Novel
25:敵か、味方か

闇の世界に入った時もそうだったけれど、浮遊城の中はより一層不気味で。
外から聞こえる稲妻の音が更なる恐怖心を掻き立てる。
さすがラストダンジョンって感じ。
ゲームで見るのと実際に立っているのでは本当に全然違うんだなあ、と、どうでもいいことに感心する。
怖いけど、みんながいるから怖くない。
賢者の石をぎゅっと握りしめ、前だけを見ながら走った。

浮遊城での最初の敵は、だいまじん。
三度目のみんなは一番奥の石像が魔物だという事を知っていたので、相手が動く前に畳みかけていた。
不意を衝く暇もなく、だいまじんは地面に沈んだわけだけれども…流石に可哀想だなって思う…けど、まあ、勝負の世界だもん仕方ないよね。
みんなのスピードに呆気にとられつつも、要領を得ているみんなの勢いは止まることなく進む。

次いで扉の前に頭上から現れたシュプリンガーを倒し、扉の中へと侵入すれば次々に現れる敵の数々。
タイミングを見計らっては賢者の石を掲げ、みんなの体力回復に努める。
さすがに敵の数が多く、囲まれれば怪我を負ったりもしてるけど、賢者の石効果で次の場所へ進むときにはほとんど無傷の状態で進むことが出来る。
一瞬だけトルネコさんと目が合って、力強い笑みをくれたからそれでまた安心することが出来た。

次なる部屋は、動くパネルの床。
いちいちレバーを操作しなきゃいけないのが面倒だったけれど、この部屋には敵が出てこなかったおかげでゆっくりと攻略が出来た。

「さて、ここまでは順調に進んでるけど…今のところは前と変わったところはないな」
「ああ。全員の記憶をしっかり辿っていけばザラームまで到達するのに時間はかからないだろう」
「問題は、四天王か」
「…そうだな。だが、今の我々の敵ではない」
「デュランだけは気が抜けないよ、王子様」
「わかっている」

オルネーゼとツェザールの会話を盗み聞ぎ…っていうと人聞き悪い言い方だけど、聞こえてくる会話からデュランの姿を思い出す。
クレティアで戦っていた時は私、蚊帳の外みたいな感じだったけれど…今回はきっとそうもいかないよなあ。
デュラン、凄く大きかったし…最初に見た時も強いなこの人って思ったけど―――あれ、人でいいのか?人型魔物だから人でいっか――、あれで本気を出してなかったんだもんな。

賢者の石を使ってて気づいたことだが、賢者の石は連続して使うことは出来ない。
まあ、そんなチートアイテムがあったら多分前の神子達だって死んでないだろうし、そんなの当たり前なんだけどさ。
連続で使おうとしてたことがなかったから気づかなかったけれど、さっきの戦闘で連続で使ってみたら発動してくれなかった。
最低でも2分くらいは間隔が開いていたような気がする。
だから回復のタイミングが重要になってくるのは間違いない。
みんなの役に立てる!なんて多少なりとも浮かれていたけれど、これって相当重要な役割を任せてもらったんだなあ、なんて、今更ながらに思った。


動くパネル床の部屋を超えたら、四天王のお出ましだ。
空気が、更に重苦しいものになった。

「まずはどの扉から行くよ?」

やる気満々のハッサンが一歩前に出る。

「毎度お馴染みの発言だな。どれからだろうと関係ない、手短な所からすべて倒していくのみだ」

ハッサンの真横に、テリーが並ぶ。
あれ、テリー!いつの間に…!と思ったらテリーと入れ替わりにマリベルが横に居てくれていた。

そして二人が走り出そうとしたその瞬間、左奥の扉からゴゴゴゴ、重い音が響いて。
何事かと様子を見ていると、そこから大きな影が姿を見せた。

「デュラン…!?出てきた、だと!?」

ラゼルの声に自分の心の声が被った。
四天王は、こちらから扉を開かない限りは出てこなかったはず…なのに、今、何で…!

