願い、届け(ラゼル)


※連載とは別モノのお話です※



今日は、ゼビオンの建国記念日だ。
元の世界でいうと、7月7日。七夕にあたる。

私がこの世界に来たのは今から一年前のことで、その頃はまだラゼルともテレシアとも知り合いではなかった。
それなのに色々な偶然が重なって、最終的にはザラームとの戦いにまで参加してしまったのだから、人生って何が起こるかわからない。

本当はいつでも元の世界に帰れるのだけれど、一年経ってもこの世界に居るのは理由がある。
それは至極単純な話で、私がラゼルの事を好きになってしまったからだ。
元の世界に帰ってしまったら、もう一生会えない気がする。
最近はラゼルも私に対して満更じゃなさそうな気がして、いつまで経っても帰る決心がつかないのだ。


「おや、ナツじゃないか。久しぶりだね」
「オルネーゼ!元気してた?」
「ああ、あたしはいつでも元気だよ。そういうあんたこそ、上手くやってるのかい?」
「うん?私も元気だよ」
「…そういう意味じゃなかったんだが…まあ、いいか。もうすぐツェザールも来るはずだよ」

私は、今日のお祝いのメイン会場である街の広場に居た。
設営を手伝いたかったのだが、王の友人に手伝ってもらうなんてとんでもない、と、足止めを食らっていたところだったのだ。
そんな時に話し相手、しかも大好きな戦友が現れたのだからテンションは自ずと上がってしまう。
オルネーゼとツェザール、二人と会うのも久しぶりだ。

オルネーゼが後ろを振り返れば、ドシン、ドシンと軽い地響きのような音が聞こえた。
その音は段々と近づいてきて。

姿が見えたと思ったら、ジャイワールのジャック将軍と、その後ろからツェザールが顔を見せた。
何故ジャック将軍?と思っていると、彼は大きな笹を抱えている。

「ツェザール!例のモノ、持ってきてくれたんだね」
「ああ、探すのに少々手間取ったがな。ナツはこれが欲しかったんだろう?」
「ん?私?」
「そうだよ、あんたが欲しがってたんだろ。ラゼルからそう聞いてたんだけど…違ったかい?」
「ラゼル…あっ、心当たり、ある…!」

昨日の事だ。
ラゼルと二人で話す機会があって、建国記念日の話と七夕の話をしたんだった。
いや、でも、夜だよ?もう寝る直前のことだったよ?
それなのに、昨日の今日で用意できちゃうものなの?

「それだけラゼルはお前のことを気に掛けているんだろう」
「えっ、私何も言ってないんだけど」
「お前は表情に出やすいということを忘れたか。人の感情などに鈍い俺ですらわかるほどにな」
「ああ…そうでしたね。以前はそれでいろんな人にからかわれましたね。っていうか、ツェザール久しぶり!ジャック将軍もお久しぶりです!」
「今更か、というか何故ジャックには敬語なのだ」
「いや、なんか、風貌が敬語を使えって感じで」
「グェッヘッヘ…ツェザール様に敬語でない以上、オレにも敬語など必要ない」

あ、そうなの。
まあ、あんまり関わったこと無かったからっていう事もあったんだけどね。
ぶっちゃけどっちでも良かったですとは言いません、すみません。

「それで、ラゼルとテレシアはどこにいるんだ?」
「ああ、二人なら各国の王様たちと挨拶してる頃だと思うけど」
「今日はいろんな国の王様も招かれてるみたいだしね、あの二人も立派な王様になったもんだ」
「ねえ、ほんとそう思うよ」

最初は不安気で頼りなく見えた二人だったけれど。
職に就いてしまえば、何てことは無かった。郷に入っては郷に従え…とはまた違うか?
言ってしまえば、二人が王様っていうのが当たり前の日常になっているのである。
だから私の相手をしてくれる時間も少し減ってしまったけれど、それでもその友情に変わりはなかったから嬉しかった。
いずれはラゼルも、王族の姫と結婚…とか、しちゃうのかなあ。
そうなったら大人しく帰るしかないな。
っていうか、そうなるまで帰るつもりがないのかって話。
そうなる前に、早いとこケジメを付けた方がいいのかな。


オルネーゼとツェザールも二人に挨拶してくると、広場から移動してしまった。
ジャック将軍と取り残されても困るので、何かと理由をつけてその場を離れることにした。







***



「…ろ、起きろ、ナツ!」

どんな屋台が出るのかな、とか、どんなパフォーマンスがあるのかな、とか。
そんな事を考えながら適当にフラフラしていれば、そのうちに疲れがやってきて。
いつの間にか居眠りしていたらしい私は、自分がどこに居るのかもわからなかった。

ガクガク肩を揺すられ、ぼんやりとした視線の先にはラゼル…

「ラゼル!?」
「おう、俺だ」
「俺だ、じゃなくて!え、なに、私いつの間に広場に戻ってきてた?」
「おまえ、ラオ荒野への入り口付近のタルに寄りかかって寝てたんだぜ。広場に戻ってきたのは自力じゃなくて、俺が連れてきたの。持ちあげたって起きやしねーんだもん、どんだけ深く眠ってたんだよ、あんな疲れそうな場所で」
「いやあ、私いつでもどこでも寝れるもので…」
「自慢気に言うことじゃねえから!」
「アイタ!」

