恋愛って難しい(神)凸凹シリーズ4


ナツさんと、もっと話がしてみたい。


ナツさんのことをもっと知りたい。


一度思ったら、加速していくこの気持ち。
多分とか、きっととか、そんな曖昧な言葉では抑えきれないくらい、俺はナツさんの事が好きになってしまったらしい。




今日、俺は信長の家に遊びに来ていた。
ナツさんが来る予定だという話を聞いて、俺も混ぜて欲しいと頼んだのだ。
もちろん、彼女には知らせてない。

知らせたら、きっと彼女は来ないだろう。

何故なら、俺の事を天敵と思い込んでいるから。
この前の雨の日も、きっと嫌がらせをしたと思われてるんだろうなぁ。

そろそろ誤解も解きたいし、好きな人と普通に話せないのも嫌だしね。
信長には悪いけど、この機会を利用させてもらいたい。

もしかしたら信長もナツさんのことが好きなのかもしれないと思ったけれど、単なる従姉弟としか思ってないようだ。
それは信長と話をしているうちに判明した。
流されやすい信長は、ぽろぽろと心の内を明けてくれるから聞き出しやすかったな。
馬鹿だけど、凄いいいヤツで。
後輩の中でも一番のお気に入りだ。


「いや〜。それにしても超ビックリなんスけど。神さんがナツの事好きになってたなんて」

「はは、俺も内心びっくりしてるよ。最初は信長の彼女だと思ってたしね。まさかこんな風になるとは思わなかった」

「それを俺に教えてくれたのも、嬉しかったッス!!」

信長だったら、俺のナツさんに対する気持ちを教えておいてもいいかな……というより、教えておいたほうがいいよな、と思って、事前に話はしてある。
それを聞いたこいつは、自分の事じゃないのに嬉しそうにしてくれた。

