▼ 3:旅団、初めてのおつかい
「翔、アンタの服二着ほど貸してくれない?」
「え?なんで?」
ゲームの手を止め、翔以外の三人もこちらに視線を向ける。
あ、なんか嫌な予感。
「お昼ご飯買いに行くか「「「オレも行く(ぜ)!」」」
予感的中。
あたしと向かい合っていた翔を乗り越え、三人とも見事に声をそろえて言った。
こうなったら抵抗したって無駄なんだろうな、きっと。
「…じゃ、さっさと着替えて皆で行こうか…」
諦めたように言うと、翔も苦笑い。
他の三人はクロロとフェイタンと同じように好奇の目に変わっていたけれど。
とりあえず翔の部屋のクローゼットから其々に似合いそうな服を引っ張り出して着せてみた。
身長はバラバラなものの、どうにか全員着れたようだ。
もし、何度もこっちの世界でお出かけするようになったらみんなの服も買わないとなぁ。
え、えらい出費になりそう…。
「なんか悔しい」
翔が呟くのも無理はない。
だって、なんか…ホスト集団みたいよ。
そーじゃなかったらどこぞのアイドル?
クロロ、シャルナーク、フェイタンは言うまでも無くカッコイイ。(あくまでも個人的好みだが)
フィンクスは…眉なしだけど、まあいい男だし、ノブナガも…髭生えてるけど、そこがなんかシブイと思う。
要は、みんなカッコイイってこと。
翔の服なのに、こんなにも似合ってしまうのが悔しいんだろう。
姉の贔屓目無しにしたって翔も結構いいトコいくと思うんだけど、旅団はイイ男が揃いすぎている気がしてならない。
漫画では薄っぺらかったからよくわからなかったけれど、実際こうして目の当たりにすると…、クロロとシャルとフェイってば、ド直球ストライクのイケメンじゃないの。
ああ、やばいやばい。
意識しちゃうときっと今後大変だよね。
冷静に、冷静に…!
「何ボーっとしてんだ、早く連れてけよ」
「むっ、解ってるわい!」
フィンクスに憎まれ口を叩かれながら、翔の部屋を後にする。
そして玄関で靴に履き替え、ドアを開けて外に出た。
「うわー、眩しい!今日はいい天気だねぇ」
「わ、本当だ!まだ昼間だしなー…既に一日いろんなことがあったけどさ」
「はは、まあ、それはきっと今日だけじゃないから……って、何で出てこないの、みんな?」
旅団の5人はドアの前でかわるがわるパントマイムみたいなことをやっている。
「何やってんだ、あれ?」
「さあ?」
訝しげな顔で近付くと、何かを喋っているようだった。
遊んでるのかな・・・声、出せばいいのに。
わざと声も出さないでいるのか?
本当に何やってるんだ。
呆れて玄関に近付くと、みんな後ろに下がるのでとりあえず再び家の中に入った。
「一体何やってんの?」
「出られない」
はぁ?
出られない?
クロロがそう呟き、他の皆も頷いた。
あたしは翔を手招いて、玄関へと呼び寄せた。
「何?何やってんの?」
「出られないんだって」
「……んん?」
ほら、そういう反応になっちゃうよね。
あたしは正常だ。
「壁があるようで、押してもビクともしないし邪魔されてるみたいなんだよね〜」
シャルは言いながら玄関のドアが開いた空間をコンコン、とノックする。
音はしないものの、まるで本当に壁があるように見える。
「出られないって…、異世界の人間だから?」
「あー?そんな事関係あんのか!?」
「じゃあ、オレ達これ以上先に進めネェってことか!?」
「いや、そんなのあたしに聞かれても」
翔に助けを求めるような視線を送ると。
「…オレに聞かれても…」
またそれかよこのやろう。
やっぱ役立たず!!
「はぁ…行けないんじゃしょうがないよね、とりあえずあたし達で何か買ってくるよ」
ここにいたって空腹は満たされないし、誰かが何か買ってこなきゃ始まらないし。
そう思って再度外に出ようとすると、クロロに手をがしっと掴まれた。
「待て、オレだって家の外に興味がある。どうにかして外に…ん?」
あたしは勢いが止まらず、クロロの手ごと外に出た。
………出た?
