Novel
2:繰り返される時刻(とき)

試練の間を出て、それからガゴラに話し掛け、不思議な小箱を手に入れた一行。
大峡谷へと向かい…向かうと言ってもルーラでの移動だったので、時間の経過はほとんどしていない。
なのでまだテレシアからはなんの話も聞けていない…というか、ハッサンに抱えられたままだったりする。
重くないのかな、と思いながらもきっと力が有り余ってるに違いない、と、逞しすぎる筋肉を触ればくすぐったいからやめろと怒られた。
だってぶっちゃけ暇だし。


…なーんて思っていたのもつかの間、大峡谷に到着するや否や、不思議な小箱からアトラスを呼び出したと思えば私はアトラスの肩に乗せられて。

いや、びびったよ!?
突然アトラスの腕が私に向かって伸びてきた時には「握り殺される…!」と思ったもん。
違ったからひとまず安心なんだけど、肩に乗せられたかと思えば我を思うままに扱えなんて言われてさ。
どうやればいいのか問えば、念じればそのとおりに動くって答えられたものだから、とりあえず足元に群がる敵を蹴り飛ばすイメージをしたら、本当にその通りに動いてくれたのだ。

周囲の敵を一掃し、そしてギガントドラゴンに向かって歩いていく。
そこは私が念じたわけじゃないから、勝手に進んでいくのね…!っていうか、怖い!怖いよ!!
あのデカさ、半端ねえ…!
私なんでアトラスの肩なんかに乗ってんの今どういう状況よこれぇ!!
説明、説明が欲しい…!

そんな事を思っている間に、ギガントドラゴンが攻撃してこようとしたので、ゲームでの流れを思い出しながら、攻撃を防いだり怯んだ隙に一発食らわせたりなんかして、じりじりとギガントドラゴンの体力を減らしている…ような、気がする。
だってゲームみたいに体力ゲージ出てないし、どれだけ攻撃すれば倒れてくれるかなんてわかんないんだもん…!
しかも、炎食らったら熱いじゃ済まされないよね。確実に。
それだけは絶対に避けなければならない。


とりあえずしばらく攻撃と防御を繰り返していたら、ギガントドラゴンはすさまじい雄叫びをあげながら地に倒れていった。

そして私は地上へと降ろされ、アトラスはその姿を消し、これでようやく説明してもらえるのかと思いきや、そんな暇もなく次々と敵が現れたのでみんなは前線へと走って行ってしまった。
そういやこの後は二回目の大峡谷戦だったっけか…なんて軽く思ってみたものの、早すぎる展開になにもついていけないよ私。


遙か後方をチラッと見ると、そこには兵士達に囲まれたゼビオン王が。
黒幕は知っているから、できればそっちには近寄りたくない…と思っていると、誰かに肩を叩かれた。

「うぉわ!」
「おや、すみません。驚かせてしまいましたか」
「と、トルネコさん?」
「はい。ご存知のとおり、私はトルネコと申します。今更ながらお名前を伺ってもよろしいですか?」

ここに来て初めて丁寧に対応してもらった…!
なんか、ジーンとする。トルネコさん、私の中での好きなキャラランクが上がった!

「私、佐原カヤです」
「カヤさん、でよろしいですかな?」
「はい。ええと、私がここにいるのは夢じゃないってことはわかりました。でも、何でここにいるかとか、何故私なのかとか、全然わかってないんです。トルネコさんは知ってるんですか?」
「ええ、もちろんですとも。私だけではなく、共に戦う仲間たち全員が知っていますよ。ロクに説明もできずに申し訳ありませんでした。みなさん一刻も早くこの無限ループを終わらせたいと思っているものですから」
「無限ループ?」
「そう、私たちは同じ時刻の中を、かれこれ50回も彷徨っているのです」
「ご、50回!?」
「はい。今はみなさんが戦いに行っているのでしばらく説明する時間もあるのですが…詳しくお話するには、少々警戒しなければいけないこともあります」
「警戒?ですか?」
「カヤさんは、今回の黒幕が誰なのかご存知なのでしょう?」
「えっ」

思わずゼビオン王の方を見ようとすると、トルネコさんに頭をガシッと掴まれた。

「ダメです、気づかれたらあなたの命が危ない。向こうは見ずに、このまま話を聞いてください」

向こうを見るなってのはわかったけど、トルネコさん意外と強硬手段に出るのね。
温厚だと思ってたから、顔を掴まれてびっくりしたわ。
だが悲しいかな、少しもドキッとしなかったわ。

