニー号のキッチンらしきものが見えた。


さっきは本当に恥ずかしかった。
いい年こいて人様の前で泣き出し、あまつさえ年下の男の子に抱きついて、宥めてもらって。
しかもそれを一応今日初めて会った人々にしっかり目撃されて。

羞恥心が心の90パーセントを占領した頃には咄嗟にサンジから自分の体をべりっと引き剥がした。
名残惜しそうに「あ」なんていうサンジの声も、余計に羞恥心を煽るだけのものだった。
ああ、本当に人生最大の汚点とも言えるんじゃなかろうか、ってくらい恥ずかしい。
人前であんなみっともない姿を晒してしまうなんて。

そんな私の心など関係のないように話は進んでいく。
その勢いで忘れてしまってくれればいいよ。


「サンジがこの世界にきたときは雷と果物で、ルフィは果物だけで。そして風呂場と食料庫のつながり……あー、うん、何の関係性もないからよくわからん!!」
「偶然に偶然が重なって、としか言いようがないわね」

頭を掻き毟りながら混乱を表しているウソップ。
それに対し、冷静に切り返すロビン。

「しっかし船ごとこっちの世界と繋がっちまうなんてなァ…不思議なこともあるもんだよな」
「じゃあこの部屋は不思議部屋だな!」
「いや、まんまじゃねェか」

サンジ、ルフィ、ウソップの順で喋っていくその様子は、まるで漫画の再現を見ているようだった。
不思議部屋かあ。
この部屋の何が原因なのかはわからないけど、どうしてこうなったんだなんて考えてたって無駄な気がする。
世の中科学じゃ解決できないことなんていっぱいあるって、どこかのテレビコメンテーターが言ってたっけ。

「ほんとに世の中不思議なことがいっぱいあるのね」

ニコリと微笑んで私を見るロビン。
ね、なんて賛同を求めるあたり、私の心が読めたんだろうかって思ってしまう。

「まー、繋がってるものは仕方ないとして。もしここと船のタイムラグがないのであれば、私達の船は私達の世界とのタイムラグが生じてるはずだわ。従って、私達の世界で三日経たないと出発できないってことは…船を置いて村で宿泊するか、こっちの世界でその時間を待つしかなさそうな気がするんだけど…」


考えながらブツブツと言葉にしていくナミ。
頭の回転が速いな、と感心する。
これが本当に10代の少女だなんて。
私の10代の頃はもっと適当なことばっかり考えてた気がするよ。


「おれはこの不思議島を探検したいぞ!」
「ルフィ、島じゃねェから」
「島じゃねェって、じゃあなんなんだ?」
「異世界のひとつの国だ…っつっても、実際自分の目で見てもらわねえと上手く説明なんざできやしねぇな。メイさん、どう説明したらいいかな?」
「え」

ここで私に振るか。
私だってそんなのどう説明していいかわかんないよ。

「ま、万が一こっちで過ごすっていうのなら私とサンジが色々見せてあげたらいいんじゃないかな、とは思うけど…」
「けど?」
「正直、全員こっちの世界で過ごしてもらうのには無理があるかな、って」


そう言うと、全員の視線が私に集中するのでとても気まずい。

「メイ、って言ったわね?何も泊めてくれってわけじゃないのよ、ただちょーっとお金になるような事があれば教えて欲しいなーって思っただけで」

ナミの隣にいたウソップとチョッパーがジト目でナミを見つめる。
さすがというか何と言うか。
漫画そのままのナミの性格に少し笑った。

「泊める泊めないは別に構わないんだよ。正直にハッキリ言わせてもらうと、この世界で絶対に居ないだろうっていう容姿の人がチラホラいるから…その人たちは外には出られないなあって」
「ああ、フランキーとウソップとチョッパーか」

