自家発電用サンジ夢 | ナノ

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「これ、どうやんの?」
「説明書見てもらえれば多少の操作方法はわかると思うよ」
「説明書どこ?」
「あ、こっち。はい」
「ありがと」


朝起きて熱を測ってみれば、見事に平熱に戻っていた。
だから大丈夫だって言ったでしょ、と言いながら笑ったサンジの顔が無性に憎たらしく思えて、背中に一発ゴスッとお見舞いしてやった。
病み上がりに酷いなァ、なんて言ってたけど元気になったんなら問題あるまい。

念のためにと有休を取ってみたのだが、必要なかったようだ。
一瞬どこかへ出かけようかと頭に浮かんだが、例え元気でも病み上がりは病み上がり。
変にフラフラしてまたぶり返しても困ると思ったので、今日は家でゲームをやることにした。

先日買ったままの海賊無双。
サンジが来たことによって手をつけられないままだったのだが、この機会にやりたいと言えば別段拒否る様子もなかったので、今に至る。


「これ二人プレイも出来るみたいね」
「じゃあ一緒にやろうよ。メイさんは誰でプレイするんだい?」
「んー、そうだなあ…まずはスタンダードにルフィかな」
「えー!そこは『サンジにしようかな!はあと!』くらい言ってくれてもいいんじゃないのォ!?」
「だってきっと主人公が一番使いやすいし。だからルフィの扱いに慣れなきゃサンジなんて使えないし」
「キッパリと言い放つメイさんも素敵だ〜!」

うん、どうやら本当に元気が戻っているみたい。
なんだよ「はあと!」って、というツッコミはさておき、この様子なら明日からまた仕事復帰できるな。


「というわけで、ルフィにきーめた!」

決定ボタンを押したその瞬間。
突然ゲーム画面から人の腕がにゅっと湧いて出た。

「うわああああああああああああ!!!!」
「うおッ」

吃驚しすぎて思わずコントローラーを放り投げ、サンジの腕にしがみつく。
声を上げたものの、彼は割と平然とした様子だった。

出てきた腕は何かを探すようにぶんぶんと振り回され、そして次の瞬間には。

「メシー!!サンジー!どこだー!!」



なんと、画面からルフィが飛び出てきたのである。


「お、おま…!!」
「お!何だサンジ、こんなとこに居たのか。ってお前!!眉毛どうしたんだ!!髭もねェ!!!!!!……あり、ここどこだァ?」


首をかしげるルフィ。
いや、まさか。
まさかの出来事過ぎるでしょう。
サンジがこの世界に居る時点で最早有り得ない現象ではなくなっているのだけれども。
それにしても、だよ。


「ん?そいつ誰だ?」
「あー、話せば長いことやら…」

ハァ、とため息をつくサンジ。
相変わらず首をかしげたままのルフィ。
微動だにしない私。

一体どうしたらいいのか。
頭が真っ白になっていると、サンジが私の頭を撫でてきた。

「メイさんが混乱する気持ちも良くわかる。とりあえずこのクソゴムに現状説明するよ」
「あ、う、うん」


しがみついていた事に今更気づき、サンジからゆっくり離れた。
そしてサンジとルフィが向き合う形になり、自分がどうしてここに居るかの経緯を話始めた。
私はただそれを聞いているだけだったが、どこか他人事のようにサンジの説明はわかりやすいなあ、なんて思いながら聞いていた。

そして全ての説明が終わったその時、今度はルフィが私に向き直る。


「サンジの面倒見てくれてありがとな!お前いいヤツなんだってなー!あ、おれルフィ!海賊王になる男だ!!」
「あ、三橋…メイです」
「ししっ、よろしくな!」

差し出された手を握り返せば、ぶんぶんと上下に振られる。
さすがルフィ、力強いのなんの。
腕がもげそうだよ。


「しかし…ルフィまでこっちに来たとなると…原因は一体何だ?おいルフィ、お前ここに来る前に何してた?」
「ん?ああー、腹が減ってサンジ探してたんだけど。いねェからキッチン行ってみたらなんか変なの落っこってたから」
「食ったのか?」
「ああ、食った!美味くも不味くもねェな、あれ!」

ルフィの話を要約すると、拾い食いしてここに来ちゃったってことか。
サンジが味見したものと同じものを食べてここに来たんだろうか。

「あの、それって食べかけだったり?」
「お?おォ、そういや食べかけだったかもな」
「はぁ〜…これがウチの船長とは、情けねェ…」
「なんだよ!バカにすんなよ!」
「バカにしてんだよ!そりゃバカにするだろ!!」