軽いデコピンを食らったが、ぼんやりとした頭をすっきりさせるには十分だった。
周囲を見渡してみると、既にパーティーが始まろうとしていた。
色とりどりの屋台、街中に光るネオン。
盛り上げるための音楽隊や、パフォーマーが揃っていて、まるで童心に返ったかのように心が躍った。
広場のメインは、ジャック将軍が持ってきたあの笹。
笹には遠目に見てもたくさんの短冊が飾られていて。

「あれって、街中の人に書いてもらったの?」
「ああ、朝のうちに配っておいてもらったんだ。その方が七夕ってやつっぽくなるんだろ?」
「っぽくなるっていうより、もうそのまんまだよ。それにしても昨日の話をここまで再現してくれるなんて嬉しいな…ありがとう、ラゼル」
「別にナツのためじゃねえし。話を聞いて、俺が見たいと思っただけだし」
「えっ、あっ、そ、そっか。ごめん、なんか盛大な勘違い…!」
「おー!か、勝手に勘違いしてんじゃねーよ!」
「……?」
「な、何だよこっち見んなよ」

なんか、様子がおかしい。
私が本当に盛大な勘違いをしていたとしよう。
だとしても彼はこんな風に突き放す物言いはせず、笑いながらざまーみろ、的なノリで返してくるはずだ。
この言動にも、思い当たることがあった。
あれは私がこの世界に来て、最初にテリーと出会った時の事だった。
喋っているテリーのツンデレ具合が可愛すぎて、思わずツンデレサイコー!と叫んでしまったのだ。
それからしばらく、ラゼルはツンデレに対して質問攻めにしてきたことが記憶に残っている。
つまり、その時の説明と、現在のラゼルの言動と。似ているのだ。
せめてもう少し応用してくれたら、私は気づかなかったかもしれない。
だが悲しいかな、気づいてしまったからには突っ込まずにはいられない。

「ラゼル」
「あ?」
「もしかして、それツンデレのつもり?」
「はっ、はぁー!?そんなわけないだろ!」
「そうやって慌ててること自体、肯定してるようなもんなんだけどね。ラゼルは演じるのが下手だねー」

笑いながらそう言えば、彼はプイッと後ろを向いてしまった。

「……あー、そうかよ。折角おまえのためにやってみてやったのに。そんな風に言われるんじゃ、もういいよ」
「いじけた?」
「いじけてませんー」

その言い方がもういじけてますよねラゼルくん。

「ラゼルは、変わらないでいてくれて嬉しいなあ」
「今の流れでどうしてそうなった」
「いやー、だってさ、王様になってもう結構経つのに、私には普通に接してくれるじゃん。もちろんテレシアもね」
「そりゃ、王様になったからって友達に対する態度を変えてたらおかしいだろ。俺、そういうの嫌いだし」
「友達、ね」
「?なんだよ」

その言葉を聞いて、私はラゼルから少し距離をとった。
飾られたイルミネーションがキラキラと光って、ラゼルの顔にも反射していた。
それは、まるで写真の一コマのようで。
とても綺麗だと思った。

「あのね、私、そろそろ元の世界に帰ろうと思うんだ」
「は!?いきなり何だよ、そんなの聞いてないぞ」
「うん。今初めて言ったもん」
「にしても突然すぎるだろうが!理由はなんだよ、理由は」
「理由は、さっきのラゼルの発言が決定的かなー」
「俺の発言…?」
「そう。私たち、友達だよね?ラゼルがそう思っててくれてることは、凄く嬉しいんだ。でも、私は違うの」
「違うって、どう…え、あ、」

顔を真っ赤にした私に気づいたラゼルは、しどろもどろになる。
この先言おうとした事、わかってくれたみたいだ。
だったらハッキリと打ち明けてしまおう。そして、スッキリしたところで潔く元の世界に帰ろう。

「私、ラゼ「ちょーっと待ったぁ!」った!」

言いたいことを言わせてもらえずに、言葉を遮られ。
それと同時におでこに鈍い痛みが走ったと思ったら…なにこれ、紙?

「それ!読め!一文字も逃さずに読め!」
「なに…」

言われた通りに紙に書かれた文字に目を通すと、自分でもさっき以上に顔に熱が集中していくのがわかった。

「ラ、ラゼル…これ…」
「本気じゃなきゃそんなん書かねーよ!」

ラゼルの顔も真っ赤だった。
そんな顔見せられてさ。
そんな恥ずかしそうにされてさ。

『ナツが、俺の嫁になりますように』

こんな願い事の書かれた短冊なんて渡されちゃったら、私、もう帰るっていう選択肢なんてないよね?

「ええと…」
「ナツが好きなんだよ!察しろバカ!」
「つ、ツンデレ!」

勢いのままに口から出た告白に、私はとんちんかんな返答をしていた。

私、この世界に骨を埋めようと思います。
その前に、ラゼルの広げられた腕に、自分の体を埋めてもいいですか。

とりあえず、二人して顔が真っ赤なこの状況…知り合いが誰も通りませんように、と強く願うのであった。

2016.7.5 瑠朱様(ラゼル/七夕・願い・ツンデレ)
願い、届け(ラゼル)

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