Novel
9:かわいい人たち


遺跡の番人は、今まで対峙したどの魔物よりもトリッキーな動きだった。
厄介だったのは、やっぱり瞬間移動で。
気づけば後ろに居た、なんて事が幾度もある。

「カヤ!後ろだ!」
「っ!」
「ツェザール!そのまま横に飛べ!」
「ああ!」

ツェザールに向かって叫ぶラゼル。
その声を受けたツェザールは、私を抱えたまま地を蹴って横へと飛んだ。
私たちが移動したすぐ後から、ククールの弓が飛ぶ。そしてテリーの追撃。
こちらが大丈夫だと確認した後、ラゼルとクリフトはもう一体を相手にしていた。

番人は片方だけ倒せても、世界樹の葉を使ってくるので同時に倒さなければならない。
だから、戦力を分担して戦わねばならないのだ。
自分と対峙している敵がいるのにこっちまで見る余裕があるとか、凄いとしか言いようがない。

後ろをとられる度に、誰かに庇ってもらって。
横から番人を攻撃してくれて、注意を自分に逸らしてくれたりして。
自分じゃ何も出来ないってわかっていても、体が動かないってわかっていても、守られてばかりっていうのが凄く悔しかった。
私が自分で自分の身を守ることが出来たら、みんなは自分と相手の動きだけに集中できるのに。
余計なお荷物を抱えていなければ、もっとスムーズに事が進んでいくはずなのに。

ここに来るまでは、大勢で行動していたからそんなことまで考えたりしなかった。
でも、こうやって少人数で戦っているのを目の当たりにして。
私、やっぱりこのままじゃダメなんじゃん、って思った。

落ち込んでいる間にも、みんなは着々とダメージを与えていく。
最後にラゼルとツェザールがそれぞれ同時にトドメを刺して、小さな爆発を起こした後に番人はその姿を消した。

その衝撃からも、ククールとクリフトが守ってくれて。
二人の隙間から見えたラゼルとツェザールの顔は、凛としていて純粋に格好良いなって思った。

ここに来たことは不可抗力だ。
自分では望んでない出来事だとしても、それでも私、こんな惨めな思いはしたくない。
この世界に居る限り、今より少しでもいいから強くなりたい。
足手纏いにならないために、自分で出来ることをちゃんと考えたい。

…確か、私が召喚されたのは試練の間だった…よね。
今すぐには無理かもしれないけれど、試練の間に行けば何か掴めたりしないだろうか。
もしかしたら無駄かもしれない。でも、やってみるだけ価値はあるんじゃないかな…って、気がする。
かも、とか、気がする、とか、全て憶測で物を考えてしまうのは予防線を張っているだけだ。
自分に備わっていなかった扉を開くのが怖くて、躊躇している。

でも、思い切ってぶち破ってみたいと思った。
こんなにも何かをやってみたいと思うのは初めてだった。


「よし、これで光のしずくは手に入ったな。カヤは怪我とかしなかったか?」
「うん、みんなが庇ってくれたりしたから大丈夫だった。ありがとう」

下を向いていた私の顔を覗き込み、ククールが気遣ってくれた。

「でも、矢が掠ってるところ見たぞ俺は」
「クリフトが即座に回復してくれたから、痛みなんてほんの一瞬だったよ」
「…そうか。それならいーけど!」

目が合ったと思ったら、一瞬にして逸らしてしまったラゼル。
それでも、声を掛けてくれるだけマシだ。

「これから益々大変になってくるぞ。今のままだと…」
「うん、ダメなのはわかってるよ。自分なりに色々考えてみるつもり。時間はかかっちゃうかもしれないけれど」
「…ほう、いい心掛けだ。時間がある限り、剣技の方は俺がみてやる」
「ありがとうございます師匠!」
「だからその呼び方はやめろ」
「おや?さっき『コイツの師匠は俺だからな』って言ってたのはどこのどいつだったかな?」

そういや、さっき私が返事する余裕のないときにそんな事言ってた気もするね。
そしたら自他共に認める師匠じゃないか。

「俺はそんなの知らないね」
「テリーは素直じゃねえなあ」
「うるせえキザ野郎」
「くだらん言い争いはみっともないぞ。目的は済ませた事だし、野営地に戻るが、いいな?」

ツェザールに一喝され、二人ともヤレヤレ、という素振りで口を噤んだ。

早足で遺跡から出て、再び荒野東部のいざないの石碑へまでルーラで戻って。
今回はハッサンも居なかったし、自分でそうしたいと思ったので野営地までは自分の足で走った。
もちろん疲れたけれど、これくらいでバテてちゃいけない。

