確信犯にはお仕置きを(ツェザール)


ツェザールと私は、一か月ほど前に晴れて恋人になった。
不器用ながらも好きだと言ってくれた彼の言葉を真摯に受け止めて、そりゃあ身分の差は気にしたりもしたけれど、彼がそんな事は気にしなくていいと言ってくれたから信じて告白を受けることにしたのだ。
なのに。

「俺には立場というものがある。だから、面目は保たねばならん」
「ツェザールってば、口を開けばいつもそればかりじゃない。私と面目とどっちが大事なの」
「……それは比べるものではないだろう」

どの口が身分の差を気にしなくていい、なんて言えたんでしょうね。
気にしなくていいなら私の方が大事だよって言ってくれてもいいと思うんだ。
もちろん、本気で比べて欲しいなんて思ってない。
そんな重たい女になりたくないし、なろうとも思わない。
王子としての仕事が大変だっていうのもわかってる。
王子としての名前の世間での重要性だって、きちんと理解してる。

でも、でもさ。
ちょっとくらい愛の言葉をくれたってバチは当たらないと思うんだよ。
最初こそ私、この人に好かれてるんだ!なんて舞い上がったりもしたよ?
でも、本当に最初だけだった。
立場上ベタベタしてらんないっていう気持ちもわかるけどさ、これじゃ付き合ってるなんて言えないと思う。



ほんの少し、ツェザールを困らせてやろう。
その企みを実行するべく、今朝方彼の机に書き置きをし、それから一人でジャイワールの敷地外へと出かけた。
目指すは、ゴルダ砂漠の高台。
一度だけツェザールに連れていってもらったことがあったのだが、そこからジャイワールのお城が見えて、ツェザールはこの光景を守っていこうとしてるんだ、と感動したのは記憶に新しい。
もしもツェザールが探しに来てくれるのだとしたら、私はそこでツェザールに告白をしようと思っている。

だってさ、ツェザール。不安なんだよ私。
言葉だけでもいいから、簡単な一言でもいいから欲しかったんだ。
それを聞けたらきっとこんなにも不安になることなんて無かった。

探しに来て貰えなかったら、その時はもう終わりだ。





……そんな風に、ツェザールを試そうとしていたから、バチが当たったのかもしれない。

途中までは順調に進んできたはずだった。
私の記憶力を甘く見すぎていた。
悪い意味で、さ。

「ここ、どこよ…」

さっきまで目的の高台は見えていたんだけど、突然の砂嵐で視界が真っ黄色になって。
砂嵐が止むまでそんなに動いていないのに、現在自分のいる場所がわからなくなっていた。

慌てながらも鞄に手を突っ込み、方位磁石を探す。

「………ない、ない…!!やばい!絶対入れた!入れたのに!」

普段だったら独り言なんて絶対に言わない。
この時の私は、余りにも焦りすぎていて、口に出さないととても冷静でなんていられなかった。

ああ、私は馬鹿だったんだな。
いや、知ってたよ。
こんな馬鹿を好きになってくれたツェザールはどうかしてるよ。
砂漠で遭難とか、死亡フラグしか立ってないよね。
本気でどうしよう。偶然通りすがりの旅人とかいたりしな……い、よね。


砂の擦れる音が聞こえたので振り返ってみれば、私の望んでいる旅人とは真逆の存在に出会ってしまった。

マドハンドが一匹、マドハンドが二匹、マドハンドが三匹……あれ、これ眠りの世界へようこそってやつかな。
それも、永遠の眠りの世界へ。

「って!まだ死にたくないからー!!」

手持ちの槍を振り回し、あっちへ行け!と追い払う。
が、しかし、出会った相手はマドハンド。
仲間が多すぎるよねえ…!

「っ!?」

当たり前のように囲まれた私の足を、マドハンドは勢い良く引っ張った。
そして、ズルズルと引きずる。

「えええ待って待って!どこに連れていこうっての!?いっそのことひと思いにここで叩いてくれても…やっぱやだー!!叩かれたくもないし引っ張られたくもない!!だれかー!だーれーかー!!助けて!ツェザールー!!」

出せる限りの大声で思い切り叫ぶと、近くの岩場から何かが落ちてきて。
私の足を引っ張るマドハンドをぶった切ったと思ったら、残りの周囲に群がっている奴らを稲妻で一掃した。

「呼んだか」
「……あ、落ちてきた何かはツェザールだったんだ」

何を言っていいかわからないこの状況に、思ってもいない事が口から飛び出て、言った自分でもビックリした。
ツェザールは呆れ顔である。

「ナツ」
「はっ!?」
「はっ!?じゃないだろう!お前、俺がどれだけ心配したと…!」
「…心配、してくれたの?」
「当たり前だろう!この馬鹿!恋人の心配をしないヤツがどこにいる!」
「恋人…!」

私の反応に、思い切り脱力のツェザール。
呆れた表情で見てくるけど、そもそもこんな事になったのってツェザールのせいなのに!
…まあ、これは単なる責任転嫁か。
解ってるよ、自分が悪いんだって。
でも寂しかったんだからしょうがないじゃないか。

「ハァ…」
「恋人って思ってるなら、もうちょっと愛を示してほしい」
「そういうのは大切なときにとっておくべきだろう」
「大切な時っていつ?現状が変わらないと私またこういうことやらかすと思う」
「……お前、俺を脅してるのか」
「脅してなんかない。本当の事だもん」

ムスくれた顔でそう返すと、ツェザールは再び溜息を吐いた。
そして、ぐいっと腕を引っ張られて、触れるだけのキスをする。

「…!」
「不器用なんだ。わかってくれ」

触れた唇が離れて、彼の顔は真っ赤だった。
片手で顔を隠す仕草は、普段の王子姿からはとても想像が出来ないほど可愛らしい。

「不器用なのはわかってるけど、やっぱりたまにはちゃんと言葉も欲しい。それは私の知っておいてもらいたいところ。譲れないよ」
「……………相当不安にさせていたのだな。善処しよう」
「善処ぉ〜?」
「約束しよう」

そう言いながら小指を絡めとり、きゅっと握った。
なんだその乙女みたいな行動は…!
王子としての仕事とか、面目に対して妬いてた自分がバカバカしくなってきた。

でも、今度こそ心からの恋人になれた気がする。
それは素直に嬉しいかな、うん。
っていうか、探しに来てもらえなかったら私は砂漠で転がってたかもしれなかったんだよね。
そう思ったら背筋が寒くなった。

「ツェザール、帰ろう。迎えにきてくれてありがとう」
「…気が済んだのか?」
「うん、もう大丈夫」

へらりと笑った私の頬に、ツェザールは再びキスをした。
そして、勝ち誇った笑みを浮かべながら彼は言った。

「ナツが無事で本当に良かったと思っている。だが、きっと今頃城内は大騒ぎだ。帰ったら大臣からの説教が待ってるだろう…覚悟しておくんだな」

緩んでいた私の顔は、その一言でガチリと固まったのだった。

2016.7.15 比瑠様(ツェザール/やきもち・立場・遭難)
確信犯にはお仕置きを(ツェザール)

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