Novel
14:世界の隙間に入り込む

ここは…オレンカ、か?

いつもだったら、ここで俺達の夢を見ているはずだった。
ザラームに闇の雷を放たれた後は、俺とテレシアの生まれた時の夢…俺とテレシアが双子だったと判明した夢を見て、それからみんなの幻と戦って…そんな胸糞悪い夢を幾度となく繰り返し見てきたのに。

これは、どういう事なんだろう。
街中に広がっている色とりどりのネオン。
それから、バザーのようなテントがたくさん並んでいて、人々も大いに賑わっている。

「あ!ラゼル!こんなところに居た、みんな探してたわよ?」
「テレシア!その格好は一体…?」

俺の姿を見つけ、駆け寄ってきたテレシアはいつもの服とは違い、シュッとして動きづらそうな服を着ていた。
走り辛そうにもしていて、俺の真正面に来るまでいつもよりも倍の時間がかかっていた。

「これね、浴衣っていうんですって。カヤの国の伝統の服らしいのよ。ラゼルだって浴衣、着てるじゃない」
「は?え!?」

笑いながらそう言ったテレシアの視線を追って、自分の服装を見てみれば、テレシアが言った通りに俺も浴衣とやらを着ていた。
なんだよこれ、いつの間にこんなの…!

「せっかく平和になったんだから、楽しまなきゃね!行きましょ!」
「平和になったって、おい!引っ張るなよ!」

本気でわけがわからない。
俺達はザラームを倒してないよな?まだ終わってないだろ?平和になんてなってないじゃないか。
どうせこれも夢なんだろ?
今までの悪夢よりはよっぽどいいさ。
だけど、何で今こんな…!

引っ張って連れていかれた先に、集合しているみんなの姿が見えた。
全員がテレシアの言う浴衣ってやつを着ていて、今まで見た事がないくらいに穏やかで、楽しそうな表情で笑い合っている。
それを見た瞬間毒気を抜かれたっていうか、どうでも良くなってしまったっていうか…いや、どうでも良くなったわけじゃないんだけど、上手く説明がつけらんねえ。

ただ漠然と、ああ、ここは平和なんだなって。思ったんだ。

「おっ、来た来た。お前今までどこにいたんだ?」
「聞いてよククール、ラゼルってば入口のほうでボーッと突っ立ってたのよ」

俺の代わりにテレシアがそう答えると、ククールはニヤニヤしながら俺の肩に手を乗せた。

「へえ…入口付近に綺麗なお姉様でも居たのか?」
「ちょっと!あんたと一緒にしないのよククール」
「いてててゼシカ、引っ張るなよ」

弄りに来たかと思いきや、即行でゼシカに引っ張られてった。その入れ替わりにクリフトとアリーナが笑いながら寄ってくる。

「ククールは相変わらずですね。さて、全員揃ったことですし、ツェザールが今回の資金を分配してくれるそうですよ」
「資金分配?クリフト、どういう意味だ?」
「ラゼル、入口の方に居たってことは、オレンカの街並みを見てきたんでしょう?今日はお祭りだそうですよ。みんなが楽しめるように、と、ツェザールが我々にもお小遣いをくれるんだそうです」
「私、姫だからお小遣いなんて貰ったことなかったのよね!楽しみだわ!一番に貰って来ようっと!」
「あ、姫様!お待ちください!というわけでラゼル、お小遣いを貰った後は思う存分に楽しんでくださいね!」
「は、はあ…」

台風のようにツェザールの元へと消えていったアリーナ。
それに付いていくクリフト。
ただそれだけのことなのに、やっぱり幸せっつーか、楽しそうっつーか。

…そういや、カヤはどこに居るんだろうか。

カヤの姿がないことに気づき、モヤッとするのを覚悟していた俺は、不思議とその嫌悪感までもが消えていることに気づいた。
あれだけ憎く思っていた神子なのに、なんでだろうな。
今はここに居ないことが不安で、その姿を見つけないと逆にモヤモヤする。

なんだこれ、……なんなんだよ一体。


「なあ、テリー。カヤは?」
「…何故俺に聞くんだ」
「だってあいつの師匠だろ、テリーは」
「師匠だからって全てを知ってるわけでもないぞ」
「なんか厭らしい言い方だな」
「お前の解釈のせいだろうが……あそこ、少し離れた場所にいるのがカヤじゃないか?」
「あ、ほんと…だ…」
「おい、どうした」
「………」

なんだ、居るじゃん。
そう思ったと同時にカヤの姿が俺の視界に入った瞬間、ドキリと胸が鳴った。
だって、普通じゃなかったんだ。
オレンカの街並みに溶け込んでいるようで、でも不自然に景色からはみ出されているようにも見えて。
浮いている存在っつーか……儚げ?っつーか。

そこで、ハッとした。
俺が…俺が否定し続けてた所為で、あんな風に見えてしまってるんじゃないのか?
だってたぶん、これは俺の夢なんだろ?

