Novel
7:野営地にて


「カヤ〜、だいじょうぶか?」
「うう…腰が痛い…筋肉痛になりそう…」
「薬草もらってきてやったぞ、ホラ」
「ガボは優しいなあ〜可愛いなあ〜」
「やめろよ、ぐしゃぐしゃにすんなって!」

言葉通りにビシバシと扱かれた後、テリーは何故か満足そうにこの場を去っていった。
構えから振り方、受け流し方などなど色々教えてもらうことはできたけれど、使いこなすレベルに到達するには相当の時間がかかりそうだ。

そして、疲れ切って近くにあった岩にへばり付いていた私に優しく声をかけてきてくれたのが、この天使ことガボである。
優しさにジーンときて、頭をわしゃわしゃと撫でたら怒られた。でも本気怒りじゃないから余計に可愛いだけである。

「テリー、なんだかうれしそうだったな。きっとカヤが頑張って練習してたからだぞ」
「そうかな?弱音を吐かないって約束したから、意地でも文句言わずに頑張ろうと思って。ほとんど無心でやってたようなもんだったけど」
「やっぱりカヤのニオイ、オイラ好きだなあ〜」

鼻をすんすんと動かし、ニッコリと笑顔を向けるガボ。
最早可愛い以外の言葉が当てはまらないよ…!

「うわははは、なんかこそばゆい」
「こそばゆいって何だ?」
「くすぐったいって意味」
「オイラくすぐってねーぞ?」
「直接くすぐられてなくても、いいニオイとか好きだとか言われると気恥ずかしいっていうかなんて言うかですね…」
「ああ、わかったぞ!照れてんだな!」
「……さっきから聞いてれば、どんな会話してんのよあんたたち」
「ゼシカ!」

その声に振り向けば、呆れた表情のゼシカが腕を組みながら立っていた。

「会話だけ聞いてたらこっちが恥ずかしくなってきちゃったわ」
「えー、こんなにほのぼのとした雰囲気なのに」
「まあ、あんた達がじゃれ合っているのは微笑ましいわね。ところで、もうそろそろ寝ないとマズイと思うんだけど…カヤは寝る場所とかわかるかしら?」
「あ、もうそんな時間か。じゃあオイラは行くな!」
「あっ、うん。薬草有難うね!」
「どういたしましてだぞー!おやすみ、カヤ!」
「おやすみ!」

素早くこの場を去っていくガボを見送り、ゼシカへと向き直った。

「もしかして教えに来てくれたの?」
「まあね。他の皆は疲れて寝ちゃったみたいだし、カヤの姿が見当たらなかったから。さっきテリーと擦れ違って、この場所のこと聞いたのよ」
「ああ〜…ってことは、テリーも結構遅くまで付き合わせちゃったんだなあ。ほんと感謝しないと」
「いつもみたいにムスッとしてなかったから、いいんじゃないかしら?」
「それ、ガボにも似たようなこと言われた」
「ふふ。じゃあカヤが気にすることじゃないわよ。それで、本題に戻るけどね。っていうかどうせ寝る場所は一緒だし、このままお話ししながら行きましょ」
「うん、じゃあお願いします」

可愛らしい笑顔を向けてくれたゼシカと二人、並んで歩く。
こんなにも華奢なのに、バッチリ戦闘要員なんだもんなあ。凄いよなあ。

「野営地だからいくつかのテントに分かれて寝ることになってるの。カヤは私と、アリーナ、マリベルの四人のところね」
「四人一組って感じ?」
「ええ、大体はそうね。それで、明日の出発のことなんだけど」
「正確な時間が決まったの?」
「今から6時間後に出発予定ですって。メンバーは私も一緒…って言いたいところだけど、残念ながら外されちゃったのよね」

ゼシカが言うには、メンバーは今回の主要人物であるツェザール。
ジャイワールの光の遺跡が目的地だからね、ジャイワールの王子抜きってわけにもいかないよね。
それから、回復とスクルト要員でクリフト。
秘宝の魔神機…遺跡の番人は、雷に弱いので雷系の技が使えるテリーとラゼル。
後はバイキルト&遠方攻撃要員でククール。

「………見事なまでに、男性ばかりじゃない?え?女の子は?一人もいないの?」
「言われてみれば、一人もいないわね」
「いないわね、じゃなくて……えー…とても居心地の悪いこと間違いなしなんだけど…」
「その辺はククールが構ってくるだろうから、大丈夫じゃないかしら?」
「それは大丈夫と言えるのでしょうか」

そう言ったら、ゼシカは楽しそうに笑っていた。
普段自分に被害が来るところ、回避できたことが嬉しいんだろうな。
実際ククールに絡まれているゼシカを見てたら、本気で疲れている感じだったし。
それでも仲間として大切だ、という話をククールから聞いた後だったから、ゼシカには申し訳ないけれどそれすらも微笑ましく思えた。

いいなあ、仲間って。
そんな風に思える人に出会ったこと、ないや。
友達はそれなりに居たけれど、親友なんて呼べる人は一人もいなかったし、それこそ仲間なんて信頼の置ける人は、ねえ。
同じ目的があるからこそ、仲間意識ってモンが強くなって、絆が深まっていくんだろうな。

私には将来何をしたいか、どうやって生きていきたいかの明確な目的なんてない。
ただ、流れに流されてのらりくらりと生きているだけだ。
やりたい事、守りたいものがあるこの世界の人達はみんな眩しくて。
それが私が馴染めないって思っている一つの要因なのかなあ。
…最終的には、馴染む必要なんてないんだけれど。

そう思ったら、ちょっとだけ寂しいな、なんて。
そんな風に思う資格なんてないのに、こうやって話をしているだけで早くも情が湧いてしまったようだ。

ダメだよ。
そんなの、今の私にはいらないよ。
今からこんなんじゃ、帰るのが辛くなっちゃうじゃないか。


「ここが私たちのテントよ。シャワーはあそこの仮設小屋で浴びれるわ」
「ありがとう。ゼシカはもうシャワー…浴びたよね、爽やかな香りだもんね」
「結構前にね。じゃあ、私は先に寝るわね。アリーナもマリベルももう寝ちゃってるから、静かにお願いね」
「うん、おやすみゼシカ」
「おやすみなさい、カヤ」


もうほとんどの兵士達は就寝中のようで、なるべく物音を立てないようにシャワーを浴びた。
水音は仕方ないけれど、見た感じ防音されてるっぽいから大丈夫だったかな。

明日、光の遺跡に行く以外のメンバーは他に色々と役割分担をされているみたいだった。
少しでも物事を円滑に進めるための処置だそうだ。
戦う相手の動きとか、何が起こるかわかっていればそんなに人手を割く案件ではないようだ。
私としてはやっぱり女の子も一人くらいは欲しかったし、人数が多ければ多いほど私の生存率が上がるんじゃないかな、って思うんだけど。
そんな事を言ったらただの甘えでしかないのかな。
せっかくテリーに指導してもらったんだから、少しは頑張ろう。
死にそうになったら死ぬ気で逃げよう。


…と、まあ、ちょっとばかし覚悟を決めたつもりだったんだけど。
案の定、寝坊しまして。
ギリギリのところでマリベルが叩き起こしてくれたお陰で、出発時間に遅れずに済んだのだった。

2016.6.29
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