理解不能(神)凸凹シリーズ3


午後になって、突然雨が降り出した。
傘を持ってきてなかったあたしは、しばらく学校で雨宿りしようと決めた。

友人たちはみんな天気予報を見て、ちゃんと傘を持ってきていたので先に帰ってもらって。
一緒に入っていこう、と言ってくれた子もいたけれど、どうぜ図書室にも用事があるし、時間が経てば止むだろうと思って断ったのが間違いだった。


そろそろ部活動も終わる頃。
雨は、ますます酷くなっていた。

自分が図書委員なのをいいことに、図書室にこもって仕事をしたり、気になっていた本を読んで時間を潰していたにも関わらず、結局無駄なこととなってしまった。
どうあがいても雨に濡れることは間違いなしだったなんて。

いや、HRが終わってから友人たちと一緒にすぐに帰っていれば良かったんだ。
その方が、まだ犠牲は少なくて済んだ。

今のこの土砂降りの状況で、どうやって帰れと……。


まだ、職員室にも何人かの先生が残っているはず。
職員室の置き傘、借りれないかな。

図書室を出て、鍵を返すついでに傘を借りれたらいいな、と思いながら、職員室に向かった。



「河合ナツさん」

「ん?」

後ろから足音が聞こえて、フルネームで名前を呼ばれた。
振り向くと、そこにはあたしの宿敵が立っているではないか。

「じ、神宗一郎……!!」

ああー、嫌なヤツに会ってしまった……!
最初に出会ってから、苦手なんだよこの人。
やたら身長でかいしさ、人のこと年下扱いするし。

校内では極力会わないようにしていたのに……!

「今帰りなんですか?」

「そー。っていうか、気安く話しかけないでよね!」

「ははっ、相変わらずですね」

こっちがツンケンしているのに、神宗一郎は柔らかい笑みを向けた。
なんか、調子狂う。

こいつに構っている暇などないのだ、あたしは先生から傘を借りて帰るんだから!


「失礼しまーす」

神宗一郎に背を向けて、職員室に入った。
すると、彼も後ろから入ってくるではないか。

「なんで付いてくんのよ」

「体育館の鍵を返しに来たんですよ」

ホラ、と鍵を見せながらそう言った。
それならそうと早く言え。
あ、あたしが聞かなかったのか。

って、どうでもいいのよそんなことは。


「先生、図書室の鍵返しにきました〜」

「おお、河合。こんな時間まで残っていたのか、お疲れ様だな」

「いえいえ。で、相談なんですけどね、職員室に置き傘なんてものはないですかね?」

「置き傘かー……今日は何人か借りに来てたからなぁ……ちょっと待ってろよ」

図書委員の先生は、よっこいしょ、と席を立って、傘を探しに行ってくれた。
その瞬間、バスケ部監督に鍵を返している神宗一郎と目が合った。

なんか嫌だったので、フイッと逸らして、図書委員の先生を目で追うことにした。
恋愛感情とか、そういうんじゃないんだけど。
あいつ、変に意識しちゃってヤダ。

「あー、すまんな、もうないみたいだ」

「えええー、そうですか〜……残念」

残念ながら、置き傘はもうなくなってしまったらしい。

「大丈夫か、この土砂降りだもんな。送ってやりたいのはやまやまだが……」

「いえ、大丈夫です!まだ手はありますので!」

「そうか。気をつけて帰れよ」

「はい、じゃあさようならー!」

先生に別れを告げ、職員室を飛び出た。
神宗一郎がいるってことはさ、男バスである信長だってまだいるはず!
体育館に向かえば、きっと信長が一緒に帰ってくれる!

そんな期待を抱き、体育館へと走った…………の、だが。

電気はついてない、人の気配もない。
もちろん鍵も閉まってる。

もぬけの殻。

「あ〜〜〜……そんなぁ。誰もいないなんて、帰り支度早すぎるんじゃないの?」

どうしよう。
信長がいないんだったら、本気で濡れて帰るしかないんだけれど。

「良かったら、俺の傘に入ります?」

この声は……

「神宗一郎!なんでここにいんのよ」

「なんでって……ナツさんが、体育館に走ってったの知ってるから」

「なんで知ってんのよ!」

「さっき先生と傘の話をしていたじゃないですか。俺にも聞こえてて。で、ナツさん、傘ないんでしょ?」

「盗み聞きとはいい度胸してんじゃないのよ」

「……ぶはっ!!なんでそうなるんですか、本当に面白い人だなぁ……自分がどれだけの声で喋ってたか、自覚あります?」

わ、笑われた!
年下に……!くそう、悔しい……!!
しかも、どれだけの声で喋ってたかなんて……なんて…………あたし、結構大きな声で喋ってた、かもしれない……ね。

「聞こえて当然でしょ」

「う、うるさいなぁ、もう!!」

「で、信長から聞いたところ、家も近いみたいだし、送っていきますよ」

「え……か、傘二本持ってないの?」

「生憎ですが、一本しか」

うっ……!
神宗一郎と相合傘になるのか……!
それはそれで屈辱的な……でも、これだけの土砂降りの中を帰るのも嫌だし……!