「テリー」
「何だよ」
「あいつ、どういう風に見える?」
「どう…とは?別にいつもと変わらないが」
「………そっか、サンキュー」
「はぁ?…変なヤツだな」

テリーにお礼を言った後は、自然とカヤの方へ足が向いていた。
早くカヤの目の前に行きたい。
そして、早くカヤに触れてみたい。
そうすれば、カヤは俺からも普通に見えるようになるんじゃないかって。
それを、予測から確証へと変えたかった。

「カヤ」
「あ、ラゼル」

歩きにくいこの浴衣で、精一杯の早足で歩いてカヤの前に立つ。
名前を呼べば、笑顔で顔を上げる彼女。

「一緒に行こうぜ」

無意識にそんなセリフを吐き、カヤを立ち上がらせるために腕を掴んだ。

「え、あ!うわっ」

半分よろけそうになりながらも、そのままの勢いで立ち上がったカヤ。
思った通りだ。
俺が触れた途端、ついさっきまで感じていた違和感は綺麗さっぱり無くなっていた。
別にこいつを認めたっていう自覚なんてないけれど。
それでも嫌悪感はなくなっているし、みんなと同じようにこいつも仲間のひとりって言った方がしっくりくる。
不思議なんだ。
本当に不思議なんだけど、悪くない。
もし今ここで夢から覚めたら、その気持ちはどうなってしまうのだろうか。

………考えても答えは出ないんだから、どうせなら楽しんだ方が得だよな。

「これ、カヤの国の伝統の服なんだって?」
「うん、そうなの。浴衣っていうんだよ」
「それはテレシアから聞いた。なんつーかさ、歩きづらそうとか思ったけど…お前みたいなヤツが着るには華やかでいいよな」
「えっ…あ、ありがとう…」

俺の言葉に顔を赤くしたカヤ。
カヤの顔を見て、俺自身も気恥ずかしいセリフだったか、と少し反省した。

「で、何か食う?それとも何かやって遊ぶか?」
「えっと、」
「おいラゼル、お前にはまだ渡してないだろう。勝手にフラフラするな」

なんだよ、今カヤと話してんのに。
不機嫌顔で振り返れば、それ以上にムスッとした顔のツェザールが居た。
怒らせると面倒だし、ここは素直に聞いておこう。

「悪かったよ。んで、小遣いくれるんだって?」
「ああ、ホラ。無駄遣いするなよ」
「お前は俺のかーちゃんかっての」
「お前を産んだ覚えはない」
「…ぶぶっ…は、はははっ!おかしー!真面目な顔してそんな返事するとか、ツェザール面白すぎる!」

突然笑いだしたカヤに一瞬ビクリと反応したツェザールは、バツが悪そうな顔をしながらカヤにもコインの入った袋を放り投げ、それから無言でこの場を離れて行ってしまった。
少し場の空気が和らいだ気がする…ので、ツェザールには心の中で感謝しておく。

「あっ、悪いことしちゃったかな」
「問題ないだろ。とりあえずみんな散らばってるみたいだし、俺達もいこうぜ」
「それなんだけど、ラゼルはテレシアとかオルネーゼとかと一緒じゃなくていいの?」
「何で?」
「何でって…」
「カヤと一緒に色々見たいと思ったんだけど。嫌だったか?」
「や、嫌ってわけじゃなくて」
「ならいいだろ。ホラいくぞ」
「わっ」

なかなかこの場を動こうとしないカヤの手を引っ張って、そのまま近くの屋台を目指して歩き始めた。

きっと俺がこんなにもカヤに対して興味を抱くことなんて、今だけだから。
だから、カヤと一緒に色々見たいと思ったなんてことは、とてもじゃないけど本人には言えない。

言えないし、知られたくないと思ったんだ。

2016.7.25
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