Novel
17:戦地に赴く前に

意識がハッキリしたと思えば、ラゼルに肩をガクガクと揺すられていて。
そんな酷い起こし方があるかい!と思いながらも縋るようなラゼルの問いかけに応えていれば、気になったキーワードが一つ。

夢、って何よ。






私が目を覚ましたことを聞きつけて、みんなが部屋へと集合した。
と言っても、この狭い部屋に全員が入れるわけでもなく、数人は外にはみ出されてしまったのだけれど。
みんなのドカドカという足音が聞こえてきた時に、ラゼルは掴んでいた私の手をパッと離した。
手を握られていたなんて、全然気づかなかったけど…意識すると途端に恥ずかしくなるのは何故だろう。
それに、この距離感。
明らかに拒否られてないよね?
…寝ている間に一体何が起こったというんだ。

マリベルが一番に抱き着いてきたので、マリベルがくれたまもりのルビーのおかげで死なずに済んだよ、と伝えれば、この馬鹿!と頬を叩かれた。
理不尽!と思いながらも、涙目だった彼女の事を考えれば私の事を心配してくれてたんだなっていうのが伝わってくるわけで。
ごめんね、と素直に謝れば、とうとう泣かれてしまった。
どうしようこの子すっごく可愛いんだけど。


「で、カヤは夢は見てなかったんだって?」

ゼシカの問いかけに、胸を撃たれた後の話をすると、みんながみんな不思議そうな顔をしていた。
どうやら私はみんなの夢へと出没していたらしい。
どんだけ分身の術使ってんだよ、ってツッコミ入れたくなるよね。

テレシア曰く、それは私の潜在意識だったんじゃないかっていう話なんだけど…色々確認したいこともあるし、やっぱり一度生身のままガゴラに会いに行きたいなあ。
この後って、闇の浮遊城へ行くんだったよね。
その前に、ちょっとだけ時間もらえたりしないかな。

「あのさ、今がかなり大事な時だっていうのはわかってるつもりなんだけど…私、ちょっとだけ別行動したいんだけど、ダメかな?」
「別行動って……神子が別行動すればどうなるかっていうのは知ってるよね?」

すかさず飛んできたオルネーゼの厳しい一言。
でも、言葉の内容は厳しいものにも関わらず、その雰囲気は呆れたような、なんとも言えないような、そんな感じだった。

「し、知ってる…」
「………」
「……元の世界に帰りたいって言ってるわけじゃないんだし、ちょっとくらい時間あげてもいいんじゃないの?」
「…ああ………まあ、そうさね。マリベルの言う通りだ。急いだって良い事あったわけじゃないし。ここいらでしばしの休息を取ろうか」

オルネーゼが答えあぐねていると、マリベルが救いの手を差し伸べてくれた。
ツンデレの女神、ありがとう…!

「ええと、自分から言っておいて何だけど。急いで次のステージに進まなくても大丈夫…なのかな?」
「俺達が行動を起こさない限りは向こうから何か仕掛けてくるという事も無かったし、そこは心配ないだろう。確かに今まで急いていた部分はあったと思う。だが、今回は夢のせいか…皆の心に余裕もあるみたいだからな。どこに行こうとしているかはわからんが、いざとなればルーラストーンですぐに帰って来れるだろう」

そう言ってツェザールが渡してくれたのは、彼が何度も掲げていたルーラストーンだった。

「えっ、これ、お借りしちゃっていいの?」
「ああ。くれぐれも無くすなよ」
「あっ、はい、肝に銘じます…!」
「それで、やっぱり試練の祠に行くの?」

テレシアはマリベルと話していた時の事を覚えていてくれてたようだ。
ちゃんと行きたい理由も添えて説明すれば、反論されることもなく、みんな納得してくれた。

「俺も一緒に行くよ。一人じゃ危ないだろ」
「一人で行くつもりは無かったんだけど…お言葉に甘えることにします。ありがとう、ラゼル」
「……それならそうと早く言えよ、バカ」

バカですみませんね。
いや、言うタイミングが無かったもので…なんていうのは言い訳だけど。
誰に付いて来て貰おうか悩んでたっていうのが本音かな。
そこへラゼルが自分から申し出てくれたってわけだ。
付いて来てほしいって言うのは簡単な事だけど、結局のところ護衛をお願いしますって言うようなもので。形になるお礼が出来るわけじゃないから、自分から言うのって勇気がいることだと思うんだ。

それにしても…ラゼルの申し出は有り難いけれど、やっぱりこの距離感はまだ違和感があるなあ。
きっと単純な私の事だから、こうやって普通に接してもらえるのは嬉しいし、すぐに慣れるんだろうけどさ。
夢の中で私が何をしたのかがわかれば、まだ自分の中で納得も出来ると思うんだけどね。

「俺も同行しよう。護衛は多い方がいいだろう」
「それなら俺も行くとするかな。待っているのは性に合わないもんでね」

テリーに続き、ククールまでもが同行を名乗り出てくれた。

「あと回復係も一人いた方がいいんじゃないか?」

ツェザールは付いてくる気はないらしく、回復呪文を使えるメンバーの顔を見渡している。
もしかして光のしずくを取りに行った時と同じメンバーになるかな、なんて思ってたんだけど、そうはならないみたいだ。

「それなら私が行きましょうか」
「あら、ミネアが行くならあたしも行くわよ」
「姉さん…試練の祠の寒さ、大丈夫なの?」
「あっ…そういやあそこ、寒すぎるくらい寒いんだったわね。新しい防寒具買うのも今更って感じだし…やっぱりパース!」
「それだったらミネアさんも待機していた方がよろしいのでは?ここは私が代わりに」
「クリフトさん、お優しいのですね…でも今回は私もお役に立ちたいのです。譲っては頂けませんか?」
「あ、いや、優しいなど…そこまで仰るのでしたら…」
「二人共一緒に行けばいいんじゃないの」

マリベルの鋭いツッコミに、目を見開く二人。

「それは…確かにそうですね」
「別にどちらか片方じゃなければいけないっていう訳ではありませんでしたね。では、共に参りましょうか、ミネアさん」
「そうですね、クリフトさん」

なんつーか、これ、口にはしないけど。
ミネアとクリフトって熟年夫婦のような雰囲気を醸し出してるって感じるの、私だけかなあ。
見た感じ恋心を抱いているわけじゃなさそうだけど、お互いに敬語同士だし、柔らかい雰囲気だし。
アリーナとマーニャは何気にニヤニヤしながら二人のやり取りを見守ってるし。
っていうかマーニャさん、防寒具は誰かから借りるとか何とかして一緒に来てくれたら嬉しかったよ。
私、寒さに負けた…!

「ちなみに、あたしも行くわよ」
「マリベルも来てくれるの!?」
「なによ、来てほしくないって言うの!?」
「いやいや、そういう意味じゃなくて。逆に嬉しいよ」

マリベルは待機組だって勝手に思い込んでいたから。
それに、私の身を案じて泣いてくれた子だから、心配して来てくれるっていうんだったら尚更嬉しい。

「今度カヤに何かあったら、絶対にあたしが未然に防いでやるんだから!」
「頼もしい…!有難う、マリベル」
「我慢して待ってようかと思ってたけど、マリベルが行くならオイラだっていくぞ!」
「ガボまで!?」
「おいおい、今回はボス級のやつらと戦うわけじゃないんだ。カヤを心配する気持ちはわかるが、……試練の祠だぞ?同行するのは二人か三人くらいで十分だろ」

呆れたようなオルネーゼの物言いに、なんやかんやと言いながらも結局はアミダくじでメンバーを決めることになった。

2016.8.1
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