Novel
20:支えたり、支えられたリ

試練の祠から出てゼビオンへ帰る前、マリベルに何を話してたのか聞かれたのだけど、今は言えないと答えれば不満気ながらも引いてくれた。
今は言えないってことはいつか話してくれるんでしょ、との問いにイエスと答えたら納得してくれたからだ。
それはラゼルも同様で、ただ一人テリーだけが無言のままだった。

ゼビオンへ帰宅後、クレティア女王からの伝令が来て。
クレティアに赴かなければならないはずだったんだけど、闇の浮遊城に関しての情報を聞きに行くだけなので、これに関しては同行しなくても問題ないから部屋で休んでおけと言われ、現在宛がわれた部屋で待機。
クレティア女王の元にはオルネーゼ、ツェザール、テレシアの三人で向かったようだ。

ルーラストーンと賢者の石は、それぞれの持ち主へ謝礼の言葉と共にきちんと返却しておいた。
私の手元に残ったのは薬草数個と、それからマリベルに貰ったアクセサリー。
これだけでは闇の世界、浮遊城に行くことを考えたら全然足りないよなあ、なんて思っていれば、ラゼルが装備品を調達してきてくれると申し出てくれた。
一緒に行った方が良いかと問えば、俺が選んできてやるから待ってろ、と半ば強引に部屋へと押し込まれてしまったのだ。

私が試練の祠でなんやかんやあって疲れてると思ったのかな。
不器用な気づかいが嬉しくて、お言葉に甘えることにしたのだけれども。
少し早いけどシャワーでも浴びて寝る準備でもしようかな、なんて思ってた矢先に来訪者が二人。

…銀髪二人に見つめられたら休まるものも休まらないと思うんだよね。


「テリーが話があるっていうのはわかったけど、ククールは?」
「俺はテリーの付き添いさ」
「付き添いなんぞ頼んでないがな」
「要するに、無理やりついてきたってこと?」
「そんな言い方は心外だぜ。カヤを心配して来てやったのに」
「俺とカヤが話をするのに何の心配があると言うんだ」
「それはホラ、お楽しみ…いやいや冗談だろ、冗談。通じてくれよ」

言いかけたところでテリーと私が無言でククールを部屋から追い出そうとしたら、即座に手のひら返しをするククール。
テリーの顔がどんどん不機嫌になっていくじゃないか、やめてくれよ本当にこの人は…!
冗談を言いながらもククールにはククールの考えもあるんだろうし、私はククールが居ることに関しては構わないんだけどさ。
ククールが絡むと無駄にテリーの機嫌が悪くなるから面倒極まりない。
それでも仲が良いんだろうなって思っちゃうのは何でだろうな。個人的主観としてだけど、何となくこの二人が似てるからかな。
私の自惚れじゃなければ、二人共…結構色々気に掛けてくれてると思うんだよね。
ガボの発言があったからかもしれないけど、それでも何も知らなかった私にとっては有り難い事に変わりはないし。
ククールは女性全般に優しいからその延長上かもしれない。
テリーは一応弟子だから気にしてくれるのかもしれない。
理由は何にせよ、嬉しいことに変わりはないのだ。

「まあいい、今日のガゴラとの会話についてだ」
「あー…ガゴラとの会話、ね」

あの時やけに無口だと思っていたらここで来たか。
初めから個別で聞こうと思ってたのかな。
適当に座るように促せば、テリーは机の前の椅子に、ククールはベッドに腰かけた。
私自身もベッドの上に居たので、少し気恥ずかしいのは黙っておく。

「ラゼルとマリベルの前で言うのも気が引けたもんでな……単刀直入に聞く。お前は自分を犠牲にしようとしているのか?」
「犠牲だと?」
「ククールはちょっと黙っていてくれ」
「後で説明してくれるんだろうな?」
「ああ」

