幸せなんだろうな、きっと(宮城)


確かに、俺が悪いのかもしれない。
毎日のアヤちゃんに対する態度は特別にしてきたから。

でもそれはもう半分癖ってもんでさ、本当に好きな子は別にいる。
アヤちゃんだってそれは分かってくれてるし、いつも『アタシに対するその態度であの子に接してやれば?』とか言われたりするけど、そんな事突然やったら『好きです』って言ってるようなもんじゃないか。

冗談抜きでそんな態度が出来るほど、恋愛に関しての度胸なんて持ち合わせてないんだけど。
どうしたらいいんだ、全く。

そんなこんなでうだうだしてたら、俺の目の前に凄く嫌な風景が飛び込んできた。

「三井先輩、こんにちは!」

「うす、ナツ。オマエは今日も可愛いなー」

「ちょっと、もう!何言ってるんですか、三井先輩ってば!」

俺の好きな子、ナツちゃんにちょっかいを出してる三井サン。
つい最近、いきなりすぎるほどにこの二人の仲は急接近した。
まさか付き合ってるんじゃないだろうな!?
とか思ったりもしたけれど、まだそれはないみたいで、とりあえず安心してる。

でもさ!
三井サンは女の子に対して軽々しく可愛いとか言わない人だし、ナツちゃんだってまんざらじゃなさそうなこの雰囲気。
いつ二人がくっついてもおかしくないんじゃねえの!?

俺の入り込む隙なんてあるのか?

「おう、宮城。何じぃーっと見てんだ」

「え?あ、いや、別に何もないッスよ」

「ははーん、さてはお前もナツにちょっかい出したいとか?」

「っはぁ!?そんなことあるわけないでしょーが!」

「フーン……そーかよ、行くぞナツ」

ったく、なんつー声の掛け方すんだ、三井サンは。
おかげで心臓ちょっと縮んだじゃねーか!

ふと気づくと、ナツちゃんは少し恨めしそうな表情で俺のことを見ていた。
え、なんで?
俺、知らない間に何かしちゃったとか?

「あ、あの」

ナツちゃんに向かって声を掛けたが、それよりも先にくるりと振り返ってマネージャー専用のベンチまで行ってしまった。


……はー。
タイミング、逃しちゃったな。

仕方なしに自分もコートに戻ろうとして振り向くと。

「なっはっはっは!リョーチンだせーな!」

がしっと、花道に肩を組まれた。

「あぁ!?」

「いやいやいや、キミがそんなにオクテ君だったとはねぇ!うーん、あれじゃあそのうちミッチーとくっついちまうぞ」

「はぁ!?」

花道のくせに何言ってんだコイツ!
つーか、それ以前にだな。

「花道オマエ、何を知ってんだ」

「ん?もちろん、リョーチンがナツさんの事をす「わー!わー!わー!!」

こいつ、何で知ってんだ!!
完全に全て言い終える前に、花道の口を両手でバシッと塞いだ。
こいつ声でかいから、近くの部員に聞かれたんじゃねーかな、と思って焦って周りを見渡したが、一応大丈夫みたいだ。

花道の頭をぐいっと抱え込み、小声で話す。

「なんでおまえがソレ知ってんだよ!」

「それはミッチーが……いやいや、見ていてバレバレなのだよリョータ君!」

「ば、バレバレだとう!?」

「おう、バレバレだ!」

うっわ、マジで?
マジかよ。
花道にバレバレっつーことは、他の部員だって気づくはずだよな?
いやでも、俺そんなにヘマした覚えないんだけど!
アヤちゃんへの態度で布石を打っておいたはずなんだけど!

「まあまあ、この天才桜木、リョーチンに協力をしてやろうと思ってな」

偉そうに言う花道に、少し苛立つ。

「オメーが言えた事かよ。晴子ちゃんであんなにしどろもどろしてる奴がよー」

「ぬっ、それは言わない約束!」

「んな約束してねーよ!」

「うぬぬぬ!!いいんだよ、それとこれとは話が別だ!協力がいるのかいらないのか!?はっきりしやがれい!!」

花道からの協力……なんか余計なことをしでかしそうな予感がするんだが……いや、でも花道はナツちゃんと同い年だし、それなりに色々いい作戦があるのかもしれない。
ここはいっちょ、花道に賭けてみるか……!

