H×H | ナノ


▼ 11:旅団×遊園地×休息

ご飯を食べて、大満足なお腹をさする。
あたしがお昼に食べたのはピザ。
フードコートがあったので、それぞれ好きなところで買って席まで持ち寄った。
さすがウボォーは良く食べる。
フィンもノブナガも負けじと食べていたけれど…この三人、ほとんどご飯でお小遣い使い切っちゃったんじゃないかってくらい凄い。むしろ足りてないんじゃ…?
女の子はもちろんのこと、他の男性陣は一般人程度に食していた。

「次はここのメインがいいんじゃない?」
「メインって、この日本最大のコースターだよね」
「うん、でも姉ちゃんは危ないかもな!」
「翔…あんたあたしに喧嘩売ってる?って言ってもご飯食べた後だし、素直にやめておこうかなぁ。気持ち悪くなったら洒落にならないしさ」
「おおっ、珍しく素直だ」
「うっさい!」

こんな姉弟のやりとりに割り込んできたのはマチだった。

「ナオ、次は乗らないのかい?」
「あ、マチ。うん、さっき乗ったコースターで少し懲りたっていうか…今度乗るヤツは失神した人もいるっていう噂らしいし」
「じゃあ、あたしが一緒に残ってやろうか?」

マチがそんな嬉しい提案をしてくれた瞬間、見てしまったのだよあたしは。
めちゃくちゃガックリしている翔の顔を。
そんなあからさまに表現すんのやめろよ…情けない。

「いや、気持ちは嬉しいけどみんなで行ってきなよ!あたしは一人で買い物でもしてるよ」
「でも…」
「なら、オレが一緒に残ってやろう」
「クロロ!」
「おっ、いいじゃん!姉ちゃん!クロロに一緒にいてもらえば怖いものなしじゃんか!」

…このやろう……一体誰の為にマチの誘いを断ったと思ってやがる。

「でも、クロロがここの遊園地に来たいって言ったし」
「もう楽しめてるから構わない。それに、オレも一休みしたいと思ってたところだ」

この有無を言わさずの笑顔に、言葉通り断ることも出来ず。
一休みと言うほど旅団にとっては体力使ってないと思うんだけど…でもまあ、クロロがそう言ってくれるなら、いいかな。

「じゃあお願いしよっかな」

結局、クロロに一緒に残ってもらうことにしたのである。





この遊園地のメイン、マウンテンハイランドコースター。
遊園地自身の名前がつけられていることからメインコースターということが良く解る。
乗車時間は3分。
コースターって一瞬っていうイメージがあるけれど、3分=カップラーメンと考えるとかなり長いかもしれない。
そんな長いことさっきみたいな思いをするのはちょっと嫌だしな。
90度の下りもあるし、ループもあるし…翔の言うとおりやめておいて正解っぽい。

列の最後尾の前でみんなを見送り、その横で走ってるコースターに乗ってる人々の悲鳴を聞きながらそんな事を思った。
看板には最後尾60分待ちって書いてあったから一時間はゆっくりできる。

「じゃあクロロ、先におみやげのお店見て回ってもいい?今のうちに買いたいもの決めておきたいんだ。で、それが終わったらちょっとお茶でもしようよ」
「ああ、ナオに付き合おう」

言いながら絡められるクロロの大きな手。

「…クロロ、手…」

なんだこれは。
激しくデジャヴを感じる。
トリックタワーでのシャルの時と同じパターンか?
クロロもシャルと同じ思考回路なのか?

「ああ、恋人っぽくみえていいだろう?」

違  っ  た  よ  !  

まさかの恋人発言だったよ!!

「こ、恋人!?」
「ははは、ナオはすぐ赤くなるな」

貴方の所為ですよ!!

「まあ、冗談だ。手を繋ぐのは外に出るときの癖っていうのがきちんとした正しい理由だな」
「…ビックリした、本当に。からかってばかりはやめてくださいよ」
「つい、な」

つい、でからかわれたらほんと、身がもたないって。 
結局はシャルと同じ理由なのね。
それ以外の理由なんてないだろうと思ったけどさ。
恋人なんて。
冗談でもびっくりしちゃったよ。
くつくつ笑っているクロロが旅団の団長様じゃなければ後頭部スパァンと叩きたいレベルだよ。

さて、気を取り直してお店をまわろう。





「あ、これ可愛い!これもいいなぁ…うーん…迷う」

可愛い携帯ストラップが目に付き、思わず立ち止まる。

「ほう、ストラップか…ストラップなんて普通の店で買ったほうがいいんじゃないのか?」
「うん、言ってることはごもっともなんだけどね。でも気に入っちゃったんだよ。それに、ここで買ったっていう思い出にもなるしね」

この遊園地のキャラクターのストラップではないが、これを見るたびに今日の事を思い出すと思うと。
やっぱり何かしら欲しくなるし、ヘンにぬいぐるみとか買うより、ここでストラップを買ってシャルにもらったトランシーバーに着けておいたらいいかな、とも思って。

「そんなものか」
「そんなものだよ。ね、クロロはどっちがいいと思う?」
「難しい質問だな」
「難しいかな?」
「ああ、オレとナオの趣味が合うかどうか解らないしな」
「ああ、そういう意味で難しいのか。でもどっちも気に入ってるし、そんでクロロに選んでもらえたら嬉しい」

