勝手に部屋、入るな!(神)


「宗一郎、入るよー」

「うわ、勝手に入らないでよ、姉さん!」

ガチャリ、とドアノブの回る音が聞こえて、こちらの反応はお構いなしに俺の部屋に足を踏み入れてきたのは俺の二つ上の姉。
俺たちは二人姉弟で。
親の言うことには、近所では仲が良いって評判らしい。

「あれ?またその写真見てるの?ほんと好きだよねぇ。飽きないの?」

「俺は誰かさんと違って、小さい頃の思い出を大切にするタイプなの」

そう、姉さんが言ったとおり、俺は一枚の写真を眺めていた。
それは小さい頃の……俺が小学校に上がったときに、記念に撮った写真。
家の前で、姉さんと二人、肩を並べて写っている。

この頃の俺たちの関係は、まだぎこちないものだった。

俺たちは、姉弟といえど血の繋がりはない。
俺が生まれてすぐに両親が離婚し、その後は母親が引き取って、二人で生活をしていた。
そして、五歳になった頃に今の父親と再婚した。
その父親には七歳になる一人娘がいて……つまり、それが姉さんだ。

「あの頃は宗一郎の方が低かったのにねぇ。同じもの食べて育って来たのに、なんでこんなにも身長差が出ちゃったんだろ」

「さぁ、日頃の行いの違いなんじゃない?」

「あ、何よそれ。ムカツクー」

「で?部屋に勝手に入ってきてまでの用事って何?」

「ああ、そうそう。英語の辞書を借りようと思って。私、学校に置いてきちゃったんだよね」

「辞書ね、ちょっと待ってて」

今ではぎこちなさなど微塵も感じられないくらい、普通に姉弟をやっている。
子供なんて単純なものだ。
両親が再婚して二年も経てば、俺と姉さんはどこにでもいるような、普通の姉弟の関係になった。
一緒に遊びに行ったりもしたし、喧嘩だって日常のこと。
家族で旅行に行った時だって、全然普通だったのに。

いつからだろうか。
その日常に変化が訪れてしまったのは。


いつから、なんてそんなの分からない。
いつの間にか、と言った方がしっくりくる。


俺は、いつの間にか姉さんの事が好きになってしまっていた。
家族愛ではなく、恋愛対象としてのそれだ。

「あ、あった。はい、これ。明日学校で使うから、明日までには返してね」

「有難う、助かるわー」

お礼を言いつつも、部屋を出て行く様子のない姉さんは、辞書をぺらぺらと捲り出した。

「あんたって、ほんっとマメだよね〜、付箋とか色ペンとか、凄い使い分けの仕方。あんまりマメ過ぎても、彼女に嫌われちゃうよ?」

「彼女なんていないけど」

「え、そうなの?宗一郎は男前だし、身長だって高いんだから……彼女の一人や二人、いるかと思ってた」

一人や二人って、それ人として最低だろ。

「あのねぇ……人のこと何だと思ってるの?勝手に印象決め付ける女の人こそ、彼氏に嫌われるよ?」

「……彼氏なんていないし」

「嘘。じゃあこの前の男の人は?俺、偶然家の前で喋ってるの見ちゃったんだけど」

「あれは単なるサークルの仲間!私、ちゃんと好きな人いるし」

「え」

そういうことは好きな人の前で弁解したらいいんじゃないの?

言おうと思った言葉が、声にならなかった。
だって、振り向いた瞬間、姉さんの顔は真っ赤で。
今にも泣き出してしまいそうな、そんな表情だったから。

いつもどおり、普通の会話のノリだったから、姉さんがこんな顔していたなんて、ちっとも気づかなかった。
もっと早く振り向いておけば良かった、なんて思って。

「それって、誰とか聞いてもいい?」

「…………駄目」

背中を向けて、部屋から出て行こうとする姉にすかさず一言投げかける。

「拒否権ないんだけど。勝手に部屋に入ってきた罰として、勝手に部屋から出ることを許しません」

「む、無理言うな!宗一郎のバカ!」

俺の言葉を聞いた瞬間、姉さんは肩をビクつかせ、慌てて部屋から飛び出していった。

逃げていく姿もまた可愛くて。
思わず笑いがこみ上げる。


そんな可愛い姿ばっかり見せるから。

だから、俺みたいな弟なんかに好かれちゃうんだよ。


俺は椅子から立ち上がって、自分の部屋に戻ったであろう姉さんの後を追いかけた。
勝手に部屋、入るな!(神)

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