H×H | ナノ


▼ 15:殺し屋の嫁候補

ハンター世界に来て初日にゾルディック家全員拝むことが出来たなんて奇跡だよね。
初めての印象はあんまりよろしくないっぽいけど、まあどうにかなるんじゃないかな、って思っちゃうあたり…あたしって楽天家なんだなって実感する。

キルアに案内されること数分。
ようやく先程の大きな扉が見えてきた。
ここまで連れて来てもらうまでの間に、ゴン達のことを聞こうかとも思ったけれど。
あたしが読んだ原作とは違うようだし、(だってクロロとゼノじいちゃんとシルバさんの仲が良いっぽい)とりあえず余計なことは何も言うまい、と決めた。

「親父、じいちゃん、入るぜ?」

ガチャリと扉を開き、中に入る。
キルアって、ゼノじいちゃんとシルバさんのことこんな風に呼ぶんだ…イルミにも同じことが言えるけど、二人に対してあたしが持っていた印象が変わったな。

「キル。なんでナオと一緒なの?」
「コイツ、館内で迷ってたから連れてきた…っていうかその有り得ないメンツはどうなんだ…」

部屋の中では、先程残った5人がテーブルを囲んでお茶してる。
言われてみれば、かなり異色だ。

「だって、ナオと翔を連れて来るにはクロロとヒソカが一緒に来るっていうから。ナオは異世界の人間なんだ」
「はぁ?異世界?」

キルアは何言ってんだ、という目で、イルミではなくあたしを見る。

「…翔が戻ってきたらちゃんと説明するから」
「翔って?」
「あたしの弟」
「へぇ、弟もいるんだ」
「そういう訳だから、キルア。お前もこっちに来て一緒にお茶でも飲んだらどうだ。ナオも、来なさい」
「……」
「どうしたんだよナオ?行こうぜ?」

シルバさんの言葉に足を止めていたあたしの袖を、キルアが引っ張る。

「……お茶、毒入りですか?」

そうなのだ。
忘れてはいけない、ゾルディック家の食事には必ず毒が入っているという事を。
そう考えると、お茶一つにしても細心の注意を払わなければいつどこで命を落としてもおかしくはない状況だ。

「そんな事まで知っておるのか。はっはっは!面白いヤツじゃのう。毒は抜くように伝えてあるから安心せい」
「大丈夫だナオ。オレ達もさすがに毒入りは遠慮したいからな」

ゼノじいちゃんの後に、安心させるようにクロロが言う。
クロロが言うなら大丈夫かな。

あたしはキルアが座った後、空いてる席に腰掛けた。
それにしても、やっぱり原作とは違うこの世界のゾルディック家は仲がいい。
殺伐とした雰囲気が感じられないもんね。
仲がいいといっても必要最低限っていう感じではあるけれど、それでも普通にどこにでもあるような家族みたい。

いいな、こんなゾルディック家も。





そして待つこと10分。
クロロ達は世間話をしていたが仕事の話なので入り込む隙もなく、キキョウさんと翔が戻ってきたら何から話そうか考えているうちに、時間は過ぎていき。

「お待たせ致しました、翔さんを連れて来ましたわ!!」

扉が開くと共にキキョウさんの言葉が部屋に響き、そしてそのキキョウさんの横に立っていたのは。

「…さっき、弟って言ったよな?」
「うん、弟のはずなんだけど」

とっても可愛らしくゴスロリちっくな服を着せられた翔の姿だった。

「なあ、ナオ…あれ本当に、本当に弟なのか?」
「…だからそうだってば」
「兄はオカマで弟は女装趣味…お前らって…」

またオカマって言った!!
しかも兄じゃないし!
そうかそうか。
早く説明しないといつまでたってもオカマ扱いからは逃れられないのだな?

キキョウさんと翔が席に着いたのを見て、あたしは自分の世界とハンター世界の繋がりの事をきちんと説明した。
もちろん、姿が変わってしまった事も。

「へぇ、じゃあそっちには念もなにもないんだ」
「うん、あたし達のいる世界では本当に一般人のみ。窃盗や殺人もあったりするけれど、それらは念とかじゃなくて普通の力で行われているものだし、道具を使わないことにはまず無理かな」
「ほぉ。不便じゃのう」
「確かに不便かもしれないですけどね、それなりに楽しいですよ?」
「へぇ。クロロとヒソカは、そっちの世界に行けるようになってどのくらい経つの?」
「んー…、もう二ヶ月くらいは経つかな◆」

クロロとヒソカはゾルディック家の人間に質問攻めにされて少し困っていたが、なんとなく楽しそうに見えた。

「翔、あんたもなんか喋ったら?」

さっきからずっと黙りっぱなしの翔に話を振ると、ぶんぶんと首を横に振り、涙目になっていた。

「?何、どうしたの」
「まあまあ、翔さん!嬉し泣きだなんて、私感激よ!!そんなに嬉しかったのね、ゾルディック家のお嫁さんになれること!私が花嫁修業して差し上げますからね、一緒に頑張りましょうね!」

