Novel
10:信頼はこじ開けるものでもない

「………ごめんなさい」

シュン、と落ち込んでしまったマリベルの姿は、いつもの彼女からはとても想像の出来ないものだった。

「いや、誤解させるような言い方しちゃったみたいだしね、気にしないでいいよ」
「まあまあ。ルーラストーンの話を持ち出されたら、私でもマリベルみたいに誤解しちゃったかもしれないわ。だから元気出して」
「うん…」

何故こうなってしまったかと言うと。
マリベルは、私が試練の祠に行って元の世界に帰ろうとしていると誤解しているみたいだったので、割って入ってくれたテレシアが彼女を落ち着かせてくれて、それから本来の目的をきちんと伝えた。
試練の祠に行けば、この世界で自分の出来ることが見つかるかもしれない、と。
それを伝えても最初は疑心暗鬼だったマリベルも、段々と冷静になってきたようで、ちゃんと私の話に耳を傾けてくれた。
最終的にはテレシアもマリベルも、私が本気で考えているということを信じてくれて、現状に至る。

召喚された場所が試練の祠だったから、そこに行けば帰れるだろうっていう考えの神子もいたみたいで。
実際、そうやって帰っちゃった子もいたらしいから、そりゃあ私が元の世界に帰ろうとしてるって疑われても仕方ないよね。

「それに、テレシアにはもっと拒否されると思っていたなあ…」
「えっ、そんな事しないわよ!」
「!?今の、聞こえた?」
「ごめんなさい、バッチリ聞こえちゃったわ」

独り言はもっと小さい声でするべきなんだね。
勉強になりました、ってか、謝るのはむしろ私のほうだと思うよテレシアさん。
…この際気になってること、言っちゃうか。

「ラゼルとテレシアには拒絶されてると思ってたんだけど、違う?」
「あ、ちょ、あたし、席外した方がいいんじゃないの?」
「いやいや、そんな重い雰囲気で話すつもりはないから大丈夫なんだけど…気まずい?」
「気まずいっちゃ気まずいけど…カヤとテレシアがいいなら、聞かせてもらうわ」
「私はもちろん問題ないよ」
「私も、いいわよ」
「…あっそ!じゃあ、続きをどうぞ!」

先程までの落ち込み様から一変、マリベルらしい姿に戻っててちょっと吹きそうになった。

「ええと…言い辛いけれど、確かにラゼルは拒絶してるわ。でも、それはカヤじゃなくて『異界の神子』なの」
「うん、まあ…、何となくわかってた。知り合ったばっかで私自身を拒絶されても悲しいなって思ってたし、そう言ってもらえて良かったよ」
「お世辞とかそういうんじゃないわよ。ラゼルは何度目かで異界の神子に対する大きなトラウマを抱えてしまったの。これは本人が居ないところで話すべきじゃないと思っているから、詳しくは言えないのだけれど。その時直面してたのがラゼルだけで、私はその場に居なかったんだ。ラゼルから話を聞いて、一時は同じように拒絶してた時もあったんだけど…ラゼルがこんな状態なのに、私まで同じじゃいけないって思うようになって。それからは、神子をひとまとめに考えるの、やめたわ」

少しばかり重くなってしまった雰囲気に、マリベルはやっぱり外した方が良かった、っていう顔をしている。
マリベルも、その内容は知っているのだろう。
きっと、知らないのは新しくやって来る異界の神子だけだ。

「言えないものを無理やり聞こうとは思ってないから、とりあえずわかったって言っておくね。言い辛い事を話させてしまう流れにしちゃってごめんね、テレシア」
「…そんな風に気遣ってくれる子、初めてだわ」
「今までこの話をした神子はいたの?」
「………そう言われてみれば、…いない、かしら」
「ぶっ…あはは!そしたら初めてなの当然じゃん!ね、マリベル!」
「え!?あ、ああ、そうね!テレシアってばおっちょこちょいなんだから!」
「…ふふっ、そうね、ごめんなさい」

うん、こういう雰囲気はいいね。
拒絶されてないってわかって、テレシアとこんな風に話すことが出来て、素直に嬉しいと思える。
ラゼルとはこんな風に話せる日が来るのかわからないけれど、それはそれで無理強いするものでもないし、やっぱり仕方のない事だと思う。
どんなトラウマかはわからなくても、拒絶するくらいのものを植え付けられてしまったのだから、そう簡単に解けるもんじゃないよね。

元の世界だったら、もしかしたら「理由もわからず拒絶されるとか、むかつく」なんて思ったかもしれない。
でもこの世界はやっぱり私の世界とは違いすぎて、考え方とか、物の見方とか。そういうのを改めさせられるところがある。
偽善者ぶってると思われるかもしれないけれど、今のところちゃんとした本音だ。

「こんなこと、カヤに頼める義理じゃないっていうのはわかってるのだけど…今のラゼルは、この世界を守りたいっていう気持ちが大きすぎて…大切なものが欠けてしまっている状態なのよ。だから…どうか、ラゼルを悪く思わないであげて欲しいの」

テレシアのその言葉に、思わずきょとんとしてしまった。
そして、じんわりと胸の奥が温かい気持ちになる。

「そんな心配は必要ないってば。心では拒絶されど、色んな場面で助けてもらってるよ。邪険に扱われているわけでもないし、歓迎されてないなって気づいた時点で不思議とすんなり受け入れることが出来たから、大丈夫」
「…あなたって、ほんとに良い人なのね。ありがとう、カヤ」
「良い人ってわけじゃないと思うけど…」
「なーんかあたしの幼馴染、思い出しちゃった。カヤみたいにお人好しなのよね、アイツ」
「それってアルスのこと?」
「へっ!?なんで知って…ああ、そっか。あんたの世界ではあたし達の世界のこともゼーンブ知ってるのよね」

名前、アルスであってたんだ。良かった!
マリベルだって早くアルス達の元に帰りたいよね。
マリベルだけじゃない、他の皆も、家族や兄弟のところに帰りたいよね。
だから、みんなのためにもやっぱり死ねない。

この世界も酷だよ。
私がこうやってみんなと話をするたび、私のやる気メーターをぐぐっと押し上げていくんだから。
最後には元の世界に帰るんだ、っていう気持ち、揺らがせないでよ。
強制的にバイバイなんだろうけどさ、その頃の涙腺が心配だよ。

そんな感動を味わうためにも、まずはゼビオン奪還。そして双子の王と決着を。
とにかく足手纏いにだけはなりませんように!
そう、未来の自分を案じた。

2016.7.9
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