H×H | ナノ


▼ 14:潜入!ゾルディック家

「きゃあああああああああ!!」
「ぎゃあああああああああ!!」

その広い森…もとい、庭には、あたし達二人の叫び声が響き渡った。


やってきましたハンター世界!
って、簡単に言えたら良かったんだけど、こんな高さから飛び降りたのなんて初めてで。
…腰が抜けそうだ。

「大丈夫か、ナオ…って、うわ!!」

珍しくクロロが動揺の声を荒げたと思ったら、その直後にお尻に大打撃。
綺麗に着地した後クロロに手を離され、当然あたしは地面へと落ちたわけで。

「イタッ!!なにすんのさ、クロ……ロ…?」

非難の声を出そうとしたら……あれ、おかしいな。
何がおかしいかって、あたしの声がおかしい。
クロロもヒソカも翔もこっちを見ながら呆然として綺麗に着地した後、クロロに手を離され、当然あたしは地面へと落ちたわけで。って、ええ!?

「翔!!アンタ女になってるよ!!」

言われて翔はハッとし、自分の体を見渡した。

「それを言うならナオ、お前も男になってるぞ?」
「えええええええ!!」

遠慮がちのクロロの声に、あたしはポケットに常備しているコンパクトミラーを取り出して自分の姿を映し出した。
あら、何気にいい男…って、違う!
声の変化と翔の姿を見てもしやとは思ったがやっぱりか!

「何これ!!なんで男になってんの!!」
「姉ちゃん、オレにも鏡貸して!鏡!!」

ヒソカの手から飛び降り、貸してというよりもぎ取るようにして奪っていった鏡を見た翔は、そのまま手からスルリと鏡を落とした。
あたしの鏡!割れる!バカ!

「う…そだろ…なんだよ、これ…」
「きっと異世界の影響だろうな」
「そうだねぇ。それ以外には考えられないね◆」

異世界の影響って、そんな。
随分と簡単に言ってくれちゃうけど…クロロ達はあたし達の世界に来ても何も変わらなかったのに…!

「まあ、考えてても仕方ないだろう。イルミを探しに行くぞ」
「彼なら本館で待ってるんじゃないかなぁ◆」
「考えても仕方ないだと!元に戻る方法、一緒に考えてくれないの!?冷たい…冷たいよ、クロロもヒソカも…」

いつものようにイジケモードで言うと、冷ややかな視線を送られた。

「男の姿でそんな言い方されると気持ち悪いんだが…」

き、気持ち悪い…だと…!そんなハッキリ言われたの初めて。
ガラスのハートが割れたら破片集めてくっつけてくれんのか。

「ひ、酷いよ二人とも」
「いくら可愛い女の子になっても、中身が翔だと思うと…なんだかかえって嫌だねぇ◆」

あたしの撃沈ぶりを見て、上目遣いに挑戦した翔も見事に撃沈。
もういいよ。
開き直りもうちら姉弟の十八番だよ。

「この二人に頼ったあたし達が馬鹿だった」
「ははは、やっぱりナオはからかうと面白いな。冗談だ、冗談。ちゃんと元に戻る方法も考えてやるから。今はここに居たって仕方ないだろう。だからイルミのところへ行くぞ」

初めからそうやって言ってくれればこっちだってイジケたりしないのに。
解っちゃいたけどSだ、この人。
しっかりとアメとムチを使い分けてやがる。
もうそれ以上は何も言う気にならず、大人しく先導するヒソカの後を着いて歩いた。



そしてしばらく歩くと、大きな城のような屋敷が見えてきた。
きっとこれがゾルディック家の本館なのだろう。
玄関らしきものが見えてくると、そこにはイルミが待ち構えていた。

「遅いよヒソカ。…あれ?クロロの後ろにいるの、さっきの二人と違くない?」
「ごめんごめん、ちょっとハプニングがあってさ。この二人はさっきの二人だよ。ナオが男に、翔が女になっちゃっちゃんだ◆」
「ふーん。まあどうでもいいや。じゃあ親父達にも紹介するよ」

あ、もう紹介されちゃうんだ。
出会って間もないのに。
しかも、性別変わってもどうでもいいんだ。
…この世界の奴らは揃いも揃ってよう…!
翔なんか、あたしの後ろに隠れて未だに怯えてるよ。
そうやっていればちゃんと女の子に見えるし……しかし、可愛く変身したな。

…なんかちくしょう。
本来の女の姿であるあたしより美人になってるって、どうよ。
ま、自慢じゃないけどあたしもかなりのイケメンになってたけど!
いやいやそんな自慢するよりも早く元の姿に戻りたい!