あ、いや、うん。
ねえ?
そりゃサンジじゃなくてもバカにしたくなるよ。
食べれるものならほんとになんでもいいみたい。
漫画のイメージそのまんまだ。


「つーか、帰るぞ!メシ作ってくれよ、腹減ってしょうがねえ」
「帰るっつったって…その帰り方がわからないからここでお世話になってるんだろうが!」
「帰り方ァ?そういやおれはどこから来たんだ?」
「そのテレビの中だよ」
「よし、ここから来たっつーんならここから帰れんだろ。行くぞ、サンジ!」
「え?あ、ちょ、おい!ちょっと待てェェェェェ!!!!!」


ルフィはサンジをぐいっと引っ張ると、テレビに向かってずんずん歩いていく。
そして手を突っ込むと、その手は見事に液晶の向こう側…もとい、液晶の中の世界へと消えた。
ルフィの体が消えると共に、引っ張られているサンジも当然の事ながら消えていくわけで。
あれよあれよと見守っているうちに、ルフィもサンジも、跡形も無く消えてしまった。

もちろん、私は呆然と動けないままだ。

いつか元の世界に帰るとは思っていたけど。
こんな急なことってある?


足元に落ちているのはサンジが握っていたはずのコントローラー。
テーブルには二人分の紅茶の入ったマグカップ。



……本当に、消えちゃった、の?





その場がら動けず立ち尽くしていると、突然ドカァ!!という音が聞こえた。
条件反射で体がビクッとして。
それから一生懸命思考能力を働かせる。

お風呂場…だろうか。


「あのクソゴム…!!!」

あれ、おかしいな。
サンジの声が聞こえる。
サンジは確かさっきルフィに引っ張られて液晶画面の中へと消えたはず。


「って、うおおおおおなんじゃこりゃァ!!!」


叫び声ど同時に、ドドドという音が聞こえたと思えば。

「メイさん!!!!!良かった!!!!!」
「さ、サンジ…?」

消えたはずのサンジが、何故かお風呂場方面から現れたのだ。


「突然すぎてどうしようかと思った、ルフィの野郎タダじゃおかねえ…!!」
「な、何で?」
「突然引っ張ってこられて食料庫のドアに…八つ当たりしたんだ。そしたらここに繋がってた」
「食料庫が、ウチのお風呂場に?」
「……ああ、吃驚したが…またここに来れて良かった」

嘘でしょ?
何で風呂場と食料庫が。
思わず風呂場へ覗きに行くと、ルフィとばっちり目が合った。

「「あ」」
「よ、また会ったな!」
「……また会ったな、じゃないでしょおおお!!!もう!!ほんとにびっくりさせないでよ!!!」
「!?何だよ、何怒ってるんだ!?」
「怒ってるっていうか…!!!もう!!ほんとにもう!!!」
「今度は泣いてるのか、忙しいやつだな!」
「〜〜〜〜〜〜!!!」


だって!!
消えちゃったと思ったんだもん!!
サンジともう二度と会えないかと…!!!


「あっ、テメェルフィ!!!メイさんを泣かせてんじゃねェ!!」
「コイツが勝手に泣き出したんだ、おれァしらねえよ!!」
「あああ、メイさん…!泣かないでおくれ…!!可愛いお顔に涙は似合わないよ、レ…」

レディ。
そう言いかけたサンジ目掛けて体当たりをかました。

「とつぜんいなくなるの…こわ、かっ、た!」
「……メイさん」
「いつか、は、いなくなるっていうの、わかっ、わかってたのに、」
「……うん、そうだな、俺もメイさんと会えないって思ったら怖かったよ」

子供のように泣きじゃくる私の背中を、サンジは優しく撫でてくれた。
これじゃあどっちが年上なんだか。
たった三日間一緒に過ごしただけなのに、こんなにも涙が出る理由が、自分ではわからなかった。

こんなにも人に執着を覚えたのは久しぶりすぎて。


恋愛感情でも友情でも。
どこかで聞いたような話だけど。どんな情でも、人を好きになるのに時間なんて関係ないって本当だったんだ。




しばらく泣き続けた私をずっと宥めてくれていたサンジの手は、暖かくて安心した。
おかげで割と早く落ち着くことが出来たのだが。

ルフィを筆頭に、何事だと覗き込むクルーが視界に入ってきた時には顔から火が出るくらい恥ずかしくなった。

そりゃそうだ、大事な仲間に知らない女が抱きついて泣いているんだから。
誰だって気になるってモンだろう。
ああ、穴があったら入りたい…!!

2016.8.26
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