Novel
12:世界から弾かれる

クレティアの女王は、それはそれは美しい人だった。
この人も仲間になってくれれば絶対メインパーティーに入れるんだけどなあ、なんて思ってたあの頃が懐かしい。
実際目の当たりにしたら恐れ多くて、そんな思いはどこかへすっ飛んでった。

ちなみに、クレティア女王や他の国の王様たちには破呪のリングの事は伝えていないのだそうだ。
こんな思いをするのは自分たちだけでいい、と、仲間内と最初にループに気づいた兵士さんだけの秘密にすることにしたらしい。
何も知らなければ「あれ?なんかデジャヴュ?」くらいで済んでしまうみたいだ。

最初に気づいた兵士さんとも一度お話してみたいものだ。
みんなのように戦いに出向くわけでもないし、どういう面持ちで毎日を過ごしているのだろうか。
…それこそ余計な好奇心だったな。反省。


無事にマジャスティストーンを手に入れた事で、再び伝承の塔を上っている我々一行。
デュランはとてもおっかなかった。
シナリオ通りに撤退してくれて安心したけれど、ああいう理性がしっかりした敵ってとても厄介だと思う。
とはいえ、今回は完全に私の事をスルーしてくれたのでその辺は有り難かったが。
後ろから見ていて完全にビビった私は、狙われたら終わっていたかもしれない。
次にデュランにお目見えすることが出来たら、ビビって足がすくむのだけは回避したいところだ。

それにしても、ゲームだったら次のバトルを選択すれば、目的地にパッと行けちゃうものの…上まで上るのに再び敵を倒しながら行かなきゃいけないとか、面倒極まりないよね。
どこから湧いて出てくるんだろう、この魔物たちは…って、そうか。この世界の原理は敵を召喚する扉という名の魔法陣だったか。
魔法陣ひとつであんなにわんさか出てこれちゃうんだから、相当魔力の詰まってる魔法陣なんだろうなあ。
いいなあ、魔法とか…私も使ってみたい。

次々と敵を倒していくみんなの後ろ姿を見ながら、心の中で羨ましいと呟いてみる。
ステータスが足手纏いって虚しいだけじゃん。ねえ?





全ての敵を倒し、辿り着いた王の間へと通ずる扉。
ホミロンは無事に役目を果たし、結界が破られた扉がゆっくりと開いた。
みんなが一斉になだれ込むと、それを待っていたかのように背を向けている二人の王。

「何度目だろうな、こうやってヤツと対峙するのは…だが、今回も負けない…!」
「そうね、今回だって大丈夫よ。きっと勝てるわ。そして私たちは次へと進むの!」

ラゼルとテレシアは、お互い確認し合うかのように小声で呟いた。
その声に反応してか否か、二人の王はゆっくりと振り向いた。

「…何をお喋りしているのかね。我らにも聞かせてもらいたいものだな」
「それにしても、一人残らず始末したと思ったが…おかしいのう?」
「!」

王の目は、開かれているのかもわからないくらいに細い。
だからどこを見ているかなんて見当がつかないな、なんて思ってたんだけど。
言い終えた瞬間、全身に鳥肌が立った。
確証はないが、見られてる。そう、思った。
そしてそれを感じたのは私だけでは無かったらしく、何人かの仲間がさり気ない動作で私を王の視界から隠してくれた。

「異界の神子…か。何か、隠し事でもしておるのかな?」
「まずは、そうじゃ。異界の神子から息の根を止めてやることにしよう」

ええ…!
嘘でしょ、ここに来てピンポイントで殺す発言食らっちゃう!?

「こいつは何も関係ない!アトラスを使うためにこの世界に来たってだけだろ!」
「庇い立てするというのは自ら怪しいと申してるものだとは思わんかね?」
「うるせえ!関係ないから関係ないっつったまでだろ!」

会話をしながらも、ラゼルはじりじりと前に進んでいった。
王が動きを見せればすぐにでも反応する為だろう。

「…ラゼル、自分に矛先を向けようとしてるな」
「えっ…」

ククールが耳打ちをしてきて、その言葉に思わず声を漏らしてしまった。
危ない、私は喋れないってことになってるんだった…!

「お前、俺とククールの前に出るんじゃねえぞ。絶対出るなよ」

テリー…!こんな時に某お笑い芸人を思い出してしまった私の複雑な心境をどうしてくれる。
…ああ、もう!

くだらない雑念を振り払うために、思い切り頭を振った。

「なっ、カヤ、言うこと聞けよ」
「違う!今のは反発したくて頭を振ったわけじゃなくて!…あっ」

慌てて口を塞いだが、時すでに遅し。
振り返って私を見るみんなのテメェやりやがったなこの野郎っていう表情と、ニタリと笑う王の表情。
どっちも怖いです。
せっかくラゼルが自分に矛先を向けようとしてくれてたのにね。
一瞬で台無しにしちゃうとかね、自分で自分を殴りたいよ。殴ったってどうしようもないんだけど。

「お主、声を失ったというのはまやかしであったか」
「何を企んでいるかは知った事ではないが…やはり生かしてはおけぬな」

やばい、足がすくむ。
普段の生活の中で、殺気を向けられたことなんてなかったからわからなかったけれど、全身金縛りにあったような気分だ。
動かそうと思えばきっと動くはず。
でも、一歩でも動いたら終わる気がする。

二人の王は、杖を持っている方の手を掲げた。
それに気づいたラゼルとテレシアが、王に向かって走り出す。
だけど、既に呪文の詠唱が行われていて。

全てがスローモーションに見えた。

振り下ろした杖から放たれた、黒い光の球。
それはみんなをすり抜けて、ククールとテリーが私の前に立ちはだかるも、それさえもすり抜けて。


「ッ…!」

私の胸を、貫いた。







みんな、ごめん。


…ごめん、ね。

2016.7.21
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