「ナオ、そんなところで一人百面相やってると置いてくぞ?」

クロロの言うとおり、他の皆は一人百面相をしていたあたしの50メートル先まで進んでいた。

「ごめんごめん、今いく」

あたしは皆のところに走り寄り、それからはちゃんと後ろを着いていった。



シルバとゼノに会う前に、ミルキにみつかり、翔が捕まった。
何でも写真を取らせて欲しいだとか言われていたが、イルミがそれを一掃し。
ミルキもさすがにイルミには勝てず、大人しく引き下がり、すごすごと自室へ戻っていった。
ミルキ見てるとダイエットさせたくなるよね。
だって、痩せたら絶対カッコイイと思うんだけどな。
言ったところで無駄だろうけどさ。

そしてまたちょっと進んだところで、何だか視線を感じたのでその方向を見てみると、おかっぱ頭の着物を着た可愛い子が柱の影からこちらを覗いていた。
「あれは五男のカルト。あれでも男だからね」と、イルミにそう言われて思い出す。
確かゾルディック家は5人の息子がいたんだな、と。
漫画では四男だけが消息不明だったっけ…別に今は関係ない事だけどさ。


しばらく長い廊下を歩いて、辿り着いたのは大きな扉の前。
うちの玄関の二倍以上はあるな。
さすがゾルディック家。
この先にシルバとゼノが居ると思ったら、なんか緊張してきちゃった…。

「父さん、じいちゃん、オレ。面白いの連れて来たから入るよ」

まるであたし達の事を物のように言い放つイルミ。
ここで反抗しても無駄なことは解っているので、ドアを開けたイルミに促されるまま中へと足を踏み入れた。

「まあ、面白いのって…クロロさんにヒソカさんじゃないの!」
「あ、母さんもいたんだ。クロロとヒソカは今回はオマケ。面白いのはこっちの二人」

言いながらあたし達二人はイルミに背中をぐいっと押され、3人の前に突き出される。

「あ、は、初めまして…!」

すると、シルバとゼノとキキョウさんは、ほぉ、とかふむ、とかまあ、とか簡単な言葉で反応する。
その反応はどうなんだろう。
良いのか、悪いのか。
せめて第一印象は良くないと暗殺のターゲットにされたら終わりだ。
既に気圧されている時点で終わってるのかもしれないけれど。
でもあたし達なんて暗殺の価値ないしなあ、普通にスルーしてくれるのが一番いいなあ…。

「中々のイケメンに、美人さんじゃな」

イケメンって言った!
ゼノじいちゃん!!イケメンって言った!!
まさかゼノじいちゃんがイケメンって言うとは思わなかった!

「じいちゃん、見て欲しいのはそこじゃないんだけど」
「はっはっは、わかっとるわい。そこの二人、この世の者ではないな?」

やんわりとした表情から鋭い目つきに変わった瞬間、まるで金縛りに遭ったみたいにあたしと翔は動けなくなってしまった。
例えて言うなら、蛇に睨まれた蛙。

「この世…うーん、言い方を変えれば確かにそうなるね。じいちゃん、そんな殺気立たれるとこの二人全く動けないから」

イルミのあっけらかんとした言い方に、シルバが低く尋ねる。

「危害がないという保証は?」

すると、イルミはクロロとヒソカを盗み見て。
それは彼なりの『助けてよ』という合図。

「保証はオレがしますよ。この二人は念も使えないし、万が一何かしようにも到底危害が及ぶどころか…貴方達がその気になれば指一本すら触れられないでしょう」
「そうそう、ボクも同じ意見。だからおじいさん、その殺気は収めてよ。じゃないと…ボクがうずうずしちゃうからさぁ…◆」

クロロとヒソカが彼らにそう伝えると、納得したようにもの凄い殺気は感じられなくなった。
その頃にはあたしも翔も汗ビッショリで、その場にドシャリと崩れ落ちる。

「ふむ、二人の言う事なら信じてみようかの。キキョウさんや、そこの二人を介抱してやってくれんかね?」
「まあ、お義父さまったら…!!ご自分で殺気を当てていたのですから、ご自分で介抱なさったら良いのですわ!!全く…なぜ私が…!」

