密やかな浸食(ククール)



ジューンブライド。6月の花嫁。

古くからの言い伝えで、6月に結婚した花嫁は生涯幸せな結婚生活が出来るという言い伝えがある。
説は色々あるみたいだけれど、私はローマ神話の女神の説が好きだった。
と、まあ、自分の事はひとまず置いておくことにしよう。


6月某日、雲一つない晴天。
今日はエイトとゼシカの結婚式だ。

みんなと一緒に旅をして、世界が平和になってから早三か月。
私は二人の結婚式が行われるというトロデーン城に来ていた。

正直、エイトはミーティア姫とくっつくと思っていたものだから、ゼシカを選んだと聞いた時にはビックリした。
ゼシカもそんな素振り見せなかったのに、とククールに言ったら、俺は知ってたけどな。なんて普通に返されて、更にビックリした。
私の方がゼシカと一緒に過ごす時間が多かったのに何故だ…!
今はそんなことを悔やんでも仕方がない。
素直な気持ちでお祝いするためにここに居るのだ、どうでも良い事を思い返すのは止そう。

さて、みんなと会うのも久しぶりだ。
基本的に人見知りの私のことだ、久しぶりすぎて変な事を口走ってしまうかもしれない。
緊張しないように深呼吸、深呼吸。
スー、ハー、と繰り返していると、後ろから足音が聞こえた。

「よう、久しぶりだなナツ」
「…ん?」

聞き覚えのある声に振り返れば、目の前にいっぱいの赤。

「ち、近っ!」
「この距離になるまで気づかないってことは、何か考え事でもしてたのか?」
「考え事っていうか、どうやってみんなに声掛けようかと思って…って、こんなに近くなくたっていいじゃない。ククールも相変わらずだね、久しぶり」
「ああ、久しぶりだな。声の掛け方なんて考える必要もないだろ、苦楽を共にしてきた仲間達相手に」
「ククールはそうかもしれないけど、私は小心者なので」
「クッ…はいはい、そうでした小心者でしたね」
「馬鹿にされてる感が否めない」
「そうだろうな、馬鹿にしてるんだから」

思わず、と言った感じで頬を膨らませると、すかさずククールの指がそれを突き刺す。
不本意ながらも口からブフッという音と共に空気が漏れた。

「そういうトコ、変わんなくていいと思うぜ。それでこそ俺の好きなナツだ」
「はー、それまだ言ってんの。エイトにゼシカを取られちゃったから苦し紛れに言ってんじゃなかったの」
「なんだと…おまえ、そんな風に思ってたのか?」
「え?違うの」
「ハァ…心外だな。俺は甘い言葉は囁けど、好きなんて言葉、本気じゃなきゃ口にしないぜ」
「いやいや、またまた」
「……そうか。おまえはそういうヤツだったな」
「え?冗談だよね?」

真面目な顔でそう返せば、ククールはそっぽを向いてしまった。
そして、小さな声でボソリと一言。

「どうやったら信じてもらえるんだろうな」

開いた口が塞がらなかった。
ククールが私を?本気で?そんな馬鹿な。そんな素振り、今まで見せなかったじゃないか。
それどころかゼシカや他の可愛い女の子ばかりにモーションかけて、………ええと、好きって言葉は確かに何度か言われたことがあったかもしれない。
あれか?本気で好きな相手にはグイグイいけないタイプなのか?
嘘でしょ、あんな、小慣れた口説き文句精製器のような男が。

でもさ、正面じゃないからいまいち解り辛いんだけど…耳の下あたりが赤いんだよ。

「…ええと、本気だったとして。じゃあさ、何でこの三か月、私を放ったらかしにして旅を続けていたの?」
「それは…」
「おーい!ナツ、ククール!久しぶりでげす!」

ククールが答えようとしたその時、城門の方からヤンガスが走ってきたので一旦おあずけになってしまった。



ヤンガスが合流してすぐにゲルダさんとモリーさんも合流。
全員が揃ったところで王様に挨拶に行くと、まず正装じゃないことを怒られ、それから更衣室に放り投げられ、こんな高いの一生掛けても払えそうにないわ、という綺麗なドレスに着替えさせられて。
いや、これでも自分なりに一張羅を着てきたつもりだったんだ。
それでも貴族の結婚式ともなるとそれじゃダメだった、ってことね。



「同伴者様があちらでお待ちですよ」

丁寧にお化粧してくれたうえに髪型まで可愛くしてもらい、おまえは誰だと鏡に向かって呟いていたところ、それらを施してくれたメイドさんが声をかけてくれた。
促されるまま扉を開ければ、みんながいるんだろうなーなんて思ってたら大間違い。
黒いスーツに身を包んだククール一人だった。

