ベタなトラブル発生(木暮)


大好きな木暮先輩と、念願の恋人同士になれたのはつい一ヶ月前の事。
本当は好きな人から告白されたいっていう願望があった。

だけど、木暮先輩って、たとえ好きな人がいても自分から告白するようなタイプじゃなさそうだし、どうしても想いを伝えたかった私が一ヶ月前に木暮先輩に告白したことから始まって。
先輩も私の事を好きだと言ってくれた時は、空でも飛べるんじゃないかと思うくらい嬉しかったのを覚えている。

今も、一緒に帰ったり出来るだけで幸せだと思うんだけど。


私は、木暮先輩に対して一つだけ不満があった。

「ねー、花道。最近の悩み事を聞いてくれる?」

「ぬっ?何だよ今度は。メガネくんとラブラブになったんじゃねーのか?」

桜木花道。
私の幼馴染であるこいつには何でも話せるということもあって、木暮先輩に対しての恋心の相談に乗ってもらったりした。
それの見返りとして、私は花道のハルコちゃんに対する恋心の相談に乗っている。
一足お先に幸せになってごめんね、と言ったら、そんなこと気にすんじゃねーよ、なんて頭をぐりぐり撫でてくれる花道。
本当にいいヤツだと思うよ。
木暮先輩がいなかったら、もしかしたら好きになってたかもしれないもんね。
まあ、調子に乗ると困るからそんな事は絶対に言わないけれど。

「木暮先輩ってさ、誰にでも優しいじゃない?」

「ん?ああ、まあそうだな。どっかのキツネとは違って温厚だしな」

「なんでそこでルカワが出てくるの……ルカワはどうでもいいとして、なんかねー、不安なんだよね」

「不安?」

「木暮先輩、ちっともヤキモチ妬いてくれないんだよ」

「ヤキモチだと?」

三井先輩と喋ろうが、宮城先輩と喋ろうが、ルカワと喋ろうが、木暮先輩は自分が気を使ってその場を去ってしまう。
そりゃあさ、ヤキモチ妬かせようなんて考える私が悪いと思うんだよ。
でも、少しくらい『俺の彼女だから』的な反応を見せてくれてもいいんじゃないかなって。
そう思う私は贅沢すぎるのかなあ。
でも、恋する女の子なら誰だって考えると思う。

……自分で恋する女の子とか、言っちゃう自分がちょっと気色悪いけど。

「そういやあ、メガネくんが嫉妬している姿なんて見たことねーなあ……よっしゃ、この天才に任せい!!」

「え、任せるって花道「なーっはっはっは!!ナツは心配すんな!」

大声で笑いながら、教室を出てどこかへ行ってしまった幼馴染。
一体何を思って任せろと言ったのか……花道に相談して、良かった……のかな?
ちょっと、心配になってきた。





そして、放課後になっていつもどおりに部活が行われた。
もしかしたら花道は部活中に何らかのアクションを起こすかも、なんて構えていたけれど、そんな心配は一切なかったらしい。

部活も無事に終了し、解散してみんなが部室へと着替えに行った。

「じゃあ、いつもの場所で待ってるから」

「はい、わかりました!」

恋人である木暮先輩とのこのやりとりも、もう慣れたものだ。
マネージャーと部員では着替える場所が違うので、帰りは校門にて待ち合わせ。
最初はみんなから物凄く冷やかされたりしたけれど、今ではそんな人は一人もいない。

