それは、人生二度目の(清田)


「モテ期って、人生に三回あるんだってね」

「はぁ?」

バスケ部のマネージャー、河合ナツの突然の台詞。
こいつはいつも突然に変なことを言う。

それは今に始まったことじゃないから、周りの部員達は既に気にしてない様子。
俺も同じ、と言いたいところだが、変なことを言うコイツのことがいつの間にか好きになっちまって、そんな俺としてはコイツの言葉にはちゃんと反応してやんなきゃっていう気持ちがあって。

「何を今更。そんなん有名な話だろーが」

「え、マジで?」

「マジだ」

「じゃあ、信長ってモテ期あった?」

「俺!?」

興味津々な顔で覗き込まれても困るんだが。
俺……に、モテ期なあ……

小学校の時とかって面白い奴がモテたりするじゃん。
俺、こんな性格だし、自他共に認める面白い奴だし?
一応小学校の時はモテてたんじゃねえかなあって思う……のは、俺がナルシストとかそんな類の奴だからではないはずだ!断じて!

「小学校の頃はモテてたと思うぜ」

「えー!マジで!?」

「マジだっつの」

「信じらんない……信長が」

「信じらんないってなんだよ、お前ってやつは毎日毎日俺に喧嘩売ってきやがって!この!!」

「う、わ、痛い!痛いよ馬鹿!!」

憎まれ口を叩くナツの頭をぐりぐりと。
そりゃあもう、憎まれ口の分だけ憎しみを込めて力を入れる。
あと……ちょっとだけ、愛情も。
心の中でこんな事を思っている俺はナツの言うとおりの馬鹿かもしんねーけど。

遠くで先輩達がまた始まった、的な顔をして見ている。
実際俺にとってはそれが俺とコイツの仲の良さを示しているようで嬉しくてたまんねーんだけどな。

そもそも、モテ期っていうけど、そんなもんが来たところでナツが俺の事好きじゃなきゃなんの意味もねーんだ。
目の前で痛がっているこいつにそんな事が分かるはずもなく、ナツは必死でもがいている。

「はーなー、せっ!!」

「うおっ!!」

余程痛かったのか、ナツは俺の腕を思い切り振りほどき、遠巻きに見ていた神さんと牧さんのほうへ逃げていった。

逃げ込んだ先で、俺の事を指差して泣き真似をするナツ。
そのナツに対し、頭を撫でてやる神さんと牧さん。

その様子をじっと見ていると、突然ナツの体がピシィ!と固まった。
しかも、凄い勢いで顔が真っ赤になっていく。

なんだよ、何の話してんだよー!
すげえ気になる……!!

悶々としていると、俺の目の前にフッと影が落ちた。

「清田も不憫だな」

「み、宮さん!何スかいきなり!」

「いやあ、僕達としては見てて面白いんだけどね」

「どーゆう意味っすか」

「早くくっついちゃえばいいのに、って事」

「は、はぁ!?」

声をあげて楽しそうに笑う宮さん。
つーか神さんや牧さんならともかく、この人にこんな事言われるなんて思ってなかった……!

「宮さん、もしかして俺の気持ち……」

「気付かないわけないだろ、マネージャー以外は全員知ってるけど」

「のああああ!!マジでか!!!」

「ま、それはお互い様だけどな」

「ん?」

「いやいや、何でもないよ。ていうか、清田のモテ期って今なんじゃない?」

「は!?え、っつーか宮さん、話聞いてた!?」

「人聞き悪いな、聞いてたというよりも聞こえた、が正しいよ」

俺ら、そんなにデカイ声で喋ってたか?
そして宮さんってこんなにわけのわからない人だったか?

結局何が言いたいんだ、宮さん!!
そしてこっちを見ながらニヤニヤしている神さんと牧さんも!!

「とりあえず、向こう行って来いよ」

「おわっ!!」

背中をどん、と押され、俺の足は自然にナツが逃げていった方向……即ち、ナツと神さんと牧さんのいる方向に。
駆け出してしまった足を止めることも出来ず、三人の目の前に立った。

そして、俺の口から出た言葉は。

「なあ、俺のモテ期って今なのか?」

ナツに向かって言った言葉だったのに、何故か神さんと牧さんはぶふっ、と吹き出した。
失礼な人たちだな!
そんな事を思っていると、当の本人であるナツは。

「し、知らないよ!!」

顔を真っ赤にしながら、ドリンクの準備してくる!などと吐き捨ててこの場を去っていってしまった。

何なんだ、一体……!

そしてモテ期の話はどうなったんだ!!


その日の部活は全然集中することができなくて、モテ期についてあれこれ考えてしまった。
それは、人生二度目の(清田)

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