Novel
4:触れて、知って

元の場所に戻るつもりが、とんだ伏兵につかまってしまいました。


「俺に守ってもらいたいって言ってたらしいな。早速俺に惚れちまったのかい?」
「いや、惚れてないし守ってもらいたいのはあなた限定ではないです」

…テリーのやろう、やりやがったな。
笑った仕返しに、ククールをけしかけていったようだ。
今にも薔薇が舞い散りそうな、そんなキザなセリフと甘い雰囲気。
正直、こういうの苦手である。

「おっと、それは照れ隠しか?」
「照れ隠しでもないです」
「それは嘘だな。こんな美形を目前にして、照れないわけがない」

自信満々だなー、確かに美形だとは思うよ。
でもさ。

「この世界は美形が多いから、美のゲシュタルト崩壊が起きている」
「それでも姫様は美しいお方だと思います」
「クリフト。レディと二人っきりの時間を邪魔するとか、お前も野暮だな」

どこからともなく現れたクリフトが、意味不明の言葉を吐きつつ私とククールの間に入った。
意味不明だけど助かったと思うのはちょっとククールに申し訳なかっただろうか。

「野暮というのは聞き捨てなりませんね。カヤさんがお困りのようなので手を差し伸べようかと思っただけですよ」
「お前はアリーナの相手してりゃいいじゃねえか」
「姫様はあちらで他の女性たちと楽しまれている様子。それを邪魔する事こそ野暮というものでしょう」
「はー、理屈っぽいところは何周しても変わんねえな」
「何周しても変わらないのはククールとて同じ…おっと、つまらなくさせてしまったでしょうか?余計なお世話でしたか?」

ボーッと二人のやりとりを眺めていると、突然話を振られて。
そのまま話しててくれて良かったんだけど、っていうか話をこっちに戻されても困る。

「ククールとクリフトって、仲良しさんなんですか」
「仲良し…ぶはっ、そんな可愛いモンじゃないと思うけどな。まあ、ウマは合うよな」
「そうですね、何度か話をしているうちに、職業柄似通った部分があることに気づきまして。そういう意味ではこのループも悪いばかりではないとは思いますが」
「それでも早く終わることに越したことはねえな」
「ええ、もちろんです」
「…話のリズムが独特すぎて、なんかよくわかりません」

ひとつの話をしていたと思ったら、もう次の話になってる。
二人の中では上手くかみ合ってるんだろうけど、私にはよくわからん。
これがウマが合うということか。

「じゃあ、最初の話に戻すとしようか、レディ」
「それは勘弁してくださいってかレディ呼びも鳥肌立つのでやめてください」
「この扱いが気に入らないのか?大抵の神子は目をハートにしてくれたモンだがな」
「ククールは、神子の世界で人気のようですしね」

クリフトが少ししょぼんとしてるっぽく見えるけど、クリフトはクリフトで、姫様姫様言わなきゃもっと人気だったと思うよ。
今だって普通に人気なキャラだと思ってるし。
そして、ククールの言う通り大概の女性はこんな風に扱ってもらえれば喜んじゃうかもしれないね。
私だって、漫画とかゲームとかではフラグキター!って喜んだかもしれない。
でも、現実的にやられてしまうと心がスッと冷めちゃったんだから仕方ない。
それ以前に、人気云々…気にしてるのだろうか。

「普通に友達感覚で喋ってもらえたほうがいいです…そういう扱いだと今後近寄りたくない」
「ず、ずいぶんとハッキリ仰るのですね」
「っは、いいじゃねえか。ストレートに言う女は嫌いじゃないぜ」

例えば、毎回通ってる本屋の店員さんだとか、コンビニの常連さんだとか。
そういう人は今後ともなんやかんや会話したりするんだろうなって思うから、素で対応しようとは思わない。
でも、ここの人達はいつか絶対別れがくるわけで。
そんな人達に対してずっと猫かぶりしたって疲れるだけだし、ただでさえ色々追いついていかないのに、余計なところで精神をすり減らしたくないのだ。
もともとオブラートは苦手な人間だったけど、ここではそのオブラートでさえ捨ててもいいって思っちゃったんだから、もう修正は効かない。

「そんなわけで、そういうのはゼシカにしてあげたらいいと思う」

ククールはゼシカ大好き人間っていう認識だし、クリフトはアリーナ大好き人間っていう認識だし。
だが、どうやらこの一言はタブーだったらしい。
ククールとクリフトの表情が一変した。

「あのな「決めつけはよくありませんよ」
「え」
「おいクリフト、俺のセリフ!」
「ああ、申し訳ありません。ですが、どうしても私の口から言いたかったもので」
「…お前、俺に対して黒属性発動すんなよ」
「黒属性?何の事です?」
「いや、いい。とっとと続き言ってやんな」

ニッコリ笑顔でククールに対応するクリフトは、黒属性そのもののように見える。
普段温厚な人を怒らせるって、こんな感じなのだろうか。
ていうか、何故怒ってるのか…!