「あ、そうだ!信長、まだそんなに遠くまで行ってないよね!今なら電話しても間に合う……」

「俺、自主練してたんで。みんなはもう一時間は前に帰宅してますよ」

「な、なんてこったい……!!」

「あはは、その台詞、二回目だ」

二回目だとか一回目だとかそんなこといちいち覚えているのかこの男は!
きちきちした性格っぽいもんね、っていうか笑うなっつーの!!

「どうします?これだと確実に風邪引きますね」

「うぅ〜〜〜…………お、オネガイシマス……」

神宗一郎にお願いをするのは凄く納得がいかなかったけれど、濡れて帰るのは絶対に嫌だし。

「言っておくけど、これでこないだのチャラになるくらいだかんね!借りを返せとか言われても何もできないかんね!」

「わ、わかってますよ!」

ぶぶっ、と、またもや吹き出して笑っている神宗一郎。
なんだコイツ、なんでこんなに笑うんだ!
あたしそんなにおかしい事言ってないし!!

「じゃ、どうぞ」

言いながら広げられた傘に、ちょこんと入らせてもらう。
入ったはいいけれど、身長差がありすぎて……凄い、入り辛い。
でも、こっちは文句を言える立場じゃないしな……もう、大人しく無言で横を歩くしかあるまい。

たまに神宗一郎が隣でクスクス笑っている。
ほんと、変なヤツだと思う。
けれど……、こうして傘に入れてくれてるんだもんね、まあ少しはいいやつなのかな。
信長が慕ってるくらいだし。
あの一件に関して、信長はすんごいフォローを入れてきたし。

……そんなことでほだされないけど!

そして、しばらく無言で歩き続けること15分。
駅に到着し、それからまた無言で電車に乗った。

もうすぐで、降りる駅に到着する。
そういえば、神宗一郎がどこの駅かは聞いてなかったな。

「あんたどこの駅なの」

「俺はあと2駅先のところです」

言った後、彼は『あ、しまった』という顔をした。

「え、じゃあ一緒じゃないじゃん。あたし次の駅だし。駅からどうやって帰れと」

ちょっと嫌味っぽく言うと、にっこり笑う神宗一郎。

「大丈夫ですよ、送るって言ったでしょう」

「え?ウチまで?」

「そのつもりでしたが」

「いやいやいや、いいってそんなの。駅についてから帰る方法考えるから」

隣にいるのが信長だったらなー。
駅も一緒だし、家も近かったから、送ってもらえたのに。
さすがに、違う駅の奴に送ってもらうのは……例え、神宗一郎でも申し訳ないって思うわけよ。

『送ります』
『いいよ』

そんな言い合いを繰り返していたら、駅についてしまった。

降りようとする神宗一郎を、無理やり車内へと押し込む。

「いいって、大丈夫だから!」

「いや、でも」

「いいって言ってるでしょー!!」

この時のあたしは、満員電車の人ごみを押す駅員さんばりに踏ん張ってたんじゃないかと思う。

すると、次第に神宗一郎は諦めたようで、力が弱まっていった。

「じゃ、これどうぞ!」

「え、わ!!」

ぽいっと投げられたその傘を、慌てて受け取った。
次の瞬間、プシューと音を立てて、電車の扉は閉まってしまった。

え、どうすんのよこれ!
あたしは風邪引いたって構わないけど、あんた大事なバスケ部のレギュラーでしょ!
試合も近いんでしょ!!
あんたが風邪引いたらみんなが困るじゃないのよ!!

そう叫びたかったけれど、流石に人ごみの中で叫ぶ勇気はない。

ゆっくり発車しようとする電車の中の神宗一郎を目で追うと、鞄の中から何かを取り出して。
そして、あたしに見えるように掲げた。


お、折りたたみ傘……!?


呆気に取られた表情のあたしを残したまま、神宗一郎を乗せた電車は過ぎ去っていく。

か、傘二本持ってたんじゃん!
意味わかんないんだけど!

嫌がらせ?
嫌がらせなの?

あたしがあいつの事苦手って分かってての嫌がらせなの?

あー、もう!!
ほんっと意味わかんない!!
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