何がどうして一体そこまで話が進んでいるんだ。

キキョウさんの発言に驚いているのはあたしとクロロとヒソカ。
あと、イルミもほんの少しだけ。
ほかの人たちは翔の男の姿を見た事が無いから一概に男だ、と言われたところでピンとこないのだろう。

「あの…恐縮ですが、キキョウさん?」
「あら、何かしらナオさん!」
「ウチの弟は…翔は男、ですよ?」
「まあ、何を仰るの!?こんなに可愛らしいお嬢さんが男なわけないでしょう!?翔さんにはイルミさんかキルアさんかミルキさんのお嫁さんになって貰うつもりです!!」

この人、今までちゃんと話を聞いてくれてたのだろうか。
いや、聞いたうえで自分の良い様に理解させたんだなきっと。
その顔のサイボーグは伊達じゃないってか。

……これは…手ごわそうだ。

《た   す   け   て》

翔が口パクであたしに助けを求める。
そりゃあ、あたしだってどうにかしてやりたいけどさ。
今まで男に産まれてきて男の嫁になる、だなんてそりゃあ可哀想ってもんでしょ。
だけど、キキョウさんをどうにかできるとは……思えないよねぇ。

「キキョウ。翔の意思は聞いたのか?」
「あら、パパったら!翔さんが息子達のお嫁さんになるのは反対なの!?」
「反対とかそういう問題でもないだろう」

いいぞ、シルバさん!!
常識人としてキキョウさんをなんとか言いくるめてくれ!

「問題は、我がゾルディックの跡継ぎが産めるような強靭な肉体がなければならない。翔は念も使えないそうじゃないか」

そこかよ!!

ツッコミどころが間違ってるよ、シルバさん!!
常識人と思ってたあたしの心を返せ!!
ああ、翔の顔がどんどん沈んでいく…!

「それならば私が先程言ったじゃありませんか!花嫁修業は任せて頂戴!!」

そうか。
花嫁修業には、念の修行も入っているのか。
そりゃあ強くもなれて、結婚相手も決まって将来安泰なんて一石二鳥だな。

「もういいよ翔、ゾルディック家の嫁になっちまえよ」
「!?姉ちゃん、何言ってんだよ!!マジで助けてくれって!!」

こうなったら逃げられないよ多分。

そう思い、呆れた目つきで翔に言葉を投げかけた。
必死で泣きそうに叫ぶ翔に対し、キキョウさんは嘆かわしい、と一言。

「駄目ですよ、女の子がそんな言葉遣いで!!だいたい、女の子というものはですねぇ…」

くどくどくどくど。

どこぞの教育ママみたいに、キキョウさんは翔に説教を始める。
あたし…女の姿でこっちの世界に来なくて良かったな。
仮に女の姿だったとしても、キキョウさんに気に入られるってことはまずないと思うけど。

呆然としているあたしの袖を、キルアがツンツンと引っ張った。

「ねえ、ナオって本当に女なの?」

わぁぁ…なんだろ、このキラキラしている小動物は。

「うん、だからそうだって言ってるじゃん」
「じゃあさ、お袋説得してやんの手伝うからさ、女の時の姿、見せてよ」
「その交換条件は一体何ゆえ…見ても何も得しないと思うけど」
「得しなくたっていいって。単なる興味ってヤツだから」
「…そう。それならまあ…、いつまでたっても帰れないのも困るしね、お願い」
「了解!約束だかんな!」

キルアはそう言ってあたしの小指に自分の小指を絡めると、キキョウさんと翔の元へ近付いた。
そして、キキョウさんに何か言って……翔を嫁にするならこの家継がねーぜ?とか何とか聞こえてきたけど、そんな脅しって効くのかな。
と、思っていると、キキョウさんは両手を頬に当て、まあああ!!そんなのダメよ、キル!!わかったわ、翔さんは諦めるから!!という叫び声が聞こえた。
跡継ぎの事となるとあっさり嫁は手放すわけだ。
変なの。

キキョウさんから解放された途端、翔は一目散にこっちに走って逃げてきた。

「ひでーよ、ねえちゃん!!なんで助けてくんないんだよ!!」

涙目になりながらも一生懸命訴える翔。
そんな翔の頭にスパァンと一発くらわす。

「うっさいわね、助かったんだからいーでしょーが。それに、あたしの女の姿をキルアに見せるって約束したから、キルアが助けてくれることになったんだから!要はあたしのおかげなの!わかった!?」
「…いってぇ…!なんだそれ、結局自分で手ぇだしてないくせに」
「オレとしては、翔がオレのお嫁さんでもよかったんだけど」

突然翔の横にイルミが来て、わざとらしく言った。

「イルミ…あんた、そんな趣味が…」
「オカマには言われたくないよ?」
「……またオカマって言った…好きでこの姿なんじゃないのに。ほんとちくしょう…」
「イルミ、オレ、男の嫁は嫌だよ…?」
「?じゃあ、女の嫁ならいいの?」