「出れるじゃん」
そう、なんて事はない。
現在クロロは玄関の外であたしの横に立っている。
「さっきは完全に出られなかったが」
ふと家の中に視線を戻してみると、何やら騒ぎ立てながら扉の空間をドンドンと叩いているような残りの四人。
その横から翔がそ〜っと出てこようとしたが、その四人にガシッとつかまれ、将棋倒れになって外に飛び出してきた。
「どうやら、この世界の人間に触れていられれば外に出られるみたいだな」
「…そんな馬鹿な」
そんな事有り得ないと思ったが、この家が異世界に繋がってしまっているということも有り得ないことだし。
そうなるとさしずめうちら姉弟は異世界の番人ってか!
なんて、カッコイイこと言ってみても虚しくなるだけだな。
どんな偶然だよ、って言いたくもなるけどさ。
実際あたし達に触れながら外に出れたのだから、その理論は正しいんだろうな。
しかし何だ。この状況は。
「あの…」
「ん?何だ」
「その…手を…」
そうなのだ。
先程ガシッと掴まれた時から手を繋ぎっぱなしで、いい加減恥ずかしくなってきた。
「ああ。これぐらいで恥ずかしいのか?」
「や、恥ずかしいっていうか……うん、まあ」
だってクロロだよ!?
あのクロロに手を繋がれたら、そりゃあもう恥ずかしいってもんでしょ!!
失礼だがノブナガかフィンクスだったら平気かもしれないけど。
でもきっと、シャルとフェイに繋がれても恥ずかしくて耐えられないと思う。
何度も言うけど、この三人はド直球ストライクだからね!!
「可愛いな、ナオは」
そう言ってクスリと笑って。
手は離してくれたけど、それってずるくありませんか。
初めて名前を呼ばれ、可愛いと言われ。
まさかクロロに可愛いなんて言われるとか思わないじゃん。
寧ろ可愛いなんて言葉知ってたのかよ団長!とか思うじゃん!
きっとあたし、今顔真っ赤だよ。
熱くなる顔を腕で隠していたら翔にからかわれた。
くっそ、覚えとけ!
「あー、もう!行くよ!お腹すいてるんだから!!」
誤魔化すためにその場を仕切り、近所のスーパーに向かって歩く。
本当はコンビニにしようと思ってたんだけど、この人数だったら作った方が安上がりになるしね。
お金に困ってるとか、そういうわけじゃないけどさ。
両親のおかげで割と裕福だからラクしてさっさと食べてもいいんだけどさ。
どうせならみんなで楽しく食べたいなーって思ったりしてみたり。
このメンバーで楽しくなるのかは…まあ、別として。
そして辿り着いた近所のスーパー。
「みんな、何が食べたい?」
「んー、食えればなんでもいーぜ」
最初に答えたのはフィンクスだったが、その後に続いたみんなの反応は全く同じで。
なんだなんだ、何でもいいって言われるのが一番厄介なのを知っての言動か。
好きなものとか言ってくれたらそれに合わせて考えるから楽なのに、なんでもいいだと全部一人で考えるハメになるじゃないか。
「ていうか、ナオが作るの?」
「そうだよ」
シャルの問いかけに即答してみれば、へぇ〜だの、ほぉ〜だの、感心したような声が聞こえてくる。
「人は見かけによらないってホントだな」
…フィンクスむかつく。
「フィンクス、食べたくないのならいいんだよ?」
ちょっと偉そうに言ってみると、フィンクスは慌てて態度を変えてきた。
「わ、悪かったって!見かけどおり料理うまそうだもんな!!」
プライドよりもご飯が大事なのか。
食べれるならなんでもいいって言ったくせに。
でも食べれないのは嫌なんだ。
…はは、なんか可愛いな。
だんだん楽しくなってきて、一人でニコニコしているとノブナガに何ニヤニヤしてんだよ、って突っ込まれた。
ニヤニヤじゃなくてニコニコ!だ!!
「しょーがないな。翔、あんたは何が食べたい?」
「しょーがない、でオレに振るのかよ…ま、いいや。久々のハンバーグが食いたい」
だって旅団の皆が意見言わないのがいけないのさ。
でもやっぱ翔に聞いて正解だったな。
よし、今日のお昼はハンバーグ!
そうと決まればいざ!食材売り場に…って、こんな男の集団がそろいも揃って食材売り場にいたら異色だよね。
「あたし食材みてくるからさ、その辺適当にぶらぶらしてなよ!翔、みんなのこと面倒見ててね!」
「おー、解った!」
「あ、オレも食材の方行くよ」
翔に全てを押し付けて行こうとすると、一緒に行くと言い出したのはシャルだった。
「え?でも」
「いいから。荷物持ちだって必要でしょ?」
言われながら背中を押され、あっという間に食材売り場に。
他の人たちはやっぱり色々見て回りたかったらしく、あたしについてきたのはシャルだけだった。
あ、買い物が終わった後の集合…ま、翔がいるから大丈夫か。
いざとなったら携帯に電話すればいいし。
「シャルナークも他のところみたかったんじゃないの?」
買い物カゴに野菜や肉を入れながら質問する。
「うん、それもあったけどさ。オレ、ナオの事知りたいし」
……あたしの事を知りたい、って言った?
