Novel
5:苦しみから逃れたくて

酔っ払いのマーニャに絡まれ、それをミネアが助けてくれて。
それから、アリーナとマリベルとゼシカと少し話をして、ガボと遊んで。
楽しく過ごした時間はあっという間で、周囲がざわつき始めた事に気づいた。

「そろそろ動き出す頃ね…カヤ、心の準備は大丈夫?」
「心の準備と言われてもなあ…って、マーニャは酔いが醒めたの?」
「いやぁね、ちゃんと弁えてるわよ。それに、飲まなきゃやってらんないじゃない」
「それは…まあ、そうかもしれないけれど」

マーニャの言う通り、楽しむところは楽しんでおかなきゃ損なのかもしれない。
双子の王が動き出したら、きっとこんな風にわいわい騒げるようなこともないんだろうなって思うし。
切羽詰まったように思えなかったのは、画面越しに見てきたものだったし、自分が実際に体験したわけじゃなかったから。
今なら、ピリッとした空気がなんとなくだけどわかる。

本当に、なんでこんな事に巻き込まれちゃったのかなあ。
私の代わりに、他の誰かがここに立っていた確率ってどれくらいのモンなんだろう。
そんなん当選するくらいなら、宝くじが当たってほしかった。

この世界でもアカシックレコードというものがあるのなら、神子はアカシックレコードを正常に戻すために呼ばれた存在なのかな、なんて。
そんなカッコいい事を思っても、今すぐ元の世界に帰れるわけじゃない。
そういうの、好きな子が呼ばれたら良かったのにね。
そしたらラゼルもテレシアも、今度こそは!っていう強い意志とやる気が起こったかもしれない。

だって、私はこの世界の主人公に歓迎されてないみたいだから。

こちらに向かってくるラゼルとテレシアの顔を見ながら、ぼんやりとそう思った。

「みんな、準備はいいかしら?カヤはこっちに来て、私たちと一緒に!」
「俺達から離れたら終わりだと思えよ!」
「うん、わかった」

素直に返事をし、二人に誘導されるがままについていく。
その背中はきっと、私を拒否してる。

二人に歓迎されてないと気づいたのは、さっきアリーナ達と会話をしている時だった。
視線を感じるな、と思い、露骨ではなく偶然を装うふりをしてその方向を見れば、こちらを睨んでいると思われるラゼルと、それを制しているテレシアの姿があった。
近くに居たはずのツェザールとオルネーゼは席を外しており、二人だけだ。

どうして睨まれてるのかなんてわからないけれど、私の勝手な考えからすれば、この二人はこの世界に対しての責任感が人一倍強いんじゃないかな、って思う。
だって、本当の双子の王はラゼルとテレシアなのだから。
もちろん他のみんなが軽んじてるってわけじゃないけれど、自分の世界と別の世界とではどこか差が出てしまうのは仕方のない事だ。
だから、二人にとって何度もループさせる原因の神子っていう存在が疎ましいんじゃないかな、と。
本当に勝手な解釈だけど、それしか要素が思い浮かばないんだから仕方ない。
寧ろそれ以外で睨まれてたとしたらショックなんですけど。
神子と言ったって、好きで呼ばれたわけじゃないのにね。理不尽なのにね。
でも、彼らの気持ちもわからないでもないから、反論も否定もしない。
まあ、実際のところ本人たちから直接聞いたわけじゃないから、ただの早合点かもしれないけどね。

何にせよ、私が出来ることはこの世界で無事に生き残ること。
ただそれだけだ。










「来たぞ!」

魔物の大群が現れて、後ろに居るであろうカヤの様子をチラッと見れば、大して怯えた様子もなかった。
どうせコイツも俺達が守ってくれるから、とか思ってんだろ。
いいよな、異界の神子ってやつはお気楽なやつらばっかりで。

こんな風に世界がループするのは、異界の神子なんて余計な存在が在る所為だ。
本来は神子なんて存在、この世界に在るものではない。
そう聞いたのは何人目だっただろうか。
その話を聞くまでは必死で守ってやらなきゃとか、守れなくて申し訳なかったとか、そんな風に考えてたけれど。
聞いてからは考えが一変してしまった。
じゃあ、神子が居なければこんな思いすることもなかったんじゃないか。
余計な存在が、何度も俺達の邪魔をしてるんじゃないか。
俺達がどれだけ頑張ったって、神子がまともなヤツじゃない限り、報われることなんてないだろ。
まともなヤツだったとしても結局皆失敗して、簡単に元の世界に戻っていくじゃねえか。

それに、何であの時なんだよ。
何で、もう少し前に来てくれなかったんだよ。

そうしたら、オレンカ王の命だって救えたかもしれないのに。

…さすがにそれは理不尽だなって、自分でもわかってる。
わかっちゃいれども神子を憎まずにはいられないんだ。

嫌いだ。

異界の神子なんて、大嫌いだ。

今も後ろのカヤにそう言ってやりたい気分でいっぱいだ。
でも、そんな事を言ったって現状が変わるわけでもないし…そう、何も変わりはしない。
発狂しかけた時もあった。
思い切り叫んだこともあった。
だけど、その都度手を差し伸べてくれたのは、神子以外のここにいる仲間達だ。
俺やテレシアが不安定なぶん、仲間達が支えてくれてたんだ。

だから俺は仲間達のために、今度こそこのループを終わらせてやる。
そのためにも今回の神子には最低限普通に振る舞うようにし、最低限必要なぶんだけ接することにする。
ガボはいいニオイだって言ってたけど、もう付き合ってられない。
精々足手まといになってくれるな、と、切に願うよ。


「カヤ、武器は何か持ってる?」
「ぶ、武器?そんな物騒なものは…」
「持ってないんだな。これ、持っておけ!」
「ありが、とっ」

テレシアの質問に対し、丸腰だと答えたカヤ。
この時点で既にふざけんなよと言いたかったが、堪えた。
だって神子はこの先の出来事、知ってるんだろ?
それなのに何で丸腰なんだよ、いざとなったら誰かがどうにかするだろうっていう魂胆ミエミエじゃねえか。
ここで武器のひとつやふたつ、装備してりゃ少しは見直す要素もあんのにな。

覚束ない手付きで片手剣を受け取ったカヤの顔つきが変わった。

…フン、武器を持ったからといって強くなったわけじゃないのにな。
頼むからこんなとこで死なないでくれ。

「さあ、各国の王達が逃げ切るまでひと暴れするか!!」

少しでもいいから憂さ晴らしをしたい。
そう思いながら、攻めかかってくる魔物たちに武器を向けた。

2016.6.23
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