これが僕らの日常(清田)
「あー、もう!どうしてこんなに時間がないんだろうか!」
隣で頭をわしゃわしゃとやっているのは、俺の彼女のナツ。
いつもは部活があるからなかなか一緒に帰ったりすることは出来ないが、今日は珍しく、午後の練習は休み。
大事な職員会議があるとかで、生徒は全員強制的に帰宅命令を出された。
バスケが出来ないのはつまんねーが、そのおかげでナツと一緒に帰ることができるのには感謝してやろうと思う。
けど、せっかく一緒に帰っているにも関わらず、コイツは少々イラついているようだ。
「なんだよ、なにをそんなに苛々してんだ。生理か?」
「違う!ノブのバカ!デリカシーのかけらもない!」
「かっかっか、俺にデリカシーなんてものはない!」
「ぬお!そんなこと言い切らないでよね……あー……なんか、気が抜けた」
そう言いながら、軽いため息をついて俺を見る。
「ん?なんかついてっか?」
「いやー……ノブはいいなぁ、と思ってさ」
何を根拠に俺のことをいいなぁ、と思うんだろうか。
俺からしてみれば、コイツは可愛いし頭もいいし、要領もいい。
普通に考えたらパーフェクトなやつで。
俺は人並み以上にはカッコイイ!……とは思うけど、頭は悪いしバカだし。
ん?
頭が悪いのとバカなのは一緒か。
まあ、そんな俺からしてみればナツの方がよっぽど羨ましいと思うんだが。
それ以前に、そんなパーフェクトなヤツが俺の彼女でいいのかな、って思うんだが。
こんなことを考えていても仕方がないので、ナツの話を聞いてやることにした。
「いいなぁ、って何がよ」
「うーん、周りの環境、かな。私さー、今委員会の長をやっているわけですよ」
「長って……若者らしからぬ言い方だな。で、何か困ってることがあんのか?」
「そうなの、私をどんだけ買い被ってるのかわからないけど、先生が次々と仕事を押し付けてくるんだよね!」
「断ればいいじゃんか」
「断れるもんなら断ってるよ!でも、他に出来るような子がいないんだもん……ああ、だから先生は私に頼むのか」
「お人好しだもんなー、ナツは」
別に悪気があったわけじゃないのに、お人好しという言葉を聞いたナツは、少しむっとした。
「なんか、要領悪いって言われてる気がする」
「はぁ?んなこと一言も言ってねーじゃんか!」
「でもそんな気がした」
ああ、こうなったら少しずつ機嫌が悪くなっていくのがオチなんだよな。
そうなる前にどうにかしなきゃ、と、この間攻略法を発見してあるので心配はないが。
「言ってないし、思ってもいないっつーの。お前はよくやってると思うよ」
言いながらナツの頭に手を乗せ、ポンポン、と二回ほど弾ませる。
最後に、指先だけで俺の方を向かせ、
「なっ!」
そう言ってニカッと笑って見せると。
「……うん、ありがとう。勝手に苛々してごめん」
ほらな。
こっちが落ち着いたところを見せてやると、それにつられるのかなんだか知らねーが、ナツの機嫌も治まっていくんだ。
「じゃ、せっかくだからどっか寄り道して帰ろうぜ!」
機嫌の直りかけたナツの手を自然に掴んで、商店街のほうへと足を踏み出す。
「やっぱ、ノブっていいなぁ」
「あーん?まだ言ってんのか?」
「うん、何度でも言う。ノブのこと羨ましいよー!最早その清田という名字までもが羨ましくなってきた!」
名字、ねぇ。
理解不能な発言には、理解不能な発言で返すのが一番だよな。
「なら、お前の名字も清田にしちゃえばいいじゃん!」
「え?そんなの無理だよー!」
「今は無理でも、5年後には可能かもよ?」
「えー、なんで…………あ、え、えええ!」
最初は気づかなかったその意味を、ようやく気づいたナツは顔を真っ赤にしてしまった。
「それって、プロポーズ?」
「ブッ!!」
顔を真っ赤にしたくせに、ハッキリと核心をついた言葉を言うナツに、思わず吹き出した。
「おま、ハッキリ言うなよ!恥ずかしいヤツ!」
「ええ!だって、こういうことはハッキリしたいじゃん!」
「おまえなぁ……俺はお前のその性格が羨ましいよ」
「えー!?なんでさ、話が擦りかわってる!」
「いやいやいや、元に戻っただけだろ」
「今はその話はしてない!」
「そんな、理不尽な!」
結局、最後は俺が言いくるめられて終わってしまうっていうオチ。
ナツと付き合って一年。
二人で一緒にいる時間は、これがいつもの日常で。
こんな二人の関係が変わることなく、5年後も、10年後も。
この先ずっと一緒に過ごせたらいいな、と思っているのは。
俺だけじゃないと、願いたい。
これが僕らの日常(清田)