男の人の着替えは早いもので、私が先輩を待たせてしまうのがほとんどの事。

「じゃあ、彩子先輩、お疲れ様でした!」

「はい、お疲れ様!気をつけて帰るのよ〜!」

マネージャー仲間の彩子先輩に挨拶をし、校門で待っているであろう木暮先輩の下へと急ぐ。

先輩の姿が見えたと思ったら、その横にはもう一人。
我が幼馴染の姿が。

「おー、遅かったじゃねーか!これだから女の着替えってやつは……」

「は、花道!なんでアンタが一緒に?」

「今日は俺らと一緒に帰りたい気分なんだってさ」

花道の隣で苦笑する木暮先輩。
別に怒ってるわけじゃないんだろうけど、何故か私が申し訳ない気持ちになってきた。

「なんか、すみません……」

「いや、ナツが謝ることじゃないだろ」

「そーだぞ、いいじゃねーか一緒に帰るくらいよー!昔はいつも一緒に帰ってた仲じゃねーか!」

確かに、それはそうだけど。
やはり幼馴染ということもあってか、木暮先輩と付き合うまでは花道や洋平達と一緒に帰ったりしてたし。
あ、もしかしてこれが花道の言ってた『任せろ』ってやつ?
ヤキモチ妬かせよう大作戦、とか、そんな事考えてるんじゃあるまいな。

嬉しいけど、花道のことだから失敗に終わりそうな気がする……


「とりあえず、帰ろうか」

「おお、そうだなメガネくん!」

そう言って、木暮先輩の肩をガッシリつかんで歩き始める。
いつもだったら木暮先輩が手を繋いでくれるのに……!
バカ花道、私にヤキモチ妬かせてどーすんだ!

「ところでメガネくん、どーだね最近!調子は!」

最近調子はどうだ、なんて、お前はどこぞの酔っ払いオヤジか。

「調子はって聞かれてもなあ……まあ良いほうだと思うよ。特に体調壊してるわけでもないし」

「ほほう。やはり真面目だな、メガネくんは。この天才はいつでも絶好調だがな!なーっはっはっは!!」

「ははは、桜木は元気が取り得だからなあ」

「ぬっ、元気だけだとう!?」

「『だけ』なんて言ってないだろ」

「そーかそーか!」

なんかさー、仲良くしているのは別に構わないんだけどさー。
やっぱり私にヤキモチ妬かせようとしてない?
なんで花道と先輩だけで喋ってんのさ。
どうなのこの状況。
私が木暮先輩を取られちゃったようにしか思えないんだけど。

微妙な気分で一歩後ろを歩いていると。

「なんだナツ、元気ねーじゃねーか」

「う、うわっ、何!」

花道の横を歩けと言わんばかりに、右手をぐいっと引っ張られた。

「もー、花道は馬鹿力なんだから!痛いっつーの」

「お前が非力なだけだろーが」

「違うよ、花道の力が強すぎんの!ね、先輩もそう思いませんか?」

「ああ……確かに、ナツと比べたら桜木は強すぎるかもな」

困ったように笑う木暮先輩。
花道の接するこの態度も、別になんとも思っていないようで、至って普通の対応である。
まあー……花道は幼馴染だし、こういうやりとりは当たり前だって思われてるかも知れないしね。
っていうことは、結局この作戦は失敗だっていう事じゃん。

そう思っていると、ふと、花道が一つの疑問を漏らした。

「そういや、ナツはメガネくんの事を名前で呼ばないんだな」




ピシリ



瞬間、何かが固まった音がした。

いや、実際音が聞こえたわけじゃないんだけど、そりゃあもう、凄い勢いで木暮先輩の体が硬直したっていうか……
突然の反応に、私も花道もビクッとなってしまった。


「め、メガネくん……?」


恐る恐る声をかけた花道の顔が、一瞬にして青ざめる。

「桜木、悪いんだが今日は先に帰ってくれないか?ナツと話がしたいんだ」

「ナツと話って、」

「帰ってくれないか?」


こ、木暮先輩、今までに見たことのない表情してる……!
花道は逆らえずにコクコクと頷き、『じゃっ!!』と一言残してダダダダッと走って行ってしまった。

え、こ、この状況で二人きりなの!?

「あ、あの、せんぱ……」

「ちょっと、いいかな」

さっき花道につかまれた右手をぐいっと引っ張られ、近所の公園まで引きずられる形になった。

二人でベンチに腰掛けると、しばらくの間無言が続く。

何なんだ、この緊迫した空気は。
なんていうか、別れる直前のカップルみたいな……

…………別れ?


