▼ 13:出現!第二の扉
あれから一ヶ月。
今日も学校が終わり、翔と一緒に帰宅中。
「それにしてもさー、一時はどうなることかと思ったよな。だってあの幻影旅団だぜ?こんなにも仲良くなれるなんて思ってもみなかったしさー」
「何言ってんの、アンタなんて会ったその日からシャルやフィン、ノブナガと一緒にゲームやってたくせに!」
翔の口から思わぬ台詞が吐き出され、思わずツッコミを入れる。
だって最初から一緒に遊んでいる様子を見ていたら、こんな風に思ってたなんて考えられなかったしね。
「あははっ、ま、それもそーかな!今日は帰ったら誰かいるかな?」
「どうだろうねー、最近は全員が揃うってことあんまりなかったしなー」
遊園地に行ったときは楽しかったな。
フランクリンやコルトピ、ボノレノフはいなかったけれど、それ以外の全員が揃っていたから賑やかで楽しかった。
「またみんなで遊園地に行けるかな。もう旧校舎に入るのは嫌だけどさー」
「あはは、あの時のアンタ情けなかったもんね!でもマチが言ってたじゃない。あたしが観覧車に乗りたかったなーって言ったらまた来ればいいじゃん、ってさ!」
「姉ちゃんだって情けなかったくせに良く言うよ。でも、そうだな。また行こうぜ!今度は別の遊園地でもいいな!」
先月出かけた遊園地の思い出話をしながら、家の前に到着。
「「ただいま〜」」
いつもの通り二人で声を揃えて家に入ると、誰からの返答も無かった。
という事は、今は誰も来てないんだ。
あのフェイタンですら今や玄関までお出迎えしてくれるようになったのだ。
それが誰も来ないという事は。
確実に今、この家にはあたしと翔の二人だけ。
「ウボォーもフィンもノブナガもいないのかー、つまんないな。折角新作のゲーム、友達から借りてきたのに」
「まあまあ、そんなの今日じゃなくたって出来るじゃない」
「そうだけどさー、ちぇ」
翔は少しイジケながらも自分の部屋へと向った。
あたしも鞄を置きに自分の部屋へと戻る。
そういえば…確か、明日は数学の授業で分度器セットが必要なんだったな。
忘れないうちに準備しておこう。
「えっと…分度器セットは確か書斎の机の引き出しの中にあったはず」
独り言を言いながら書斎に入り、机の引き出しを開けた。
机を空けたら、そこは別世界でした。
「って、なんじゃこりゃあああああああああ!!」
「どうした、姉ちゃん!?って、なんじゃこりゃあああああ!!」
バタバタと音を立てながら慌てて駆けつけてきてくれたのは良いものの、あたしも翔も、開いた口が塞がらない。
だって、これってやっぱりどう見てもあたしの部屋のクローゼットと同じ現象でしょ。
見渡す限りの森のような…庭のような。
「姉ちゃん」
「翔」
「「どうしてウチってこうなんだろうね」」
ドラ○もんよろしく、机の中はタイムマシンどころか異世界だなんてさ。
夢も何もあったもんじゃない。
しばらく放心状態でいると、後ろから声が聞こえた。
「二人とも、一体どうしたんだい◆」
「「ヒソカ!!」
振り向くと、奇術師姿のヒソカが書斎の入り口に寄りかかりながらこっちを見ていた。
「ヒソカ、ここがどこだかわかる?」
あたしはヒソカに手招きをし、引き出しの中を覗いてもらった。
「おや…◆」
「解ったの?」
翔がヒソカに問うと、ヒソカは嬉しそうに目を細めてこう言った。
「ここ、ゾルディック家の庭じゃないか◆」
ゾルディック!?
旅団のアジトの次はゾルディック!?
「ま、マジ?」
「うん、マジだよ。ほら店その証拠に、ミケが寄って来た◆」
グルルルル、と荒い吐息を漏らしながら、いつのまにか穴の真下にはミケがいた。
ひええええ!!これがミケ…!!
近くにいると迫力満点…っていうか喰われる…!
…ごくり。
あたしと翔は、同時に唾を飲み込んだ。
「行ってみるかい?向こうの世界へ◆」
「え!?」
「行くって、ここから!?」
しかもミケが『餌を待ち構えてます』と言わんばかりのこの状況の中で!?
「で、でもここから入ったらミケに食べられちゃうし」
慌ててヒソカを諭そうとすると、ヒソカは平然と答えた。
「それに関しては大丈夫。いるんだろ?隠れてないで、出てきたらどうだい◆」
ヒソカがミケに向って言ったかと思うと、その後ろからゆっくりと一人の男が現れた。
ストレートの綺麗な黒髪、猫のような目…それは、まさに漫画で見たとおりのイルミの姿だった。
「なーんだ、やっぱりバレてたのか。だってさ、空に突然ヘンな穴が開いたと思ったらヘンな二人が覗き込んでるしさ。しばらく様子見ようと思ったんだけど。ヒソカが一緒なら話は別かな」
「クックック◆」
「い、イルミ…姉ちゃん、イルミだよ!イルミ!!」
「だぁー!!そんなに何度もイルミイルミ言わなくてもわかってるわ!!」
「ひっ!こっち見た!!」
翔は初めて旅団に会ったときと同じように動揺している。
少しはあたしにも動揺する暇を与えなさいよ!
「なんなの、この失礼な二人。ねえ、ヒソカ?」
「この二人はこっちの世界での親…みたいなもんかな◆」
親って…親ぁ!?
