Novel
23:イレギュラーはどこかにある

私たちが通るルートは東側から。
闇の草原へと続く道にはギガンテスがいる。戦うとなると無駄に体力を使うし、回避できるのなら回避したい。
それに雪原は歩いているだけでそれこそ無駄に体力を奪われるし、出来る事ならば避けて通りたいとの意見があったからだ。
と言っても、これはザラームの元へ向かった経験上の決め事らしいので、私が口出しすることは何もなかった。

体力回復アイテムがあるとはいえ、敵と出会う度に戦闘になっていたら大変なのでなるべく見つからずに進むとの事。
大勢で動くのだから見つからないようにするのは難しいけれど、万が一見つかったとしても数人が敵の気を引いて、その隙に私を先に逃がす算段だと伝えられた。

ここまで来たら本気で逃げに徹する他ないよね。
いくらテリーに剣を教わったって言ったって、私のレベルじゃ呆気なくやられてしまう事間違いなしだ。






砂漠の高台から旅の扉をくぐれば、そこは一面闇に覆われた世界だった。
闇の世界っていうくらいだし、暗いんだろうなーなんて単純に思っていたけれど。
なんていうか、暗いの一言じゃ済まされない雰囲気。
そこかしこから魔物が飛び出してきてもおかしくないし…まあそれは表の世界でも同じことだったけれど、目が慣れない分どこに何がいるのか、何があるのかが私にはわからない。
みんなは気配とかでわかるのだろうか。
もう少しこの暗さに慣れることが出来れば、それなりにわかるのかもしれないけれど…知らない場所を手探りで歩くようなものだし、とにかくはぐれないようにしなきゃ。
根本的にはみんなの中間に陣取らせて貰っているから、問題はない…と思いたい。
大型の魔物が来てパーティーが分断されたりしなきゃいいな、なんて…これ、自分でフラグ建てにいってるよね、こんなところで一級建築士は目指したくない。やめよう。

ひとまず、砂漠から森へと続く道を進む。
旅の扉がある場所から闇の森へはそんなに距離がないので、ここは問題なく進めそうだ。
本来だったら全部の宝箱を回収して良い装備に変えて、なんてやるのがゲームのセオリーだけど、ザラームの攻略法もわかってるって言ってたし、そんなの必要ないのかもしれない。
最初にザラームの元へ向かおうとしてた時はやってたのかな。
この戦い全てが終わったら、色んな話も聞いてみたいところだけど…嫌な気持ちを掘り起こさせてしまうのも申し訳ないと思ったら聞けなさそうだ。
自分の勝手な想像だけで満足しておこう。

先頭を走るのはオルネーゼとツェザール。
その後ろにアリーナ、クリフト、ミネア、マリベルと続いてラゼルとテリーに挟まれる形で私。
すぐ後ろはククールとテレシア、それからゼシカとマーニャ、トルネコさん、ホミロン。
殿を務めるのはガボとハッサンだ。

マリベルはあたしの前に出るんじゃないわよ、の言葉通り、私の前に居てくれている。
時折振り返ってはフン、と一言言いながらも前に向き直るので、気にしてくれているのがとても良く分かる。
ラゼルとテリーもフッ、と小さな笑い声を漏らしていた。
もちろん、マリベルには聞こえないように、だ。


砂漠を越え、森へと繋がる道に差し掛かろうとした時、後ろから聞こえてくる大きな足音と共に地響きが起きた。
何事かとみんなが一斉に振り返れば、そこにはこの辺りに居るはずのないギガンテスの姿があった。

あれだけ大きければ暗くたって私にもわかる。
あの目は、確実に私たちを捉えている。

「何で、ギガンテスは反対側に居るはずじゃ…!?」
「テレシア、立ち止まるな!こっちに来ちゃったモンは仕方ないだろ!ツェザール、オルネーゼ!任せていいか!」
「ああ、任せときな!適当に相手して後で合流するさ!」
「カヤ、ラゼル達と先に行け!転ぶなよ!」

ツェザールはお母さんかな?と思いながらも、言われた通りにラゼル達の走る方向へと必死で付いていく。
森に入ればギガンテスも付いてはこないはずだ、と、森の入り口で二人を待つことになった。



「ねえ、本当に森までは付いてこないのかな?」

森の木に囲まれているから姿は見えなくなったけれど、ゲームみたいに境界線があるわけでもなく、おそらく暴れているであろうギガンテスの雄叫び、動き回っている様子の地響きはここまで聞こえてくるし、微かにツェザールとオルネーゼの声も聞こえてくる。
だから二人がこっちに走って来たら、そのまま付いてくるんじゃないかと思うんだけど…。