「…!」
「お、おまたせ」

さっきのアレを聞いた後なので、二人きりは少々気まずい。
そんでもって真っ赤なククールを見慣れていたのに、黒いスーツって新鮮すぎて、それも変に気まずい原因のひとつだ。

ドレスなんて着慣れないものに足を取られないように、とゆっくり歩こうとしたが、早速つんのめった。
そしてそのつんのめった私をククールは優しく支えてくれた。

「綺麗だな、似合ってるよ」
「え、あ、そ、そう?ありがとう。ククールも新鮮で似合ってるよ」
「ククッ…そりゃどーも」
「なんで笑うのかね」
「ナツが俺を意識してるかもしれないと思ったら、こんなに面白いことは無いな」
「意識って…」
「その赤い顔は違う意味だったのかい?」
「……」

違くもないんだろうけどさ。
確かにカッコいいなって思っちゃったけどさ。

「ヤンガス達は?どこ行ったの?」
「話を逸らされちまったな。まあいいか、あいつらはまだ時間があるからって城探索に出かけたみたいだぜ」
「城探索?今更?」
「城探索という名のつまみ食いだろ」
「ああ、なるほど」

それなら納得だ。

「ククールは行かなくて良かった?」
「おう、ナツの可愛い姿が一番に見れたし、ここに居て良かったと思ってる」
「そっ、そういう意味じゃないんだけど…っていうか、時間があるならさっきの話の続き、聞かせてよ」
「さっき?…ああ、さっきの話ね」

ククールは微妙に照れくさそうにしながら、私の手を取った。
自然すぎて思わずそのままにしちゃったけど、危なっかしいからエスコートしてくれるのは有り難いのでここはククールに甘えよう。

「まあ、その…なんだ。理由としては単純だがな。ナツにふさわしい男になるために少しでも強くなろうかと」
「ええ!?」

目の前に壁があれば、そこに思い切り頭を打ち付けたい気分だった。
まさかそんな理由であのククールが一人旅なんてしてるとか思わないじゃない…!

「おまえ、強い男が好きだろう?」
「いや、そりゃ弱いよりは強い方がいいけれども…」
「ナツが俺をそういう目で見てないっていうのは解ってたからさ。どうすればそうやって見てもらえるか、考えた結果だ」
「まさかの私のせいだった」

私の「せい」っていうわけじゃないけれど、それを言えばククールは楽しそうに笑った。
不覚にもドキッとした。

「今はまだ、そうじゃなくてもいいと思ってる。だが、ナツが俺を認めてくれたら…その時は俺と一緒になってくれないか」

告白通り越して人生初のプロポーズを頂きました…!
エイトとゼシカのお祝いの日なのに、私が幸せになりかけてるんだけど。
どんなサプライズだこれ。
でも。でもさ。ククールのことは大好きな仲間だし、男としてみてないわけじゃないけれど。

「いかんせん私が本気で女として好かれてると思ってなかったから、一緒になるとかならないとか、すぐには考えられない。でも、こんな私を好きでいてくれて、それでいて更なる努力もしてくれて、素直に嬉しいと思ってる。ありがとう、ククール」
「じゃあ…!」
「そ、それとこれとは別!で!でもアプローチしてくれたらそのうち落ちるかもしれないね!?」

何を言ってるんだ私は。
第三者が聞いたら凄く嫌な女じゃないか。
なんだよ偉そうに!って思われても仕方のない言葉を吐いたぞ、今!

「…ククッ、アプローチね。俺の得意分野だってこと、忘れたのか?まあ、任せとけ。ナツを幸せにするのは俺しかいないと思ってる」
「!」
「月並みな言葉だけど、覚悟しとけよな」
「わ、わかった、覚悟しとく!」

得意分野だっていうけどさ。
私を本気で好きだと言うのなら、本気で好きな子にはまともにアプローチできなかったってことになるよね?
この事を言ったらククールはどんな反応するかな。
得意分野だ、と言ったその端正な顔が、どんなふうに歪むのかが楽しみだ。

…あれ、私、かなり性格悪いね。
でもククールはこんな性格の悪いところもわかってくれているのだろう。

そう思ったら、心の奥底が幸せな気持ちで温かくなるのを感じた。

2016.7.8 舞様(ククール/大好き・幸せ・ありがとう)
密やかな浸食(ククール)

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