Novel
22:もう一つのスタート地点

いよいよ、闇の世界へと足を踏み入れる。
昨日は色々あったから、余計な事を考えちゃったりして中々眠れないんじゃないかって思ってたんだけど。
気がついたらいつの間にか深い眠りについていたみたいだ。
私って繊細なタイプではないんだなあ、と、つくづく思う。
それと、不思議な事にまるで新しく生まれ変わったかのように、心の中もスッキリしていた。

支度を終え、部屋から出て広間に集まれば、既に何人かは集まっていて。
私に気づいたトルネコさんが挨拶をしながら近寄ってきてくれた。

「おはようございます、カヤさん。これはまたお似合いですね」
「おはようございます、トルネコさん。本当ですか?嬉しいなあ…!」
「うんうん、これならば多少の攻撃を受けてしまってもどうにかなりそうですな」
「あはは…なるべく受けたくはないですけどね」
「無傷に越したことはありませんな。……ところで、これなのですが…」

言いながらトルネコさんが取り出したのは、昨日お返ししたはずの賢者の石。

「何か不備でもありましたか?」

もしかして知らないうちに壊してしまったのだろうか、と不安になったのだけれど、それは全くの見当違いだったようだ。

「いいえ。違うんです。これはやはりカヤさんに持っていて頂きたいと思いまして」
「……ええ!?私が、ですか!?」
「はい。カヤさんは自分が戦えないことを嘆いておられましたね?」
「ま、まあ…確実に足手纏いにしかならないよな、とは…毎回思ってます」
「それでしたら、やはりこれはカヤさんが持っていてください。カヤさんが回復をしてくだされば、私たちは攻撃に専念できますから」
「そうは言っても…そんな大事なもの、こんな大事な場面で上手く使える自信はないんですけど…」
「カヤさんは、聖女の祈りを使って私たちに暖かい夢を見せてくれたと聞きましたよ」

暖かい夢。
そんな風に言ってもらえたのはトルネコさんが初めてで、穏やかな気分になる。
最初の時もそうだった。
トルネコさんが話し掛けてくれたから、私は緊張を緩めることができたんだ。
この人は他人に幸せを分けるのが上手なんだな、って思う。
パーティーに絶対一人は必要な、和ませ役だよね。

「確かに、聖女の祈りを使いました。もしかしてその要領で賢者の石も使えたりするんですかね?」
「私は聖女の祈りを実際に見た事がないのでハッキリとは言えませんが、根本的な効果は同じはず。なので、賢者の石も扱えると思ってるんです」

試練の祠に行くときは、薬草もあるし賢者の石を使うこともないだろうなって思ってたから、具体的な使い方は聞かなかった。
今思えば…何かあったときに使えなくて役立たずのレッテルを貼られるとこだった…よね。
確かに、戦闘に関して前に出ることの出来ない私がこれを使えれば、回復よりも攻撃に専念してもらえるし、ザラームを少しでも足止め出来る時間が増える。
絶対に手放しちゃいけいないっていうのが条件で……うん、大丈夫、例えどんな攻撃を受けてもこれは絶対に手放さない。無くしたりしないように、ちゃんと服に縛り付けておこう。

回復スキルのない私が、みんなの役に立てるというのなら、それを受けない理由はないよね。
私にもそのチャンスをくれたトルネコさんには頭が上がらないよ。

渡された賢者の石をぎゅっと握りしめ、笑顔を向ければトルネコさんは力強く頷いてくれた。

「それじゃあ、有り難くその役目、受けさせていただきます」
「はい。是非ともお願いしますね」
「…ちなみに、賢者の石は体力減ったりしませんよね?」
「ははは、心配ありません。石そのものに魔力が詰まっているものなので、念じればその力を解放してくれますよ」
「わかりました、有難うございます!」
「どういたしまして」

ニコニコと笑いながら、トルネコさんは入口付近のホミロンのところへ歩いて行った。


トルネコさんと話している間にほぼ全員が揃ったようだ。
ラゼルと目が合って、瞬間的に昨日の事を思い出して顔が赤くなりそうだったが、頑張って堪え…いや、堪えきれてなかったかもしれない。
だって、ククールがニヤニヤしながらこっちを見ているんだもん。
その隣には相変わらずクールな素振りで壁に寄りかかっているテリーと、やる気満々に力が有り余ってる様子のハッサン。
女の子達はみんなで固まっていて、私に気づいたマリベルが手招きをしてくれたのでその輪の中に加わった。
口々に新しくなった装備を褒めてもらえたのは嬉しかった。
ラゼルに感謝!







「これより我々は闇の世界へと出発する!皆の者、今度こそ呪いに打ち勝ってみせようぞ!」
「やり残した事や、忘れものなんかあったりはしないね?闇の世界に行ったが最後、ここに戻ってくるのは全てが終わってからだからね!」

ツェザールが気合を入れると、オルネーゼも続く。
それに応えるみんなの姿を見ていると、本当にいよいよなんだなって思う。
さすがに実感が湧かないなんてバカな事は言わない。
寧ろ、気持ちが昂ってきた。
このままじゃ足元を救われて、ザラームの元へ辿り着く前に離脱してしまうのはわかっているから、出発したらすぐに落ち着かせる努力はするけれど。
だから、今だけはいいよね?

ようやくみんなの仲間になれた気がして、嬉しいんだ。

「カヤ」
「うん?」
「あんた、あたしの前には絶対に出るんじゃないわよ」
「い、言われなくても出ないけど…」
「あっそう!それならいいのよ!」
「マリベルはカヤが心配なのよね。可愛いわね」
「テレシア!?余計な事言わなくていいんだから!カヤ、鵜呑みにしたらダメなんだからね!」

ダメなんだからね、って。
そんな真っ赤な顔で言われても説得力ないよねえ。
最初こそそんなに絡みもしなかったけれど、いつからかマリベルは女の子の中で一番近しい存在になっている気がする。

ああ…そっか。お揃いって、思ってた以上に破壊力抜群なんだね。
マリベルのポケットから見えたまもりのルビーを見ながら、気づかれないように少しだけ笑った。
ラゼルから貰った天使のローブ、その内ポケットに入っているまもりのルビーに触れて、存在を確かめる。
そして、私の命を救ってくれた事に再びの感謝を。

ツェザールが外に出たのを皮切りに、それぞれが瞳に強い意志を宿らせ、ゼビオンを発つこととなった。

2016.8.24
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