■ 3:僕の手にあまる君という存在

有り得ねぇ、有り得ねぇだろそれ!!

アイツ、やっぱ幽霊だった!
マジだった!!
俺、見ちゃった!!!

いつもの俺らしく、なんて普通に装う事なんて無理無理!
今の俺は誰がどう見ても不審な奴に間違いないけど、そんなのに構ってられっか!

とりあえず、今日はあんな所に居られねぇ!!

教室で担任の話を聞いた瞬間、全身鳥肌と共に、咄嗟にそう思った。
気が付いたら、早退宣言をして教室から逃げ出していた。

しかも、ダッシュで。


ひとまず昇降口まで逃げてきて、自分の下駄箱に手を掛ける。

後ろに、人の気配を感じた。

…………まさかな。


まさか、だよな。
いるわけ…………


「うおおおおお!!いるし!!!」

「ご、ごめん、追っかけてきちゃった」

照れくさそうにそう言った佐原の幽霊は、宙にふわふわと浮いている。

「お前はラムちゃんか!!」

「ええ!?そんな可愛いもんじゃないよ!」

思わずツッコミを入れると、ボケた返事。
それを聞いた瞬間、脱力した。

「…………お前、本当に幽霊なのか?」

「うーん……そうみたい、なんだけど」

確かに、こいつは今、宙に浮いてる。
他の奴らは姿を見ることも、ましてや会話なんてすることは出来ない。

けど、俺には見えてるし。
会話だって出来るし。
もしかして、触ったりも出来んじゃねえの?

恐る恐るだが、手を伸ばしてみる。

……が、やっぱりコイツに触れることはできなかった。
俺の手は空を切り、佐原の体を素通り
してしまったのだ。

「ううわ……気持ち悪ぃな」

「わ、私だって今のは気持ち悪かったよ!」

「何だよ、俺が悪いのか?」

「そういう意味じゃなくて!」

「…………」

「…………」

じゃあどういう意味だよ、と続けようとしたが、これ以上会話を続けていても、きっとどうにもなるまい。

「じゃ、俺、今日は帰ることにしたから。成仏しろよ」

佐原に背を向けて、駅の方向に向かって歩こうとすると。

「ちょ、ちょっと待ってよ!」

必死で呼び止める声に、どうすることも出来ねえよ、と思いながらも顔だけ振り向く。

すると、佐原はやっぱりラムちゃんのように飛びながら近寄ってきて。

「私の姿が見えるもの、話が出来るのも藤真くんだけなの。だから、もうちょっと一緒に居て欲しいんだけど……駄目かな?」

「もうちょっとって……どんくらいだよ、成仏するまでか?いつ成仏するんだ?」

「成仏って……そんなのわからないけど……」

あ……傷ついた、かな。
俯いた佐原は泣きそうな顔をしていた。

「ごめん、悪かった。成仏とか言い過ぎた」

何でかな、俺、今佐原が傷ついた事が嫌だって思った。

意味わかんねえ。
それに、さっきまで逃げてばっかだったくせに、こうやって普通に話をしている自分自身も意味わかんねえ。

「私、なんでこんなところに居るのか自分でもわからなくて……」

「自分が死んだっていう自覚はあるのか?」

「うん、一応。病院のベッドで寝ている自分の姿、見てきたから」

なんてリアルな。
自分が死んだ場面を見て、それから学校に来ちまった、っつーわけか。

「何かに未練があるとか、そういう類なんじゃねえの?」

「未練……かぁ。あるにはあるけど……」

「それが無くなれば、現状打破できんじゃね?」

「そう、かもね……でも…………」

深く考え込む様子の佐原。
普通に会話が成立しているということで、気が緩んでしまった俺は。

「俺に何かできることあるなら協力してやってもいいぞ」

我ながらとんでもない事を言ってしまった、と、言った直後に後悔した。

「……ほんとに?」

「ああ、出来る範囲で、だからな!」

言ってしまったものは仕方ねぇ。
俺も男だ、話くらいは聞いてやろうじゃねえか。

「あ、あの……凄い恥ずかしい話なんだけど、いい?」

「あ?とにかく言ってみろよ、どうせ誰にバレるでもねえだろーが」

「うん……あの、ね、私、男の子とデートとかしたことなくて……一度でいいから、そういうのしてみたいなぁ、って…………」

佐原は体をもじもじさせ、顔を真っ赤にしながらそう言った。

もしかして、それが未練で、その目的を果たすために学校まで来てしまった、と?

っつーことは、その相手が出来る奴って、やっぱ、ちゃんとコイツが見えたり、コイツと話が出来たりしなきゃいけないわけだよな。
つまり、現時点では俺……しか、いないって事か!?


…………前言撤回、出来ねえかな。


無理かな、やっぱ。

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