テリーの言葉を聞いて、ククールは小さく息を吐いた。
そして私の口から出るであろう言葉を待つ。

「……犠牲になろうなんて思ってないけど…っていうかどんな内容だったかわかってるの?」
「読唇術って知ってるか」
「ああ…」

皆まで言わずとも理解したよ。
テリーは読唇術で話の内容を理解していたんだね。
だからラゼルとマリベルの前では何も言わずに黙っていたんだ。

「ガゴラにも言ったように、確かに生き返らせたいとは思ってる。でも、自分の世界にも帰りたいっていうのも捨てられない。やっぱり今は考えたって答えが出ないよ」
「……ラゼルの前でこの話をすれば、希望を持つと思った。だからあいつの前では聞けなかった」
「オレンカ王の話か」

口を挟んできたククールにこくりと頷けば、彼は再び口を結んだ。

「俺は、カヤ…お前がこの呪いに決着をつけてくれるのだろうと信じている」

至極真っ直ぐな視線で、信じていると言い切ったテリー。
その真っ直ぐさに胸がドキリと高鳴った。
ラゼルには自分から絶対に死なない!なんて言ってしまったけれど、人に信じてるって言われるのって、なんだか怖い。
途端にプレッシャーが圧し掛かってくるような気がする。

「おい、テリー」
「何だ」
「カヤ、一気に顔が強張ったぞ」

ククールが距離を詰めて、私の背中を撫でてくれていた。
優しくされた事で逆にどうしようもない不安が襲い掛かる。

『お前なら本当に信じてもいいのかな』

ラゼルが言ってくれた言葉。
あの時のラゼルは何かに縋りたくて、誰かに助けて欲しくて、でもその対象は私しかいなくて。
だから、私は……わたし…は…、ラゼルの前でどんな態度を取っていた?
凄い勢いでラゼルに意地でも死なないとか…言い切って無かった?

「…どう、しよう…私、なんであんな自信満々に言っちゃったんだろう…」

絶対の保証なんてどこにもないのに。
戦いなんて知らない、普通の人間として生きてきた私が死なないなんて言い切れるわけがなかったのに。
やばい。
やばい、今すぐ逃げ出したい。
背筋がスッと冷えた感覚がして、妙に寒い。
身体が震える。
わたし、なんてバカなことしたんだろう。

「カヤ、落ち着け」
「…っ!」

気が付くとテリーの顔が目の前にあって。
ククールの手も相変わらず優しく背中に置かれていた。

「プレッシャーを掛けたつもりはなかった。済まなかった」

ダメだってば。
今、優しい言葉を掛けられたら泣いちゃうよ。
涙腺、そんなに強くないんだから。

「お前が決着をつけてくれると信じていると言ったが、お前一人じゃないだろう」

テリーの言葉に、ラゼルの酷く安心したような顔が浮かんだ。

「ひとりじゃないってわかってるんだけど…ばかだよね、私、自分が強くなったわけでもないのに……絶対死なないなんて言っちゃってさ…どうしよう、これで死んじゃったりしたら…ラゼル、もう人を信じるなんて出来なくなっちゃう…!」
「カヤ…」

頬に当てられたククールの手。
ぽろぽろと零れ落ちる涙は、そのククールの手袋へと染みを増やしていく。

「せ、せっかく信じてもいいのかな、って…言ってくれたのに…」
「マイナスに物事を考えるってのはさ、本当にその流れに意識が引っ張られていくんだぜ」
「……うん、わかってる。わかってるんだけど…」
「不安な気持ちもわからなくはないがな。俺もいつまで続くんだろ、っつー不安を抱えてたこともあったな。だが麻痺しちまったよ」
「人間は不安という感情を持ち合わせている生き物だからな。それがマトモな証拠だろう」
「………」

二人が優しい言葉を掛ければ掛けるほど、何を答えていいのかわからなくなる。
過去に戻ってあの時の発言を撤回したいけど、そんな事出来るわけがない。
撤回できたとしても、その場合はラゼルの不安は払拭できなかったわけで。
どうすればよかったんだろう。
そんな事考えたって今更なのに、頭は考えることをやめてくれない。

