天然なキミの行動が(神)


「あれ、神さん……」

「ん?」

「あの、あそこでバラを持って踊ってるのって、ナツ先輩じゃないスか?」

「薔薇を持って……?」

信長の指差す方向に目をやると、そこには確かにナツがいた。
もちろん、信長が言ったとおりに薔薇を持って踊りながら。

一瞬我が目を疑ったけれど、あれは間違いなく本人だ。
しかし、これから部活が行われるというのにあんなところで何やってるんだろう。

あんなところというのは、教室のベランダ。

いつも、部活に行く前に信長が俺のクラスに迎えに来る。
それから、マネージャーであるナツに声をかけて一緒に行くことが多い。

しかしながら今日はとっても声が掛け辛い状況だ。

「信長、お前が呼んでくれない?」

「え!?俺っすか!?マジっすか?!そりゃないッスよ、神さんは同じ二年でしょ。だから神さんが呼んでくださいよ」

「先輩に逆らう気?」

「えええそんな!」

先輩の威厳を放ちつつ、にっこり微笑みながらそう言うと、信長の顔が引きつっていた。
ちょっと可哀想かな。

「はは、嘘だって。仕方ないな、ちょっと行ってくるよ。あ、信長先に行ってていいよ」

「待ってなくていーんすか?」

「うん、すぐ追いつくから」

「わかりました!すんません!」

ナツの行動にとってはちょっと時間がかかってしまいそうな気がして、信長を先に行かせた。
まあ、部活に遅刻することもないと思うけど念のため、ね。


どこのクラスもまだ帰宅してない人が多く、ナツのクラスも例外ではない。
他人のクラスに足を踏み入れるのって躊躇しがちだが、うちの学校は他のクラスの奴が違うクラスに入っていっても別に気にする人はいない。
なので、俺も堂々とベランダに向かって歩いた。

「ナツ、何してんの?」

「あ、神!って、もうそんな時間?」

教室内の時計を覗き込み、確認するとナツは慌てた声を発した。

「時間を忘れるくらい熱心だったってことだよね。で、薔薇なんか持って何してたの?」

「えーとね、これはフォークダンスの練習してたの!」

「……フォークダンス?」

フォークダンスって、確か、オクラホマミキサーとかマイムマイムとか、そんな類のダンスのこと……だったよな。
それともナツの言うフォークダンスとは別の何かを指してるんだろうか。

「今度の文化祭の後夜祭でさ、フォークダンス踊るでしょ?だから、その練習」

……後夜祭で踊るフォークダンスってさ。

「踊るのってオクラホマミキサーじゃなかったっけ?」

「そう!オクラホマミキサー!」

あれ、おかしいな。
会話は噛み合ってるんだけど、内容的に間違ってる気がするのは俺だけかな。

「薔薇持って踊るの?」

「え、だってそういうダンスなんでしょ?」

ああ。
なんとなく理解できたような気がする。

「ナツってさ、オクラホマミキサー踊ったことないわけ?」

そう問うと、ナツは思い切り縦に頷いた。

「ほら、私、去年地方から引っ越してきたでしょ?そこではフォークダンスとか一切やらなかったんだよね。だからどういうものかわからなくてさ、さっきクラスの子に教えてもらったんだ!」

やっぱりな。
ナツって天然なところがあるから、きっとその教えてくれた子っていうのもついつい遊びたくなってしまったのだろう。
気持ちはわかる。

けど、ベランダで薔薇を持って一人で踊ってる姿を見たら……流石に哀れに思うのは俺だけじゃないだろ。
でも、正直間抜けすぎて笑えるっていう事実もあるけれど。

「ナツ、それ嘘教えられてるよ」

「え!?」

「薔薇なんか持たなくていいし、その踊りも違う」

「え、そ、そんなはずは……!」

ない、と続けようと口をパクパクしたまま、ナツは教室の中へと視線を向けた。
俺もつられて見てみると、そこにはナツに嘘を教えたであろう友達が。

「あはははは!ようやく気づいた!」

「神くん、ナツに甘いんだからー!」

その友達の爆笑している姿を見ると、ナツは本当にコロッと騙されたんだなぁ、なんてしみじみと考えてしまう。

「あ、ん、た、ら〜……!!」

顔を真っ赤にしながら、ふるふると震えだしたナツ。

「ぎゃあ!ナツが怒った!」

「ごめんって!今度何か奢るから!じゃ、後は神くんよろしく!!」

「あっ、こら待て!!」

素早く逃げ出したナツの友人二人。
追いかけようにも、ベランダから追いかけるとなると分が悪い。
即座に諦めたナツは、微妙に目に涙を溜めていた。

からかわれたのが悔しかったのか、自分の今までの行動が恥ずかしかったのか、どっちかだな。
そう思いながら、ナツの頭をぽんぽんと撫でてやる。

「うう〜……本当のオクラホマミキサーを教えてから帰れ……!」


……どうやら、俺の思惑はどっちも外れたみたいだ。

天然でわかりやすいくせに、こういうところは掴めない。
面白くていいんだけどさ。

「俺が教えてあげようか?」

「ほ、ほんと!?」

「どっちにしろ、そのうちクラスで担任から教えてもらうことになると思うけど、それでも早く知りたいっていうのなら」

「知りたい!また変なの教えてもらう前に、ちゃんとしたのが知りたいよ!」

「あはは、必死だね。じゃあ、今日部活が終わってから……は、シュート練習するから遅くなっちゃうな」

「遅くなってもいいからシュート練習終わってから……あ、それじゃあ神が疲れちゃうよね」

一気に捲くし立て気味のナツは、途中からしゅんとなってしまった。
一喜一憂する姿が、小動物みたいで可愛い。

「俺は別に構わないよ。でも遅くなるから帰り大丈夫?」

「帰りは大丈夫!じゃあ、今日お願いしてもいいかな?」

「うん、そうと決まったらとりあえず部活行こうか」

「うん!よろしくおねがいしまーす!」

本当のオクラホマミキサーを教えてもらえるとわかった途端、上機嫌になるナツ。
とりあえず簡単に教えてあげれば大丈夫だろう。
時間もそんなに取るつもりもないけど、もし本当に遅くなってしまったとしても帰りだって送っていくし、そんなに心配することもない。

何より、ナツと二人でフォークダンスの練習が出来ると思ったら、辛い練習だって耐えられると思うし。
その時点で体力も復活すると思う。

そんなことを俺が考えてるなんて、この天然娘はちっともわかってないんだろうな。

後夜祭のフォークダンスが終わったら、この気持ちを伝えてみても面白いかもしれない。
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