「よ、よし。じゃあ協力してもらうぜ」

「ムフ。おっけーい!任せろこの天才に!!」

「どわっ!!」

奇妙な笑い方をしながら、突然体をピーンと伸ばし、いつもの仰け反りながらの天才ポーズ。

「しかし、任せるってどう……って、おいこら花道!どこ行くんだ!」

「まあまあ、リョーチンはそこで待っててくれって!」

待ってろ、って言われても!
あっちはマネージャーベンチじゃねーか!
何しに行くんだ、アイツ!!

だああああああああ!思ったとおりだ!
バカ花道、何でナツちゃんに話しかけてんだ!
しかも、こっち見てるし!
指差してるし!!

うわ、席立った!
こ、こっち来た!!!

「おう、連れてきたぞ!」

「ばっ、バカ!連れて来いなんて言ってねーじゃねーか!」

そう言ってハッとした瞬間、もう遅かった。
さっきみたいに少々恨めしそうな顔、再び。

「……私、必要ないですか?」

「え?いや、必要ないとかそうじゃなくて!」

「じゃーなー、リョーチン!あとは上手くやれよ〜」

「あっ、てめ!!花道!!」

やーっぱ花道なんかに任せんじゃなかったぜ!
どうすんだよ、この状況!!

「宮城先輩、私のこと嫌いなんですか?」


……え?


「え、ちょっと待って、今なんて?」

「ですから、宮城先輩は私のこと嫌いなんですか?」

「な、何でそう思うの?!」

完全に誤解されてねぇか、俺?
あの恨めしそうな顔って、俺に嫌われてると思ったからとか?

「だって、私に対してあんまり目を合わせてくれないし……彩子先輩に対する態度だって違うし」

「あ、アヤちゃんは特別だから!」

「……そう、ですか」

あーーーーーっ!
バカ、何言ってんだ俺!!
この一言こそ誤解を招く発言じゃねーか!!

「じゃあ、失礼しま「ま、待って!」

再びマネージャーベンチに戻ろうとするナツちゃんの細い腕を、ガシッと掴んだ。
ここで戻られては誤解も解けないし、こんな気まずい関係すっごい困る!

「ナツちゃんと目を合わせらんないのは、は、恥ずかしいからだよ」

そんな言葉を投げかけると、ナツちゃんはピクリと動いた。
そして、ゆっくりと振り向く。
その目には、うっすらと涙が浮かんでいて。

マジかよ、なんで泣きそうなんだよ!

「アヤちゃんへの態度はもう癖みたいなもんだし、実際特別なのはナツちゃんだし!」

「えっ」

あああああああああああああ!!!
本物のバカか俺は!

これじゃあほぼ告白してるようなもんじゃねーか!!!
なんだよこの罰ゲームみたいな状況!!

ちくしょう花道、覚えてろよ!!

「あ、あの、それって……」

「えと、つまりさ「今の時間を何だと思ってるんだお前らは」

「「ひっ!!」」

あ、赤木のダンナ!!
このタイミングでそのドアップは超キツイぜ!!

「あー、ゴホン。もう部活を始めたいんだがな。続きは終わってからにしてもらえないだろうか」

「え」

気がつけば、みんな整列しているではないか。

「いやあ、やるねぇリョーチン!」

「やーっぱナツにちょっかい出したかったんじゃねーか」

「嘘、あの二人ってそんな関係だったの?」

「今告白してたみたいだったぜ」

……ううおおおおおおおおおお!
みんな見てんじゃねーよ!!

っていうか誰か整列する前に声掛けろよ!!

「あ、じゃあ、宮城先輩……私、ベンチに戻ります」

「あっ」

顔を真っ赤にしたナツちゃんは、俺の手を優しく解いて、アヤちゃんの待つベンチへと走っていった。
心なしか、ベンチのアヤちゃんはニヤニヤしているような気がする。




「よォーし!!今日もやるぞ、湘北―!!」

「「「「「ファイ、オー!!」」」」


ファイ、オーとは言ったものの、今日の部活に集中できそうもねーんですけど。
どっかのバカ二人が絶対からかってくるだろうし、そもそも告白したとか言うけど、それだって不完全燃焼なんですけど。


あー、マジ、最悪なのか最高なのかわっかんねー。


いや、でも、この後の状況を考えたら。

幸せなんだろうな、きっと。






「ハッパかけた甲斐があったなー」

「なっ、あれ演技かよ三井サン!?」

「だって、ナツが『宮城先輩に嫌われてるかも』なんて泣きそうな顔してたんだぜ、可哀想じゃねーかよ」

「うっ……やっぱ、俺が悪かったッス……」
幸せなんだろうな、きっと(宮城)

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