「カヤさん」
「は、はい」
「あなたの世界では、私たちのイメージが定着してしまっているのかもしれません。でも、ここではちゃんと意思を持って生きている一人の人間なのです」
「はあ…」
「生きている人間イコール、あなたと同じなのですよ」
「そうですね」
「……」
「……」
「お前、絶対わかってないだろう」

今の話でわかるわけがないだろう。
そういう意味を込めて視線を送れば、ククールは溜息をついた。

「…はー。いいか、よく聞けよ。お前の世界で俺はゼシカ、クリフトはアリーナに気があると思われてるらしいが、それは違うっつってんだよ」
「…ええ!?」
「やっぱりわかっておられなかったのですね」

わかるわけがないだろう。大事なことだ、もう一度言う。わかるわけがないだろう!
だってあんなにあからさまだったのに!?
っていうかさ。

「そんなの、ゲームで見てたのはあなた達の一部分なんだから…わかるわけないじゃん」
「では、どうしてわからないのにイメージを定着させてしまうのですか」
「それは、そういうもんなんだろうって」
「そういうの、偏見っつーんだよ。お前、さっきテリー達と話してただろ?その時やる気ないなら帰れって言われてどう思ったよ」
「勝手に決めつけんなよ、とは…思った…ね」

……ああ、なるほど。私、ククールとクリフトに対してその時と同じことやってんのか。

「そっか…そうだよね。一部分しか見てないのに、その人となりなんてわかるわけないよね」
「そういうこった」
「確かに、定着してるイメージがあるのであれば、そう思っても仕方のない事だとも思うのですけどね。でも、あなたにはそう思われたくなかったのですよ」
「え?なんで?」
「ガボがな、お前からはいいニオイがするっつってたんだよ」

そういうヤツは大概俺達のために頑張ってくれたんだ、と、最後の方は小さい声で言ったククール。
過去の神子達を思い出してか、少しばかり嬉しそうな表情をしていた。

「神子達の中には、ループ阻止よりも私たちの恋路を実らせたいと、変に世話焼きをされたりする方も居たのです。ですが、使命をそっちのけでこちらに構ってこられるので…とても困りました」
「ガボの鼻って、ほんと見事なのな。そういうヤツらに対してはあんまいいニオイしねーな、って言ってたんだぜ」
「ガボくんの人を見分ける力は見習いたいところですが、天性のものですしね」
「で、ガボからそっちの発言が出たヤツに関しては、俺らも干渉するのは止そうって決めたんだよ」
「私はいいニオイがするから干渉しようと?」

自分で言って、一瞬ドン引きした。
いいニオイとか自分で言うもんじゃないな。

「いいニオイタイプのヤツに干渉して悪いことはなかったぜ」
「そうですね、良い影響ばかり残してくださいましたよ。途中で離脱してしまったのはとても残念なことでしたが」

50回もループしてるくらいだから、結構ドライなのかと思ってたけど…実際そうでもないんだね。
それどころか、きちんと向き合おうとしている姿勢が人として素晴らしい事だと思うわ。
私みたいなちゃらんぽらんに真似は出来ないけれど、素直に凄いなとは思う。

「確かに、俺はゼシカに対してそう思われがちな態度を取ってたりもしたさ。だが、あいつは大切な仲間なんだよ。それこそ一生モンだと思ってるくらいには」
「私も、姫様をお慕いしていた時期もありました。ですが、お側にいさせて頂き、姫様と一緒に旅をしているうちに、私はこの方に幸せになってもらいたいのだと気づいたのです」

うわあ。
二人が彼女たちに対して抱いているのは恋心ではないというのは良く分かったけれども。
それって、恋だの愛だのよりももっと強い絆を見せつけられたって気がするのは…絶対気のせいじゃないよね。
なんか、聞いてるこっちが恥ずかしい。

「ええと。二人の言いたいことは良くわかりました。今後は勝手な決めつけもしないし、自分が見たもの、聞いたものを信じていくことにします。だからもうこのへんで勘弁してくれないかな」
「おっと、まだ夜は長いんだ。今までの冒険の話もあるし、退屈はさせないと思うが?」
「私も、言ったからには責任をもってあなたという人物のお話が聞きたいですね」

いやいや、この二人と話してたらきっと私の頭がついていかないと思うのね。
それに、まだ話してない人達もいるし、今後機会があるのかもしれないけど…ようやく話が出来る最初の機会だし、できれば全員と話がしてみたいな、なんて。
思いながら周囲を見渡してみれば、どこもかしこも盛り上がりの輪ができていて、私が入れそうなところは無い…!

「じゃ、じゃあ…もう少しだけ…」
「そうこなくちゃな」
「それでは、ご趣味など…」

お見合いか!というツッコミから始まった話は、意外にもそこそこの盛り上がりを見せて。あれ、結構楽しく話が出来てるかも…なんて思っていた頃に、酔っ払ったマーニャが私を女子会の輪の中へと放り込んだのだった。

2016.6.18
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