するとクロロは口元に手を宛て、少し真剣に考えてくれた。

「右、だな」

クロロが選んだのは黒い蝶がついたシンプルなやつ。
もう一方は青い花のやつだったのだけど、それは元の位置に戻すことにした。

「ありがと!じゃあ買ってくるね!」
「ああ」

レジは少し離れたところにあり、クロロをその場に残して会計しに行く。
袋に入れてもらわず、その場でトランシーバーにつけることにした。

「へっへー」

じゃーん、という効果音でも聞こえてくるような感じで、トランシーバーを空に掲げてストラップを揺らす。

「その蝶はナオみたいだな」
「あたし?」

ストラップを眺めながらクロロが言った。

「ああ。蝶は蜘蛛に囚われるイメージがある。蜘蛛に囚われるナオ…オレ達はお前を逃がすつもりはないからな」
「あはは…なるほど。だったら翔も蝶だね!」

逃がすつもりはない、という言葉に若干ビビリつつも、翔を巻き添えにして言葉を返す。
翔に蝶なんて似合わないけどさ。

「…ふむ。言われてみれば確かに、そうだな。」

でもクロロは、ふ、と柔らかい笑みを溢すだけだった。
クロロの言葉にどんな真意があるのかはわからない。
けれど、逆の意味で捉えるならば『オレ達はいつでも傍にいる』って言われたような気がして。
単なるあたしの勘違いかもしれないし、思い込みかもしれないけど。
もし少しでもそうやって思ってくれてるのであれば嬉しいな、と思う。

家族ではないけれど、家族のような存在。
それが、旅団のみんな。
まさかこんなにも打ち解けることになろうとは思わなかったけれど。

遊園地から家に帰って、『ハンター世界に行きたい』って言ったら受け入れてくれるだろうか。

あたしを、あたし達を、アジトに入れてくれるだろうか。
まだ、行くにあたって心の準備はできそうにないけれど、みんなが迎え入れてくれるのであればあたしは躊躇い無く向こうの世界に足を踏み入れるだろう。
もちろん、それはきっと翔も同じ。

翔も、旅団のみんなも。
みんながいて、家族なのだから。
お父さんやお母さんがいなくても寂しい思いなんて一つもしないで済むのは、みんなのおかげ。
これからも、こんな関係が続けばいい。
そう思いながら、クロロの手を強く握り締めた。







それから、あたしとクロロは色んなお店のお土産を見尽くし。
まだ10分くらい残っていたので、自販機でジュースを買って空いている外のベンチに腰掛けた。

「ふぁ…なんかちょっと眠くなってきちゃった。お昼食べてお腹いっぱいになったからかな…」
「子供だな、ナオは。残り時間は少しだが…眠いのなら寝てしまってもいいぞ?」
「子供じゃないし…でも、こんなに暖かいお昼寝日和…ごめんねクロロ、お言葉に甘えて少しだけ眠らせてもらうね…」












それからナオは、少しも立たないうちに首を揺らし始めた。

こんな態勢じゃ疲れるだろうに。
後ろから手を回し、ナオの頭を自分に寄りかからせた。

こうしていると、本当に恋人みたいだな。
自分が女に対して、こんな感情を抱くなんて…思った事はなかったが。

今まで出会ったどんな女も、みんな同じ。

自分さえ良ければそれでいい。
自分が一番。
建前ではあることないことぺらぺら喋り、本音では自分の事しか考えておらず。
少なくとも、今まで生きてきたオレの世界ではそんな女ばかりだった。

当然パクノダ、マチ、シズクは別だが。
この三人は仲間。
それ以外に特別な感情も持ち合わせていない。
それは向こうにとっても同じこと。

そして今回出会ったのがナオだ。

初めは異世界の人間だから興味半分。
しかし何度か言葉を交わすうちにナオという一人の人物に段々と惹かれ始めている事に気付いた。
この世界は今までオレ達が住んでいた世界とは全く違って、能力も使えなければ争い事も少ない。
そんな平和にも、自分の思考に変化を与えられているのかもしれない。
向こうの世界でも、一歩外に踏み出せばナオみたいな女がいたのだろうか。
だが外の世界にしろ、こっちの世界にしろ、一番初めに出会ったのがナオで良かったと思う。

その理由は自分でもまだ解らない。

これが、この気持ちが何と名付けたらいいものなのか…それがオレにはわからないのだから。
確かに、先程シャルやフェイ、ヒソカの前でナオの事を面白い、気に入ったと言った。
それはあくまでも人間性としての問題で。
きっとそれは、オレだけじゃない。

その三人だって同じだろう。

この想いが、いつか違うものに変化したりするのだろうか。
例えば恋というものに。
今まで恋だの愛だのくだらないと思っていたが、ナオと一緒だったら楽しいものなのかもしれないな。

眠っているナオの柔らかそうな頬に触れる。
この短時間でよくまあ眠りの世界に入れるもんだ。

ピクリとも動かないのを確認し、ナオの唇に自分のそれを軽く落としてみた。

……キスでもしてみれば何か変わるかと思ったんだが。
まだそんなに変化はないらしい。

今後、自分の感情がどうなるのか興味がわいた。
そういう意味でもナオと出会えて良かったと思う。

ナオを起こさないように、先程ナオの目を盗んで買ってきた物の袋を開けた。
『何を買ったの?』と結構しつこく聞かれたが、秘密だ、の一点張りでその時は教えなかった。
だが、もう教えてやってもいいだろう。
袋の中から取り出したそれをナオの頭にそっと乗せる。

シルバーのティアラ。
レプリカが売っているのをみつけ、迷わずその場で購入した。
購入するなんて柄じゃない、と自分自身を笑いながら。

先程の黄金のティアラよりも良く似合っている。


しばしナオの寝顔を眺めた後、ふと顔を上げると遠くにみんなが見えた。

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