Novel
24:ラストダンジョン目前

賢者の石という便利なアイテムがあるおかげで、体力的な面での疲れは今のところ問題ない。
それでもずーっと走り続けていれば精神的にも疲れがくるっていうもので。

闇の森は何事もなく無事に抜けることが出来たので、峡谷にある小屋で少し長めの休憩を取ることとなった。
小屋の回りも魔物はうろつくけれど、聖水を振り撒いておけば、魔物は自分と正反対の何となく嫌なものを感じ取って離れていくのだそうだ。

小屋の中には有り難い事に毛布などが置かれていて、その上に座らせてもらった。
何人か交代で見張りをするものの、お喋りなんかしてたらいくら聖水を使っていても魔物に気づかれてしまうので無言で体を休めている。

壁に寄りかかりながら、これからの事をボーッと考えた。

もうすぐで全てが終わるかと思うと少し寂しいなんて思うのは、私が初めて体験している事だらけだからなんだろう。
こんな風に思ってるなんて、他のみんなには絶対に言えない。
例えば学園祭だとか、体育祭だとか、修学旅行だとか。
イベント事は好きだし、楽しみで夜眠れなくなるタイプだったりする。
今ここに居る事と、イベントを一緒にしているつもりなんてないけれど、それでも身体が勝手にもたらす高揚感は止めることが出来ない。
私だってこんな風に不謹慎に考えたくない。
でも、自分の体はやっぱり正直だ。

こうやって色々考える事が出来るのも、結局のところみんなのおかげなんだよね。
だって、みんなが守ってくれなければ私なんてもうこの世界に居ないはずだ。

……あともう少し、か。
みんなは、どんな表情で今を迎えているんだろう。
そう思いながらひとりひとりの顔を見渡していれば、ラゼルがこちらを見ていることに気づいた。

目が合ったので思わず逸らしてしまったけれど、ゆっくりともう一度ラゼルを見てみれば、ラゼルはそれでも私を見ていた。
…いや、私を見ているのか、私を通して誰かを見ているのか…こんなにも目が合っているのに逸らさないっていうのは、何か違う事を考えているんじゃないかな、と思う。
もしかして、ラゼルも今までの事を思い返したりしているのかな。

それならそれで、邪魔をするわけにもいかない。
そう思いながら、私は私でまた別の場所に視線を移した。



休憩を終えて、再び闇の浮遊城を目指して進む。

峡谷ではやつざきアニマルに追いかけられ、逃げ切ったと思った先ではしにがみの騎士に追いかけられ。
やつざきアニマルはぶんぶん振り回す手が怖かったけど、呪文で応戦しつつ逃げれることが出来た。でもしにがみの騎士は馬に乗ってる分足が速く、戦闘は避けられなかった。
その度に掲げる賢者の石。
みんなの気力が持ちますように、と祈る事しかできない自分がもどかしかった。


何度か戦闘を繰り返し、辿り着いた闇の荒野の奥地。
闇の中にぼんやりと姿を現した旅の扉に、みんなが小さな歓声を上げた。

「辿り着けたことでひと段落。一難去ってまた一難、ってか」
「馬鹿ね、ラゼル。一難どころかザラームを倒すまで終わらないでしょ」
「そうとも言うな!さっさとアイツを倒して旅の扉に飛び込むぞ!」
「おっしゃ、いっちょやるか!カヤ、こっちに来い!」
「え!?あ、ああ、うん!」

アイツ、と言ったラゼルの視線を辿れば、ダークパンサーが近づいてきているのが見えた。
そういや、扉の門番いたね!?

ハッサンに呼ばれて走り寄ると、会話をする間もなく抱えられて、一気に距離を詰めたダークパンサーへと飛び乗った。
……、またこのパターンでいくのか…!

「そんじゃ、今回もしっかり掴まってろよ!」
「わかった!ありがとう兄貴!」
「アニキィ!?よせやい、恥ずかしい!じゃあな!」
「ふはは、頑張ってねー!」
「おう!」

実際にハッサンみたいなお兄ちゃんが居たらすごく頼もしい事この上ないと思うのね。
ゲームの中でマリベルとハッサンも似たような会話してたっけ、あれは確かハッサンがお兄ちゃんて呼んでもいいんだぜ、的な感じだったかな?
兄貴って呼んだのは勢いだけど、やっぱりハッサンみたいなお兄ちゃん欲しい。

「ニヤニヤしてると手ぇ滑らすぞ」
「あれ!?テリー、いつの間に」
「ハッサンと入れ違いだ、気づかなかったのか?」
「気づかなかったです…」
「フン、落ちても助けないからな」
「そんな事言って、優しいテリーは絶対助けてくれると信じてる」
「…カヤが死んだら全てが水の泡になるから助けてるだけだ」
「またまた、そんな事言っちゃっがふ!!」

テリーと話をしている間にも戦闘が始まって、ダークパンサーが激しく揺れたと同時に思い切り舌を噛んだ。

「…フ、」

背中向けて肩を揺らしてるけど、あれ絶対笑いを堪えてるよね。
遠慮なく笑ってくれた方が報われるのに…!


ダークパンサーはウイングタイガーよりも攻撃パターンが少なかったはず。
つまり、私がしっかり掴まってさえいれば、何ら問題はないだろう。
その思惑通り、ダークパンサーにかかった撃破時間はあっという間だった。

ダークパンサーは横倒れになったので、背中から放り出されそうになったがそこは流石のテリー師匠。
しっかり抱きかかえて飛び降りてくださいました。

「怪我はなかった…ああ、舌を怪我してたんだったな。ククッ」
「その怪我は怪我のうちに入りません…!」

ニヤニヤしてるテリーの背中を叩こうとしたけれど、やっぱりヒョイと避けられて。
悔しいけどテリーに勝てる日なんて一生来ないと思った。



「旅の扉をくぐれば目の前は浮遊城だ。今まで以上に気を引き締めていくぞ!」

そう言いながらツェザールが先陣を切って旅の扉に入り、オルネーゼが続く。
二人はいつもみんなをぐいぐい引っ張ってってカッコいいな、なんて思いながら、私もラゼルに続いて入った。
今回は背中を押されることなく、普通に入れましたとも!何も出来ないのは相変わらずだけど、順応力がないわけじゃないんだからね!

誰に言うわけでもなく、心の中で胸を張って。
よし、と意気込んだ所で現れた景色は闇に浮かぶお城。

「ここまで来たのは三度目だ。そして、ザラームとも三度戦った。今度は…負けない…!」

ラゼルの小さな呟きは、多分私にしか聞こえていない。
みんなが少し離れていたからというのもあるけど、ラゼルが私の手を引いていてくれたから。だから、近くにいたおかげで聞こえたんだ。

力の籠る言葉に、思わず引いていた手をぎゅっと握りしめた。

「ありがとう、カヤ」

ラゼルは一瞬驚いた表情を見せたけれど、すぐに笑顔になって、お礼を言った。
お礼を言うのはこっちの方だよ。
私、この世界に来て色々変われた気がするもん。
全てが終わったら、みんなにお礼を言いたいから今は黙っておく。

走り出した先頭の二人に続いて、みんなも付いていく。
マリベルは相変わらず私の前に居てくれるし、横にはテリーとラゼルが居てくれて。
頼もしく思う気持ちとは裏腹に、これが最後だと思うと無駄に押し寄せてくる恐怖と緊張を隠すのに必死だった。

2016.10.30
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