「全ては異界の神子の召喚儀式から始まったのです。古代兵器…アトラスを使いこなすためには、異界より神子を召喚しなければならないとこのことで…って、これはもう実際に体験しましたから、おわかりですね?」
「そこの部分は、まあ…」
「異界の神子というのは重要な役割なのである!」
「わっ!」

突然右後ろから声が聞こえたから、またもやビックリしたよ。
その方向を見てみれば、ふわふわ浮いた…ああ、ホミロン教官か。

「おや、ホミロンさん。戻ってきたのですか?」
「うむ!我輩は後方で待機…いやいや、異界の神子を守るという大事な使命があるのである!」

なんつーか、日本語崩壊してるような気がするけど可愛いから良しとしよう。
遠目でしか見えないから良く分からないけれど、みんなの戦いっぷりを見てたら確かにホミロンの回復は必要なさそうな感じがする。
っていうか、あっという間に敵が後退してってるんですけど。
強すぎやしませんか、ねえ。

「トルネコさん、みんなって…その、強くないですか?」
「ふむ…そうですね、確かにみなさんはお強いです。ですが、今までの経験を生かしての動きでもありますから、攻略法もわかっているのですよ」
「それって、その50回繰り返した記憶が全て残ってるってことですか?」
「コラー!我輩を無視するでないぞ!」
「あっ、ごめん。ホミロン教官だよね?」
「いかにも!我輩はホミロン教官である!おまえの名前は何だ!」
「私はカヤだよ、よろしくね」
「うむ!よろしくしてやろうではないか!」

普通に初対面でお前とか言われたらイラッとするけど、ホミロン可愛いから許しちゃう。
まあ、この世界の男性陣は大概お前呼ばわりしてくるんだろうけれども。
トルネコさんとクリフトが紳士的なだけだ。
ククールは…お嬢さん、かな?それはそれで鳥肌が立ちそう。

「先ほどの話の続きをしてもよろしいですかな?」
「あっ、ごめんなさい。お願いします」

そう言ってトルネコさんが説明してくれた内容は、とてもはいそうですか、と信じられるようなものではなかった。

まず、異界の神子がこの世界にやってくる切っ掛けは、先程聞いた通りにアトラスの試練での召喚の儀式にて。
そして、神子が死ぬと、アトラスの試練のところに時間が巻き戻される。
神子はこの世界で死んだ後、現実世界へと強制送還されるそうだ。
何故その事を知っているのかと聞けば、偶然にも二度召喚された子が居たそうな。
その子曰く、って感じだったらしいけど…それって強運の持ち主というか不運の持ち主というか…実際問題、この世界で二回も死んじゃったってわけでしょ。
まあ、それはおいといて。

50回も繰り返されると、私たちの世界の話も色々と詳しくなっていくみたいで、この世界がゲームだった、という話も知っているみたい。
だから大概の神子は先の流れを知っているので、先回りして黒幕を倒そうかと試みたらしいんだけど、いずれも失敗に終わってるのだとか。
話の順序通りに事を進めていけば、ゼビオン王を倒してその先に進むこともできた。だが、順序を端折ろうとすればやはり上手くいかずに神子は死ぬ。

神子を死なせないためにも、と別行動をとったこともあるが、神子と離れてしまうとそれまであった記憶が薄れていき、道順がわからなくなる。
神子と一緒に行動していれば、今までの記憶が残っているのでスムーズに事が進む。

…なるほどな。
しかし、これってさ。

「拒否することは…できるんでしょうか」
「……ええ、まあ、今までにも拒否してこの場からいなくなってしまった神子もいましたよ。しかし、カヤさんが逃げてしまうとすれば、せっかくギガントドラゴンを倒せたのにまた最初からやり直しですか…ハァ…」
「カヤ、我輩たちを見捨てるのか…!」

ちょ、あの、そんなうるっとした瞳でみつめてくるの、やめてほしいんですけど…。

「ホミロンさん、我々はあとどれくらいの時刻を繰り返せばいいのでしょうね」
「ボクもう頭おかしくなりそうだよぉ…」

目に見えて盛大にガッカリする二人。
ホミロンなんて普通の口調に戻っちゃってるし。

そしてタイミングの良すぎることに、敵を倒しつくしたみんなが大峡谷の最終決戦に挑もうとしている瞬間が見えてしまった。

「…突然のことでわからないことばっかりで…今でも信じられない出来事だな、なんて思ってるけど…あんなに頑張ってる人達を見捨てるとか、………出来ない…よ、ねえ…」

独り言のように呟いたつもりだったのだ、それはトルネコさんとホミロンにもバッチリ聞こえていたようで。
逃げ場がなくなったな、と、今の言葉に少しの後悔をするのであった。

2016.6.14
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