もしかして、木暮先輩、私と別れようとしてるとか?


まだ一ヶ月しか経ってないのに!
しかもそんな予兆なんて全然なかったのに!

そんなの嫌「ごめんな」

「……へ?」

突然降ってきた先輩の優しい声に、思わず間抜けな声で返事をしてしまった。

「なんか、ヤキモチ妬いちゃって……みっともないっていうか、さ」

「ヤキモチ?……先輩、ヤキモチ妬いてたんですか!?」

「え?」

いや、え?って!
こっちが質問しているんですけれども!

「うーん。桜木の言った事、実は結構気にしてたりする」

「花道の言った……あー、名前ですか!?」

「ああ。桜木は幼馴染だから下の名前で呼ぶのも仕方ないと思ってたんだけど、恋人である俺は、いつになったら先輩から卒業できるのかなー、とか、思ってたし」

「そ、そんな事思ってたんですね……」

ビックリした。
まさか、木暮先輩がそんなこと気にしてるなんて思ってもみなかったから。

「それだけじゃないさ」

「え」

「三井と話す時も、リョータと話す時も、流川と話す時も、いつも気になって仕方なかった。正直、その場に居たくなくて逃げてたりしたけど。今思えば、堂々とその場にいれば良かったのにな」

そしたら、ナツは俺のものだってアピールできたのに。

そう続けた木暮先輩は、恥ずかしそうに目を逸らした。

「じゃ、じゃあ、木暮先輩、ずっと妬いててくれてたんですか?」

「当たり前だろう、彼女が他の男と喋っていて、気にならないわけがない。でも、俺は年上だし、そんなみっともないことは言えないと思ってたんだ……が、さっきの桜木の一言が効いたよ」

「…………なんだ、全く心配なかったんだ」

「心配?」

「先輩、私の事本当に好きなのかって……ちょっと心配してたんです。告白したのも私のほうだし、付き合うようになってからも私が他の人と喋っててもあまり気にしてない様子だったし……だから、不安になってたっていうか」

少し俯き加減に話すと、肩に木暮先輩の手が乗った。

「俺は、言葉足らずだから……不安にさせててごめんな。ナツが他の男と喋るのも、仲良くするのも本当は嫌だよ。でも、束縛もしたくないから、何も言わなかった」

ニッコリ微笑む木暮先輩の顔を見ていたら、不安になっていたことがとても申し訳なく思えて。
ごめんなさい。
一言そうやって謝ると、木暮先輩は額に軽くキスをしてくれた。

「とりあえず、『先輩』からは卒業しようか」

「えっ」

「えっ?」

「あ、いや、ずっと先輩って呼んでたので、今更何て呼べばいいか……」

「下の名前で呼んでくれると、凄く嬉しいんだけどな」

「下の名前……」

「まさか、俺の下の名前を知らないとか?」

「いやいやいやまさかまさか!好きな人の名前くらい、ちゃんと知ってますよ!!」

「じゃ、呼んでくれるよな?」

「うっ……!」

あれ、おかしいな。
さっきまでの木暮先輩と、また雰囲気が違うんだけれども……!
怖い、っていうか、何か、黒い?

下の名前で呼ぶとか、恥ずかしすぎる上に絶対慣れない気がする!

「俺にヤキモチ妬かせておいて、呼べないとか言わないよな?」

「ううう……!」

「ほら、ナツ」

「は、はい!」

「はい、じゃなくて。名前」


……ヒィ!!


こんな展開になるなら、木暮先輩にヤキモチ妬かせようなんて考えるんじゃなかった!
花道に頼ったりするんじゃなかった!

今ならまだ間に合う、帰ってきて花道!!



それから私が『公延先輩』と呼べるようになったのは、一時間も後の事だった。
ベタなトラブル発生(木暮)

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