覚悟はいいかい(藤真)
片想い歴一年弱。
それは今も尚、現在進行形で続いている。
そのお相手は。
「藤真くん、ちょっと聞いて!」
「んー?」
わたしは少々興奮気味に、朝練を終えて疲れているであろう藤真くんの隣りの席に座った。
けだるそうな表情はいつも向けられているから、今更気にしない!
これでも好きになった当初より、かなり近づけるようになった。
最初は、本気でうざがられてると思ったし。
でも最近はちゃんと相手をしてくれるようになった。
それだけでも、わたしは幸せなのだ。
「あのね、今日ね、すっごい夢見たの!」
「何だよ、どんな夢?」
多少呆れたように笑う藤真くんもカッコイイぞ!
「えとね、藤真くんがアメリカに行っちゃってね、なかなか日本に帰ってこないの」
「アメリカ?留学ってことか?」
「うん、多分そんな感じ」
「そんな感じって……曖昧だな、おい」
「まあ、夢だからね!」
えっへん!と、無意味に胸を張ってみると、見事にスルーされて。
『で?』と、続きを促された。
「ああ、そんでさ、わたしはどこかの大きいスタジアムみたいなところに居るわけよ。で、その中の控え室みたいなところに待機してて。そしたら、館内放送で藤真くんの声が聞こえてさ」
「アメリカの?」
「違う、日本の!まだ話は終わってないの、ちょっと聞いて!」
「はいはい」
「わたしは『久しぶりに聞く藤真くんの声だ……!』って喜ぶわけ。それだけでも嬉しかったのに、控え室を出たら、藤真くんが目の前にいて!優しい笑顔で『ただいま』って笑いかけてくれたんだよ!両手を広げてくれててさ、わたし、迷わず泣きながら藤真くんの胸に飛び込んだよ!!」
最後まで言い切って、藤真くんの反応を伺ってみると。
「……なに、その夢」
返ってきたのはやっぱり呆れた表情で。
「だからー、わたしと藤真くんが恋人設定だったってことが重要なんだよ!」
そう言うと、藤真くんは『ぶはっ!!』と吹き出した。
「なんでよー!そこ笑うとこじゃないでしょー!?」
「い、いや……あれだけ力説しといて、結局それかよって……ははは!やっぱり馬鹿だろお前!」
「ひっど!そんな事言われるなら、藤真くんの隣りにいた流川くんの胸に飛び込めばよかったなー……」
「は?」
「え?」
ボソリと呟いた言葉に、藤真くんが反応して。
笑いがピタリと止まったので、思わずわたしも聞き返してしまった。
「何、誰っつった、今?」
「え、だから、流川くん。藤真くんの隣りに流川くんも居てねー、わたしが藤真くんの胸に飛び込んだ瞬間、流川くんが『オレは……?』っていう顔してたんだよー!ヤキモチ妬いてたみたい!」
そう言って『えへへ』と笑ってみると。
「ばかやろ……流川のところなんか行くんじゃねーよ」
「え?」
今度は藤真くんがボソリと呟いて。
「なんでもねーよ、ばーか!」
聞き返したら、なんでもないと返されてしまった。
「藤真くん」
「……なんだよ」
彼の耳が、少々赤い。
「ヤキモチですか」
「ばっか、ちげーよ!オラナツ、HR始まるからさっさと席戻れ!!」
「うわっ、ちょ、押すなー!」
どうやら、藤真くんは照れているらしい。
これって、少しは期待してもいいってことなのかな?
もしかして、恋人設定っていうのは正夢だったりするのかな?
「藤真くーん、将来が楽しみだねー!」
「うっせ!」
教室内であるにも関らず、わたしは藤真くんに向かって叫んだ。
いいんだ、クラスのみんなはわたしの気持ちを知ってるし!
今更恥ずかしくなんてないもんね!
正夢にするためにも、もっと頑張るから!
覚悟はいいかい、藤真くん!
覚悟はいいかい(藤真)