エンドレスバトル(神)


バスケ部のマネージャーになってから一年が過ぎた。
二年生になって、自分自身に変化があったことといえば。

神宗一郎との関係。

私は、一年の夏頃に彼の事が好きになった。
いつからかは忘れてしまったけれど、練習が終わった後、みんなが帰っていく中に神はひとりだけ居残りをして。
何本も、シュート練習を続けていた。

その日限りかと思いきや、それから神の練習は毎日続いた。

私はマネージャーだから、試合中にチームメイトが辛い時に代わってあげることなんて出来ない。
出来ることといえば、チームのサポート……みんなが快適に練習できるように、その状況を作り上げることくらいしかしてあげられない。

だから、少しでも神の手助けになればいいな、と思って私も居残りをすることにした。
多少は好きな人と一緒にいられる、というよこしまな気持ちだってあったけれど、純粋に手伝いができたらいい、と思うのが素直な気持ち。

最初は『女の子だし、遅くなると両親も心配するから』と断っていた神だったけど、何度も『大丈夫』を繰り返すうちに、言っても無駄だと思ったらしい。
帰りは神が私を家の近くまで送るという約束で、私がシュート練習の手助けをすることに対し、承知してくれた。

『送ってもらうのも逆に申し訳ないんだけど』

そう告げると、彼はこう言った。

『どうせ俺も同じ方角だし』

同じ方角ならいいや、と思って素直に送ってもらうことにした。
だけど、後から気づいた話、神の家は途中までは方角が一緒でも、途中からは全く別の方向だったのだ。
でも、気づいてから私は彼に何も言わなかった。

言ったところで、神が私の家の近くまで送ってくれることは辞めないと思う。
それは、神がそういう優しい性格をしているから。

ずるいかもしれない。
けれど、神の優しさに甘えているのが現状だ。

だって、好き、なんだもん。
神の一生懸命な姿と、そういう優しさに惹かれてしまった。


私の一方的な想いだと思っていたそれは、最近になって変化してきた気がする。
うぬぼれかもしれないけど、でもうぬぼれたっておかしくない出来事があったから仕方ない。

昨日、帰り途中に手を繋がれた。

一瞬、『え?』と思って神を見ると、神はニコリと微笑んだだけ。
何を喋るでもなく、自然の流れでそうなった、っていう感じ。

いつも別れる場所までずっと手を繋ぎ、いつもどおりの話をしていたから、何があったっていうわけでもなかったんだけど。


手を繋いだ。

たったそれだけの事だったんだけど、神はどうでもいい人にはそんな事しないと思って……だから、もしかして神も私のことを想ってくれてるのかな?なんて、うぬぼれる事が頭をよぎってしまったわけだ。



────
───
──


「あれ、ナツ。まだ着替えてなかったの?」

「うわ!もう戻ってきた!」

今日もいつもどおりの居残り500本シュート練習が終わって、私は一足先に部室に来てたんだけど。
考え事……というか、昨日の事を思い返していたら、神が戻ってきてしまった。

普段はシュート練習が終わり、二人でボールやコートの片付けをして。
その後、神が水道まで行って顔を洗ったりしている隙にあたしが先に着替えてしまうという流れだったのだけど、今日は神の言ったとおりにまだ着替えも何もしていない。

「もうって……時間的にはいつもと変わらないと思うんだけど。何なら一緒に着替える?」

クスリと笑う神に、私の顔に赤みが増す。

「バカ!一緒に着替えるわけないでしょ!小学生じゃないんだから」

「はは、冗談だよ、冗談。そんなに怒るなよ」

「別に怒ってないけどさ……私、外出てるから、神が先に着替えなよ」

「ん、いいよ、俺が出てるから」

「いやいやいいって、シャツも汗かいて冷たいでしょ」

「大丈夫だよ、レディファーストっていうだろ」

「それとこれとは別だって」

「はいはい、いいからいいから」

「あ、ちょっ……と、う、わ!!」

「え?!うわ!!」

私は汗をかいてるわけでもないし、大事な選手に風邪を引かれても困る。
そう思っての配慮だったのだが、神もなかなか引かない。
やはり彼は紳士なわけで、女性優先の考えを持っている。
でもここは私よりも神に先に着替えてもらわねば、と思うのがマネージャーの心得というもの。

そんな言い合いを続けていると、神が外に出ようとしたので、思わずシャツの裾を引っ張った。

すると、彼は体制を崩して。
そのまま立て直すことが出来ず、私も巻き添えをくらって二人で部室に倒れこんだ。

「い……いてて……」

「……あ、頭打った……」

「ご、ごめん!ナツ、大丈夫!?」

「っ!!だ、大丈夫大丈夫!!」

頭を打ったことに気を取られていたけれど、神に声を掛けられ、自分の置かれている状況にびっくりした。
神が、私の上に乗ってる。
顔を覗き込まれている。


ち、近い近い!!

いくら毎日一緒に帰っているからといって、こんなに近くで神の顔なんて見たことはない!

やばい、一瞬にして顔に熱が集まる。

「…………」

「あ、あの、ダイジョブだ……から……」

無言で心配そうに覗き込む神に、心臓がもたない。
だからどいてもらおうと神の肩を少し押そうと手を伸ばした。

……が、それは神の手によって捕まれてしまった。

え、なに、どういうこと

そう思っていると、神の顔がだんだんと近づいて。

吐息がかかってしまう距離に、神の顔が見える。
近いなんてもんじゃない、近すぎる。

そのうちに鼻を掠めて、唇に柔らかい感触。


キス、されてしまった。


実際は5秒にも満たないその時間は、私の中で凄く長く感じた。

神がゆっくり離れていった後、その場から動くことが出来なかった。
立ち上がった神が、私の手を引っ張り、起こしてくれて。

「じゃあ、俺、外出てるから。早く着替えてね」

一言そう残して、部室から出て行ってしまったのである。

神が出て行ったことにより、我に返った私は、すかさず神の後を追いかけた。
ドアを勢い良く開けると、外にいた神はびっくりした顔で。

「ねえ、ちょっと!なに今の!」

「何って……キス、でしょ」

平然とした顔で答える神。
っていうか、そういう事を口にされると余計に恥ずかしいって解って言ってるのか?!

「そうじゃない!私たちって、どういう関係?」

「ナツはどういう関係でありたいわけ?」

「え!そ、それを私に言わせるの?」

……神。

確信犯、だよねこれは。

「俺はナツの口から聞きたいなぁ。レディファーストっていうじゃない」

この時ばかりは意味が違うと思うんだけど……!!
誰だよ、レディファーストなんて言葉を作った奴。
こういう事はやっぱり男の人から言うべきなんじゃないの。

「私は神が言わないと言わない」

「俺はナツが言わないと言わない」

な、なにこの平行線……!!

これじゃあ、いつまで経っても話が終わらない。
でも、私だって負けるわけにはいかない、やっぱり神の口から聞きたいし!
やっぱり私のうぬぼれじゃなかったっていうのを実感するには、神から言ってもらわないとね。

ニコニコする神を相手に言い合いを続けるのは困難な話だと思うけど、これは絶対に折れるもんか。

いつまでだって、闘ってやる。
エンドレスバトル(神)

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