「ほう…ようやくここまで辿り着いたか、人の子らよ」

デュランは、ゆっくりとこちらに近づいてくる。
イレギュラーな状況にみんなは武器を手に、いつ攻撃されてもいいように構えている。

「お前!何故あの扉から出てきた!」
「何故?それはどういう意味かな」
「どういうって…俺達が開かなきゃ、出てくることは無かっただろ!?」
「………やはり、か。武器を下せ。私はここで戦う気はない」
「!?」

ラゼルの問いかけに、デュランは答える。
表情が豊かなタイプではないのでただただ無表情に淡々と答えているようにも見えるけど、それが余計に怖いんだよね。

デュランの発言に全員が過剰に反応した。
様子は伺ってはいるものの、仕掛けてこない様子のデュランを見て、各々の呼吸が次第にゆっくりになっていく。

「戦う気はないって、どういうことだ?デュランさんよ」
「そのままの意味だ。ここでお前達と戦う気はない、と言っている」
「だからその理由を教えて欲しいって言ってるんだがね」

物怖じせずに突っかかっていくククールに、尊敬の眼差しを送る。
私以外の皆、こうやって普通に話せるのかもしれないけれど、私はやっぱりビビってダメだ。
心では頑張ってても体は正直に震えているんだもの。
いざとなったら動くよ!?動くけれどもさ!

「この世界……時刻が、繰り返されているのであろう?」
「何故、それを…!?」

デュランの口から出た言葉に、誰もが驚きの表情を向ける。
かろうじてオルネーゼの口から出た言葉も、否定や誤魔化すことを忘れた、驚きの言葉だった。

「……そこの人間、異界の神子だな」
「えっ」

デュランは私を指差しながら言った。
異界の神子の話まで知ってるの!?
じゃあ、この人…本当にこのループの現状を知っている…?

「本当に、戦う意志はないのか」
「ああ、二言はない」
「…話を聞こう」
「では、私の部屋へと付いてくるが良い。ここで立ち話などしていればザラームに見つかるのも時間の問題だ」

ツェザールの問いかけに対する答えにも、やはり戦闘の意志は見られない。
全員で顔を見合わせたが、このイレギュラーな出来事に答えを出せる者はいなかった。

「……とりあえず、付いてってみようよ」
「カヤ!?罠かもしれないんだぞ!」
「それでも、今までになかった出来事なんでしょ?これで罠だったとしても、戦うことになったとしても、みんなでやれば勝てるんでしょ。だったら、動かなきゃ」
「異界の神子を知ってるってことは、お前、狙われてる可能性だって高いんだぞ」
「うん、わかってる。でも、守ってくれるって言ったじゃない。ラゼルの事、信じてるから。だから大丈夫だよ」
「っ…!」

我ながらズルイ発言だと思う。
戦うのは自分じゃないし、守ってもらうだけの立場にあるのにこんな風にみんなをけしかける事を言うなんて、本来だったらとても出来るような真似じゃない。
でもさ、こうやって言わなかったら、みんな疑心暗鬼でどう動いていいかわからないっていう顔をしているから。
ここでみんなの背中を押すのは私にしか出来ない事じゃないかって思ったら、自然と口から零れたんだ。


「カヤの言う通り、行ってみなきゃわからないわよね!というわけで、ハッサン!ゴー!」
「はぁ!?なんで俺だよ!」
「ガタイのいいのが先頭に行ってくれたら安心するもの。それとも何?あたしみたいなか弱いレディに先に行かせようと思ってるわけ?」
「そういうわけじゃねーけどよぅ…口じゃ勝てねえな、ったく。わぁったよ、行くぞみんな!」
「そうこなくちゃ!」

言いながらマリベルは私に向かってウインクを飛ばす。
それにホッとした私も、不器用なウインクで返しておいたら笑われた。
マリベルのおどけた口調は、みんなを和ますのに持ってこいだ。

さっきよりは表情が揺らいでいる。だけど、気は抜かずに。
誘われるがまま、デュランの部屋へと足を踏み入れることにした。

2016.11.26
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