Novel
11:安全な場所

…と、まあ、意気込んでみたものの。
足手纏いにならないわけがないよね、戦闘経験がないんだもの。
今のところ変に迷惑はかけてない…と、思いたい。


あれから全員が集合した後、すぐさまゼビオン奪還へと向かった。
光のしずくを街中に撒き散らし、闇の衣を取り除いて。
市街地の西側から攻め入り、あれよあれよという間に目の前の魔物から消えていって、順調にすべての区画の奪還が完了。
逃げるまでもなく、みんなの後ろについて走って行くだけで市街地の広場へと辿り着くことが出来た。
ゲームでは4人しか参加できなかったけれど、実際は全員で掛かるんだもんね。
それでいて攻略法もわかってるんだから、そりゃ早いよね。
いくつか設置されていた闇の魔弾砲も、ククールの弓で次々と破壊されていったし…!

ツェザールやオルネーゼは単独行動で別の区画に居たらしいんだけど、そんなことに気づく暇すらなかった。
後から合流した時に知って、ビックリした。

ぶっちゃけ神子ってやる事あったの…アトラスの時だけじゃん?
本気で足手纏いにしかならないんじゃん?
そんでもって神子が生きてないとこの世界のループは止まらないって…こりゃ疎まれる存在だと言われたとしても否定できないわ。



「来るよ、下がりな!」

オルネーゼが叫ぶと同時に、ウイングタイガーが空から降ってくる。
ドォン、と大きな音を立てながら、地面が思い切り揺れた。
私は立っているのが精一杯だったけれど、他の皆はウイングタイガーの着地と同時にジャンプしていたので然程影響はなかったっぽい。
それ、先に言ってよ…!

「カヤ、しっかり掴まってろよ!」
「うん!…うん?うわああああああああああ」

炎を吐かれたらどこに逃げればいいんだろう、なんて思っていると、ハッサンに抱えられてウイングタイガーの背中目掛けて飛んだ。
情けない声が出るのも仕方のない事だと思うんだ。
だって、まさか背中に乗せられるなんて思わないじゃないか。
しかも、飛び乗る直前にウイングタイガーの顔面掠ってったよ。

「じゃ、絶対に落ちるんじゃねえぞ!」

爽やかにそう言い残し、ハッサンは華麗に飛び降りてしまった。

「ええええ嘘でしょこんなところに置き去りとかしかもひとりで」
「ひとりじゃない、情けない顔を見せるな」
「師匠!」
「………」
「ごめん!テリー!」
「ああ」

名前じゃないと返事しないとかどんなツンデレだよ。
いいじゃん、もう自分でも認めてくれたんだから師匠で。

「色々画策したうえでここが一番安全だという結果が出たんだ。万が一味方の流れ弾が来たときのために、俺が一緒に居てやる」
「え、じゃあテリーは攻撃に参加しないの?」
「放ったらかしで良ければ参加するが。その方が早く終わるだろうしな」
「すみませんでした放ったらかしは嫌なので流れ弾処理班でお願いします」
「…クッ、はは、なんだそりゃ」

わ、笑った…!
あのテリーが普通に笑ったよ。なんか妙な感動を覚えてしまった。

とはいえ、ここまでは何度もクリア出来ているみたいなので、流れ弾が来ることもなく本当に安全な場所として待機することが出来た。
もちろんウイングタイガーが攻撃されて、傷が増えていく度に吼えたり物凄く体を捩ったりするもんだから、そこはしっかりと鬣を掴んで落ちないように頑張った。
テリーも支えててくれたから、落ちそうになることも無かった。
例えて言うならロデオボーイっていうマシンに乗ってるような感じ。
一度だけ試乗したことがあったのだが、それに近い感覚だったと思う。いや、まあ、こっちのほうが激しいか。
少しくらいはダイエットになるだろうか…この世界で痩せたところで関係ないか。


アリーナの正拳突きがトドメとなり、ウイングタイガーは咆哮と共に倒れていった。
それと同時にテリーが抱え上げてくれて、そのままジャンプ。
…お姫様抱っこなんて可愛いもんじゃなく、俵担ぎで。
ハッサンなら安定感があったけど、テリーみたいな細身の男の人にこれやられるとちょっと怖い。
落とされる心配はないんだろうけど、一瞬ヒヤッとしてしまった。

「みんな、勢いは衰えてないな!このまま突き進むぞ!」

ラゼルがそう叫ぶと各々がそれに対して反応し、伝承の塔へと向かって駆け出した。
マリベルから貰ったまもりのルビーをぎゅっと握りしめ、私も後に続いた。
落としたら困るし、胸の内ポケットに入れておこう。

テレシア曰く、双子の王との戦いまでに脱落した神子は約半数とのこと。
遺跡の番人との戦いから無事に帰って来れたことに安心していたけれど、クリアすればするほど強い相手が待ち構えているっていうことを失念していた。
攻撃パターンがわかっていたって、果たしてそれをちゃんと避けられるかどうか、だよね。
この世界で死んだって自分の世界では生きてるってわかってても、やっぱり死ぬのは怖いよ。
出来れば死なずに元の世界に帰る。
これ、今の私の一番の目標!


「カヤさん、体力は大丈夫ですか?」
「うん、まだいけるよ」
「この後も長いんだからね、配分考えなさいよ」
「そうだね、これ…上っていくんだもんね」

モンバーバラ姉妹が私のところまで下がってきてくれて、ねぎらいの言葉をかけてくれた。
マーニャに言われ、伝承の塔を見上げる。
私はただひたすらに走って付いていくだけだけど、みんなは魔物と戦いながらこれを駆け上がっていくんだもんなあ。
半端な体力の持ち主じゃ、途中で力尽きちゃうよね。
そうならないためにもこの世界には回復道具とか、呪文とか、そういう便利なものもあるのだけれど。
出発の直前に、テレシアから薬草のお裾分けを貰った。
何かあったら使ってね、と渡されたそれは、持っているだけで少しの安心感を与えてくれる。

「本来だったらクレティアに行くメンバーと伝承の塔を攻略するメンバーと。戦力を分割したいところなのにねぇ」
「んん?」
「あら?お忘れ?」
「お忘れ?って、何が?」
「途中まで上って、マジャスティストーンを手に入れてから再び上らねばならないのですよ」
「マジャスティ…あっ、もしかしてホミロンが使うやつ?」
「思い出しましたか。良かった」
「良かっ…良くない!!マジか!この高くそびえる塔に二回も上るのか!」
「そーいうこ・と!薬草も貰ったんでしょ?食べながら進んでいけば、そこまで疲れを感じないはずだから心配ないわよ」
「貰った。結構たくさん貰ったから、そんなに体力無いと思われてんのかなとかちょっと思っちゃったけど、いや、実際ないんだけど…そっか。二回上るからこの量だったのね」

私のガッカリ具合に、ミネアとマーニャは顔を見合わせて笑った。
美人姉妹は何をしても美人だから羨ましい。
美しいんだけど、口から出た言葉は…大げさだと思われてもいい、私にとって残酷で。

「こんなの、どんどん強くなる敵を目前にしたら大したことないと思うわよ」

マーニャのトドメの一言に私はガクリと項垂れつつ、みんなのおかげで魔物が居なくなった綺麗な道を、無心で走ることに専念した。

2016.7.17
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