「ったく、しょーがねえな」
「うわ!?」

突然体が傾いたかと思えば、ククールに抱きしめられた。

「ククール!今はそんな事してる場合じゃないだろうが!」
「テリー、こういう時こそ必要なんだぜ、抱擁っつーのは。人の体温とか、心臓の鼓動とかってさ。妙な安心感を与えてくれるんだ」
「……お前の場合は下心の方が強い気がしてならない」
「確かに役得だとは思っているが。何だ、羨ましいのか」
「そうは言ってないだろ!何故すぐそうなるんだ…!」
「ええと…とりあえず、涙は引っ込みました、アリガトウ」

抱きしめられたことにびっくりしたのと、二人のやりとりを聞いていたら気が抜けてしまったのと…それから、どんな原理でそうなるのか不思議だけど、ククールの言う通りに人の体温って安心するのと。
だって、ククールが離れた時に不謹慎ながらもちょっと寂しいな、なんて思っちゃったんだもん。

「カヤの根本的な性格ってさ、そんなうじうじ悩んだりするタイプじゃないだろう?ザラームを倒すまでは不安な事って尽きないと思う。それでも、この世界の呪いを終わらせてくれようとしているお前の姿に皆やる気が戻ってきてるんだよ」
「…確かにな」
「言葉少なめだが、テリーだってカヤが師事する事になってから楽しそうに剣を振るっているしな」
「余計な事ばかり言うんじゃない」
「はいはい。最近は、みんな心のどこかでどうせまたループするんだろうなって。最初から諦めてた部分があったんだよな。言葉に出すヤツなんてそりゃいなかったけどさ。それでも何となくの雰囲気とか、そういったモンでわかるんだよ。俺やクリフトは人の心に敏感なんでね。だから、カヤが頑張ってくれているのを見て、俺達も頑張らなきゃいけないよなって。改めて思ってるんだ」
「カヤが死なないように全力でサポートするつもりだ。そのための力を惜しむヤツはいないだろう」

黙って話を聞いていれば、やっぱりじわじわとプレッシャーを与えてるんじゃないかっていう気もしたけれど。
さっきと違うと思えるのは……ひょっとして私は。

「…みんなに、仲間の一員だって認めてもらえてるのかな」
「何を今更」
「何を今更」
「…おい、俺が先に言ったぞ」
「そんなの勝負したって仕方ないだろう?」
「フン、俺はいつでも戦っているんだ」
「おいおい、戦う矛先が違うだろ」
「……ぶふっ…!」

会話がおかしくて、思わず吹き出した。
こんな時にマズイ、と思って二人の顔を盗み見すれば、テリーは小さく溜息を。ククールはニヤリとしたり顔。
ああ、これ、私を元気付けるためか。って。わかっちゃったじゃない。

「えー…、ごほん。重ね重ね有難うございました。とりあえずさ、自分の発言に対して後悔はあるものの弱音を吐くのはやめることにします」
「いやいや、違うぞカヤ。弱音は吐いていいんだっつーの」
「え?あ、そ、そうか」
「但し、俺かククールかどっちかだけにしておけ」
「俺にしとけとは言わないのか?」
「話を出来る相手は一人じゃ心もとないだろう」

ガッツリスルーされているククールがおかしくて、また吹き出しそうになった。

「じゃあ、弱音吐きたくなったら二人のところに行くのでよろしくお願いします」
「ああ、それでいい」
「遠慮なく、いつでも待ってるぜお嬢さん」

お嬢さん呼びに思わず顔が引きつっちゃったけど。
私は私のままで大丈夫だと言ってもらえたような気がして、二人のおかげで心がだいぶ軽くなった。

「それと、話がだいぶ逸れてしまったが…最終的にはお前が思う通りにしたらいい」
「ん?」
「カヤが決めた事ならば誰も恨みはしない」
「あ、……あー。…うん、わかった」

そっか、テリーの本題ってこの話だった。
私が悩んでいたからアドバイスしてくれようとしてたんだよね。
どっちにしろガゴラと話しているときは悩んでも結果は出なかったけれど、終わらせることが出来たらその時、悔いの無いように決めよう。
なんて言いながらも、どっちに転んでも後悔しないわけがない。
それはそういう選択しかないのだから仕方のない事だ。
そう割り切らなければ、きっと一生かかっても決められないんだろうな。

2016.8.14
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