突然何を言い出すんだこの人は!
「し、知りたいって!?」
思わず声が裏返ってしまった。
「あははは!知りたいって言っても、変な意味じゃないよ!この世界で最初に会った人物だし、そういう意味で、ね」
…あは、あははは…なーんだ。
早とちりしてしまった自分が心底恥ずかしいよ。
「でも…さっき団長が言ってたとおり可愛いね、ナオ」
「はいはい、慰めはいいから」
「慰めじゃないんだけどなぁ」
人のよさそうな顔で、ニコニコ。
その笑顔にはどれだけ裏があるのだ。
ちきしょう、カッコイイ男なんてこれだから……これだから好きだってんだ。
あー、ほんと馬鹿みたい。
クロロといい、シャルといい、良いように遊ばれてんじゃないの。
「まー、シャルナークもクロロも、女の人相手にするの上手そうだもんね。さらりとかわしてそう」
「それ!」
「え?」
突然ビシィ!!と、指を向けられたので驚いた。
普通の話してたのに、ホント突然。
「それさ、オレの名前長いでしょ?」
「シャルナークって?まあ、普通の人よりはちょっと」
「だったら愛称で呼んでよ。シャルってさ」
既に心の中ではシャルって略してたものの、本人に許可を取ってないのでわざわざシャルナークって呼んでいたのだが。
いいって言うなら素直にそうさせてもらおう。
「うんわかった、シャル!」
あたしとしてはかなり嬉しかったので、多分満面の笑みで返事をした。
「……うん、ナオ、やっぱ可愛いよ」
「えー!?もう、そんなに褒めたって何も出ないよー?」
「いてっ!」
照れ隠しに笑いながらシャルの背中をばしんと叩いてやった。
こんなお世辞にいちいち照れてたらキリないしね。
ていうかあたしの平手なんて痛くもかゆくもないくせに。
そんな話をしているうちに、材料もいい感じに揃ってきて。
「そういや、みんなってどのくらい食べるの?やっぱ大食らいなのかな?」
「あー…うん、そうだね。結構な量食べるんじゃないかなぁ」
シャルはさりげなくあたしの手からカゴをひょいっと取り上げた。
「あ、いいのに」
「いやいや、荷物持ち必要って言ったでしょ。じゃなきゃ何のためについてきたのかわかんないよ」
普通にしてたらこんなにも優しいんだな、って思う。
「ふぅん、知りたいっていうのは嘘だったんだ?」
ちょっと意地悪く言ってみると、シャルは笑顔でサラッとこう言った。
「いや、それもホント。まあ、旅団の事を知ってる時点で殺しておいたほうがいいのかなって思ったけど、殺すって言っても何も怨みないし。それにナオ達殺しちゃったらもうこっちの世界にこれないもんね。だったら色々知っておかないと損じゃん?」
ヒィ…!
前言撤回させて頂きたい。
そうだよね、シャルは旅団の情報収集役だもんね。
優しさを求めたあたしが馬鹿だった。
「…とりあえず殺されないように頑張るよ」
「でもナオと翔なら大丈夫だと思うよ、何気にみんな気に入ったみたいだし」
「だから慰めはいいって。しかもさっきの言葉聞いた後だから微妙な気分だよ。さて、話を本題に戻すけど。そんなにたくさん食べるならもう少し量を増やさないとね!そんで、ついでにお菓子も買って行こうか」
気に入ったって言われても、いつ気持ちが変わるかわからないじゃない。
もし飽きられたらって思うとゾッとするよ。
微妙な気分を乗り切るため、今度はあたしがシャルの背中を押して前へと進んだ。
そしてカゴいっぱいの材料と、もうひとつカゴを増やしてお菓子を入れて。
レジで会計をすまし、周りを見渡すと偶然フィンクスが立っていたのでそれを掴まえ、シャルと一緒に荷物持ちをしてもらった。
いやー、男手があるとラクだねぇ!
なんて、主婦じみた言葉を呟いてみたり。
それから翔の携帯に連絡を入れ、クロロ、フェイタン、ノブナガとも無事合流。
さ、家に帰ったらとびきりおいしいハンバーグを作ろう。
折角だから、みんなにおいしいって言ってもらいたいもんね!
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