ブツブツ言いながらも、キキョウさんはあたしと翔を別室へと連れて行った。
一度に二人もどうやって運ぶのかなって思ってたら、やっぱりひきずられましたけれどもね。
結構痛かったよ。



「さ、貴方はこちらでシャワーを浴びて、この服に着替えてらして。貴女はこっちよ。あ、そうそう、着替えた後にはさっきのお部屋に戻っておいてくださいな!さあ、行きますわよ!!」
「え、オレ別の部屋なの!?」
「まあまあ、女の子がオレだなんて!!ちゃんと可愛らしくしなさいな!!ほらほら、早く!こちらへ!!」
「わぁぁぁ、ねえちゃぁぁん……!!」

必死で手を伸ばす美人な弟の姿に、あたしは無言で手をひらひら振って見送った。
残念だが、今のあたしにアンタを助ける気力はない。
さすがにゼノじいちゃんの殺気でへとへとだからね。
あんなハッキリと感じる殺気なんて初めてだ。

この世界で生活するってことは、こういう事に免疫をつけなきゃいけなくなるのかなぁ。
だとしたら、やっぱ基礎体力からつけていかなきゃならないよね。
折角こっちに来れるようになったんだもん、色んなところに遊びに行きたいしさ。

それにしても…やっぱり何度見ても、この体は男だよなぁ…。

シャワーを浴びつつ、なるべく自分の体は見ないように心掛ける。
だって、異物が…その…付いて、いるんですもの……。

ヤダよ!!

自分のって思ったって見たくないよ!!
あたしはまだ清らかな乙女でいたいんだ!!





そしてマッハで体を洗い、そそくさと着替えを済ませて廊下に出た。
キキョウさんの用意してくれた服は思ったよりもセンスが良く。
それでもハンター世界使用なので、少々コスプレしている気分になる。

それじゃあ、気分も治ってきたことだし、さっきの部屋へ…って。

「あー……これ、どっちから来たっけか…」

右見て、左見て。
安全確認オーライ
見事に誰もいない、長い廊下。
確かに安全は安全だけど…やばい、どうしよう。
これは確実に迷子フラグ…!!

「あー…うーん…えっと…」
「アンタ誰?そこでなにやってんの?」
「!?」

突然後ろから声が聞こえ、あたしは思わずその場から一歩飛びのいた。
そして声を掛けられた人物を良く見てみると。

「へえ、中々いい反射神経してんね」

キルアだ!!
わああ、現物ちっこい!!カッコカワイイ!!

「なんで嬉しそうな顔してるのかはわかんないけどさ、もう一度だけ聞く。そこで何やってた?」

再び同じ質問をされ、少し苛立っている様子のキルアに気付いたあたしは、ゼノじいちゃんのときみたいに殺気を放たれたらたまんない!!と思い、慌てて返答した。

「あ!!あたし、イルミに連れられてこの家に来たんだけどね、ゼノじいちゃんに殺気を当てられて、汗びっしょりになったからキキョウさんにここに連れてこられてシャワー浴びたら部屋に戻る道がわかんなくなって…」

そこまで一気にまくし立てると、キルアは『ゲッ』という声を発した。

「……『ゲッ』て、なんですか…?」
「あ、いや…あんた、もしかしてオカマ…?」
「オカマとはしつれ…アッー!」

……忘れてた!!

そうだよ、この格好はどっからどうみても男じゃん!!

「え!いやいや、オカマというかその…うーん、なんて説明したらいいか…あ、そうだ!部屋まで案内してくれたらそこで説明するよ!だからキルア!お願い!あたしをシルバさんとゼノじいちゃんのいる部屋につれてって!!」
「オレ、名前教えたっけ?」

うあ!
またしても墓穴を!

「それもまとめて説明する!だから、お願いします!!キルア様!!」

手を合わせて頼み込むと、キルアは一瞬きょとんとした後、お腹を抱えて笑い出した。

「あっはははは!!男のくせに情けねーヤツだなー!しかも、オレより年上なのに。しょーがねーな、連れてってやるよ」

こうして、あたしは無事キルアに元の部屋に連れてってもらえることになりました。
助かったけど心には傷が残ったよ。

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