一体何の話なんだこれは。
女の嫁ってあるわけ無いでしょうが。
それとも、こっちの世界じゃそんな事は堂々としているものなのか?
…頭痛くなってきた。

「クロロ、ヒソカ。そろそろ帰りたい」
「ん、なんだ、もう帰るのか?」
「ボクは構わないけど◆」

だって、この家にいると何かと疲れるんだもん。
それに家に帰って早く元の姿に戻りたいし。
っていうか、今までのキキョウさんとのやりとりとか見てて、なんであんたたち助けてくれなかったのよ!
微笑ましくお茶なんかしちゃってさ!
理不尽極まりない。

「うん、一刻も早く帰りたい」
「ナオがそう言うなら仕方ない、帰るとするか」
「なんじゃ、折角話に花が咲いておったところなのにのぅ」
「クロロ、是非また話の続きを聞かせてくれ。実に興味深い」
「はい、もちろんです。また次の機会にでも」

一体どんな話をしていたのか気になるところだが。
とりあえずあたし達はようやく元の世界に帰ることになった。

「あ、ナオ!約束忘れんなよ!」
「わかってるよ、この小指に誓って!」

家の外で見送ってくれた時、キルアがそう叫んだ。
こんな家族の中でも純粋なんだね。
キルアだけが唯一の癒しだった気がするよ。
オカマって言われたけど。

キキョウさんは名残惜しそうに翔の事を見ていたけれど、翔がぺこりと一礼すると機嫌が直ったようで手を振ってくれた。
またキキョウさんが暴走しだしたらキルアに止めてもらえばいいか。

そしてゼノじいちゃんとシルバさんにも挨拶をし、扉までの道はイルミが案内してくれた。

あたしと翔は来た時同様にクロロとヒソカにつかまり。
この姿のままだとお姫様抱っこはさすがに厳しいっていうか気色悪いので、背中におんぶ。


広い庭の中を走って走って。
空に浮かんだ扉が見えてきた。

「ここだね、さっきの扉」

イルミが足を止め、それに続いてクロロもヒソカもその場に止まる。

「じゃあ、世話になったなイルミ」
「またね◆」
「うん、クロロもヒソカも、また来なよ。ナオと翔も来たかったら来てもいいよ」

なんだ、この態度の違い。
翔は苦笑していたけれど、あたしはもう2度と来るもんか!という意味を込めて、イルミに向ってあっかんべーをした。

それを見たイルミの口元が一瞬笑った気がしたけれど…気のせい、だよね。
簡単に笑うような人じゃないもん、確か。

そして、クロロとヒソカが地を蹴って飛び上がり、そのままの勢いで扉を開け、元の世界へ…

「いってぇ!!」

扉を開けた瞬間鈍い音がして、机の前に着地したと思ったらシャルがおでこを抑えてうずくまっていた。

「…シャルナーク?何してるんだい◆」

すると、シャルは涙目でこちらを見上げて言った。

「いや、こっちの世界に来たら誰もいなくてさ。で、この部屋から妙な気配を感じたから調べてたら丁度…ね」

机から出てきたクロロにぶつかった、というわけだ。

「なんだ、さっき拳に当たったのはシャルだったのか。すまないな」
「なんだ、って……いや、いいよ。突然のことに避けられなかったオレも悪いしね。ところでどこに行ってたの?そんなところから出てきてさ。それに…翔、何て格好してるのさ」

シャルの言葉に、みんなの視線が翔へと集中する。
翔は、キキョウさんから借りたゴスロリちっくの服を着たままだった。

本来の、男の姿で。

「あはははは!!あはは!!オカマー!!やーい!!」
「ぎいえええええ!!ききき着替えてくる!!」

翔は顔を真っ赤にしながらヒソカの手を解き、物凄い勢いで部屋から飛び出していった。
さっき散々言われた言葉を翔に言って少しはスッキリした。
少しは姉の可哀想な気持ちを解ってくれ。

…と言っても、翔のほうが可哀想な思いをしていたような気がしないでもない…でも、いいか。
翔だから。

「実は、この机もオレ達の世界に繋がっているみたいでな」

翔が出て行った後、少し間が空いてからクロロが先程のシャルの問いに対して答えた。

「で、ナオと翔がボクたちの世界に興味あるみたいだったからね。連れて行った、っていうわけさ◆」
「え?そうなのナオ、オレ達の世界に興味あるの?」
「…まあ、興味ないって言ったら嘘になるけど」

最初にハンター世界に行きたいって言い出したのは翔なんだけどなぁ。
あ、いや、あたしもそろそろ行ってみたいなぁ、とは思ってたんだけど。
如何せん、初めて行った地がゾルディック家の敷地だったからなぁ…微妙なトラウマだよ。

「じゃあ、今度はオレ達のアジトから来なよ!」
「ああ、それもいいな。そうしたら念の修行をしてやろう」
「うん、いいねえソレ。みんなに伝えてくるよ◆」
「え!?ちょっ、待ってヒソカ…!」

呼んだ時にはもう遅し。
ヒソカは部屋を出て、みんなのところに向ってしまったようだ。
その驚異的な速さはなんなの…。
そして相変わらずあたし達に拒否権はないのだと、改めて理解した。

嫌な予感は尽きることなく…明日のあたしは、果たしてどうなっていることやら。

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