安眠妨害(神)


「こら、ノブ寝るな!あんた一番頑張らないと駄目なんでしょーが!」

「清田、誰のためにこの勉強会を開いてやってると思ってるんだ?」

「は、はひ……すんません……!」

「真面目にやらないんなら、信長だけ帰宅命令出すよ?」

「そ、それだけは……!」

目の前に座る、自称『神奈川NO.1ルーキー』の清田信長は、必死で懇願のポーズを取っている。

現在その信長を始め、私の隣には同い年の神宗一郎、そしてその神の前に居るのはバスケ部キャプテンである牧紳一さん。
最後に私を含む四人で、この勉強会は開かれることになった。

原因は、先日のテストにある。
部活動も勉強面でも優秀……まあ、優秀とまでいかなくとも、最低でも赤点はゼロでなければいけない、我が海南大付属高校男子バスケットボール部。
そう言われているにも関わらず、清田という男は4教科も赤点を貰ってきた。
物凄く落ち込んでいるうえに『どうしよう、俺はもうだめだ、死んだほうがマシだ』なんて、ヤバイ独り言を呟き始めた清田を見かねた神が、この勉強会の話を振った。

で、結局開催するにあたって、神一人では清田も気が緩むときもあるだろう、ということで牧さんとマネージャーである私が参戦したというわけだ。
ちなみに、清田の家で開催すると甘えが出るだろうということから、家を提供してくれたのは神。

「追試で赤点取ると、試合には出られないんだからな」

「ま、牧さん追い討ちかけないでくださいよ〜」

「もっと言ってやったほうがいいですよ、牧さん!」

「ナツさん酷いッス!」

「酷いのはお前の赤点だろ」

「神さんの鬼!」

どんなにぐだぐだ言っていても、やることはやらなければならない。
こんな調子で中々進まず、この勉強会は結構な時間まで続いた。

「うわ!もう22時!?」

「え、もうそんな時間になってた?」

「うおおマジだ!ナツさん、帰らなくて大丈夫すか?」

「いやいや、大丈夫じゃない。流石に怒られる……!」

本来ならば遅くても22時には家に帰宅してなきゃいけない。
それが、今はまだ勉強道具を開いている状態で、神の家にいる。
神の家から私の家までは7駅もある。
間に合うわけが無い。

「もう泊まっていけば?」

「え!?」

泊まっていけば、と、あっさり言い放ったのはこの家の提供者、神宗一郎ご本人。
マジで言ってんの?
結構な爆弾発言だと思うんだけど!

「元々信長も泊まっていく予定だったし、牧さんだってこの時間だったら泊まっていきますよね?」

「ああ、そうだなぁ。勉強もまだ途中だしな、お前が迷惑じゃなければそうさせてもらう」

「迷惑じゃないですよ、全然」

そう言った後、私に向き直って。

「ね、みんな一緒だし。遊んでるわけじゃないけど、楽しくていいんじゃない?」

ニッコリと微笑みながら言われてしまったものだから、思わず即答でYESと答えてしまった。

そうと決まったらすぐに家に電話をし、なんとか説得に成功。
もちろん、男の子の家とか言うとうるさいので、クラスメイトの女子の名前をお借りしたけれども。
門限はあってもそこまで厳しい家じゃないから助かった。

「よし、じゃあラストスパート!頑張っちゃおう、やるぞ信長!」

「ぬあっ、ま、まだやるんすか!?」

帰りの心配がなくなったことで、ちょっと元気を取り戻した。
だからノブをけしかけてみると、体を後ろに仰け反りながら焦っている。

「当たり前だ、もうちょっとだから頑張るぞ」

「じゃ、さっきの続きだね」

「うおお3対1はキツイ……」

神に背中を押されて、ノブもしぶしぶと再びの勉強体勢に入った。



それからまた何度かぐだぐだになりつつも、勉強会は24時まで続いた。
流石にもう寝ないと明日が辛いということになり、それぞれお風呂を借りて。

泊まることを想定してなかったから、着替えとかないけど仕方ないな、なんて思っていると、神が自分のジャージの予備を貸してくれた。
着てみると、当然のごとく大きい。
あー……なんか、彼氏の家にお泊りに来て、洋服借りちゃいました状態?

これでみんなの前をうろつくって、かなり恥ずかしいものがある。

部屋に入るのをためらって、中の様子を伺っていたんだけど。
部屋の中が静か過ぎる。
もしかして、みんなもう寝てしまったのかな……?

音を立てないようにして、そーっとドアノブを回す。
隙間から顔を覗かせてみると、なんてことはない。

「ノブ、寝ちゃったんだ」

「あ、お帰り〜。そう、ついさっき、眠そうだな〜って思ってたら寝ちゃった」

一番うるさい人物、信長が寝てしまったので、凄く静かだっただけのこと。
牧さんと神だけだったら、騒がしく喋ったりしないしね。

「じゃあ、次は俺が風呂をもらってもいいか?」

「どうぞ、いいですよ。牧さんも俺の着替え、使ってください」

「スマンな、借りるよ」

牧さんが部屋から出て行った。
残った神と目が合い、なんとなく気まずかったけれど、逸らすのも変な話だし、へへっと意味も無く笑ってみた。

「やっぱでかいね、そのジャージ」

「あ、うん、神はおっきいよねー、私よりどれくらい大きいサイズなんだろうな。でも有難う、助かっちゃう」

「…………」

「ん?」

神が考えるように手を顎に当てながらじぃ〜っと上から下までじろじろ見てくる。

「ちょっと。そんなに見られると恥ずかしいんですけど……何?」

「いや、なんか…………なんでもない」

「え、なにその歯切れの悪さ。最後まで言ってくれないと気になって仕方ないんですけど」

「言うとナツが恥ずかしい思いすると思うけど」

「は?恥ずかしいって何……!余計に気になるんですけど」

「や、その格好、萌えるな、って」

「もえ……!?」

「襲ってもいい?」

「おそ……!?」

襲うとか!
何、突然!
次第に近づいてくるのは気のせい……じゃ、ないよね!?

そうこうしているうちに、右手を掴まれた。

「じ、神?冗談ならやめようよ」

「冗談じゃないんだけど……まあ、そのうち牧さんも帰ってきちゃうし、とりあえずはこれで我慢しておく」

そう言いながら、近づいてきた神のドアップを見ていることができずに、ぎゅっと目を瞑った。
すると、おでこに『ちゅ』という柔らかい感触。

「な、な、な……!」

「続きはまた今度にしておくよ」

「つ、つ、続きって」

「あれ、聞きたい?」

からかい半分で笑う神に、ぶんぶんと首を振った。

「まあ、こういうこと、とかね」

再び神の顔が近づいたと思ったら、今度はおでこじゃなくて。
唇に、柔らかい感触。

き、キスされちゃったんですけど!!

「ナツはベッド使っていいから、眠くなったら寝なよ」

真っ赤になって固まっている私にそんなことを言われても。
今はこの場から動くことが精一杯なような気がする!

神はそんな私を見て、楽しそうに笑っている。

そして、スッと立ち上がり、おもむろに部屋から出て行ってしまった。

ただし、出て行く間際に『朝になったら俺もベッドに入っているかもねー』なんて爆弾発言第二弾を言い残していきやがりました。


そんなことを言われて、寝れるかバカ!


勉強会の目的が信長のためとはいえ。
多少なりとも自分のためにも勉強してたのに……今日やった勉強、全部頭から抜けてしまっている気がする。
安眠妨害(神)

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