「でも、ナツのヤツ、神さんのこと天敵扱いしてますしね……頑張らないと厳しいっすよ!」

「うん、わかってるよ。だから今日こうして来たんじゃないか」

「かっかっか、そうでした!そろそろ来る頃だと……」


信長が言いかけた瞬間、玄関のチャイムが鳴った。

「ちょっと行ってくるッス!」

「うん、行ってらっしゃい」

階段をドタドタと駆け下りて、ナツさんを迎えに行く。
玄関のドアを開けた音が聞こえて、ナツさんの声も聞こえてきた。

「ういーっす!来たよーん」

「おう、とりあえず上がれよ」

「……ん?ねえ、誰か来てるの?」

あ。
靴で気づかれてしまったかな。
俺がいるって知ったら帰ってしまうだろうか。

「ああ、俺の部屋にサプライズゲストがな!」

「……ふ〜ん、まあいいや。とりあえずお邪魔しまーす」

信長の機転で、顔を見ずに帰るということにはならなくて済みそうだ。

階段をトントンと上がってくる音に、少しばかりの緊張を覚える。

「すんません、お待たせしました」

「!!」

「こんにちは」

部屋に戻ってきた信長の後ろから顔を覗かせ、目が合った瞬間に至極嫌そうな顔。
俺は至って普通に挨拶を交わしてみた。

「サプライズゲストって、この人?」

「お、おお!すげーだろ、海南バスケ部レギュラーの神さんだ!」

「……知ってるけど……あたし、かえ「らないよな!」

ナツさんの言葉を遮った信長は、彼女の背中を押して無理やり部屋の中へと招きこんだ。

諦めたのか、ナツさんは信長のベッドへ腰掛ける。

「この組み合わせ、おかしくない?」

「何言ってんだよ、全然おかしくねーじゃねーか!従姉弟の俺らと、先輩後輩の仲である、俺と神さん」

「そう邪険にしないでくださいよ」

「困ったような顔したって駄目だからね。あたしとアンタは天敵なんだから!」

フンッ、と怒りながら顔を逸らす仕草は、やはり小動物のようで。
可愛い。

「ナツさあ、なんでそんなに神さんに敵対視すんだ?」

「信長、あんたあの出来事忘れたの?!」

「いや、忘れてねーけどさ……でも、それについては神さんだって謝ったじゃんか」

「そうだけど……謝ればいいってもんじゃないし」

「つーか、それだけの理由?」

あきれた口調で信長がそう返すと、ナツさんはうつむいてしまった。
今のところ俺は口を挟まないほうがいいよな、と思って黙っているんだけど。

流石に微妙な状況になってきた気がする。

次第に、ふるふると震えだしたナツさん。
すくっと立ち上がり、

「それだけ、とか言うな!あたしには屈辱的だったんだから!!」

そう叫んで、手に持っていた何かを信長に投げつけた。

「いっ、イテェ!!なにすんだよ!!」

「せっかくあんたと食べようと思って作ってきたのに!!もう知らない、あたし帰る!!」

そして、勢い良く扉を開けて出て行ってしまった。

「ってぇ……んだよ、アイツ……神さん、なんかすんません……」

「いや、俺はいいけど……それよりも、彼女、追いかけてきてもいい?」

「え?あ、はい!もちろんっッス!」

「サンキュ」

お礼の言葉だけ残し、俺も信長の部屋を出る。
その時玄関からガチャリという音が聞こえたから、ナツさんは今外に出たばっかり。

余裕で追いつける。


急いで靴を履き、続いて外に出た。

ナツさんの、小さな後姿が見える。


「ナツさん!」


名前を呼ぶと、一瞬ピクリと反応したが、すぐに走る体勢に入った。
来るな、というサインだろう。

でも、追いかけずにはいられなかった。

ちょっと走れば、大抵の人には追いつく。
彼女も例外ではなく、すぐに追いついた。


「ナツさん、待ってください」

彼女の手を掴むと、その場にピタリと止まった。

「離して、よ!」

こっちを見向きもせず、腕だけ振りほどこうとするナツさん。
様子が少しおかしい気がする。

「ナツさん、こっち向いてください」

「…………やだ」

「泣いてるんですか?」

鼻をすする音が聞こえて、泣いてるんじゃないかと思ったら。
素直に口からその言葉が出てしまった。

「ッ……あんたって、ほんっとデリカシーないわね!ほっといてよ!!」

再び腕を振りほどこうとしながら、振り返って俺を睨みつける目には、涙が零れていた。


「…………信長のことが、好きなんですか?」


そうとしか思えなかった。
俺が居て、それが嫌だから泣いたにしては理由が浅すぎる。
それよりも、信長に簡単な言葉で返されてしまったことが悲しくて泣いたとしか思えなくて。

ナツさんが信長のことを好きだったら、俺はどうしたらいいんだろう。

胸が、締め付けられるように痛かった。

けれど、ナツさんから返ってきた言葉は、意外なものだった。

「……そうじゃ、ない」

肯定ではなく、否定。
不謹慎ながらも、一瞬にして俺の心に安堵が訪れる。
そしてすぐに違う疑問が。

「じゃあ、なんで泣いてるんですか」

もう逃げる様子でもなく、その場に立ち尽くすナツさん。
掴んだ腕には力が入っておらず、俺が掴んでいるから持ち上げられているだけ。

「……こわされるとおもった」

「壊される?」

「のぶなが、との、かんけい」

涙交じりの小さな声で、ゆっくりと紡がれる言葉。
正直なところ、その言葉の意味が理解できない。

困ったな。

どうしようか悩んでいると、彼女の口からは言葉が続く。

「ちいさい頃からあいつと一緒で……喧嘩なんてしたことなかった……でも、あんたのっ……せい、で……」


あんたのせいで


そう言われた瞬間、俺は掴んでいた彼女の手を離してしまった。

泣かせる気などなかった。

傷つける気など、なかった。

けれど、俺の取った行動のせいで、彼女に嫌な思いをさせてしまっている。

最近の出来事の一環においても、嫌な思いをさせてしまっているという言葉は当てはまるのだが、今回の場合は勝手が違う。

ナツさんは、信長との関係に、俺が……他人が割り込んで来るのが嫌なんだ。
恋愛感情ではないにしろ、従姉弟という関係は、彼女にとって、きっと物凄く大切なものなんだろう。
他人から見て、それが本当に大事なものかといえばそうでもない人だっているし、人によって価値観は違うけれど。

それに気づくことができなかった俺は、ナツさんと信長との関係に土足で上がりこんでしまったようなものではないだろうか。



この時、俺は俺自身がどんな表情をしていたのかは分からない。
けれど、ゆっくり顔を上げて、俺の顔を見た彼女は。


「…………ごめんなさい」


また、涙を溢れさせながら、俺に対して謝罪の言葉を述べた。

「それは俺が言うべき言葉でしょう」

俺は、そんな彼女を引き寄せて。
自分の胸に押し付けるようにして、抱きしめた。

そんなことするつもりはなかったんだけど、体が勝手に動いてしまったのだ。

そんな俺の行動を拒むでもなく、ナツさんは小さな体を震わせながら、小さく、小さく泣いていた。



傷つけてごめん。でも、貴方の事が好きなんだ。
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