確かに食事作ったり、外へも連れてったり、って、こっちの世界では世話してるけどさ。
この若さで親ってあんまりだ。
「へぇ。でもさっきからムカツクんだよね。ねえ、殺しちゃだめなの?」
「ええ!!お、お助け!!」
「翔!アンタはそれ以上喋るんじゃない!!」
「むがっ!」
さっきから失礼なことを言っているのは翔だ。
こいつ、ホント余計なことしか言わないんだから!
あたしは翔の口を抑え、イルミをキッと睨んだ。
「殺せるもんなら殺してみなさいよ!」
え、あれ?
あたし、今何言いましたかね?
……勢いとはいえ何を言った!?
「へぇ、言うね。じゃあそっちに行くよ」
イルミは表情を変えることなく、机の中からこっちの世界に足を踏み入れた。
その仕草は音もたてずにスマートで、って、そんなこと言ってる場合じゃない。
も、もしかして本当に殺される!?
「あれ」
「クク、気付いたかい◆」
「なにこれ、ヒソカ…知ってて黙ってたの」
「まあ、こっちに来れば自ずと解ると思ってね。この世界で念は使えないよ◆」
良かった!念が使えないって事忘れてたよ!!
グッジョブ異世界!!
「そ、そういう事!だからあたしを殺すことはできないのよ!」
「念は使えなくても、殺す方法なんていくらでもあるけどなぁ。キミ、馬鹿なの?」
フェイタンに続き、あたしの事を馬鹿扱いする人がここにも一人。
「…馬鹿じゃないもん」
「何、もん。って。やっぱり馬鹿っぽいね。」
「イルミ、あんまりイジメないでやってよ◆クロロのお気に入りでもあるんだ…もちろん、ボクもだけどね」
ヒソカがそう言うと、イルミは元々大きな目をより一層大きくした。
「ふぅん…クロロのお気に入りねぇ。一見、馬鹿そうで面白みの無い只の女の子に見えるけど」
「ナオの良さは一緒に過ごしてみないとわからないさ◆」
「オレもしばらく一緒に居たらわかるのかな?だったらウチに来なよ。その面白さってやつ、オレも教えて欲しいなぁ」
どんどん勝手に話が進んで行くようだけれども。
っていうかめちゃくちゃ失礼なこと言われたような気がするんだけれども。
しかも、教えろって言われて教えられるようなもんじゃないと思うんだけれども。
それ以前に、ゾルディック家に行くのは大変危険な気がするのは間違いじゃないよね?
「えっと…」
「そこまでにしてもらおうか」
「「クロロ!」」
返答に困っていると、先程ヒソカが立っていた場所に今度はクロロが立っていた。
なんか正義のヒーロー参上!って感じ?
クロロに言ったら怒られそうだからそんな事言えないけどさ。
どっちかって言ったら正義、というより悪だもんね。
「ヒソカ、ナオと翔をイルミに渡すつもりか?」
「やだなぁ、そんな殺気立っちゃって。そんなつもりはないよ◆」
「…やはりお前の考えてる事は掴めんな。まあいい、行くならオレも一緒だ。それに、しばらくはいられない。こいつらには学校というものがあるからな」
クロロが一緒…!
それなら、何かあった時に対処してもらえるかな。
…大丈夫だよね?
「プハッ!!姉ちゃん!もう、いい加減手ぇ離せよ!!」
「あ、ごめんごめん、忘れてた」
「酷ッ」
あたしの手を振り払い、翔は大きく肩を揺らして息を吸った。
「オレは行ってみたい、ハンター世界!」
「え、マジで?」
「マジも大マジ!だってさ、異世界に行けるチャンスなんか2度と無いかもしれないんだぜ?それに、クロロが付いて来てくれるっていうなら安心じゃんか!」
「いや、あたしもそう思ってたけど…うん、じゃあ、まあ。行って…みますか」
両手に握り拳で力説する翔の気迫に押され、あたしはYESと言葉を返してしまった。
まさか、机の中から異世界に行くことになるとはなぁ。
「それじゃあ決まりだね。とりあえず今日だけでもいいよ。オレは先に行ってミケを遠くに連れておくから…そうだな、30秒待ってくれたら来ても平気だよ」
イルミは言いながら机に手を掛け、まるでハードルを越えるように軽々と飛び越えていった。
翔と二人で下を覗いた時には既にイルミの姿はなく。
もちろん、ミケの姿もなかった。
降りて即行でミケを連れて行ったという事か。
「っていうか、あたし達念なんて使えないから、ここから飛び降りることも不可能なんじゃ…あれだけ大口叩いたからには何か策があるんだよね、翔?」
嫌味たっぷりの言葉を翔に突きつけてやると、案の定冷や汗を垂らしながら似非笑顔を作り上げていた。
「何も考えてなかったんだ」
その言葉に頷く馬鹿弟。いや、姉のあたしが馬鹿ならあんたは阿呆だ。
「オレとヒソカが二人を下まで連れて行くさ」
「ひゃっ!!」
クロロは言うや否や、あたしの事を軽々と抱き上げ。
要するに、お姫様抱っこだ。
産まれて初めてお姫様抱っこされちゃったよ!
これってもの凄く恥ずかしいんだね…!!
「じゃあ、ボクは翔を連れてくってことだね。同じ方法がいいかい?」
「えっ、あれやるの!?男同士でそりゃないだろヒソカ!普通に抱えてくれよ」
「クックック、了解◆」
ヒソカは両刀…って、誰かに聞いたことがあるような無いような。
いかん、想像するだけ気持ち悪くなるからやめておこう。
翔の希望どおり、ヒソカは翔を担ぎ上げ。
「じゃあ、行くぞ」
「その後直ぐに、こっちも行くよ◆」
いざ、ハンターの世界へ!!
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