Novel
15:身体に沁み込む音色

屋台の食べ物は、どれも美味かった。
カヤの母国の料理なんかもあって、焼きそばってやつ、最初はゴムみたいな麺だなって思ってたんだけど食ってみたらめちゃくちゃ美味かった。
オレンカやジャイワールの伝統料理もあって、目移りしまくった結果満腹状態に。

もう少しで花火が始まるらしく、俺達は広場のベンチに座ることにした。

「っはー!満足満足!カヤも結構食ってたよな、それキツくないの?」

俺のはそんなにカッチリ着ている感じはしないんだけど、カヤ達女の服は帯の部分がピシッとした感じでキツそうに見える。
それを指摘すれば、案の定カヤは顔を歪めた。

「う…実は結構キツかったりする…でも美味しかったから平気!」
「なんだそりゃ、理に適ってねぇぞ」
「いーの、後悔してないってことだよ!」
「はは、そっか!」

他愛のない話を続けていると、海の方から大きな爆発音が聞こえて。
空を見上げてみれば、花火が始まったようだった。

「夜空に咲く大輪の花、か。…綺麗だなぁ」

そう呟いたカヤの横顔に、目に、花火の光が反射して見えた。
素直に綺麗だと思った。

「カヤの世界でも花火があるのか?」
「うん、あるよ。花火はこっちの世界とまるっきり一緒」
「へえ…料理とか服装とか、結構違うんだなって思ってたけど…同じモンもあるんだな」
「確かにカルチャーショックはあったけどね」
「ふぅん…いつかお前の世界にも行ってみたいな…って、まあ無理か」
「あはは、それは無理かもねえ」
「わかってるって」

平和って、こういう事を言うんだよな。
他愛のない話をして、穏やかに空なんて見上げちゃって。
戦いや争いの音なんて、どこからも聞こえてこない。
ループが終われば、こんな世界が待ってんのかな。

そんな事を考えていると、花火を見ていたはずのカヤと目が合った。

「ねえ、ラゼル」
「何だよ?」
「私、頑張るからね。何を頑張ったらいいのかなんて、やっぱりまだわかってないけど…それなのに甘ったれんなって言われるかもしれないけど、ちゃんと生き抜いて見せるから」

俺達、この空間に馴染んでる気がしたけれど…やっぱり違うんだよな。
現実では、ないんだよな。

「……やっぱり、これって夢なんだよな?」
「…うん、そうだね。まだ本当の平和は訪れたわけじゃないよ」
「だよな。わかってたけど、わかってたけどさ…」
「大丈夫だよラゼル。平和は必ず取り戻せるから」
「…さっきもそうだったけどさぁ…おまえ、なんでそんなに自信満々なの?」

嫌味を言いたくなるかと思いきや、やっぱり不思議とそんな思考にならないんだ。
この空間の空気が穏やかだからか、温かい気持ちが続いている。
これ、もしかしておまえがやってんのか?
聞いたところでわからないかもしれないし、何か面倒な話になりそうだからそれを聞くのはやめておく。

「何でだろうね。自分でもわかんないよ。ひょっとしたらラゼルやみんなを安心させたくて言ってるだけかもよ?」
「そりゃ詐欺って言うんだぜ」
「かもよ?って言ったじゃん。本当にわかんないよ、でも今なら平和を取り戻した先に自分がいるビジョンが見えるんだから、仕方ないじゃん」
「…本当に、このループが終わんのかな」
「終わるよ」
「…俺達、もう辛い思いとかしなくて済むのか?」
「うん、もうしなくて済むよ」

きっぱりと言い切るカヤに、ことごとく安心感を与えられている。
その言葉ひとつひとつが、身体に沁み込んでいく。

「………カヤ、助けてくれるか?」
「助けるよ。だから、信じてラゼル」
「っ、ほんとう、か」
「本当だよ」
「ぜったい、だぞ」
「絶対」
「…っ!」

大の男が女の前で泣くなんて、みっともない。
だけど、今まで色々考えていたことや気を張っていたものが、パァンと一気に弾けた感じがして、それが俺の涙腺までをも突き破ってしまったみたいだ。
止めたくても止まんないんだ。
カヤにこんな情けない顔を見せたくなくて俯いたのに、俺の肩に乗せられた温かい手の所為で余計に溢れ出てくる。

頼むよ。
お願いだよ。
もう、繰り返したくないんだ。
この呪いから解き放たれたいんだ。

助けてくれよ。

助けて、カヤ。






***


どれだけの時間泣いてたのだろう。
花火の音が俺の嗚咽をかき消してくれてたと願いたい。
あんなにみっともない姿、誰にも見せた事ねぇぞ…。

目を覚ました場所は、いつもと変わりなかった。
みんなで俺の顔を覗き込み、起きた事に気が付くと一気に押し寄せてきて。

「うわっ!な、なんだよ!」
「ラゼル!今回の夢、どうだった!?」

テレシアが顔をぐいっと近づけながら、興奮気味に言う。
テレシアだけじゃない、他の皆も心なしか興奮している様子で。
これは…やっぱり、あの夢は俺だけじゃなかったんだろう。

「みんなで楽しそうにしてる夢だったよ」
「やっぱり…!これって、もしかしてカヤのおかげなのかしら」
「どういう事だ?」
「私、夢の中でずっとカヤとお喋りしていたの。でも他のみんなもカヤと喋っていたって言うのよ。それを聞いた時に、カヤがやってくれたことなんじゃないかしらって思ったの」
「はぁ…?俺もカヤと一緒にいたけど…お前たちも?それぞれカヤと居たっつーのか?」

そう問いかければ、全員が一斉に頷いた。
とすると、同じだけど別々の夢?ってことか?意味がわからねえ。

「カヤに聞いてみればわか…そういやカヤは?」
「それが…」

カヤだけがこの場に居ないことに気づき、テレシアに問いかけてみると一瞬にして表情が曇った。
視線を追ってみれば、俺が居る場所よりも少し噴水寄りの場所に倒れていた。

その傍らには心配そうにカヤを見つめるホミロンが居て。

「ホミロン、カヤは!」
「まだ…起きないんだ…」
「ループも起きてないし、死んでいるわけではないようだが…俺達が先に目覚めて、それからテレシア、お前の順に目覚めたってことは、そろそろ起きるんじゃないかと思うんだがな」
「ツェザール…本当か?」
「憶測で物を言ってるだけだ。こんなパターンは初めてだしな」
「……とりあえず、このままにしておくのもどうかと思うし、一度ベッドまで運んでやったらどうだ?」

そう言いながらククールがカヤを抱き上げようとしたけれど、何故か考えるよりも体が先に動いた。

「俺が運ぶよ」
「!」

そう言うとククールはビックリした顔をしていたけれど、俺だって自分で不思議なんだ。
体が勝手に動くっつーことは、俺がそうしたいって事なんだろ。

初めてまともに触れたカヤの体は、壊れてしまいそうなくらいに柔らかかった。

2016.7.27
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