誰、とはあえて言わなかったのに、私の言葉に続けてサンジが言ってしまった。
それを聞いたルフィはおれじゃないのか!よかった!なんて言ってたけど、フランキーは別段気にした様子はなかったものの、ウソップとチョッパーの落ち込み様と言ったら。

「ああ、だからサンジくんの眉毛が普通なんだ。なんか違和感あったのよねー、髭もないし」
「んナミすわん!今頃気づいたのォ〜!?」
「何か足りないなー、とは思ってたんだけどねー」

ごめんね、なんて舌を出して謝るナミはからは本気の謝罪は感じられなかった。
眉毛と髭なんて実際そんなモンなのか…本人はトレードマークだと思ってたのに、哀れ、サンジ。

「つーか!俺は普通の人間だぞ!」
「いや、まあ普通の人間だなんて見ればわかるんだけどさ。その長い鼻はどうにもならないでしょ?縮めたりできるんなら大丈夫なんだけど」
「いや、縮められるかァ!!」
「この世界にはそんなに鼻の長い人はいないから。チョッパーだったら動かないって約束してもらえれば、ぬいぐるみみたいに抱っこで移動とかすれば……まあ、大丈夫だとは思うけど。フランキーは申し訳ないけど確実に無理、かな。人造人間も然り、体の大きさも然り」
「俺ァ別に構わないぜ、嬢ちゃん。村に出て宿泊しても良し、船で過ごしても良し、だからな」
「おおお、おれはぬいぐるみ扱いでもいいから冒険したい…!!」


フランキーをチラリと見れば、その顔に不満はなさそうだった。
チョッパーは…ぬいぐるみでもいいっていうんならそれでもいいけど。
しかしやっぱりウソップの長い鼻はどうにもできないよなあ…。

どうしよう、という意味を込めてサンジに視線を送る。


「あー…まあ、その、なんだ、諦めろウソップ」
「サンジ!お前まで酷い扱いだな俺は!!」
「そのかわりと言っちゃあなんだが、お前の好きそうなモノを土産として買ってきてやるから」
「そもそも村で全員で宿泊すりゃそれで済むんじゃねぇか!」
「………」

ウソップのその言葉に、サンジは無言で私を見た。
村で宿泊するとなれば、私とはもうここでお別れってことだ。
その意味が解った瞬間、胸に鉛玉を撃ち込まれたような気分になった。


「おれはこの世界を冒険したい!!」
「…船長がこう言ってるんだ、諦めろ」
「うおおおおおチキショオオオオオ!!!」


……これは、諦めたと言っていいんだろうか。
泣き喚いているのはウソップただ一人で、周りのクルー達はみんなニコニコしている。

「冒険っていっても楽しくないかもしれないよ?」
「異世界の文化が楽しめるだけでもいいんじゃないかしら。きっと異世界と繋がるなんて、こんなこと二度とないと思うもの」
「ロビンの言うとおりね!聞けばこの世界は平和だって言うじゃない。海軍に追いかけられることもなく、それでいて羽が伸ばせるのなら有難い限りだわ!」

二人の言うことも尤もだとは思うけど。
突然一人になってしまうよりは、人数が増えたほうが楽しいとも思うし。
それが自分が知っている人たちなら尚更。

再びサンジに視線を送ると、彼はニコッと微笑んで頷いた。

「こっちにゃ酒はあるのか?」

それまでずっと黙って話を聞いていたゾロが、ようやく喋ったことに少し感動した。
もしかしたら彼は船の中でも一番疑り深く、私の様子を探っていたのかもしれない。

「お酒も色んな種類があるよ」
「そうか」

当たり障り無く返事をしたゾロの口元は少しの弧を描いていた。

「よし!決まりだな!メイ、これからしばらくよろしく頼む!!」
「あ、うん、こちらこそ」

再び伸ばされた手を握り返せば、思ったとおり先程同様にぶんぶんと振り回されて。
腕がもげる思いをしたのは本日二度目だった。

2016.8.26
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