「カヤ…、頑張るのと無茶は別物だからな」

ククールは、小声で私にそう呟いた。
心配してくれるのは有り難い。でも、今は無茶でもしないとダメなんじゃないかなとも思う。
無茶しすぎて倒れたりしたら本末転倒だけれども、そうなる直前まではやってみようと思うくらい、やる気に満ち溢れている。
元の世界に戻った時に、これが将来のやりたいこと探しに繋がってくれたらいいんだけどなあ。




野営地へ戻ってからは、みんなが再び集合するまで少しの休憩を。
今、出来ることは何かを考えてみた。
私の装備が確実に足りていない状態だったので、アクセサリーを確保することは出来ないだろうか。
たまたま近くに居たマリベルに声を掛けると、有り難い事に余っているアクセサリーを分けてもらえることになった。

「カヤは守備力の強化が必須事項だと思うのよね」

そう言いながら渡してくれたのは、きんのゆびわ、きんのブレスレット、まもりのルビーだった。

「これ、マリベルは使わないの?」
「あたしは他のがあるから大丈夫よ。全部あげるわ」
「有難う…そういえば、みんなお揃いの指輪してるよね?それは何か意味があるの?」

人の指なんてそこまで注意深く見ることもなかったけれど、マリベルが装飾品を見せてくれたので、あれ?と思ったのだ。
みんな、同じ形の指輪をしていたな。と。

「ああ、これ?これはね、あたし達がループしても記憶を残せるための指輪よ。破呪のリングってわかる?」
「破呪…本来なら幻惑時間短縮の用途だったと思ったけど」
「本来なら、ね。でも、この破呪のリングをしていたおかげでループしていることに気づいた兵士がいて、あたし達に教えてくれたのよ。それで、みんなで嵌めるようにしたら記憶が残るようになった、ってワケ」
「へぇ、そうなんだ…」

友達とお揃いとかやったことないから、ちょっと羨ましいな、なんて思っちゃった。
遊びでやってるわけじゃないのにね。

「……何、あんた羨ましいとか思っちゃってるわけ?」
「……イエ、別にそんな事は…」

何故ばれてる。そんなに顔に出ていたのか…恥ずかしい!

「コレ」
「?」

キーホルダー状になっているまもりのルビーをトントン、と叩きながら、マリベルの顔がほんのりと赤くなる。

「あたしとお揃いよ」
「…へ、へえ」

思わぬツンデレと出会ってしまったので、明らかに不正解な反応をしてしまった。

「何よ!もっと嬉しそうにしなさいよね!このマリベル様とお揃いなんだから!」
「わ、わ〜!嬉しい!マリベルとお揃いなんて嬉しいな〜!!」
「ふん、最初からそうやって喜んでいればいいのよ。まったく…気を使ってやるんじゃなかったわ」

本当に心から嬉しいことには間違いないんだけど、一度表現をミスると次も上手く出来ないというかなんというか。
それでもマリベルの怒りは収まったから、良かった。
それにしてもガボといい、マリベルといい。エデン組はなんて可愛い子達ばっかりなの…!
主人公も、実際に会うことが出来たら可愛さ爆発なんだろうな。
名前はアルスかな。

「とにかく、次はまたひとつの山場なんだから。ちゃんと身に着けてなさいよね!」
「うん、有難う。恩に着ます!」
「そこまで感謝しなくってもいいわよ」
「あ、そうだ。感謝ついでにもうひとつ」
「何よ?」
「ルーラストーンて、どっかでもらえたりしないのかな?」
「ルーラストーン?……カヤ、どこかに行きたいわけ?」

ルーラストーンの話を持ち出した途端、マリベルの可愛い表情が歪んだ。
声も、心なしか低くなっている。

「行きたいっていうか、まあ…聞いちゃダメだった?」
「……ダメじゃないけど…いい思い出は無いわね。ルーラストーンを使って試練の祠に行こうって考えてるんなら、絶対に教えないわ」
「え」
「………帰るつもりなんでしょ」
「え!?」
「すっとぼけたって無駄なんだからね!何よ、お揃いとか嬉しそうに言っておきながら結局!あんたもそうなのね!!」

半ば興奮気味に、一方的に喚き散らすマリベル。
まだ何も言ってないのに、これはどうしたことだ…!

「一体何を騒いでいるの?もうすぐみんなが集まってくるはずよ」

マリベルの喚き声を聞きつけてか、テレシアが来てくれた。

「テレシア!聞いてよ、この子元の世界に帰ろうとしているわ!」
「え!?」
「え!?」

テレシアの訝し気な表情と、私の驚いた表情と。
表情に差はあれど、マリベルの発言にビックリしているのはテレシアも私も同じだった。

2016.7.3
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