Novel
13:世界の裏側に触れる

自分の体が傾いていくのがわかった。
みんなが何かを叫んでいるのもわかった。

死ぬんだ。直観的にそう思った。


…はずなのに、ここはどこなのでしょうね。


「おう、起きたか。精神体だっつーのに気を失ってるとか変な話だな全く」
「ええと…どちら様…」

どちら様だなんて、聞かなくても本当はわかってるんだけど。
だってさ、目の前でふよふよ浮いてて、小さいドラゴンみたいなこの姿。
ガゴラ以外に有り得ない。

「おいらは試練の祠の番人、ガゴラだ」

ほらね。ビンゴだ。
ってことは、私、この世界でまだ死んでないわけ?
あれ…、ガゴラ最初になんて言った?

「精神体?」
「挨拶もなしか。異界の神子ってやつも、人によってバラバラなんだな」
「いや、ごめんなさい。すみません。何分頭が混乱してたもので…!私はカヤです。試練の祠の番人ガゴラさん、よろしくお願いします!」
「ほう…なかなかわかってるじゃねーか。よしよし、よろしくしてやろう」

ふぅ…ガゴラの機嫌を損ねずに済んでよかった。
自分だけじゃこの状況がどうなってるのかさっぱりわからん。

「で、さっき言ってた精神体ってどういう意味ですか?」
「まあそうせっつくなよ。これが見えるか?」
「水晶玉?」

水晶玉なんて試練の祠にあったっけ?という疑問を抱きつつも、素直にそれを覗き込む。
そこには、二人の王と戦っているみんなの姿が映し出された。
苦戦しているように見えるのは気のせいだろうか…何かを庇いながら戦ってる…?

「え!?」

その何かが見えた瞬間、更に水晶玉に食い付いてしまった。

「なにこれ、私がいる!」
「おめえ、まだ死んでないからな」
「え?え!?だって、黒い球みたいなので攻撃されて、一撃で………死んでないから精神体としてここに居るってこと?」
「簡単に言っちまえばそういうこった。で、戻るのか?戻らねえのか?」
「戻るかって…戻れるんですか?」
「戻りたけりゃ、力を貸してやることは出来る。カヤ、胸元に何か入れてただろ。それが守ってくれたのと、少ない魔力で倒せると思ったんだろうな。ゼビオン王が放った一撃はそんなに強いものではなかったんだ」

だけど、この世界の人間みたいに耐性が付いているわけじゃないから、今まさに死にかけの状態なんだそうだ。
しかし、戻りたけりゃって言うってことは…戻らないパターンもあるっていう事だよね?

「ここで戻りたくないって言ったら?」
「お前はそのまま死んで、この世界は再びループする」
「……」

黙り込んでいると、ガゴラはこうやって帰っていく子達を何人も見届けたという。
実際に即死だった場合は干渉できなかったが、同じように瀕死の状態であればここに送り込まれることがあったのだと。
今までこうやってここに来た子達は全員帰る選択をしたわけだ。
それが何人だったかまでは聞かなかったが。

「この世界の事を恐怖としか感じられなくなったらしい」
「だから、大人しく自分の世界に帰ったって?」
「ああ」

そりゃあ、さ。
確かに、この世界は怖いと思うよ。
戦えない私は何度も言うように足手纏いにしかならないわけだし、あんな風に殺気を向けられる経験だって、普通に生きてたら絶対無かったわけだし。
でもね、みんなと話をしてみて…テレシアからラゼルの話を聞いたりしてさ。
私に何が出来るのかって聞かれれば、死なないように逃げ回ることしか出来ないけれど、例え疎まれていようとみんなから必要とされている神子のポジションに居るのは今は私ひとりなわけで。
帰りたいっていう気持ちよりこの世界のために何かをしたいっていう気持ちの方が強くなってきてるんだから、帰りますなんて言えるわけがないよね。
私が帰って、次の神子が来て。
次でループが終わるかもしれない。
でも、そんな確証なんてどこにもないし、何よりもう50回も繰り返してるんだよ?
ここいらでいい加減終わらせなきゃって思うよね?偽善じゃないよね、これ、もし私の立場だったら他にもそうやって思う人、いるよね?
そんな事したって自分に何の得があるとか、考えたりもするけど。
最終的には損得勘定よりもやらなきゃっていう使命感のほうが勝ってるんだ。
それにホラ、今は何もないかもしれないけれど、全部終わった時には何か良い事あるかもしれないじゃん。
寧ろこの経験自体が特別な事じゃん。

