Novel
6:少しずつ、前を向く

襲い掛かってくる魔物たちは皆獰猛で、普通に日常生活を送っていたら一生見ることも無かったんだろうなっていうくらいにはトリッキーな動きをしたりして。
ラゼルから片手剣を受け取ったものの、剣の扱いなんて知らない私にはこれをどうやって使えばいいかなんてわからず、とにかくみんなが取り逃して私に飛びかかってくる魔物の攻撃を弾き返すくらいしか出来なかった。
しかも、弾くたびに手がビリビリして、いつ剣を落っことすかヒヤヒヤものだった。
怪我をしなかったのが奇跡にも思える。

私が危ないと気づいてくれたみんなが即座に蹴散らしてくれたから大丈夫だったものの、闇の衣をまとった魔物たちから逃げるときには流石にもうダメかと思った。
ククールが手を引っ張ってくれたのは有り難かったんだけど、足が付いていかずに何度も転びそうになった。
その度にラゼルやツェザールがすくい上げてくれて、きっと足手まといとか思われてたんだろうな〜なんて少しの自己嫌悪。
日頃の運動不足が悔やまれた瞬間でした。
歴代の神子達はこうやって脱落してったりしたのだろうか。

自分の身くらい、守れるようには…なったほうがいいよね、もちろん。
教えてくれそうなのって誰だろう。


「全員脱出完了したな!それでは、今から荒野の野営地を目指して走るぞ!」

ツェザールがみんなにそう叫ぶと、何度もお世話になっているハッサンに担ぎ上げられて。
…あれ、移動の時はハッサンに担がれるっていうのはもうデフォなのかな。

「ハッサン、よろしくお願いします」
「おう、任せとけ」

声を掛ければ男前な返事が返ってきて、安心した。
相変わらずハッサンの隣にいるテリーからは笑われたので、舌打ちしたらお尻を引っ叩かれた。
担がれてるから丁度いい位置にあるのかもしれないけどさ!セクハラだぞばかやろう!


荒野東部のいざないの石碑にルーラをし、それから野営地に向かって走る一行。
いざないの石碑からは然程距離もなく、あっという間に到着した。
今まで余裕もなかったから景色なんてそんなに見てこなかったけど、一言で言うと暗い場所だった。
ゼビオンが豪華で明るすぎたからかもしれない、そのギャップに戸惑いを隠せなかったが、今までの豪華さが私にとっては異常だったし、逆に少し落ち着くかもしれないな、と思う。


ハッサンに降ろしてもらい、クリフトから飲み物を貰って一息ついているとオルネーゼが近づいてきた。

「良く逃げ切れたね、お疲れさん」
「みんなに助けてもらったので、その言葉は私が貰える言葉ではない…です」
「あっはっは!あんたはそんな事気にしなくていいよ。死なないでくれただけあたし達にとっては有り難いってモンさ。それに、あたしにもカタイ言葉は必要ないから、普通に喋っておくれよ」
「う、うん、わかった」

実際この世界って年齢差とかあってもほとんど無礼講で通じちゃいそうだから、オルネーゼの言葉に甘えるとしよう。

「そういえば、最初の時もこうやって声かけてくれたよね」
「ああ、そうだったかい?…まあ、なんていうかさ。やっぱり気になっちまうんだよね、あんたみたいにどうしたらいいかわからないって感じの子を見てるとさ。お節介だったかい?」
「お節介だなんてそんな事は!絶対無い!…けど、歴代の神子にそうやって言われたことあるの?」
「男目当てだったヤツにはね」
「男目当てって」
「そのまんまだよ。この世界のループなんざどうだっていい、自分は好きな男と添い遂げられればそれでいいってヤツ」
「なるほど」

恋愛をするのは悪いことじゃないと思うけど。
でも、世界が違うってわかってるのに、どうしてその人と添い遂げたいとまで思うんだろうね。
………そういう想いが強くて、こうやって次元がねじ曲がっちゃったとか?
まさかね、そんなの考えすぎだよね。
人の想いは自由だから、皆まで言うまい。

「少なくとも私はこうやって声をかけてくれるオルネーゼに感謝してるよ。実際馴染めないのは明らかだし、歓迎されてないのもわかってるし」
「歓迎されてないって…誰かに言われたのかい?」
「ううん、言われたわけじゃ…ああ、テリーからはテストみたいな感じで試されたりはしたけど。でも他の人から何か言われたわけじゃないよ。それどころか、皆優しくて逆にビックリしてる」
「じゃあ如何して」
「言われなくても、感じ取れるものってあるよね。人の気持ちに敏感なわけじゃないけれど、鈍感すぎるほど鈍感でもないつもり。それに、私がその人の立場だったらそうなるかもなって思ったら素直に受け入れることが出来ただけだよ」
「…ガボがあんたを気に入ってる理由がわかった気がするよ。あの子はほんとに人の嗅ぎ分けが凄いねぇ。ま、あんたに危害を加えるようなことは無いはずだから、その辺上手くやり過ごしてくれると助かるよ」
「うん、そんな心配もしてないし大丈夫だよ。さっきも危なかったところ、助けてくれたりしたし。ありがとうオルネーゼ」