「なんだ、カヤ。心配してんのか?魔物にも縄張りってのがあるからな、よっぽど怒らせたりしなきゃ大丈夫だと思うぜ」
「怒らせたりって…ラゼル…聞こえてくる音の雰囲気からして、怒らせてるようにしか思えないんだけど」
「んー、あの二人の事だし、上手くやってくれんじゃね?」
「……それはどうだかな。もう少し奥に進まないとヤバいかもしれないぜ」
「テリー、何だよ」
「音が近づいて来てるのがわからないか?」

テリーに言われて耳を澄ませてみれば、確かに音は近づいてきている…ような、気がする。

「あの二人で撒けないんだったら、正面から戦って倒してきた方が無難なんじゃないかしら?」
「そうね、あーんなデカイヤツに追われ続けてたら二人が危ないわ!」

マーニャとアリーナは砂漠方面へ戻る気満々らしい。
アリーナはともかく、マーニャって戦いが好きだったっけ?寧ろ逆のイメージがあるんだけどな。二人を助けるとなるとまた別の話なのかな。

「姫様が行かれるなら、私も行かねばなりませんね。ギガンテスには防御強化も必要でしょうし」
「なあ、ラゼル。ここは戦力分割したほうが得策っぽいぞ」
「ううーん…じゃあ、ククールの言う通り二つに分かれるか。アリーナ、マーニャ、ミネア、クリフト、ハッサン、テレシア!あいつらを助けに行ってくれるか?」
「わかったわ。ラゼル、いつものところで合流しましょう」
「おう!気を付けろよ!」
「あなたもね!」

ラゼルが名前を呼ぶと、呼ばれたみんなは頷いて砂漠へと戻る道を走って行った。

「いつもの場所って?」
「ここから北へ進んだところに魔物が寄り付かない穴場があるんだ」
「そうなんだ…そこだったら安全に待てるってわけだね」
「ああ。そこへ行くまでの間にも敵は居るから、油断すんなよ!」
「わかった、気を付けるね」

ラゼルと頷き合うと、ククールにニヤニヤした表情を向けられたので思い切り足を踏んでやろうと思ったのに、スッと躱されてしまったので地面を踏んだ自分の足だけが痛い。
後ろからブフッって声が聞こえてきたと思ったらやっぱりテリーだったよね。
この二人、どうにかして見返すことはできないものか…!
助けを求めようと、マリベルとゼシカに目を向ければ二人は既に走り出していて。

……大人しく走ればいいんでしょ!わかりましたよ、くだらないことやってないで行きますよ!

そう思いながらマリベルとゼシカに追いつこうと走り出した私の背中を、軽くポンと叩いて追い抜いていくククール。
サラッと流れる銀髪が羨ましいくらいに綺麗だよ。

三人が前を走り、私は相変わらずラゼルとテリーの間。
ガボとトルネコさんとホミロンが後ろを付いて来てくれている。
残ったメンバーは大丈夫かな、と一瞬心配したりもしたけれど、ザラームの攻略法がわかってるくらいだし、ギガンテスなんかにやられたりしないか。
『なんか』って言っちゃってるけど…ギガンテス、相当強いと思うんだけどね。
ああいう大きな敵には遠距離攻撃が凄く便利だったよなあ、ククールの弓とかミネアのタロットとか。
敵の射程距離に入らないように、画面の隅っこからちまちまと攻撃し続けて倒したりしてたんだよね。
実際に見るククールやミネアはそんな戦い方してないのにね。

綺麗でカッコイイ実物を台無しにしているのは、私の下手さなんだと。この世界に来て実感した。
…いや、隅っこからちまちまやってたって綺麗なものは綺麗だし、カッコいいものはカッコいいけれど。


くだらない事を考えながら走り続けていれば、テリーに気を抜くんじゃない、と小突かれた。
そうこうしているうちに、ラゼルの言う穴場に辿り着いて。
しばらく待っていればギガンテス班のみんなも姿を見せたので一安心だ。

とはいえ、みんな疲れている様子だったから早速使ってみた賢者の石。
掲げて念じれば、辺り一面が光に包まれたので魔物を呼び寄せたんじゃないかと焦ったけれど、大丈夫だったみたいだ。
体力が回復したみんなから口々にお礼を言われたけれど、本来だったらトルネコさんの手柄なんだよ、と思いつつ苦笑いでそれに応えた。

賢者の石の光で少し見え辛くなってしまったものの、ようやく闇の世界に目が慣れてきたと思う。

2016.9.3
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