ほんと、人間の思考回路って不思議なもんだ。
最初に変な事に巻き込まれたな、とか、そんな風に考えてたのって誰でしたっけね。

「何か楽しい事でもあったか」

どうやら私は一人でニヤニヤしていたようだ。
ガゴラにそう突っ込まれて気づいた。

「ああ、ごめんなさい。色々自分の中で考えてただけ」
「それで?結論は出たのか?」
「もちろん、帰りませんよ。みんなのところへ行きたいです。ループしてないってことは、私が生きてるって思っててくれてるわけで…だからみんなも頑張って戦ってるんですよね?」
「それはそうだけどよ…本当に、それでいいんだな?」
「はい」
「……ふむ」

私の返事に、何を迷うことがあるのだろうか。
ガゴラは思案顔で、黙ってしまった。
せっついても仕方ないと思ったので、そのまま口を開くまで待つ。
すると、再び水晶玉を覗き込むようにとの指示が。

「あっ」
「今しがた、二人の王を倒したところだな。これからの事は言わずともわかるんだろ?」
「ザラームが姿を現して、みんなを闇に包もうとするんでしたっけ」
「ああ、まあ似たようなもんだな。お前、ちゃんと戻してやるからもう少しこのままここに残ってちょっと祈っててくれよ」
「祈る?何を?」

水晶玉同様に、ガゴラはどこからともなく綺麗な宝石の付いたペンダントを取り出した。

「これは聖女の祈りっつってな、その名の通り祈りを込めて使うものなんだが…いわゆる宝の持ち腐れってやつで、今まで使える者がいなかったんだ」

話ながら、ガゴラはそれを私に手渡した。

「え、こんな大層なものをどうしろと…」
「今の話で理解できないか?」
「できないです、馬鹿だから」
「………お前ならこれを使えると思って、託すことにした。あの魔法陣の上に立ち、聖女の祈りに力を注ぎ込むんだ」

あ、馬鹿だからの部分はスルーしましたね。
突っ込むと面倒だとか思われたのかな、別にいいけど。

「力を注ぎ込むって、どうやるんですか?」
「お前のあいつらを助けたいっていう気持ちをぶつけてくれれば、何とかなると思うぞ」
「そんな適当な………とりあえず、みんなの助けになれるっていうならやるだけやってみますけど…」

あの魔法陣って、私が召喚された場所じゃなかったかね。
見間違いじゃなければそのはずだ。
だとしたら、元の世界に帰る時もここから帰るのだろうか。
そんな事考えてたら本当に帰っちゃいそうだからやめやめ!

言われるがままに魔法陣の上に立ち、水晶玉を一瞥してから聖女の祈りを首にかけ、それからありったけの力を込めてぎゅっと握った。
握力は関係ないのかな?それでも、強く握った方が自分的にはやりやすい。

「じゃあ、やってみますね」
「おう。あんまり気負わずに頑張れよ!」

あんまり気負わずに頑張れとはこれ如何に。
まあ、いいか。
みんなの事を考えながら、楽しい事を考えよう。
今後この世界のループが終わったとしたら、みんなとわいわい騒いで、楽しいお祭りなんかして。
想像してたら少しずつ幸せな気持ちになってきたような感覚。
それと同時に、段々と意識が途切れてきている気がする。


「悪いな。この世界がこうなったのはな、おいらが原因なんだよ」

ガゴラが最後に何かを呟いていたようだったが、既に意識が薄れていた私の耳には何も聞こえては来なかった。

2016.7.23
[ main ]
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -