Novel
18:始まりの場所

アミダくじで決まった試練の祠への同行者。
メンバーは、ラゼル、テリー、マリベル。

外れてしまったみんなはちょっと残念そうだったけれど、それぞれ無事に帰ってくるようにとの言葉を掛けてくれて、快く送り出してもらった。
回復役が居ない事がネックに思われたが、トルネコさんが私に賢者の石を貸してくれたのだ。
貴重なものだからとんでもない!とお返ししようと思ったんだけど、人の命に比べたらお安いものです、って。
トルネコさんの事だから、きっとループ云々関係なしに純粋に心配してくれたのだろう。
私自身はこの世界で死んでしまっても大丈夫なのに、そんな風に心配してもらえるのはやっぱり嬉しい事だなって。改めて実感した。

願わくば、賢者の石の出番がありませんように。
そう思いながら腰から下げている道具袋の中へと仕舞った。
薬草もまだ少し残ってるし、大丈夫だろう。

…なんて、大げさに考えてるものの。
行先は試練の祠だ。何やかんや考えてたところで敵は出てこないと思われるから、最終的に何も心配することはありませんでした、ってオチが待ってそう。
そんなところにみんなで一緒に行くとか言ってたんだから、オルネーゼもそりゃ呆れるよなあ。



試練の祠まではルーラで来ることが出来る。
それからガゴラの居るところまですぐなんだろうな、と予想していたのだけれど、実際には数百メートルほどの通路があった。
ひとりだったら、敵が出ないって解っていても怖かったかもしれない。
ラゼルもテリーもマリベルも、みんなが一緒だから怖いなんて思わずに進むことが出来る。


そうして到着した試練の間。
相変わらずの姿でガゴラは浮いていた。

「ガゴラ、その節はどうも」

声を掛けると、閉じていた目をパチリと開けて。
私たちを確認した後、ゆっくりと近づいてきた。

「あ?…おお、異界の神子じゃねえか。その様子じゃ回復したみてーだな」
「その言い方…カヤがなかなか起きなかった状況を知ってたのか?」

ラゼルが問いかけると、ガゴラは頷いた。

「聖女の祈りは、使用した者の気力と体力を激しく消耗させるんだ。もう一日くらい寝たきりの状態でもおかしくなかったんだが、カヤの回復が早くて良かったな」
「それ、使う前に言っといて欲しかったんですけど…」

恨みがましくそう言えば、ガゴラは呆れたように溜息を吐いた。

「言ったところで、それを伝える術はなかっただろ?だったら言っても言わなくても同じじゃねえか」
「でもカヤが起きた時に説明してもらえればみんなの心配もその分減ったわよ」
「ああ、そういう考え方もあるな。じゃあおいらが悪かった」
「そう素直に謝られちゃうと調子狂うわね…!」

脱力するマリベルとは裏腹に、テリーはじっと黙って話を聞いている。
ラゼルは何か言いたそうにしていたが、マリベルと同じような内容だったみたいで大人しくなった。

「で、再度ここに来たっつーことは何か聞きたいことでもあるんだろ?」
「ええと、そうですね…」

付いて来て貰ったのはとても有り難いんだけど、正直みんなが居るところでこれを聞くのも微妙だなあ…と思っていれば、ガゴラはそれを察してくれたようだ。

「お前ら、ちょっと空間を遮断させてもらうぞ」
「遮断ってどういう…!」
「おい、ちょっとま…!」
「そんなの聞いてな…!」

三人の口から抗議の声が飛び出したが、途中で見えない壁に阻まれてしまったかのように、何もないところをドンドンと叩いている。
声も聞こえなくなってしまったので、遮断とはこういうことかと妙に納得してしまった。

大丈夫だよ、というジェスチャーを送れば三人はまた大人しくなったけれど、本当に申し訳ない気持ちになるので早いとこ話を済ませてしまおう。

「で、何を聞きたいんだ」
「みんな、私が夢に出てきたって言ってたんです。私は聖女の祈りを使って何をしたんですか?自分では夢なんて見なかったし、何かをやったっていう記憶もないんです」
「ああ…そうだな…どう説明したもんか…おまえ、自分で覚えてる限りどんな事を考えながら祈ったんだ?」
「あの時は確か…とにかく楽しい事を考えていたかなあ。このループが終わって平和な世界になったらどんな風になるかなって想像してた感じですね」
「具体的には?」
「お祭りとか盛大にやりそうだなって」
「それが夢に現れたんだな」
「?」

ガゴラの言葉は抽象的で、ハッキリとした答えが返ってこない。
要するに、テレシアの言ってた私の潜在意識云々説が当たってたってこと?

「みんなの夢にそれぞれ違う形で私が出たっていうのは…」
「お前が大まかに祈ったことが、それぞれの夢で形になったってだけだろ」
「分身を使ったわけではなく?」
「分身なんて使えんのか?」
「いいえ」
「だろうな」

物凄く突っ込みたい。
今ならば私のツッコミスキルがガンガン上がりそうな気がする。
…いいや、要約して聞けば話が早いだろう。

「結局のところ、私の潜在意識がみんなの夢に入り込んだって形でオッケーです?」
「ああ、それでオッケーだ」

親指をビシィと立てられ、笑顔でそう返ってきたときには思わず脱力した。
番人って言っても威厳がないんだよね、ガゴラは。

「…聞きたいことは、それだけか?」
「え?それだけって……あー、あとは異界の神子には何が出来るのかって話ですね。自分で死なないように努力をするっていうのはもちろんのことなんですけど、それ以外に…例えば今回の夢みたいに、皆に何かできることはないのかなって。ガゴラさんならそれを知ってるんじゃないかと思いました」
「ああ……あるっちゃ、あるな」
「本当ですか!?」

飛びつくように反応すれば、ガゴラは返答を渋っている様子だった。

「お前が意識を失う前の、おいらの言葉は届いていたか?」
「最後?何か言ってましたっけ?」
「やっぱり届いてなかったんだな。おいらがこのループを作った原因だ、っつーのは」
「ループの原因………げんいん!?ガゴラが!?」

自分でもびっくりするくらいの大声が出た。
しかも驚きすぎて敬称を付けるのもうっかり忘れた。

私の驚いた様子だけは遮断された向こう側でも解ったようで、三人は再び見えない壁をドンドンと叩き出した。

2016.8.4
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