困ったような表情で、頭をポンポン、としてくれるオルネーゼ。
こんな姉が居たらいいなあ、と思ったのは秘密である。

「話は済んだか?」
「ツェザール。悪いね、余計な話をしてたからまだ本題にも入ってないんだ」
「何だと…まあいい、それならば俺から説明した方が早そうだ」
「じゃあ、あたしはちょいと休んでくるから。あとは任せたよ、王子様。カヤも、話が終わったらもう少し休むといい」
「うん、重ね重ねありがとう」

オルネーゼは背中を向けて手をひらひらとさせながら、この場から離れて行った。

そして。
威厳たっぷりの眼がこちらを向いた時には、背筋がピンとなるのは仕方のない事だと思う。
ツェザールも、オルネーゼみたいに柔らかい雰囲気を醸し出してくれたら喋りやすいのに…って、ムリか。王子様だしな。

「この後やるべき事は記憶に残っているか?」
「この後…って、確か闇の衣を取り除くために、光の…光の……なんだっけ」
「光のしずくを取りに行くのだ。一応解ってはいるみたいだな」
「正確な名前とかは忘れちゃったけど、自分が置かれている状況を考えてたらどうしたらいいかっていうのは何となく思い出してきた、って感じ。でもきっと皆の方が記憶に残って…っていうか、最終的に一番進んだって思うのは、どこまで進めた時なの?」

いくら記憶に残っていたとしても、その記憶が近い未来の事までなのであれば、この先私が無事に生き延びれていったとしたら…私の記憶が鍵になることは必須だ。
返答次第では無い頭を振り絞って思い出さねばならない。

「ザラームと対峙した事は三度ある。だが、ザラームを倒せたことは一度も無かった」

…ふむ。
一応最後まで進んだ事はあるんだね。
でも、ツェザールの言い方だと第二形態はまだ見たことがないっぽい…ちょっと聞いてみよう。

「あの、ザラームの姿が変化するっていうのは知ってる?」
「ああ、まだ見たことは無いがな。だが、ザラームの攻撃パターンは解析済みだ。次に対峙できればその姿を拝めることだろう」

攻撃パターンか。
さっきみたいに大群に囲まれちゃったら、攻撃パターンがわかってても対処法を考えたとして上手くいかなかったりするだろうね。
でも、相手が少数であればあるほど攻略しやすくなるわな。この辺はゲームと同じように考えてもいいのだろう。
それに自分の体がついていけるかどうかは別として。

「じゃあ、とりあえずの心配はないか。ええと、光のしずくって今すぐ取りに行くの?」
「いや、今は皆の体を休めねばならない。遅くとも明日の早朝に出ようと思っている」
「そっか。そしたら、誰か私に剣の扱いを教えてくれそうな人っていないかな。体力の余ってそうな人で」

言いながらツェザールを覗き込めば、プイ、と顔を反らされた。

「ツェザールが教えてくれてもいいんだよ?」
「その上から目線は腹が立つからやめろ。それに、俺は色々やることがあって忙しい」
「じゃあ、誰か派遣して貰えると有り難いんだけど」
「わかった、善処しよう。それまでオルネーゼが言った通り、少し休んでいるがいい」
「うん」


休むと言っても、ハッサンに抱えてもらってるうちに体力は回復したようなもんだし、できれば早く指導してもらいたいんだけどな。
ツェザールに指定された場所で、そんな事を考えながらしばらくボーッとしていれば、足音が近づいてきて。
私の横で止まったので顔を上げると、不機嫌な表情の銀髪さんと目が合った。

「……もしかして」
「剣の扱いを教えてやる。有り難く思え」
「………ご、ご指導ご鞭撻のほど…よろしくお願いします、師匠」
「変な呼び方をするな!」

そうだよね、片手剣と言ったらテリーだよね。
っていうかさ。
今更だけど、私、片手剣以外に選択肢って無かったのかな。
他の武器も試してみたいなー、なんて思ったけど…、テリーが教えてくれるって言ってるのに、それは贅沢ってものだよね。

「言っておくが、少しでも弱音を吐いたらその場で終了だからな」
「うん、わかった」
「……ほう、素直に返事が返ってくるとはな…よし、お望み通りビシバシと扱いてやろう」

いやいや、素直に返事したのは最初からテリーがそういうヤツだってわかってたから返事したまでであって…って、これも偏見になっちゃうのかな。
あー難しい!

「早速構えからいくぞ。剣を抜け」
「は、はひっ」
「情けない返事をするな!」
「はいっ!」

ビシバシ扱かれたいわけではない、と言い返したかったのに、そのタイミングを完全に逃してしまった。

2016.6.25
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